【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま 作:Leni
ルイズ達一行は、貴族派の占領下にあるという港町スカボローには降りなかった。彼女らが選んだ手段は、途中下船。フネから竜とグリフォンで飛び立ち、迂回して浮遊大陸のアルビオンへと向かった。
従来なら国境を兼ねる浮遊島周辺の崖は、各領地の兵士により厳しく監視されているはずだった。
だが、現在、アルビオンは内乱中であり混乱の真っただ中。国境警備は手薄だった。他国の軍艦が上陸したならばともかく、『風』の魔法を受けて高速で飛ぶ小さな竜とグリフォンを見つけられる者はいなかった。
アルビオンに上陸した彼女達は、反乱軍を刺激しないよう貴族のマントを外し、傭兵メイジの一団に扮装した。そして、シルフィードとグリフォンで、空の低い位置を飛んでいく。
アルビオン王や皇太子が籠城しているというニューカッスル城へと向かう最中、いくつもの戦場跡を越えた。
火を放たれ、踏み荒らされ、軍が進むための道に変えられた麦畑。
略奪され斬り捨てられた村人以外には、誰の姿も見えない村跡。
死体が処理されず虫が湧き鳥獣がたかり、腐臭を放つ合戦場。
まだ若く、本物の戦場をほとんど目の当たりにしたことのなかった、グラモン元帥の息子ギーシュ。ニューカッスル城近くの森で一時の休憩を取る頃には、彼はスッカリ無言になっていた。
荒事慣れしているキュルケとルイズも、ここまでの人の死を目撃することは初めてで、明らかに調子を落としていた。
そんな中、魔法衛士隊の衛士三人はさすがに平然としていた。
そして、残る才人は少し気落ちした程度で済んだのか、仮眠を取る前に腹を満たすため、保存食を口にしていた。
「ふむ、サイトくんは、あの光景を見ても平気なようだね。若いというのにたいしたものだ。キミの国では戦争が
干し肉をかみちぎりながら、ワルドがサイトに問う。
一方、人を斬った落ち込みから復活していた才人は、固く焼き締められたパンに苦戦しながら答えた。
「いえ、俺の国では六十年くらいずっと、戦争はやってませんよ。でも、学校で過去の戦争の資料や写真……ええと、精巧な絵画みたいなもので実際の戦争の様子を見せられたり、あと戦争にテーマを絞った博物館みたいなところに旅行で行かされたりしたんです」
その才人の言葉を聞いて、マントに身を包み仮眠を取っていたルイズがモゾモゾと起き出してきた。
顔色が悪いが、才人の国の話を聞くために無理に起きたのだろう。
「俺の国、日本は六十年前に世界中……周りのたくさんの国を巻き込んだ戦争で大国相手にボロ負けして、それから国全体でもう二度と戦争はしませんって、自分たちと世界中に約束したんです。だから、戦争はどんなに酷いものかっていう教育を受けるんです」
「ふむ、敗戦国側が戦勝国の占領下になるのを避けるために、他国に攻め込まない条約を結ばされたのか?」
「敵にまわした国が多すぎて、領地分割で揉めるくらいなら、共同で監視下においてしまおうという感じじゃないかしら?」
そんなワルドとルイズの言葉を聞いて、才人は苦笑い。
戦争史や近代の日本史に詳しくない才人よりも、彼ら二人の方が的確に日本の現状を言い当てられるのかもしれないと思ったからだ。幕末以降の日本史は、かなり記憶があやふやな才人であった。
「そういうわけで、戦場に行くと聞いて、ある程度の覚悟を事前にしていたんですよ。むしろ、ルイズ達がここまでへこんでいるのが、俺には不思議だ」
それ以外にも、才人はインターネットで卑猥な画像を探しているときに、グロテスクな画像へのリンクを踏んでしまうこともしばしばあった。そのせいで、戦場跡の光景には多少の耐性もあったのだ。
「仕方ないじゃない、あんなの初めて見たんだから。そりゃあ、オーク鬼の巣を潰したり、盗賊を追い払ったりしたことくらいはあるけれど」
口を尖らせて言うルイズに、ワルドは「フッ」と笑った。
「キミの故郷と違って、こちらの国では日常的に戦争が起きている。だが、実際のところ、若い貴族が戦場を目にする機会は少ない。一般的な貴族の子供達は、建前の戦争論を机の上で聞かされるだけの温室育ちなのだよ。そのうえ、昔から貴族の女性は、戦場へは行かないのがここらでの常識なのさ」
ワルドはそう言って、再び干し肉をかじった。
ちなみにキュルケとギーシュは、肉は無理そうと言って、堅焼きパンをモソモソと食べてから今は寝入っている。
唯一、タバサは戦場の空気に平然と対応し、何も気にせず干し肉とパンを両方食べた。今は、何事もなかったかのように眠っている。
「ねえ、サイトの国は魔法が無いんでしょう? どうやって戦争をしていたの。飛行機の話は聞いたけれど……」
マントに身を包み寝転がったまま、ルイズは才人にそう尋ねた。
「そうだな、飛行機や鉄の装甲で覆われた車とかの機械の乗り物に乗る。歩兵はみんな銃だ。この前、武器屋で見たような銃ではなくて、何十発も連続で撃てるような強力な銃。あとは、爆弾かな」
「魔法や幻獣が存在しないと、そうなるのね」
そんな才人とルイズの会話をワルドは興味深げに聞いていた。
異国の民というのは本当のようだ。しかし、魔法の無い国という場所が想像できない。貴族と平民は、魔法の存在なしでどう区分けられているのだろう。そんなことをワルドは考えた。
「魔法は無いけど、戦争に関する技術なら、多分、向こうの方がずっと進んでいるんだ」
そう、才人は言う。
「六十年前の戦争で、科学を利用した爆弾が日本に対して使われたんだ。たった一発で十数万人が死んだ」
「じゅうすうまっ……!?」
想定外の数字に、ルイズは絶句した。
ハルケギニアにも火薬を用いた爆弾はある。
だがそれは、人を一箇所に詰め込んでようやく二桁の人数を殺傷できるかというようなもの。一発で十数万の被害など、ルイズには想像もできない。
「科学の進歩っていうのは、兵器の進歩と一緒だからさ。今だと多分、その何百倍も威力がある爆弾がある」
「……確かにそんな兵器があったら、戦争はしたくないって考えに至るのも分かるわね」
ルイズはそう言って仰向けになり、両手で顔を覆った。
才人の話を聞いて先ほどの戦場跡を思い出してしまい、頭が冷え切ってしまった。
ルイズは今までずっと才人の言う『カガク』は素晴らしい技術の結晶とだけ見ていた。だが、それはあくまで一側面でしかない。
誰にでも使える道具を作るという『カガク』は、誰にでも使える兵器を作るということでもある。
自分が目指す究極の破壊の力は『カガク』にある。それを知っても、ルイズの心はどこか暗く沈んだままだった。
◆◇◆◇◆
休憩を終えたルイズ達一行は、王党派が籠城する場所へと辿り着いた。籠城の舞台、ニューカッスル城を遠くから見下ろせる丘に陣取り、突入の段取りを決めていく。
ワルド以外の衛士は二人でペアを組み、グリフォンで周囲を哨戒している。
そんな中、ルイズはレンズに『遠見』の魔法が付与された双眼鏡とメモ帳を左手に持ち、右手のボールペンで敵陣の配置を記録していた。
やがて、一通りの観測を終えたルイズが、メモ帳を見ながら言った。
「包囲網は完成しつつあるって感じね。急がないと、数日中には城が落とされるわ」
「でも、どうやって城まで行くんだい? 連絡の取れる王党派の心当たりでも?」
そんなギーシュの言葉に、ルイズは首を横に振った。
そして、アゴをさすりながら考え込んでいたワルドが顔を上げて言った。
「ここまで来たように陣中突破しかあるまいな。ただし、あの陣を抜けるには、もう傭兵だなどという言い訳は効かん」
「陣中突破? あの数の中を?」
さすがにそれは、とキュルケは表情を険しくした。
「できるわよ」
そう答えたのは、ワルドではなくルイズだった。
「道中で聞いた限りだと、国内の王党派はほぼ全滅。残るはニューカッスル城の王族を討つのみ。となれば、背後への警戒は薄いわ」
紙にボールペンで長い矢印を書きながら、ルイズは言葉を続ける。
「地上には傭兵や平民の兵を含めた歩兵が無数にいるけれど、空の守りは貴族の騎兵とわずかなフネのみ。隙間は多いわ。アルビオンに上陸したときみたいに、魔法を使って素早く駆ければ、入城自体はそこまで難しくない」
無数の魔法と矢の中をくぐり抜けていくことを覚悟していたキュルケは、安心したように息を吐いた。
そうだ。空を行けば難は少ない。貴族派は城を囲むように軍を展開している。これだけ広い陣なのだ。竜騎士の強さで有名なアルビオンの軍といえど、陸と比べると空の守りははるかに薄い。
「でもね」
そう言って、ルイズは言葉を続けた。
「問題は、城に入った後なの。広い陣の後ろから城へ突破するのは可能。でもあの四方を敵に囲まれた城から脱出するのは空を使っても不可能に近いわ」
「行きはよいよい帰りは怖いってやつか」
ルイズの言葉を黙って聞いていた才人が、そんなことを口にした。
彼の国に伝わる唄の一節だ。
「しかしだ。どちらにしろ城に辿り着かなくてはならない。あの陣を突破して城へ行くことはもう決定事項だ」
そう答えるのはワルド。彼の言うことは真理だ。
書を破棄するという任務がある以上、帰還する方法が無くても、城へ行き皇太子に会わなければならない。
と、そこで一人考え込んでいたギーシュが顔を上げた。
「空が駄目なら、土の中というのはどうだい?」
ギーシュはそういうと、手に持った薔薇の造花をくるりと回した。
すると、地面が盛り上がり、中から彼の使い魔であるジャイアントモールのヴェルダンデが姿を見せた。どうやら地中で餌のミミズを捕っていたらしい。
「ぼくのヴェルダンデなら、馬の走る速さで土を掘り進めることができる。さらに人の歩く速さでもいいと言うなら、落盤の心配のない頑丈な土の道を作れるのさ。城にも中庭くらいあるだろうから、そこから外に逃げればいい」
そのギーシュの言葉に、ルイズは活路を見た。
「じゃあ、ここからあの城まで道は作れる?」
「それは難しいね。彼女は臭いを頼りに地を掘るんだ。だからここに宝石でも埋めておけば、その宝石の臭いを辿って城からここまでは来られる。けど、頼りになるものがないと、ここから城までは行けないね」
「となると、行きは空、帰りは土の中ね」
「でもルイズ、ジャイアントモールの掘る穴の大きさじゃ、流石にシルフィードとグリフォンは通れないわよ?」
結論を出そうとするルイズに、キュルケがそう疑問の声を上げる。
グリフォンは羽の付いた馬ほどの大きさ。
シルフィードに至っては六メイルほどもある。とてもジャイアントモールが掘る穴の中を進めるような大きさではない。
「姫将軍殿下から受けた任務のためならば、亡き前王陛下より授かったグリフォンを手放すことも、やぶさかではないが……」
そう答えるワルド。
だが、シルフィードの主であるタバサは大きく首を振った。
「置いていかない」
タバサのその目は、一人ででも敵陣を突破して帰還すると言わんばかりのものであった。
だが、これ以外に脱出の手立ては浮かばない。
王族専用の脱出通路に頼るなどという案も浮かぶが、ニューカッスル城はただの地方の一要塞だ。そんな脱出通路が用意されているのかも怪しい。
「ルイズとワルド子爵と僕の三人だけで、城に向かうかい?」
「うーん……」
ギーシュの提案にルイズが悩んだところで、ワルドが言った。
「待ってくれ、ルイズ。実は、我が隊に裏切り者がいるかもしれん」
その言葉に、皆がギョッとした顔になった。
「そいつを不用意に置いていったら、一人逃げ出して反乱軍に報告が行って、攻城戦が早まる危険性がある」
ワルドの説明を聞き、ルイズは額に手を置いて悩んだ。そんなヤツ拘束してしまえとワルドに言うが、証拠はないと返されて困ってしまった。
そして、頭の中で一通り知恵を振り絞った後、ルイズはタバサの方を向いた。
「タバサ、シルフィードの首輪を外しなさい」
そのルイズの言葉に、タバサはピクリと肩を動かした。
なおもルイズは言葉を続ける。
「その子と一緒に無事学院に帰りたいなら、外しなさい。切り札は必要なときに躊躇無く切るべきよ」
タバサはしばし顔を伏せた後、ルイズの言葉に従いシルフィードの太い首にかけられた首輪を外した。
シルフィードの鳴き声を消すためにつけられた『サイレント』の魔法が封じ込められたマジックアイテムの首輪だ。
首輪を外されたシルフィードは、久方ぶりの解放に、きゅいと一言小さく鳴いた。
「シルフィード、しゃべって良いわよ」
「きゅい?」
ルイズの言葉にシルフィードを鳴き声を返す。
「人の言葉をしゃべって良いわよ」
「きゅい? 良いのね?」
竜の姿のシルフィードが、そう人語を口にした。
その突然の事態に、ルイズとタバサ以外の全員が大きく目を見開いた。
「ル、ルイズ。それって……」
「使い魔だから話せるというわけじゃないわよ。シルフィードはね、韻竜なの」
「きゅい。そうなの。ホントはみんなとお話できるのね」
シルフィードはそう言いながら歌を口ずさみ始めた。
首輪を外して人と話すのは久しぶりのことであり、彼女はそれを心から喜んでいた。
そんなシルフィードに、ルイズはさらに言葉を告げた。
「シルフィード、人の姿になりなさい」
まるで自分の使い魔に命令するかのような態度。
それを見てもタバサは何も言わず、シルフィードは「はーい」と返事をして魔法の詠唱を開始した。
「我をまといし風よ、我の姿を変えよ」
それは、ハルケギニアのメイジ達から先住魔法と呼ばれている、精霊の力を使った魔法の詠唱であった。
シルフィードの周りに風が渦巻き、そして輝いたかと思うと、巨大な竜の姿がかき消えた。
その代わりに、年の頃、二十ばかりの青髪の女性がそこに立っていた。
「よし、大成功なのね」
青髪の女性が両手を腰に当てて胸を張った。
先住魔法の『変化』の魔法。
それを見て再びルイズとタバサ以外の全員が驚愕した。キュルケ以外の男性陣には別の意味の驚きもあったのだが。
「これなら帰りに穴の中も通れるわ。ああ、あとシルフィード。人に変身するなら、服も一緒に作りなさい」
服をまとわぬ裸婦に向けてルイズはそう苦笑しながら言った。
なお、裏切り者である可能性がある衛士は、しっかりと拘束をして、ニューカッスル城から離れた場所にある村跡で待機してもらうこととなった。風の『スクウェア』である副隊長の『遍在』の分身により、監視をつけるという対策も練ったうえでだ。
裏切り者に逃げられることよりも、城内に裏切り者を招きいれることを危険視したのだ。そのあたりは、可能な限り徹底するルイズなのであった。
・インターネットのグロテスクな画像
才人がインターネットを嗜んでいた2004年頃は、ブラクラや精神的ブラクラの最盛期とも言える時期でした。なのでエロい少年である才人は、日々のネットサーフィンでグロ耐性が付いてしまったというオリジナル設定です。