【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま 作:Leni
三つの影が空に飛び出した。
既に時刻は夜。白と赤の二つの月が身を寄せ合い闇の中で光り輝いている。
早馬など比べものにならないほどの速度で、三頭の幻獣は空を駆けていった。
夜の闇。魔法による早駆け。陣の手薄な箇所の突破。
これ以上ないほど最高の条件が揃っている。
だが、それでもルイズ達は、身を完全に隠すことはできなかった。
陣の半ばまで進んだところで、陣の中から鐘の警報が響く。
その音を聞いて、風竜の背にしがみついていたルイズが顔を上げた。
「ま、そう簡単に上手くいくわけがないわね」
シルフィードに乗るルイズ達の背後。『風』の魔法で駆けるグリフォンに追いすがろうと、反乱軍の竜騎士が二騎、姿を見せた。
魔法衛士隊幹部級のスクウェアメイジ二人分の風に乗るグリフォンと言えど、竜相手では速度に劣る。
あのままでは、ワルドか副隊長のどちらかが落とされてしまう。
「サイト、ギーシュ。お願い」
ルイズの言葉に、彼女と同じくシルフィードに乗り込んでいた二人が、うなずきを返す。
ギーシュが才人に手の平大の何かを渡し、才人が右手に持った紐にそれをかける。
そして、才人は手に持った紐を頭の上で回転させ始めた。
才人が手に構えているのは、
極めて原始的な古代の道具。だが、その威力は人を殺傷するには十分であり、熟練者の手にかかれば弓よりはるかに遠くへ飛ぶ、立派な武器であった。
ギーシュが土から錬金して作っておいた両面円錐形の青銅弾を才人は頭上でブン回す。
そして才人はグリフォンの後ろに迫る竜に狙いを定めた。
「三」
そう、才人が数字を口にする。
すると、それに合わせるようにルイズがルーンを唱え始めた。
「二」
ルーンが終わる。
そしてルイズは才人の頭上で回転する弾丸を見上げた。
「一」
才人の頭上に指を突きつけるルイズ。
弾丸へと魔法がかかる。
「行け!」
叫びと共に、青銅の弾丸が撃ち出された。
石は真っ直ぐ騎竜へと向かっていく。
高速で飛翔するシルフィードの進行方向とは逆に撃ち出された弾丸。だがそれは速度を落として地に落下することもなく、空を切り裂く。
投石の動作を目視していた竜騎士は、愛竜の手綱を操り回避行動を取ろうとする。
だが、竜が身をひねろうとした瞬間、竜の正面で弾が突然、光を放った。
夜の闇を全て吹き飛ばすかのような強烈な光。
思わず目を閉じてしまった竜騎士へ追い打ちをかけるように、轟音が襲った。
眼下で鳴らされる警報の音が聞こえなくなってしまうほどの轟音だ。鎧を通じて、音の振動がビリビリと身体に伝わってくる。
光と音。衝撃を伴わないその爆発に、グリフォンを追っていた騎士二人は鞍の上で身を丸め、竜は飛ぶことを止めた。
相手の動きを止めることのみにイメージをかたむけた、ルイズの爆発魔法。
それは、突入作戦を練る場で、才人がルイズに語った地球の非殺傷鎮圧兵器、
ルイズの爆発魔法は光と音を伴う。修練を重ねたルイズは、修練の果てにその性質を高める術を身につけていた。
ただの攻撃魔法ならば、熟練の竜騎士相手では防御用の魔法で防がれてしまう。だが光と音ならば風の鎧を身に纏おうとも、とっさに防ぐことは容易ではない。
強い光を食らい、夜の暗さに慣らした目を焼かれた二騎の騎竜は、眼下の陣の中へと墜落していく。
一方、間近で鳴らされた轟音に、グリフォンも驚き羽を大きく羽ばたかせるが、ワルド達が手綱を操るとすぐに真っ直ぐ飛び始めた。
ルイズはそれを確認すると、前へと向き直る。
「前方、三騎」
タバサがさらなる竜騎士の襲来を告げる。
城への侵入を阻むように陣形を組み、杖を構える竜騎士達。
それをルイズが確認したとき、既に才人は次の投弾の準備を開始していた。
三カウントと共に弾丸が投げ飛ばされ、ルイズの魔法で夜空に再度、太陽が生まれる。
身をすくませる竜騎士を迂回するようにシルフィードは高度を上げ、そして城へ向けて進む。
横合いからさらに一騎の騎竜が追いすがってくるが、才人は魔法を伴わぬ投弾で竜の頭を打ち砕いた。
ルイズと才人以外知る由もないが、今、青銅弾を投げている者は『神の左手』と呼ばれる『ガンダールヴ』だ。投石紐という武器を用いれば、二百メイル先の的ですら容易に打ち抜けるだろう。
夜の闇も手伝って、その投弾は魔法の射程外から竜を撃ち殺す、恐ろしい殺傷兵器となっていた。
そうして三頭の幻獣は陣を突破し、大陸沿岸の岬の先端、ニューカッスル城に迫る。
ルイズ達の突然の接近に、城の城壁内から兵士が姿を現し、城壁の上に備え付けられた青銅製の大砲が角度を変える。弓兵も、慌てて弓に矢をつがえようとしていた。
それに対し、ルイズはシルフィードの上から高らかに旗を掲げた。
あらかじめ、ルイズが荷物の中に用意していた旗。降伏の意思を示す旗だ。
旗が目立つようにと、キュルケが『
その旗を掲げたままシルフィードは城の上空に位置を取り、城壁に囲まれた中庭へゆっくりと降下していった。
シルフィードが城に降り立ち、ルイズ達がその背から降りる頃には、彼女達の周囲を多数の兵士達が取り囲んでいた。
槍と杖が一斉にルイズ達へと向けられる。
一拍遅れるようにグリフォン二頭も地に足をつけるが、兵士達の警戒は変わらぬままだ。
「皆、杖を捨てて」
ルイズの言葉に、ギーシュ、キュルケ、そしてグリフォン隊の衛士二人は、順番に杖や鞘に収められたままの軍杖を地面に投げ落とした。
もちろんルイズは杖が仕込まれた腕を捨てることなどできないし、キュルケとタバサは魔法の指輪を指に嵌めたままだ。あくまで敵対する意思がないことを相手に伝えるためのポーズだ。
抵抗する様子を見せないルイズ達に、兵士達の一人、後方で金属鎧を着込み立派な杖を構えるメイジが声を放った。
「何者か」
凛と通る声。彼はこの兵士達を束ねる長であった。兵士は基本的に平民がなるものだが、兵士長である彼は貴族出身のメイジのようであった。
それに対し、ルイズは優雅に一礼して答えを返した。
「トリステイン王国より大使として参りました、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します。トリステイン王国王女、アンリエッタ・ド・トリステインより、ウェールズ皇太子殿下に密書を言付かって参りました」
「『賢者』殿とな……?」
兵士長は眉をひそめてルイズの姿を見た。
確かに目の前の少女は噂に聞くトリステインの『賢者』と同じ容姿。桃色がかった金髪はつややかで、かんばせは美しい。
だがしかし、その服装は平民の傭兵にしか見えないものだ。
彼のいぶかしげな視線を感じ、ルイズは腰の荷物袋に手を入れ、中から一枚の羊皮紙を取りだした。
「トリステインの枢機卿であるマザリーニの手による、身分を証明する書状でございます」
「ふむ……」
ルイズ達を取り囲む兵士達の間を縫って、兵士長が前に出る。右手には杖を構えたままだ。
兵士長は左手でルイズから羊皮紙を受け取り、目を通す。
ルイズの身分を証明する文と、最後のマザリーニの署名に目を通すと、兵士長は杖を下ろし背後へと振り返った。
「皆の者、槍と杖を下げよ! これより、この方々をトリステインの大使として、城内へご案内する!」
彼の言葉に兵士達は一斉に槍と剣を引き、敬礼をした。
兵士長もルイズ達へと向き直ると、一礼して言葉を続けた。
「あの陣を抜け、よくぞ生き残ってきた、トリステインの精鋭達よ! ようこそ、亡国アルビオンへ! トリステインに名高き『賢者』殿御一行の来訪、心より歓迎致す!」
こうしてルイズ達は、自陣営に死者を出すことなく、戦場の片道を踏破した。
◆◇◆◇◆
ルイズ達は兵士長の先導で中庭から城内へと入り、簡易の玉座が置かれたホールへと案内された。
玉座には、アルビオン王国の老王ジェームズ一世が腰掛けている。その両脇には、二人のメイジが王を守るようにして立っていた。
ルイズ達はルイズを中心にして横に並ぶと、一斉に片膝をついて頭を下げた。一人タイミングが遅れた才人であったが、横のギーシュに倣ってぎこちない礼を執った。
それに対しジェームズ一世は、王にふさわしい重厚な声でルイズ達へと呼びかけた。
「
未だ健在のアルビオン王。だが彼は、もはやこの戦は負けなのだと、しっかりと自覚していた。
ジェームズ一世に促され、ルイズ達はわずかに頭を上げる。
「して、我が息子へと用件があるのだとか。あやつは今、この城を離れておる。問題ないならば朕が代わりに聞こう」
この包囲網となっている城に、ウェールズ皇太子が居ない。その言葉を聞いてルイズはわずかに眉を動かしたが、任務に支障はないと考えジェームズ一世に語り始めた。
「はい。まず一つは、当国の王女アンリエッタより、ウェールズ皇太子殿下への密書を預かっております。お受け取りください」
ルイズは懐から封のされた紙を取り出し、目の前の床に置く。
アンリエッタがルイズの自室でしたためたウェールズへの手紙だ。
それを見たジェームズ一世は、傍らに控えたメイジに目で促す。
メイジはルイズの元へと歩くと、手紙を手に取り王のもとへとそれを運んだ。
ジェームズ一世は手紙を手に取るとその場で封を切る。そして、二枚の紙となったうちの一枚を広げて中を読み始めた。
そして、一通り中身を確認したジェームズ一世は、顔を上げて言葉を放った。
「――なるほど。『賢者』殿が直接来たのも道理である。誰か!『ラグドリアン・テクスト』をここへ!」
「はっ!」
王の傍らで控えていたメイジの一人が、王の言葉で謁見の間を退出する。
それを見守っていた王は一つうなずくと、二枚目の紙を広げて、そちらにも目を通し始めた。
ジェームズ一世の読む二枚目の紙。それには紙一面に、アンリエッタによるウェールズへの愛の言葉が書かれていた。
市井で売られている恋物語など比べものにならない、甘い甘い恋文。ジェームズ一世は自分の息子に宛てられたその手紙を見て、ただ笑うことしかできなかった。
「あの愚息めが。自分を慕ってくれる気の強い女が好み、などと抜かしておったのは、このことか」
そう言って、ジェームズ一世は二枚の紙をもとの円筒状に丸め、杖を振るって魔法の蝋で封をした。
それを傍らのメイジに渡し、再びルイズのもとへと戻す。
「大使殿。それはあまり他人の見て良いものではない。中を読まずに処分すると良い」
「はい」
ルイズはジェームズ一世の言葉に、やっぱりかという顔をして密書を受け取った。
そして、最初に退出していたメイジが、謁見の場に戻ってきた。彼の手には、金の装飾が成された美しい箱が携えられている。
それを見た才人やキュルケ達は、あれがアンリエッタ姫の恋文が入った箱なのかと予想した。
「大使殿。『ラグドリアン・テクスト』である。しかし、中身は全て燃やしてしまった。よろしいな?」
「構いません。当国のアンリエッタからも、燃やしてよいと言われております」
そのジェームズ一世とルイズのやりとりに、やはりあれが手紙の箱なのだと才人達は考えた。
しかし。
「して、もう一つの用件とは、手紙の回収であるな?」
「はい、その通りでございます」
手紙? もう燃やしたんじゃないか?
もしかして、違う?
じゃあ、『ラグドリアン・テクスト』って、なんだ?
才人は混乱したが、「謁見の場では口を閉じて何もしゃべるな」とルイズに言い含められていたため、無言を貫き通した。
「パリー! パリーはおるか!」
才人の内心の混乱が収まる間もなく、ジェームズ一世はルイズ達の背後に並ぶメイジ達へと声をかけた。
すると、彼らの中から一人の年老いたメイジが、前へと進み出てくる。
「パリー、大使殿をウェールズの部屋へ案内せよ。大使殿は、トリステインの姫君からウェールズに宛てられた恋文を所望しておる」
「よろしいのですか?」
ジェームズ一世の言葉に、老メイジではなくルイズがそう言葉を返した。
「なに、トリステインとゲルマニアの同盟を考えると、我が愚息の私事などどうでもいいものだ。この二国には我々の仇を討ってもらわねばならぬからな」
「……それについてですが陛下、わたしどもにはこの城から抜け出す算段がございます。必要とあらば陛下をトリステインに亡命させることも可能です」
そう言うルイズの言葉、ジェームズ一世は首を横に振る。
「いらぬよ。城を囲む奴らに気付かれぬよう抜け出す方法など、いくらでもある。だが、王家は最早滅びたも同然。ならば、最期に王家の誇りと名誉を守りながら、朕は死ななければならぬ。それが朕の王としての、最後の役目だ」
その王の言葉に、ルイズはただ顔を伏せた。もはやこれ以上、彼女が言える言葉はない。
始祖ブリミルの血を引く王の名誉。それは何よりも優先して守られなければならない。六千年続いた王国の貴族であるルイズ達にとって、それは尊重すべきものであった。
ルイズは国への忠誠心など欠片も持っていないが、他者が守る国の誇りと名誉をないがしろにするつもりは毛頭なかった。その誇りと名誉を自身が理解できなくても、だ。
「だが、始祖の血を一つ絶やしてしまうのは忍びない。可能ならば愚息を逃がしたいものなのだが……あやつも頑固者でな。朕と共に討ち果てると言って聞かぬ」
苦みの混じった顔でそう告げると、ジェームズ一世はゆっくりと立ち上がった。
眼前に並ぶルイズ達、そしてその背後の家臣達を眺めて王は告げる。
「数日中に、この王国は滅びるであろう。よって、これより最後となる祝宴を行なう。大使殿には、トリステインに戻る前に、我らの最後の勇姿を目に焼き付けていっていただこう」
・スタングレネード
ルイズの爆発魔法に光が伴うというのは、テレビアニメ版の演出を都合良く取り入れたもの。アニメの設定は都合の良い部分だけ採用します。