【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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39.戦場 死を呼ぶ突風

 宴の席となっていたホールは、一瞬で戦場へと変わった。

 攻撃魔法が飛び交い、『ブレイド』の魔法を使った斬合いが繰り広げられる。

 

 そんな中、ルイズ達は戦闘への参加を余儀なくされていた。

 今さらここで、自分達はただの異国の大使です、などと言って傍観(ぼうかん)を決められるはずがない。

 

 ゆえに、ルイズは立て続けに爆発魔法を放ち、近寄ってきたメイジを鉄板仕込みのブーツで蹴り抜いた。

 才人もデルフリンガーを抜き、両手で構えて『ブレイド』の魔法とつばぜり合いをしている。自然と、ルイズと才人は互いの背を守り合う位置を取った。

 

 タバサは右手に剣を構え、左手に着けた魔法の指輪から氷の矢を放っている。その背後では、キュルケが火事にならないよう気をつけながら火の魔法を巧みに操っている。

 ギーシュはというと、泣きそうな顔になりながら、青銅のゴーレムで己の身を守らせていた。

 

 そしてワルド。彼はアルビオン王を守る位置に移動し、アルビオン王の命を狙うグリフォン隊の衛士二人と同士討ちをしていた。

 

「副隊長……貴様も裏切り者だったとは……!」

 

 ワルドは剣杖を鞘から抜き去って、軍杖を構える副隊長と向かい合う。

 

「なにゆえ裏切った!」

 

「さて、同じ風の『スクウェア』として、隊長が目障りだったのか。それとも隊長とこうして、命のやりとりをしたかったのか……」

 

「そのような理由で、祖国を裏切るか!」

 

 憤怒の表情を浮かべるワルドに対し、副隊長はルーンの詠唱でもって応えた。

 

「ユビキタス・デル・ウィンデ……」

 

「!? ユビキタス・デル・ウィンデ――!」

 

 副隊長の詠唱を聞き、ワルドもわずかに遅れて同じルーンを唱える。

 完成した魔法は、『遍在』。分身を作り出す、スクウェアスペル。だが、その効果には明確な差があった。

 

 副隊長の分身は三体。ワルドの分身は四体。

 その結果に副隊長は苦々しい表情を浮かべながら、小隊長と共に戦闘を開始した。

 

 一方、ルイズの背後を守りながら、襲い来るメイジを数人斬り倒した才人。

 彼は、少しずつ敵兵に討ち取られていくアルビオン王党派のメイジを見て、心がキリキリと痛んだ。

 先ほどまで、酒を飲み交わしていた男達が、死んでいく。その事実に、才人は心の中で嘆き悲しむ。

 

「『ガンダールヴ』の力は、こんなもんなのか……! 何が伝説の使い魔だ! 城一つ守れねえのか!」

 

 デルフリンガーを構える才人。しかし、彼に向かってくるメイジはもういなかった。才人が尋常ではない剣の使い手と見て、敵は遠距離から彼を潰すことを選択したのだ。

 

 才人に迫る、大きな火球。

 とっさに避けようとする才人。だが、背後にルイズがいることを思い出して、躊躇(ちゅうちょ)した。その瞬間。

 

「相棒! 俺を魔法に突き立てろ!」

 

 そんなデルフリンガーの声が聞こえ、反射的に才人は火球に突きを放った。

 すると、火球がデルフリンガーの刀身に吸い込まれていく。

 

「えっ!?」

 

 まさかの出来事に、硬直する才人。

 そして、まさかの出来事は続いた。デルフリンガーが光り輝き、わずかに錆の浮いていた刀身が見る見るうちに変化していったのだ。

 やがてデルフリンガーは、研ぎ立てのような輝く刀身へと変わっていた。

 

「デ、デルフお前……!?」

 

「いやー、思い出した! 『ガンダールヴ』だ、『ガンダールヴ』! 相棒は『ガンダールヴ』だったな!」

 

「お、おう……」

 

「なら、話は早いぜ、相棒。心を震わせろ。そうすれば、お前さんはもっと強くなる!」

 

 二人で言葉を交わす間にも、敵のメイジは才人に魔法を放ってくる。

 それを才人はデルフリンガーで切り払う。すると、魔法がデルフリンガーに吸い込まれていった。

 こんな特殊能力を隠していやがったのか、と才人は驚くが、驚いている場合じゃないと戦闘に意識を切り替える。

 そして、そんな才人に、デルフリンガーは言う。

 

「『ガンダールヴ』の強さは心の震えで決まる! 怒り! 悲しみ! 愛! 喜び! なんだっていい! とにかく心を震わせな!」

 

 それを聞いて、才人の心によぎったのは、今も戦うアルビオン王党派の男達。

 死を前にしてなお笑い、折れずに戦い続けている彼ら。

 惚れ惚れするような気質を持つ男達。そして、敵はそんな彼らを討とうと、卑劣にも間者を用いて夜襲をかけ、最後の宴を台無しにした。

 

 才人の心が、怒りに燃える。

 すると、才人は全身が熱くなるような、強い力が身体の奥底から湧いてくるのを感じた。

 

「おおッ! うおおおおッ!」

 

 才人は鬼神のごとき力で、敵の集団へと斬り込んでいった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

『ガンダールヴ』の本領を発揮した才人の獅子奮迅の活躍で、ホールに詰めかけていた敵の第一波は全滅した。

 才人は何度も身体をかすめた魔法で全身ボロボロで、さらに返り血も浴びてドロドロになっていた。手には、血に塗れたデルフリンガーを携えている。

 途中から再び接近戦になったため、左手にソードブレーカーを抜いて二刀流で戦った。だが、そのソードブレーカーは歪んで使い物にならなくなったため、そこらに捨てていた。敵メイジの軍杖を何本もへし折ったため、武器としての役割は十分果たしたと言えるだろう。

 

 激戦を繰り広げた者は才人だけではない。ワルドもなんとか裏切り者の処断に成功したようで、副隊長の懐を服をあさって、身の証となる何かを剣杖で切り取っていた。

 

 アルビオン王に付き従った王党派のメイジは、多くが死んだ。だが、ルイズ達一行は、裏切り者の二人以外、欠けた者はなかった。

 戦いを終えて一休憩といきたいルイズ達であったが、状況が許してはくれない。ワルドの号令で、ルイズ達は急いで集まって、次に取るべき行動を確認していた。

 

 ここに来て、ギーシュの使い魔で城を脱出するという手段は取れない。逃げ出すには、地中を掘り進める速度が足りないのだ。高確率で、掘り進めた先で背後を突かれて袋のネズミとなってしまう。

 となると、なんとかして城の包囲を抜け出して脱出する必要がある。

 

 ルイズが先ほど老メイジのパリーから聞き出していた秘密港のことを話すと、そこまでどうにかして辿り着こうとなった。

 そんなことを話し合っていたルイズ達に、この激戦の中、しっかりと生き残っていたアルビオン王のジェームズ一世が近づいてくる。

 

「港は地下深くにある。獣舎とつながっておるから、そなたらが連れてきた幻獣に乗って、問題なく逃げ出せるはずだ」

 

 その言葉に、ワルドはホッとした表情を浮かべて応えた。

 

「助かります。しかし、此度の開門は、おそらく我らの中にいた裏切り者の手によるもの。申し訳ない。どうお詫びいたせば……」

 

「よい。許す」

 

 ワルドの謝罪の言葉をあっさりと受け入れ、許してしまうジェームズ一世。

 

「朕らは、遅かれ早かれ全滅していた。一日か二日か侵攻が早まったとて、今さら悔やむ心すらない」

 

「……その御心、ありがたく」

 

「うむ。では、秘密港に案内しよう」

 

 そうして、王に先導されて、ルイズ達は小走りで城の中を進んでいく。生き残った他のメイジと兵達は、その脱出を支援するために城門の方向へと向かっていった。

 獣舎への道を進むが、その道中では皆が無言を貫いた。あれだけ激しい戦いの後に、会話を交わす気力もないのであろう。

 やがて、獣舎が見えたところで、いち早く気力を取り戻したルイズはジェームズ一世へ向けて、あらためて言った。

 

「一人二人なら、一緒に逃げ出すこともかないます。陛下、トリステインへ亡命を」

 

 だが、返ってきたのは、予想通りの沈黙。

 

「陛下! 亡命を!」

 

 先頭を行くジェームズ一世に向けて声を荒げるルイズだが、王は応えない。

 

「ルイズ」

 

 ワルドは、そんなルイズをたしなめるよう、肩に手を置いた。

 その意を酌んだルイズは、悔しそうな顔を隠すこともなく、再び黙り込んだ。

 

 ルイズは王の気持ちが分からなかった。王族として、国王としての誇りが、ここで果てることを選んだという理屈までは、理解できる。

 だが、ルイズの心はここにきて、そんな覚悟を決めさせる王の誇りそのものに、反発心を覚えてしまったのだ。

 

 そして無言のまま、一行は城の地下へと進み、やがて開けた秘密港へと辿り付いた。

 獣舎で回収した使い魔とグリフォン達と一緒に、脱出準備を整える。

 

 だが、ここに来て、秘密港へ新たな敵が踏みこんできた。どうやら城門へ向かった兵達は敵を通してしまったらしい。彼らは全滅してしまったのかもしれないと、ルイズは身構えた。

 そして、急ぎシルフィードとグリフォンに分かれて乗りこむ一同。

 しかし、やはりと言うべきか、ジェームズ一世はどちらにも乗りこむことはなかった。

 

 代わりにと言っていいものか、王は杖を抜き、秘密港へと足を踏み入れた敵兵に強烈な『風』の魔法を放った。

 

「陛下!」

 

 ルイズは、そんな王に最後の亡命を勧めようと声を上げた。だが、返ってきた言葉は。

 

「大使殿。ここは朕に……いや、オレに任せて、脱出しろ! オレの命を無駄にするな!」

 

 その言葉を聞き、タバサとワルドはそれぞれ竜とグリフォンを駆り、秘密港を飛び立った。

 

 そして、敵兵の集団を前に一人、取り残されるジェームズ一世。

 

「くくく、まさか最期になって、このような晴れ舞台を任されるとはな」

 

 王は、顔に凶相を浮かべ、口を吊り上げて笑った。

 

 王はかつて、己の意に反する貴族の粛清も辞さない、苛烈な性格をしていた。

 暴君と呼ばれてもおかしくない存在。実の弟すらもエルフを愛妾とした罪で捕らえて獄中死させたほどである。

 

 その王の性質が回り回って反乱軍の台頭へとつながったとも言えるが、息子であるウェールズが育ち立太子してからはスッカリ落ち着いてしまっていた。

 だが、ここにきて王はかつての苛烈さを取り戻した。

 

 オーク鬼かと錯覚してしまいそうな、王の憤怒の表情。

 それを見て、兵を率いていた年かさの貴族は、全盛期の恐ろしかった王を思い出してしまい、思わずひるんでしまう。

 兵などは、王の気迫に押されて完全に静止してしまっていた。

 

 その隙に、王は早口でルーンを唱える。

 アルビオン王ジェームズ一世は『風』の魔法を得意としている。そんな王が唱えた魔法は『遍在』。

 

 二体の分身を増やした王は、それぞれが獰猛な笑みを浮かべて、同時に口を開く。

 

「ハルケギニアの未来は、若き『賢者』に托した。貴様らは未来を見ることなく、老いた『愚王』と共にここで死ぬのだ」

 

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