【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

55 / 142
第五章 始祖の秘宝と竜の羽衣
55.始祖の秘宝の謎を追え!


 ウェールズ元皇太子がトリステインに亡命して、少しの時が経過した。

 その間、ウェールズはアルビオンからの亡命貴族や、トリステイン国内の有力貴族と会談をする毎日だった。トリステインに『レコン・キスタ』と戦う勢力を作るためだ。目標は、アルビオン大陸の奪還である。

 トリステイン王政府側としても、この皇太子の動きを秘かに認めていた。

 

 アルビオン大陸は、重要な避難先だ。

 何からの避難先かというと、『大隆起』による大地の崩壊からの避難先である。

 

 空を漂うアルビオン大陸は、はるか昔に発生した『大隆起』の名残であると、アカデミーによる秘密裏の地学研究の結果分かっている。

 もともと、アルビオン大陸はハルケギニアの大地の一部だったというのだ。

 

 過去の『大隆起』で持ち上がったアルビオン大陸。ゆえに、アルビオンは、此度の『大隆起』では、崩壊の対象にならない唯一の安全地帯となると目されている。

 そのため、王権という概念に真っ向から刃向かう『レコン・キスタ』がアルビオンを占領している現状は、各国の王にとって受け入れ難い状況であると言えた。

 

 ウェールズの根回しにより、徐々に高まる戦争の機運。

 そんな中、臨時の王政府相談役とされていたルイズは、ようやく王宮での責務から解放された。

 根回しを一通り終えたウェールズが、トリステインの政治に参画して、アンリエッタやマザリーニに余裕ができたのだ。

 

 なぜ元アルビオン王国のウェールズが、トリステインの政治に介入しているかというと、これにはめでたい理由があった。

 先日、亡国の王子ウェールズと、トリステイン王国王女であるアンリエッタの婚約が正式に発表されたのだ。

 

 結婚式が執り行われれば、ウェールズはトリステイン王国の国王となる。

 王の座に就くのは、アンリエッタではなくウェールズだ。これは、過去の慣習である。

 そもそも、すでに亡くなったトリステインの前王も、元々はトリステインの王族ではなかった。前王ヘンリーは、アルビオン王国の王室出身である。

 

 では、前王の時代に誰がトリステインの正式な王族だったかというと、前王妃である太后マリアンヌである。彼女は先々代の王フィリップ三世の娘だ。

 なので、前王ヘンリーが没して以降、マリアンヌに女王の座へ就くよう、国内の貴族達から要望が挙がっていた。

 

 しかし、マリアンヌは政治の分からぬ元お姫さま。ゆえに、彼女は喪に服し続け、トリステインの玉座は長く冷えたままの状態が続いた。

 そこに来て、王女であるアンリエッタが婚約。前例にならって、ウェールズが国王の座に就く未来が決まった。

 

 そんな事情により、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールは、相談役の仕事から解放された。そうしてようやく、ルイズは無事にトリステイン魔法学院へと帰還することができた。

 ただし、厄介な仕事を一つ任されて。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 学院に帰還したルイズは、荷を解く前に、広場で剣の訓練をしていた才人を捕まえて学院長室へと向かった。

 自身に任された最後の厄介事の融通を利かせるために、学院長へ相談しに行ったのだ。

 

「ふうむ、これがトリステイン王家に伝わる秘宝、『始祖の祈祷書』の真作のう……」

 

 秘書であるミス・ロングビルがいつの間にか仕事を辞してしまったため、学院長室ではオスマン氏一人がルイズと才人を迎えた。

 そこで、ルイズはさっそくとばかりに自身が今置かれている状況を説明し、王政府から任された仕事に関連する秘宝をオスマン氏に見せた。

 

 その秘宝は、古めかしいボロボロの本であった。触るだけで破れてしまうのではないかと思わせる、革張りの古書。その正体は、始祖ブリミルが六千年前、神に祈りをささげた際に詠み上げた呪文が記されているとされる、伝説の秘宝であった。

 

「どれ、中身をちょいと……」

 

 そう言って、オスマン氏は応接用のテーブルの上に置かれた『始祖の祈祷書』のページをめくった。

 だがしかし、そこに書かれた文字とは……。

 

「フォッ!? 白紙じゃと?」

 

 いや、文字は何も書かれていなかった。見事な白紙である。

 オスマン氏がさらにページをめくるが、どこにも文字などは書かれていない。

 その事実に、オスマン氏は落胆した。

 

「なんじゃ。王室は、贋作をおぬしに寄越してきたのかの」

 

「いえ、真作ですよ。オールド・オスマン、祈祷書に『探知(ディテクトマジック)』を掛けてみてください」

 

「ふむ……?」

 

 オスマン氏は、ルイズの言葉に従い小さな杖を手に取ると、コモン・マジックの口述詠唱をして杖の先から光る粉を発した。光の粉が『始祖の祈祷書』に降りかかり、オスマン氏の脳内に様々な情報が入ってくる。

 すると、オスマン氏の顔は、驚愕に包まれた。

 

「な、なんじゃこの強大な魔力は! これが始祖ブリミルの秘宝……!」

 

 オスマン氏は魔法で感知した本が内包する膨大な魔力の前に、恐れおののくしかなかった。

 まさに、これこそが本物の『始祖の祈祷書』。オスマン氏はそう認めざるを得なかった。

 

「本物ということは、この白紙のページも、読むためのなんらかの手段があるということかの……?」

 

 オスマン氏は杖を置き、再び祈祷書のページをめくる。だが、そこには相変わらず何も書かれてはいなかった。書に使われている羊皮紙が破れぬよう気を付けながらめくり続けるが、どこにも何も書かれていない。

 

「残念ながら、王室には祈祷書を読む方法は伝えられていないそうです。絶対に、何かがあるとは思うのですが……」

 

 本当に残念そうな顔で、ルイズはオスマン氏に向けて言った。

 

 なるほど、トリステインの『賢者』ですらお手上げな謎の秘宝。始祖ブリミルの偉大さを感じる。オスマン氏は、始祖の御心に触れた気持ちになった。

 しかし、祈祷書の中身が読めない。これには、少々問題があった。

 

「で、どうするんじゃ、ミス・ヴァリエール。姫殿下の婚姻の式典では、祈祷書を読み上げる巫女の役割を任されたのじゃろ」

 

「そうなのですよね……。はあ、どうしてこんなことになったのやら」

 

 オスマン氏の指摘を受けて、ルイズはゲッソリとした気分になる。

 彼女がアンリエッタから任された、厄介な仕事。それは、半月後、六月(ニューイの月)第一週(フレイヤ)、虚無の曜日という日程で執り行われる、ウェールズとアンリエッタの結婚式。その式にて、神聖な(みことのり)を詠み上げるという、神の代理人である巫女の役であった。

 

 その巫女の役には、伝統の作法があった。

 それは、この本物の『始祖の祈祷書』を式の前から肌身離さず持ち歩き、詠み上げる詔を自分で考えなければいけないというものであった。

 

 しかし、ルイズはその役割を全力で拒否したかった。

 巫女の仕事が面倒だとか、幼馴染みであるアンリエッタの結婚を祝福したくないだとか、そういった後ろ向きな理由ではない。

 実はルイズには、詩作の才能が欠片もなかったのだ。

 

「せめて『始祖の祈祷書』に何かが書かれていれば、それを参考に詔を組み上げることもできたのですが……」

 

 落胆しながら言うルイズに、オスマン氏は呆れたように言った。

 

「かつては、貴族といえば詩をそらんじることが(みやび)と言われた時代も、あったのじゃがのう……」

 

「いつの時代ですか、いつの」

 

 ルイズがそうは言ったものの、実際のところ詩作という文化は教養が試される。

 よって、学のない平民には詩人は少なく、詩作といえば貴族と言われるのは当たり前のことであった。

 

「王室は、詔の草案を考えてはくれぬのかの?」

 

「くれますが、姫さまからは、できるだけわたしの言葉で祝ってほしい、と言われまして」

 

「ほう、おぬしは姫殿下の幼馴染みであったな。友人想いではないか」

 

「いーえ。姫さまは絶対、わたしに詩の才能がないことを分かって、今回の件を振っています。断言していいですよ」

 

「なんじゃ、歪んだ友人関係じゃの……」

 

 そんな会話を繰り広げた後、ルイズは結婚式に合わせた自由行動を認めてもらうよう申請し、オスマン氏はそれを承認した。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 その日の夜。久しぶりに、ルイズは才人と同室での一夜を過ごすことになる。

 相変わらず色気のある空気にはならず、ルイズは一人机の前に座り、四色ボールペンを片手に詔の草案を練り続けていた。

 

 そんなルイズに、才人は声をかける。

 

「なあ、ルイズ。その本、全ページ白紙なんだよな?」

 

「そうね。三百ページくらいあるけど、どこも白紙ね」

 

「それって、何かをしたら文字が浮かび上がってくるんじゃないか?」

 

「浮かび上がる?」

 

「あぶり出しって知っているか?」

 

「ああ、紙に透明な果実の汁で文字を書いて、火であぶると文字が浮かび上がってくるというやつでしょ。もちろん、そのあたりのことは魔法を使ってずっと調査はされていたみたいね。もちろん、文字は出てこなかったそうよ」

 

「そうかぁ……」

 

 それなら、自分に言えることは何もない。才人はそう判断し、『始祖の祈祷書』へのアプローチを諦めることにした。魔法は才人にとって門外漢。科学の知識が役に立たないならば、彼にできることはなかった。

 そして才人は、詔の考案に集中しているルイズが自分の話し相手にはなりそうにないと判断し、眠る前に剣の手入れをすることにした。

 

 デルフリンガーを抜き、まずは布で汚れを拭き取る。

 そうすると、デルフリンガーは色々と注文を付けてくるので、才人は素直に従うことにした。

 

「なあ、デルフ。お前はあの本の文字、どうやったら浮かび上がるか思いつくか?」

 

「ああ、あれね。多分、条件が足りないのよ」

 

 才人の問いに、デルフリンガーは金具をカタカタと動かしながら言葉を返してきた。

 

「条件?」

 

「読むための状況とか、読むために必要な道具とかじゃねーの? 分からんが」

 

「状況と道具……」

 

 それらしいことを言われても、才人は何も思いつかなかったので、彼は気にせずデルフリンガーの手入れを続けることにした。

 汚れを丁寧に拭き取り、油を薄く塗る。

 その最中に、才人はなんとなく鼻歌を歌い始めた。剣の手入れは、慣れてくると存外面白いものだ。才人は上機嫌で、地球にいたころ聞いた歌を鼻歌で歌っていく。

 

 一方、ルイズはと言うと、才人が歌う鼻歌が耳に入り、思わずイラッと来てしまった。

 なんとなく聞き覚えのあるメロディ。それは、才人が以前コロッケのレシピを伝えるために、外れた音程で歌っていた曲であった。

 

「うるさいわね! 気が散るじゃない!」

 

 ルイズの癇癪(かんしゃく)の声に、デルフリンガーに油を塗っていた才人が、思わず謝る。

 

「す、すまん……」

 

「だいたい、なんでコロッケの歌なのよ! 夜も遅いのにお腹がすいてくるじゃない! あと、外国人のキテレツって誰よ!」

 

 まくし立てられるように告げられる、ルイズの理不尽な罵倒。

 だが、その言葉を聞いた瞬間、才人の脳内に閃きが走った。

 

「それだ!」

 

「何がよ!」

 

「それだよ。キテレツだよ。その本を読む方法、キテレツなんだ!」

 

「はあ……?」

 

 突然、何を言い出すのか。ルイズは、才人の言葉に困惑した。キテレツって誰!?

 

「古い白紙の本。読むためには条件が必要。つまり道具が必要!」

 

「うん……?」

 

「つまりだ。『始祖の祈祷書』は、『奇天烈大百科』なんだ!」

 

 才人のそんな叫びが、夜の部屋に響きわたった。

 




2008年の旧版を書き始めたころからずっと書きたかった、『始祖の祈祷書』の解読方法は『奇天烈大百科』方式説、ようやく書けました。

・みことのり
(みことのり)とは、御言(みこと)()るという意味で、天子による命令、または言葉のことです。
結婚式で詠み上げるならば『(みことのり)』ではなく『祝詞(のりと)』ではないかと直感的に思えます。ですが、原作では(みことのり)で統一されていたため、きっとそれは違うのでしょう。
では、どういうことかと考察したところ、ルイズが任された役割は巫女、すなわち神の代理人です。さらに式で詠み上げることになる言葉は祈祷書に書かれた始祖ブリミルの祈りの呪文。よって、王族の結婚式で(みことのり)を詠み上げるということは、天子=王族よりも上の存在である神の使徒ブリミルが、天子に対して御言(みこと)()るという意味として捉えられます。
一方で、祝詞(のりと)は神職が神に奏上する言葉。巫女から新郎新婦にかける言葉としては、意味合いが異なります。よって、ルイズが式で詠み上げる言葉は『祝詞(のりと)』ではなく『(みことのり)』で正しいということになります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。