【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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41.大団円なものですか

 トリステイン王国の首都トリスタニア。その中央に真っ直ぐ伸びるブルドンネ街、その先を進み続けると、王城の城壁に突き当たる。さらにその奥には、王族の住む王宮があった。

 その日、王宮の守りを担当する魔法衛士隊マンティコア隊隊長ド・ゼッサールは、己のマンティコアを(かたわ)らに控えさせて待機していた。

 どこかピリピリした空気が王宮を包んでいた。王宮の上空には飛行禁止令が出され、隊の皆は戦が近いとの噂を聞き、過剰なほどに気を引き締めていた。

 

 気負いすぎな部下達の気持ちをどう緩めてやろうかと、ヒゲをさすりながら考える。三つある魔法衛士隊の一つ、マンティコア隊隊長として、部下を導いてやらねば。

 そんなことを考えていた彼のもとに、部下の一人がやってくる。伝令だ。トリスタニアの上空に風竜一頭と、グリフォン一頭の影ありと伝えてきた。非常事態である。

 

 隊長はすぐさまマンティコアにまたがり、集まる隊士のもとへと向かう。

 竜とグリフォンは、城下町の上空を滑空し、王宮の門の前へと降りたのだという。

 

 隊長は二騎の隊士を伴い門へと向かう。

 するとそこには、体長六メイルほどの幼い風竜と、大柄のグリフォンが確かにいた。隊長は、そのうちのグリフォンに見覚えがあった。

 グリフォン隊の隊長、ワルド子爵の駆るグリフォンである。

 

「ワルド隊長! 王都の上空は、現在、飛行禁止ですぞ!」

 

 そんな言葉を受けたグリフォンから、ワルドではなく一人の少女が降りてきた。平民の格好をした少女だ。

 わずかに警戒心を向ける隊長に対し、平民らしき少女は高らかに名乗った。

 

「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します。アンリエッタ姫殿下の命により、参上致しました。姫殿下、もしくはマザリーニ猊下に、お目通り願いたく思います」

 

 そう言って平民に扮した少女、ルイズは一枚の書状をグリフォンの前に突き出した。

 

 ラ・ヴァリエールを名乗る平民の少女。だが、埃で汚れうっすらと血の香りのするこの少女が、隊長には己の隊にも信奉者のいる姫殿下の幼なじみには思えなかった。

 隊長は事態を黙って見守っていた門番を促して、書状を少女から受け取らせる。そして、マンティコアに乗ったまま門番から書状を受け取った隊長は、杖をいつでも抜けるように気を付けながら、それに目を通した。

 

 マザリーニ枢機卿の署名の入った身分証明書。少女の名乗った名を確かに証明する書状であった。

 隊長はマンティコアから降りると、ルイズに深く一礼した。

 

「これは失礼を致した。して、ミス・ヴァリエール。なぜ、そのような平民の格好を?」

 

「身分を隠す必要のある任務を受けておりましたので」

 

 嘘だった。単にルイズはうっかり荷物から貴族のマントを出すことを忘れていただけだった。

 一方、隊長は隊士の一人に命じ、王宮に話を通すよう門の中へと向かわせた。

 

 そしてルイズを宮殿内に案内しようとしたところで、彼女には他の連れもいることに隊長は気付いた。グリフォン隊の隊長は分かる。だが、風竜の幼体に乗るのは、魔法学院の生徒達ではないか?

 

「ミス・ヴァリエール。後ろの方々は?」

 

「わたしと同じく殿下の命を受けた魔法学院の生徒達です」

 

「ふむ、なるほど。皆、ボロボロだ。さぞや、厳しい任務を受けていたのでしょうな」

 

「密命ですので、申し訳ありませんが話すことは出来ません」

 

「なに、分かっておりますよ。姫将軍殿下が自ら授けた任務。探るような真似は致しませぬ」

 

 そう笑い、隊長はルイズ達を引き連れて門の中と入った。

 向かうのは城壁と王宮の間にある待合用の建物。身分が証明されたといえども、王族の居る宮殿内に勝手に入れるわけにはいかない。アンリエッタと連絡が取れるまで、隊長はルイズ達をそこへ案内するつもりだった。

 

 建物へと入る寸前のこと。

 宮殿の中からアンリエッタが護衛の衛士を引き連れて、小走りでルイズ達の前へと現れた。

 

「ルイズ! ルイズ・フランソワーズ! まあ、こんなにボロボロになって! 怪我はない?」

 

 ところどころ破けて、煤で汚れた平民用の厚手の服を着るルイズの姿に、アンリエッタは思わず彼女を抱きしめた。

 

「姫さま、任務、完了致しました」

 

「ああ、あなたならきっと出来ると信じていたわ。ルイズ! わたくしのルイズ!」

 

 誰がわたくしのルイズだとつぶやきながら、ルイズはアンリエッタから身を離すと、荷物袋から金装飾の入った箱を取り出した。

 

「この通り、箱は回収しました。中の書はすでに全て燃やしていたようです。」

 

「そうですか。ご苦労さま」

 

「ちなみに、姫さまの手紙は全てわたしが燃やしました。申し訳ありません」

 

「いえ、かまわないのよ。紙は所詮、紙。大切なのは中に込められ、伝わったはずの気持ちなのだから」

 

 そう言って、アンリエッタは目をつぶって祈るような仕草を取った。

 そうして、己に課された任務の完了を確認したルイズ。彼女は次の任務を進めるために、荷物袋からもう一枚紙を取りだした。

 

「姫さま。任務中にジェームズ陛下にお会いしたおり、新しく一つ命令を授かりました。これをお読みください」

 

 それはルイズがウェールズに見せた、ジェームズ一世の言葉がつづられた紙片であった。

 それに目を通したアンリエッタは、ハッとした表情でルイズを見た。

 ルイズはただ黙って後ろへと振り返る。その中には、少年少女とグリフォン隊の隊長に交ざって、金髪の青年が一人。

 

 ウェールズ。その姿を見た、アンリエッタは手にしていた紙を思わず取り落とした。

 呆然と立ち尽くすアンリエッタ。

 やがて彼女は、ポロポロと大粒の涙を流し始めた。

 

「あ、あ、あ……」

 

 突然のことに言葉が出ないアンリエッタ。ルイズならば彼を救い出してくれる。そう心の片隅で願っていた希望。だが、まさか本当にそれが実現するとは、思ってもいなかった。

 立ち尽くし涙を流すアンリエッタの前に、ウェールズが進み出てくる。

 

「アンリエッタ……」

 

「ウェールズ、さま……」

 

 アンリエッタはふらりと前へと踏出し、ウェールズへと倒れ込んだ。

 ウェールズは両手を広げ、アンリエッタを受け止め両腕で包むように彼女を抱いた。

 

「ウェールズさま……ああ、うああああ……」

 

「すまない、恥も知らずに生き残ってしまったよ」

 

 胸の中で泣き声を上げるアンリエッタに、ウェールズは幼子をあやすように頭を撫でる。

 

 そんな二人の様子をキュルケ達は涙をうっすらと浮かべて眺めていた。

 一人を除いて。

 

 ルイズは二人の抱擁を見ようともせずに、アンリエッタが手放した王の紙片を拾い、腰に着けたポーチにしまう。

 そして抱き合う二人を眺めると、無言で彼らの前へと歩き、アンリエッタを靴の裏で蹴りつけた。

 

「きゃん!?」

 

 可愛らしい、それでいて子犬のような声で悲鳴をあげるアンリエッタ。

 思いのほか強かった蹴りは、ウェールズもろとも彼女を吹き飛ばし、抱き合ったまま二人は草地の上に倒れ込んだ。

 突然の暴挙に、傍らで見守っていたマンティコア隊の衛士達がざわめき声を上げる。

 だが、同じく控えていたアンリエッタに近しい護衛の衛士は、いつものことだとため息を吐いた。

 

「な、なにをするのルイズ? 劇でいうと、クライマックスのシーンよここ?」

 

 そんなアンリエッタの言葉に、ルイズはただ冷たい視線を向ける。

 アンリエッタを蹴ったルイズに、王族への遠慮というものはなかった。幼い頃から殴り合いの喧嘩をしていた二人。さらに、ウェールズは、すでに滅んだ王国の王族だ。

 まったく()びる様子もなく、ルイズはアンリエッタへ声を放つ。

 

「そんなのは後回しにして、姫さまには文句があります。あなたのせいで、死にかけました」

 

「え、今更そんなこと言われましても……。戦場に行ったのなら、死と隣り合わせなのは当然でしょう?」

 

「そっちではありません。姫さま、二人ほど、人が足りないと思いませんか?」

 

 そのルイズの言葉に、アンリエッタはウェールズを強く抱きしめながら、ルイズとその同行者を見た。

 

「……グリフォン隊のメンバーが足りませんね。まさか、戦死したのですか?」

 

「違います。副隊長と小隊長はですね、裏切り者だったんです。反乱軍『レコン・キスタ』の内通者だったのですよ」

 

 それを聞いていたマンティコア隊の衛士達から再度ざわめきの声が上がる。

 一方、アンリエッタは起き上がるウェールズに身を任せ、胸に首筋をすりよせながらは眉をひそめた。

 

「それ、本当?」

 

「ええ。わたし達がこんなにもズタボロなのも、彼らがニューカッスル城に敵を招きいれたからなのです」

 

 起き上がり身を離そうとするウェールズに強く抱きついたまま、アンリエッタは表情を険しくする。

 

「分かったわ。外ばかり見ていたけれど、中が腐っていたのね。任せて、ルイズ。国中を調べに調べて、粛清の嵐を巻き起こしてみせるわ」

 

「お願いします。隣に裏切り者が居て、杖を向けられるということのないよう」

 

 ルイズはそう言い、アンリエッタから視線を外しアンリエッタの護衛の衛士に顔を向けた。

 ルイズは護衛に、マザリーニと面会させてもらうよう話を通す。アルビオン王からの最後の任務を遂行するため、ルイズは次の行動を開始した。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 アルビオンからの帰還から数日後。

 ルイズはなぜか、マザリーニの執務室で連日、書類の作成を手伝わされていた。

 それらは全て隣国ゲルマニアと、ブリミル教の総本山ロマリアの国交に関わるもの。

 

 ウェールズの亡命でアンリエッタは、ゲルマニアの皇帝との婚姻を白紙に戻した。だが、いつアルビオンを制した反乱軍が、トリステインに牙をむくか分からない。

 そのため、ゲルマニアとの軍事同盟まで、白紙に戻すわけにはいかなかったのだ。

 

「ちょっとちょっとマザリーニ様、なんで関係ない治水の書類が、紛れ込んでいるんですか!」

 

「いや、なに。折角の機会なので、そちらにも目を通して知恵を拝借したいと思いましてな」

 

「内政まで任された覚えはありません! ああー、もうー! 皆、わたしを歩く図書館か何かと勘違いしていないかしら」

 

 そう言いながら、ルイズがペンを走らせるのは、ロマリアへ向けた外交文書の草稿だ。

 

 アルビオンに立った新政府は、始祖ブリミルの血を引く王家を滅ぼした。さらには、同じく始祖の加護のあるトリステインを狙いつつも、恥知らずに『聖地奪回』を掲げている。ロマリアを通さずにそのようなことをのたまうアルビオン新政府に対抗するため、臨時の協力体制を取りたい。

 

 そのような旨が、いかにもロマリアを刺激しそうな内容で長々と書かれている。

 

 一方、ゲルマニアとのやりとりは、この数日で既に数回行われていた。

 ゲルマニアの皇帝とアンリエッタの結婚はなくなる。それは、アンリエッタとウェールズが、正式に婚約することになったためだ。

 だが、それではゲルマニアとの軍事同盟は結べない。代わりにトリステインは、アンリエッタとウェールズの間に生まれた子供を将来的に、ゲルマニアに渡すことを約束した。

 

 計算高いゲルマニアの皇帝アルブレヒト三世がアンリエッタを欲しがったのは、その美貌に惚れたからではない。好色な皇帝といえども、性格のねじ曲がったアンリエッタを正面から受け止められる度量はなかった。

 ではどういう理由で婚姻を結ぼうとしていたのかというと、皇帝は始祖ブリミルの血という箔を自国に欲しがったのだ。

 そして、アンリエッタという血と、アンリエッタとウェールズの子という二つの血。その二つを比べてゲルマニア皇帝は、後者を選んだ。

 

 アルブレヒト三世の(よわい)は、既に四十過ぎだ。

 妾が産んだ私生児もおり、トリステインから送られた子を自分の子と婚姻させてしまえば良い。彼はそう考えた。いや、違う。ルイズがそうなるよう仕向けたのだ。

 

 正式な文書はまだ交わしていない。だが、このまま行くと軍事同盟は無事に締結され、アンリエッタとウェールズは近いうちに国民にも婚約を発表できるようになるだろう。

 

「大団円、といったところですかな」

 

 マザリーニは書類にペンを走らせ署名を書きながらそう独りごちた。

 それを聞いていたルイズは、首を横に振ってそれを否定した。

 

「大団円なものですか。これは、ゲルマニアに嫁ぎたくない姫さまが、まだ生まれてきていない自分の子供に責任を押しつけただけの、ただの先延ばしです」

 

「ほう?」

 

「わたしは姫さまに三つ選択肢を用意しました。ゲルマニアにこのまま嫁ぐ。ウェールズ殿下をゲルマニアに引き渡す。子をゲルマニアに引き渡す。まあ、返事は考える間もなく、三番目を即答でしたけど」

 

 やれやれとルイズは首を再び横に振った。幼い頃からアンリエッタに政略結婚、政略結婚と言い続けたルイズの言動が、その即答の原因なのだが。

 

 貴族や王族の結婚というものは、本当に面倒くさいものだ。血と権威と領地が、複雑に絡み合う。

 ルイズの下の姉であるカトレアの婚約者であるワルドも、純粋にカトレアを愛しているかは分かったものではないと、ルイズは思った。

 

「それは、トリステインにとっても三番目が一番ですな。王の不在を許容し続けるわけにもいきませぬ」

 

 マザリーニの言葉に、ルイズもうなずく。現在、トリステイン王国は王が不在である。

 前王であるアンリエッタの父、ヘンリーは既に亡く、トリステインの王族であるはずの前王妃は女王になる気がない。そのうえで、残った王族のアンリエッタがゲルマニアに嫁ごうとしていたのだから、継承で内乱が起きるかなりギリギリのラインをトリステイン王国はわたっていた。

 そこで、今回のアンリエッタとウェールズの婚約だ。おそらく、前王ヘンリーと同じように、アルビオンからの入り婿となるウェールズが、トリステインの王となるであろう。

 

「滅んだアルビオンの王族が、トリステインの王になる、ね。アルビオンの反乱軍は、確実に攻めてくるでしょうね」

 

 ルイズのその言葉を聞いて、マザリーニも同意するように言う。

 

「魔法衛士隊に間者を潜ませたほどです。ウェールズ殿下がおられなくても、ヤツらはきっと攻めてきたことでしょう」

 

 ウェールズ相手に愛を囁きながらも、王宮内の貴族を片っ端から調べているアンリエッタをルイズは思い出す。

 今頃、反乱軍『レコン・キスタ』に関わりを持つ高官でも見つけて、笑いながら首をはねているかもしれない。

 

 ルイズはまたもや、やれやれと首を横に振った。ルイズはトリステインさえ滅びなければ、王族の婚姻がどうなろうとも構わなかった。

 しかし、それがなぜ、アンリエッタとウェールズの幸せ新婚生活などのために、何日も執務室で缶詰状態にならなければならないのだろうか。

 

「ああああもうなんで、わたしがこんなことを……」

 

「ジェームズ陛下の最後の命令を聞き遂げたのは、『賢者』殿でしょう? では、テューダー王家の血を絶やさぬために、執務に励んでいただかないとなりませぬな」

 

「そもそも、ただの学生がこうやって、宰相の真似事をしているのがおかしいと思いませんか!」

 

「それは、私が手伝って欲しいと思うからですな。滅びたはずの国から王子を連れてくるなどという事態、とても私一人の手では捌ききれませぬ」

 

 淡々と答えるマザリーニ。

 これを機会に、ルイズを自分の部下として王宮に組み込んでしまおうという狙いも、彼の中にはあった。

 

「はあ、学院生活が懐かしい……帰りたい……」

 

「ロマリアと渡りがついたら、考えましょう」

 

 その言葉に、ルイズはがっくりと項垂れた。

 




アルビオン潜入編は以上で終わりですが、第三章はあとちょっとだけ続きます。

・王城と王宮
アニメ版のトリスタニアの風景を見る限りでは、城壁に囲まれた王城区画が街の中心にあり、木々が多数生えた王城区画の中央付近に王宮があるように見受けられます。アニメの設定資料集に詳しく載っているようですが、所持していないのでアニメ本編を見た限りの情報です。
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