【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

33 / 142
33.敵か味方かワルド子爵

 空の港町ラ・ロシェール。陽が空を紅に染めた時間に、この山間の町へ到着したルイズ達一行。彼女達は、貴族向けの宿、『女神の(きね)』亭で一泊した。

 路銀の浪費を嫌がったルイズだが、ワルド自らが小切手を切り、全員分の宿泊費を負担したので、結局このラ・ロシェール一の宿を使うことになった。

 お忍びの任務で小切手もどうなのかと思ったが、よくよく考えると自分たちは目立ちすぎる集団なので、今更かとルイズは割り切った。

 

 そして夜が明けた朝、ルイズは同室に泊まっていたキュルケと二人で、魔法の儀式を行なっていた。

 

 メイジならば、誰もが必ず一度は行う儀式。魔法の杖との契約だ。

 

 ルイズは荷物の中に持参していた秘薬に指輪を浸し、そして、濡れたままの指輪をキュルケの指へと通した。

 

「後は、明日の朝になるまでそれを外さずに居れば、契約は完了よ」

 

「……早いわねぇ。この契約方法も、ルイズが考えたの?」

 

「違うわ。アカデミーにいる姉さま……カトレア姉さまじゃない方の姉さまが考案した、簡易儀式よ。契約は薄いけれど、杖を身につけ続けることで契約が深まるの」

 

 ルイズは眼鏡をかけた吊り目の姉を思い出しながら、そう言った。

 

「あなたたち、姉妹そろって優秀なのね」

 

「確かに優秀だけど、この発明は別に原因があるのよね。……七、八年くらい前かしら。学院を卒業して暇そうにしている姉さまをからかっていたら、よく喧嘩になったのだけど……そのたびにわたし、姉さまの杖をへし折っていたの」

 

「うわっ……」

 

 杖とは貴族の誇りであり相棒だ。自身に合う杖は一生物と呼ばれるくらい、相性が求められる重要な存在。

 ゆえに、杖を折ることは、貴族に対する最大の侮辱とも言われる行為。だがしかし、幼いルイズはそれを姉に対し躊躇(ちゅうちょ)なく行なった。

 

 一方の姉、エレオノールは繰り返し折られる杖を見て、次第に誇りというものを感じられなくなった。そして、杖を折られた後、いかに新しく杖を調達するかという効率的な思考を抱くようになった。

 杖の儀式は六千年続く神聖な儀式。それを変えようと考える者は少ない。

 だがエレオノールはその領域に踏み込み、その全容を解き明かしていった。

 

「なんというかまあ……」

 

 キュルケは、ヴァリエール家の姉妹のあり方に呆れかえった。

 もしかすると彼女達は、自分なんかよりゲルマニアの民としてふさわしいのではないだろうか。

 

「その過程で面白いことが分かってね。魔法の杖との契約って、厳密には四大魔法の儀式なんかじゃない可能性が高いのよ」

 

「え、魔法の杖と契約しているのに?」

 

「証拠に、魔法を使えないわたしでも杖との契約は問題なくできるのよ。『サモン・サーヴァント』や『コントラクト・サーヴァント』みたいな例外の何かかもしれないわね」

 

 ルイズは自分の腕に仕込んだ杖を皮膚の上から触りながらそう言った。

 この儀式が属性系統の魔法か通常のコモン・スペルによるものならば、魔法の使えぬルイズが行えば杖は木っ端微塵に弾け飛ぶはずだ。

 

 そんなことをつらつらとルイズがキュルケに説明していたとき、部屋の扉からノックの音が響いた。

 ルイズは立ち上がり扉を開ける。扉の向こうには、ワルドが立っていた。

 

「ルイズ、ちょっと来てもらっていいか?」

 

「あら、おはよう。何か用事?」

 

「ああ、それほど時間は取らせない。中庭に来てくれ」

 

 そう言うと、ワルドはなんの用なのかも告げず、廊下の向こうへと歩き去っていった。

 一方的な誘いに、ルイズは後ろへ振り返るとキュルケと二人で肩をすくめた。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 トリステインとアルビオンの国交が穏やかではなかった時代、このラ・ロシェールの街はアルビオンと正面から向かい合う要塞であった。この宿の中庭も、そんな時代の遺産である練兵場跡だ。

 

 そこへワルドに呼ばれるまま訪れたルイズは、その場にワルドと才人がいるのを見て、何事かと眉をひそめた。彼らはなぜか、互いに木剣を携えている。

 

「子爵、なんの用かしら?」

 

「彼の実力を、ちょっと試してみたくなってな」

 

 ワルドがヒゲに包まれたアゴで才人を指しながらそう言った。

 ルイズはその意図が理解できずに、「どういうこと?」と尋ね返す。

 

「なに、模擬戦の審判として、俺達の戦いを見守っていてくれるだけで良い」

 

 その言葉を聞いて、ルイズは呆れ返った。

 何を言い出すのだろうか。魔法衛士隊の衛士という存在は、脳みそが筋肉で出来ているのだろうか。

 

「出発前に、疲労を自ら溜めるつもり?」

 

「そうだな。でも、これから運命を共にする戦友の実力を確かめることは、悪いことか?」

 

「確かに正論と言えば正論だけれど……彼はただのわたしの使い魔で、強い力を持つ幻獣なんかじゃないわよ?」

 

「いやいや、ルイズ、俺は知っているぞ。彼は薪割り用の鉈で、青銅のゴーレムを軽々と切り飛ばしたそうじゃないか」

 

 ワルドのその言葉に、ルイズはため息をついた。あのギーシュと才人の決闘が、魔法衛士隊にまで伝わっているのか。

 ルイズはまだ気付いていないが、トリステインの『賢者』であり『魔女』である彼女が『異国の賢人』を召喚したという話は、トリステインにいる彼女の信奉者の中では、すでに知れ渡っていた。

 

「異国から召喚されたメイジ殺し。これはすぐにでも、手合わせ願いたい相手だと思ってね」

 

 ワルドは本気で模擬戦をしたいらしい。ルイズは彼を止めることを諦め、才人の方を見た。

 

「サイト、あなたはどう思っているの?」

 

「なあ、この木剣、俺の国の木刀って武器にめっちゃ似てるんだけど。こっちの剣って直刀じゃないのか?」

 

「今、そんな話してなかったわよね!?」

 

「ワルドさんの杖も見せてもらったんだけど、俺の国の日本刀って武器にめっちゃ似てる」

 

「その話すごく気になるけれど、今、そんな話してなかったわよね!?」

 

 ルイズと才人の漫才に、ワルドは笑いながら言葉をはさむ。

 

「俺達、魔法衛士隊が正式採用している剣杖(けんじょう)は、ルイズが開発した最新式の軍杖(ぐんじょう)だ。なんでも、鋼を何重にも折り束ねて作るらしい」

 

「うわ、やっぱり、日本刀に似てる!」

 

「ああ、もう! さっさと模擬戦でもなんでもして、その話、聞かせなさい!」

 

 そうして、模擬戦は始まった。

 

 木剣を互いに構え、向かい合う二人。構えは両者、似通ったものだった。

 それも当然だ。才人が師事する剣の師匠は、魔法衛士隊の元隊員だ。

 そして、ワルドは魔法衛士隊の一つ、グリフォン隊の現役隊長。

 つまり才人とワルドは、トリステインに伝わる軍杖術の同門なのだ。

 

 メイジである貴族は剣を使わない。これは事実だ。しかし、貴族が剣術を使わないかというと、これは誤りだ。

 ルイズが開発した剣杖が普及する以前、トリステインの軍杖はレイピア状の刃が付いた代物であった。簡単に言うと、剣付きの杖だ。さらに、『ブレイド』という魔力の刃を杖から発生させる魔法が存在し、メイジの騎士の中には、この魔法を愛用する者もいた。

 ゆえに、実戦的な魔法を学ぶ武闘派貴族は、剣術も含む総合武術である軍杖術を当然のようにたしなんでいた。

 

 グリフォン隊の隊長であるワルドも当然、軍杖術は達人級。そんな彼に……才人は先手を取って斬り込んだ。

 ワルドは驚愕した。才人の体格からは思いもしない、驚きの踏み込み速度。

 だが、ワルドはその速度に対応し、才人の剣撃を木剣でさばいた。

 そして、反撃とばかりに才人へ突きを放つ。

 

 それを冷静に避けた才人は、再度上段からの振り降ろしを肩に目がけて打つ。さすがの才人も、木剣を頭に当てる危険性は理解していたようだ。

 肩に向かい来る一撃をワルドは、木剣を横に倒すことで受け止める。

 さらに、才人の木剣を滑らせるようにしてさばいて、反撃に木剣で袈裟斬りを放った。

 

 だが、才人はいつの間にかバックステップで、ワルドから大きく距離を離していた。

 それを見たワルドは、「フッ」と笑い、構えを解いた。

 

「よし、止めにしよう」

 

「あれ、もうですか?」

 

 ワルドの制止の言葉に、才人はキョトンとした顔で構えを解く。

 

「ああ、キミの実力は十分、分かった。キミならば、安心して我が義妹を任せられる」

 

「……光栄です!」

 

 才人の返事を聞いたワルドは、満足そうに笑い、木剣を左手に持ち替えて才人へと近づいていく。

 そして、二人はガッチリと熱く握手を交わした。さらに、互いに肩を抱いて上機嫌で笑い始めたではないか。

 

 そんな光景を横で見ていたルイズは、急に仲を深めた二人を前にして「男同士の友情って分からないわね」とまぶしそうに目を細めるのであった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 その日の夜。

 アルビオンへの航空便への搭乗を明日に控えたルイズ達一行は、夕食を食べながら英気を養っていた。

 とは言っても、さして日常と変わることはない。才人とキュルケはワインを片手に談笑をし、タバサは一人本を読み、ギーシュは他の貴族の客へ色目を使い、ルイズはワルドと思い出話に浸りながら、デルフリンガーを両手でいじって調べていた。二人いる他のグリフォン隊の隊員は、馬屋に泊めたグリフォンの世話をしに行っている。

 

 戦場へ行く前夜とも思えない穏やかな時間。

 そこに、突如、闖入者(ちんにゅうしゃ)が現れた。

 

 武装した傭兵の一団が、宿の中に踏み込んだのだ。

 

 突然のことに、酒を交わしていた貴族たちが叫びを上げ酒場は、パニックに包まれる。

 とっさに反応したのはキュルケとルイズ。互いに魔法を放って、宿へ踏み込んできた傭兵達を沈黙させる。

 

 そして入り口から宿の外を眺めると、外は大量の傭兵達に囲まれていた。

 

「拙いわね、戦場に行く前に、何かの抗争に巻き込まれたみたい」

 

 ルイズは宿の外から射かけられた矢に対抗してテーブルを蹴り上げ、盾にしながらそう言った。

 そして、酒場内に居る貴族たちへと声を投げかけた。

 

「皆様、この騒動に心当たりのある方はいらっしゃいますか?」

 

 答えは返ってこない。

 

「……どうも一番心当たりがあるのは、わたし達みたい」

 

「どうするのよ、ルイズ。外の傭兵、百近くいるわよ」

 

 そう言葉をかわすルイズ達の横に、突然上から何かが降ってきた。

 荷物。ルイズ達が学院を出るときに持参していたものだ。

 

 そして次の瞬間、誰かがまた上から降ってくる。

 タバサだ。壊した扉を矢よけ代わりに抱えている。

 

 いつの間にか二階へと上がり、荷物を取ってきていたようだ。腰にはいつだかに買った短剣を帯剣していた。

 

「あら、気が利くじゃない」

 

 なんでもないように、ルイズが返す。ルイズ達三人にとってはこの程度の荒事は、慣れたことのようであった。

 

「るるるるるるいず、これは一体どういうことだい!」

 

 ギーシュが机の下で震えながらそう言った。

 

「知らないわ。でも、これはわたし達を狙ったものだと考えたら、だいたい予想が付かない?」

 

 ルイズはそう言いながら、荷物をあさり中から一枚の紙を取りだした。

 今朝、ワルドから受け取った、マザリーニの署名が入った書状の一枚だ。

 それをルイズは、店主へと投げつけた。店主は矢を肩に受けたのか、『水』のメイジらしき貴族に治療を受けていた。

 

「店主のおじさま。この騒動で負った店の被害は、その書状を添えてトリステイン王政府に請求してくださいまし」

 

「へ、へえ……」

 

 お前のせいかと激昂しかける店主。だが、書面に書かれたマザリーニの名に、吐き出しかけた言葉を飲み込み、軽く返事だけをした。

 

「さて、こういうときに傭兵や盗賊が取る行動と言えば、メイジの精神力が尽きるのをひたすら待つって感じだけれど……」

 

 未だ馴染みきっていない指輪ではなく、いつもの杖を構えて机の陰に隠れたキュルケはそう言った。

 その言葉に、ギーシュは懐から、自らの杖である薔薇の造花を取り出してキュルケに言う。

 

「ぼ、ぼくの『ワルキューレ』で蹴散らしてみせるさ」

 

「そういうことは、今の三倍の大きさのゴーレムを作れるようになってから言いなさい。人の大きさしかない青銅のゴーレムなんて、サイトとの決闘みたいに叩き壊されて終わりよ」

 

 強がりから絞りだした発言をバッサリとキュルケに切り捨てられ、ギーシュは顔をさらに引きつらせた。

 さてどうしたものかと、キュルケがルイズとタバサに目配せをしようとしたところで、ワルドが声を放った。

 

「いいか諸君」

 

 ワルドの言葉に、一斉にキュルケ達が彼の方を見る。

 

「このような任務は、半数が目的地にたどりつければ、成功とされる」

 

 この言葉の意味するところは、囮を使えということだ。

 

 彼の言葉にキュルケは神妙な顔つきになる。

 任務を任されたこの集団のリーダーは、ルイズ。となると、囮になるとしたらまず自分だ。

 ワルドは、衛士隊の隊長を任されるほどの手練れ。この場で囮として切り捨てるのは得策ではない。

 

 覚悟を決めようと、キュルケが杖を強く握ったその瞬間だ。

 

「あはははは!」

 

 突然、ルイズが大笑いを始めた。

 皆が唖然とした顔でルイズを眺める。

 

「囮? 安直すぎるわ、子爵。日頃、ちゃんと隊長ができているのか心配ね」

 

「ルイズ?」

 

 ルイズの言葉に、困惑した声を返すワルド。その声も気にせず、ルイズは言葉を続けた。

 

「ねえ、ミスタ・ワルド。これからわたし達が行くのはどこ? 戦場でしょう? それが何? たかが傭兵の集団に襲われた程度で半分を切り捨てる? なるほど、姫さまが軍や魔法衛士隊は頼りにならないと、しきりに言っているのがよく理解できるわ」

 

 外にいる傭兵の数はただの集団で済まされる数ではない。だが、ルイズは胸を張りながらそう言った。

 そして、笑いを止め、ルイズは真剣な顔でキュルケの方を見た。

 

「キュルケ! 敵陣に火を放ちなさい。生物が本能で恐れる火を」

 

 言葉の意味するところは、撤退ではなく応戦。

 あの傭兵の軍勢に、魔法を用いて応戦しようというのだ。

 

「タバサ! 風を呼びなさい。火を舞い上がらせ、矢など吹き飛ばす風を」

 

 タバサはただ頷いた。

 矢返しの魔法は存在する。先日、風の教師であるギトーは、矢どころか燃えさかる巨大な火球すらも吹き飛ばして見せた。

 

「ギーシュ! 道を開きなさい。わたし達が進むための青銅の道を。敵を食い止めるための油の道を」

 

 突然のルイズの指示にギーシュは困惑する。

 だが、即座にその言葉の意味するところを理解し、彼は薔薇を構えた。

 

「サイト! 剣を握りなさい。剣は人を斬って初めて剣になる。あなたはわたしの使い魔。わたしのために血の道を作りなさい」

 

 才人は従うままにルイズが床に放置した魔剣デルフリンガーを拾い、軽く刀身を左手の拳で叩く。

 そして、わずかに錆が浮く刀身を室内のランプの光で輝かせたデルフリンガーが、「おう」と応える。

 

「ここにいる貴族の皆様! 杖を構えてくださいまし。外にいるのは魔法も使えぬ烏合の衆。杖を振るうだけで、彼らはただの獣の集団となりましょう!」

 

 その言葉を聞いて、カウンターの下で身を屈めていた貴族達の震えが止まる。

 そうだ、何を恐れているのだ。自分は貴族。剣や矢に頼らざるを得ない平民どもとは違う、選ばれた血族。何を恐れる必要があるというのか。

 貴族達は、ルイズの狙い通り奮起した。

 

「子爵、あなたもいけるわね?」

 

 そう宣言したルイズは、ワルドの返事を待つことなく拳を握る。

 ラ・ロシェールの全傭兵と、宿に滞在する貴族達との戦争が始まった。

 




・ワルド相手に敬語を使う才人
原作ではあまり敬語を使うことがなかった才人ですが、敬語が使えないというよりも単純に彼が尊敬に値すると思った人物が少なかっただけと解釈しています。その証拠に、コルベール相手には彼は敬語を使っています。この作品での才人はルイズに厳しく当たられていない影響で精神がささくれ立つことなく穏やかに過ごせているため、大人相手に敬語を使える精神的余裕があります。

・ルイズが新開発した剣杖
後の展開でアンリエッタに日本刀っぽい杖を使わせたいので差し込んだ設定。
打刀がレイピアよりも強いなどといった主張をする意図はありません。剣の種別ごとの性能比べは不毛やぞ……!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。