【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま 作:Leni
宿から影が躍り出た。
傭兵達はそれを確認すると同時、一斉に矢を放つ。だが、人影は止まらない。
彼らが目をこらして見てみると、それは人ではなくゴーレムであった。
人と同じ作りをしたゴーレムを見て傭兵達は武器を構え、叩き壊そうとゴーレムへと向かう。
だが、次の瞬間、ゴーレムは爆炎を上げ、傭兵達を吹き飛ばした。
後方から飛来した『火』の魔法が、ゴーレムに激突したのだ。
このゴーレムは青銅でできていると、夜の闇の中、熟練の傭兵は見破っていた。本来ならば、火で燃えるはずがない。
実はこのゴーレムは、宿にいた『土』のメイジが『錬金』をした油で、内部と表面が満たされていた。ゆえに、簡単な『火』の魔法によって、一瞬で引火したのだ。
ゴーレムがその身を振るうと、中の油が飛び散り、炎が四方へとばらまかれる。
燃えさかるゴーレムを前に、傭兵達は必死で逃げ出そうとする。とても叩き壊すどころではなかった。
そのような光景が、宿の周辺、同時七箇所で展開されていた。
「ま、メイジ慣れしている傭兵と言っても、普通は杖を抜いて『いざ始め』ってする軍人相手に限った話よね」
ゴーレムに火を放ったキュルケは、杖の先をくるくると頭の横で回しながら、ルイズ達と共に宿を飛び出した。
ギーシュの青銅ゴーレムから被害を受けていなかった後方の傭兵達が、ルイズ達に向けて矢を飛す。だが、タバサが展開する矢返しの『風』の魔法の前に、全て軌道が逸らされていく。
お返しとばかりに、ルイズが炎の壁を作り出す『フレイム・ウォール』のルーンを唱える。すると、後方に陣を構えていた弓兵の一団が、爆発魔法で根こそぎ吹き飛ばされた。
「それにしても……」
キュルケはつぶやく。火の海から飛び出した傭兵を才人が斬り捨てる光景に、目を細めながらだ。
「なに? 酒場でのあの詩でも詠んだみたいな演説。お姫さまの演劇癖でも移ったの?」
キュルケはルーンを唱える合間に含み笑いをしながら、ルイズに向けてそう言った。
対するルイズはと言うと。
「そんなわけないでしょう。わたしが、素であんなこと言うとでも思ったの? ねえ、キュルケ。あなたトリステインに来て、どれくらいになる?」
「え? 知っての通り、一年とちょっとよ?」
「じゃあ、ああいう演説が、この国の貴族にウケるということは、理解できるわね?」
キュルケはその言葉に、ギーシュを思い浮かべ、マリコルヌを思い浮かべ、アンリエッタを思い浮かべた。
「確かにそうね。それが?」
「テーブルの下で、みじめに震えていたトリステイン貴族達を戦力に加えるためには、ああいうキザなのが効果覿面だったってこと」
「…………」
キュルケは閉口した。いや、ルーンを唱える口は閉じてはいなかったのだが。
そして。
「……まったく、トリステインの貴族は、実利のない勇ましい言葉にすぐ影響されるんだから。だから戦に弱いのよ」
「ごもっともね」
走るルイズ達の後ろでは、そのルイズの言葉に踊らされていた貴族達が宿の外に飛び出して、傭兵達へ魔法を向けていた。
矢は風に防がれ、魔法で隆起した岩に傭兵は足をとられ、距離を詰めた火のメイジの一撃で傭兵達は必死に逃げ出し、燃えさかる炎は水の魔法で延焼を防がれた。
手慣れている。あの場の貴族に、トリステインへと亡命したアルビオン王党派の軍人でも混ざっていて、指示でも出しているのだろうか。キュルケは、そんな予測を立てた。
「で、ルイズ、どうするの? まさか本当に、これ全部を相手にする気?」
「まさか。逃げるに決まってるじゃない」
ルイズ達の向かった先。それは港のある大樹へと続く道ではなく、使い魔達を泊めた宿の近くの馬屋であった。
その馬屋の前ではグリフォン隊の衛士が一名詰めており、傭兵の襲撃を警戒していた。もう一名いた衛士は、グリフォンに乗ってルイズ達が泊まっていた宿の上空を旋回している。制空権や退路の確保といったところであろうか。
「さ、皆、シルフィードとグリフォンに乗って。『囮』を使うわよ」
「囮?」
突然のルイズの宣言に、キュルケはオウム返しをする。
「ええ。あの宿に居た頼もしい貴族の方々、全員。あの人達が、わたし達が逃げるための『囮』よ」
そう言って、ルイズは唇の端を吊り上げながら笑った。実のところルイズは、ワルドの言う囮作戦に大賛成であったのだ。
◆◇◆◇◆
ルイズとワルドは、昨夜この街へと来たのと同じようにフレイムと共にグリフォンに乗り、傭兵達の頭上を悠々と飛行する。
「いやはや、まさか無関係な貴族を囮にするなんて、大胆不敵な作戦だ」
グリフォンの手綱を引くワルドが、感心したように言った。
手綱を引きつつも鞘から抜いた剣杖を右手に構えている。いつでも魔法を放てるようにするためだ。
「先ほどは失礼なことを言ってしまったわね。ちょっと周囲を騙すために必要な言葉だったの。でも、これが皆を無事にアルビオンへと渡らせる、最善の策だったのよ。子爵の精神力も温存したかったし。」
「温存した分は、フネを進ませるための『風』の魔法に使わせる、だろう? ふふ、素晴らしい。今すぐにでも俺の隊に来て、参謀になってほしいくらいだ」
「軍や衛士隊に興味はないわ」
そう言いながらルイズは眼下の傭兵を眺める。
矢は飛んでこない。真上に放てば当たらなかった矢は、自分たちにそのまま降り注ぐからだ。
そして、矢よけの魔法を使うばかりでつまらなかったのか、タバサがシルフィードの上から氷の雨を傭兵達へと降り注がせていた。
「キミの同行者も、ずいぶんと頼りになるようだ」
「足手まといになる人間なんて、初めから一人も連れてきていないわ」
「そのようだ。サイトくんも飛び出してきた傭兵を見事に斬り捨てていたようだし、本当に頼りになるな」
「そうね。わたしもちょっと意外だったわ」
そんな会話をしている最中、傭兵達の横の地面が急に盛り上がり、巨大な岩のゴーレムが出現した。
ゴーレムは、上空を飛ぶワルドのグリフォンに手を伸ばしてくる。
「むっ」
とっさにワルドは手綱を引き、グリフォンを操って手を回避した。
ルイズはワルドの腰に手を回し、振り落とされないよう踏ん張って迫るゴーレムの腕を見た。
「トライアングルクラスの岩ゴーレムね。このレベルの傭兵メイジも混ざっていたなんて……」
「大丈夫なのかい? このままでは、下の貴族もゴーレムに潰されてしまうよ」
「問題ないわ」
ルイズはそう言うと、ルーンを唱えて『エア・ハンマー』の魔法を放った。
槌のイメージを持って放たれたルイズの魔法は、ゴーレムの上半身を一撃で吹き飛ばす。
そして、吹き飛ばされたゴーレムの破片は、大きな石つぶてとなって傭兵達の頭上に降り注いだ。
突然の轟音と落石に、傭兵達はパニックに包まれる。
「むしろ落石用の素材を用意してくれたようで、ありがたいわね。それにあそこまで大きいゴーレムなら、傭兵メイジの精神力では、二体目は無理でしょう」
「相変わらず、名高き『賢者』の魔法は素晴らしいね……」
「最近のわたしの二つ名は、『魔女』なのだけどね」
そう言いながら、ルイズはさらにルーンを唱えて、再生しようとしていたゴーレムを根本から『アース・ハンド』の爆発で吹き飛ばした。
ルイズの魔法は全てイメージによって放たれる。
本来、ルイズの使う魔法は、ただの爆発としてしか現れない。
だが、彼女はそこに強く魔法の効果を思い浮かべることで、様々な種類の爆発を起こせることを幼い日に知った。
対象の内部から爆発する魔法、表面が爆発する魔法、見えない矢が飛んでいき着弾した場所が爆発する魔法、爆音のみを残す魔法、強い爆風だけを出す魔法。
発動に必要となるのは、イメージと感情。
四大魔法の使い手も、感情の高まりに魔法の効果が左右される。
ルイズの魔法は、その感情の影響が特に
ルイズ達はひとしきり眼下へと魔法を落とすと、今度は速度を上げて空を進んだ。
向かうのは、ラ・ロシェールを象徴する大樹、
◆◇◆◇◆
フネの上に降りたルイズ達は、船員達と交渉し、金貨をそれなりに積むことで無事アルビオンへ向けて出発することができた。
フネの動力である『風石』はたんまりとある。最近、トリステインでは『風石』の大鉱脈が見つかり、『風石』の価格が安くなっているのだ。
さらにワルドは飛行速度を上げるため、フネの帆に風魔法を使おうと船員に進言する。船員としては、航行が速くなる分には大歓迎のようだった。
そうして、ワルドは同じく『風』の魔法を得意とする衛士の一人、グリフォン隊の副隊長と一緒に甲板へと出ていった。
一方、フネの内部。才人は客室にあるベッドに身を投げ出し、グッタリとしている。別に船酔いをしたわけではない。
彼は、先の傭兵との交戦で剣を振るった。『ガンダールヴ』の力を人に対して向けた。
剣術の訓練を受けている彼だが、剣で生身の人間を斬ったのはこれが初めてだ。
刃物を外で持つことすら禁じられた国出身の才人。そんな彼が、重たい長剣で何人も傭兵を斬りつけたのだ。言葉では言い表せない不快な感触が、彼の手に残っていた。
キュルケになだめられ、ギーシュに
「情けないわねぇ」
「まったくだ」
才人を見下ろしながら言うルイズと、それに続くインテリジェンスソードのデルフリンガー。
才人は、目線をルイズの方に向けた。
「マジで生き物を初めて斬ったんだよ。ああー、斬った人死んじまったかなぁ」
「言ったでしょう。わたしのために血の道を作れって。辛いなら、わたしのせいにしておきなさい」
「そう簡単に、割り切れるかよ」
そう言って顔を両手で覆うと、才人は長い長いため息をついた。
「……なあルイズ、人斬ったことあるか?」
「あるわよ」
「殺したことは?」
「ないわよ……と言いたいところだけどどうかしらね。目の前で死ななくても、放っておいたせいで死んだ人はいるかもね」
ルイズは今回のような荒事に巻き込まれたとき、躊躇無く破壊の魔法を使う。
一瞬で死ぬような魔法は使っていないが、拳で殴りつけるより
たとえば、先ほどのゴーレムを破壊したときに起きた落石。ルイズからは見えなかったが、傭兵の誰かが岩に頭をかち割られて絶命していることもあるかもしれない。
ハルケギニアにおいても、殺人は禁忌だ。貴族が己の名誉のために決闘を繰り返していた時代は、四半世紀も前のこと。それでもルイズは、自分の身を守るためならば、杖を振っても構わないと思っていた。
とりあえずルイズは、この平和な国から来た少年をどう元気づけてやろうか考えるのであった。
・人斬り才人
原作の才人は無闇に相手を殺さない男でしたが、この作品ではその辺は気にせずいきます。
・マジで
今の若者は使わない言葉だと一時期話題になりましたが、才人は2004年の東京から来たということにしているので使います。原作でもときどき使います。