【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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35.魔女の鉄槌

 雲より高い空の上。『風』の魔法により強風吹き荒れる、空飛ぶフネの甲板にて。

 ワルドとグリフォン隊の副隊長は、風の音に紛れて秘密の会話を繰り広げていた。

 

「裏切り者がいるな」

 

 そう言ったのは、剣杖を抜いてフネの帆に『ウィンド』の魔法を放ち続けるワルドだ。

 一方、ワルドと同じ隊服に身を包み、旧式の軍杖で『ウィンド』を放つ副隊長は、小さくうなずいて応える。

 

「そのようですな」

 

 裏切り者。その言葉が示す意味とは、すなわち。

 

「ラ・ロシェール入りして翌日の晩に、あのような襲撃。我らの目的と所在が割れているとしか思えん」

 

 彼ら一行の中に潜む、姫将軍アンリエッタからの任務を邪魔しようとする間者のことである。

 

「下手人は、おそらく……」

 

「ああ、小隊長だ」

 

 副隊長の言葉に、ワルドが被せるようにして言った。

 

 小隊長とは、ワルドが今回連れてきた衛士の残り一人。土の『トライアングル』である実力者だ。

 なぜワルドがそう断言したかについては、しっかりとした理由がある。先ほど地上でワルドを襲った巨大な岩ゴーレムが、小隊長の生成するゴーレムによく似ていたのだ。造形の癖を隠そうという意図は見えたが、細部が誤魔化しきれていなかった。

 ワルドはグリフォン隊の隊長だ。隊の衛士、特に幹部が使う魔法の癖や特徴は、完全に覚えきっていた。

 

 小隊長達と厳しい訓練を共にした日々を思い出しながら、ワルドは険しい顔で言う。

 

「まさか我が隊に、アルビオンの貴族派が隠れていようとは……」

 

 アルビオンで起きている内乱は、王家を中心にまとまる王党派と、地方貴族を中心にまとまる貴族派の戦いである。ゆえに貴族派は、反乱軍とも呼ばれていた。

 ルイズを中心とした一行に紛れる内通者。その目的は、アルビオンとゲルマニアの同盟を破棄させるため、彼らの任務を失敗させること。ワルドはそう(にら)んでいた。

 表情をさらに険しくさせるワルドに、副隊長も深刻そうな表情を浮かべて告げる。

 

「由々しき事態です。しかし、どうしますか? ヤツを糾弾するには、明確な証拠は足りていませんが」

 

「任務から外してみて実際には無実であったとなると、ヤツの家との関係が悪化してしまう、か。事実だったとしても、ヤツを自由にしてしまうのも危険ではある。……とりあえず、ボロを出すまで監視し続けるしかないな。副隊長は小隊長を常に見張っていてくれ。帆に風を送る作業は、ここからは俺一人で行なう」

 

「了解しました。……ん?」

 

 副隊長がワルドから目線を外したそのとき、彼が何かに気付いた。

 目を凝らすように、遠くの空を見ている。

 その様子を見たワルドは、副隊長の眺める方向に目を向けた。

 

「……雲の切れ間に何かがいるな。ここらに生息する鳥の飛ぶ高さではない。野生の竜がこの航路にいるとも思えんが……念のため、『遠見』の魔法を使う」

 

 ワルドは帆に送り続けていた『風』の魔法を止める。そして、ルーンを新たに唱えて、遠くの映像を目に映す魔法を使用した。『遠見』の魔法だ。

 彼の目に浮かび上がる、空の向こうの映像。すると彼は、映像の中に厄介な代物を発見してしまった。それは、今、彼らが乗っている物と同じ存在。

 

「……フネだな」

 

 そう、空飛ぶフネが、雲に隠れるようにしてこちらへと近づいてきていた。

 そのワルドの言葉を聞き、副隊長は怪訝そうな表情を浮かべて言った。

 

「この時間に飛ぶフネですか……。商船でしょうか?」

 

「いや……あれは軍艦だ」

 

「まさか! 反乱軍の追っ手でしょうか?」

 

「だとしたら厄介だな。副隊長、急ぎ船員を集めてくれ」

 

 その言葉を聞き、副隊長は険しい顔で、まずは船長を呼びに走り出していく。

 夜は徐々に明けようとしていた。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「敵襲だーッ!」

 

 その叫び声と共に響いた轟音に、船内で休憩していたルイズ達は瞬時に意識を切り替え、一斉に甲板へと飛び出していった。

 甲板では、船員達が慌ただしく行き交っていた。そんな彼らの邪魔にならないよう、ルイズはフネのヘリに近づく。目を凝らすと、空の向こうに、黒塗りのフネが浮かんでいる様子が見えた。軍艦だ。フネの側面をこちらに向けて、二十門以上もある大砲を晒している。

 先ほどの轟音は、あの軍艦が砲撃を牽制として放ったのであろう。

 

「アルビオン王室謹製の第一級の軍艦ね」

 

 ルイズは、今、自分達が乗っているフネよりはるかに大きなその軍艦を見て、そう言った。

 彼女は険しい顔を隠さず、額にシワを作っている。

 すると、ルイズの後を追って甲板に出たキュルケが、ルイズの言葉に反応する。

 

「王室謹製? 本当に?」

 

 敵のフネを見て、なぜ王室の名前が出てくるのだ。そういう意味を込めて、キュルケはルイズへ問いを投げた。

 

「そ、本来ならただの空賊が持っているようなフネじゃない。戦争のどさくさに紛れて、反乱軍である貴族派が、王党派から奪ったのでしょう。多分、貴族派による通商破壊よ」

 

 そう言って、ルイズが腕を組んで敵艦を眺めていると、船員達が叫ぶように言った。

 

「貴族派じゃねえ! こちらからの旗に応答がない! ヤツラ、空賊だ!」

 

 その叫び声に、ルイズはさらに額のシワを深くした。

 相手が反乱軍で、目的が通商破壊であればまだよかった。自分達の追跡が目的ではないなら、船長達の交渉次第で自分達の存在を誤魔化せる目はあった。

 

 だが、空賊であると話は違ってくる。

 砲門をこちらに突きつけて脅しながら、こちらのフネに乗りこんで略奪をしてくるだろう。反乱軍と違って、見目美しいルイズ達のような貴族の少女を放って置くかは疑わしい。つまり、この場をやり過ごすことは不可能だ。

 

 そんなことを考えるルイズの近くに、剣呑な雰囲気をまとったワルドが近づいてきた。

 そんなワルドに、ルイズは表情をわずかに緩めてから、尋ねる。

 

「子爵。あのフネ、沈められるかしら?」

 

 ワルドはエリート貴族が集まる魔法衛士隊のグリフォン隊の隊長であり、『風』の『スクウェア』でもある。

『風』の魔法は、空を行くこの環境では猛威を振るうはずであった。しかし……。

 

「無理だな。俺も副隊長も、フネを進めるために精神力をかなり消耗した。万全ならば、スクウェアスペルで抵抗はできただろうが……」

 

 その言葉に、ルイズはそれならば仕方がないとワルドから目線を外し、隣にいるキュルケに顔を向ける。

 

「キュルケは?」

 

「魔法を撃って敵船の炎上を狙っても良いけど、その隙にあの砲門に集中砲火を受けるわね」

 

「そう……ま、仕方ないわね」

 

 そこまで聞いて、ルイズは再びワルドへと振り返った。

 しれっとルイズの隣にいたタバサは、自分もルイズに戦えるか聞かれると思い答えを用意していたが、名前を挙げられなかったことに内心肩を落とした。

 

 そして、ワルドとルイズは、無言で視線を交わし合う。ワルドを見つめるルイズの瞳には諦めの色はない。

 ワルドはそれを見て、この状況でなお折れない彼女の強さを知った。

 

「我が義妹よ。策はあるのかい」

 

「ええ、策とも言えない、強引な手段があるわ。ねえ、子爵。先ほどわたしの魔法を見て『賢者』の魔法と言ったわね」

 

「ああ、すばらしい魔法だった。将来の義理の兄として、鼻が高い」

 

「失礼だけど、あれはわたしの全力の魔法ではないわ。だから、これからわたしの本当の力をお見せするわ。ブリミル教からも一度異端の指定を受けた、わたしの魔法を」

 

 そう言って、ルイズは黒いフネを正面から見つめる。

 空賊の軍艦では、甲板の上で弓やフリントロック銃を携えた賊が並んでいるようだ。

 だがしかし、未だ銃は射程外。風の強い空の上では、もっと近づかなければならない。

 

 それを確認したルイズは、無手のままルーンを高らかに唱え始めた。

 

 イメージするのは、『火』、『水』、『風』、『土』の四つの属性系統。

 四つの系統を心の中で重ね合わせる。四大魔法を使えないルイズにとっては、ただのイメージであったが。

 なお、ルイズが唱えるルーンは、一部の者に戦術級とも称される戦争用スクウェアスペルであった。

 

 ルーンの詠唱が終わる。

 そしてルイズは拳を強く握り、腰をひねり杖の仕込まれた右腕を身体の後ろへと回す。

 

 弓のようにしなったルイズの身体は、矢を放つように右腕を加速させる。彼女がイメージするのは、一本の杭。

 そうしてルイズは、黒く塗られた空飛ぶ軍艦の方向へと、真っ直ぐに正拳突きを放った。

 ルイズの口から、彼女がイメージした魔法の名前が漏れる。

 

「『破城槌』」

 

 その言葉と共に、こちらに向いていた黒船の側面が、砲門ごと爆砕した。

 

 煙が上がり、突然の事態に相手の軍艦の甲板に乗る賊達が、慌てふためく。

 フネの黒い木製の外装は粉々に打ち砕かれ、二十あった砲門は全て歪み、使い物にならなくなっていた。

 ルイズの魔法に『風石』がある動力部の一つを打ち抜かれたフネは、浮力をわずかに失い、ゆっくりと高度を下げ始めた。

 

 たった一撃でフネを落とす。あまりの暴力。あまりの破壊の力。

 それを見たワルドは、驚きに目を見開いていた。

 

「構造を完全に理解していれば、軍艦でも最小の力で撃ち落とすことができる。いかがかしら」

 

「…………」

 

 ルイズの言葉に、ワルドはただただ沈黙した。

 風の『スクウェア』である自分の魔法を超える強大な力を目の当たりにして、声を出すことができなかった。

 

「あ、ルイズ、ちょっと浮いてきたわよ」

 

 フネの落ちる様子を眺めていたキュルケが、ふとそんな声を上げる。

 ルイズがワルドから目線を外してフネへと振り返ると、確かにフネがわずかに持ち上がるようにして動いた。

 

「あら、向こうにも高位の『風』のメイジが居るようね。……ラナ・デル・ウィンデっと」

 

 追加で放たれたルイズの爆発魔法がフネの脇につけられた翼をへし折り、黒い軍艦は再び沈み始めた。

 ゆっくりと、フネが下へ下へと降下して、眼下の雲海へと突っ込んでいく。

 

「下はギリギリ、海のはずよ。『風』のメイジもいるなら、落下の衝撃でフネがバラバラになることもないでしょう。漂流はするかもしれないけれどね」

 

 そう言うと、ルイズは雲の下に沈んだ軍艦から目線を外す。

 そして、船長へ賊を撃退したことを伝えるため、船橋へと向けて歩き出した。

 




・破城槌
オリジナルスクウェアスペル。本来ならば、風を送り込んだ火で水を温めて、水蒸気爆発の勢いを使って土の魔法で生成した杭を撃ち込むという戦争用の魔法。満遍なく四系統の力を操らなければならないため、難易度は高い。
これを唱えられるからルイズの魔法の力量はスクウェアレベルである、とはならない。あくまで爆発魔法の発動に必要なイメージの補完のために、ルイズがこの魔法を選んだだけである。
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