【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま 作:Leni
主人公の少年、キテレツは、ご先祖様が残した古書『奇天烈大百科』を親から譲り受けた。
しかし、その『奇天烈大百科』は、開いてみても白紙のページが続くだけ。ご先祖様が秘密の技術で文字を隠していたのだ。
その本の文字を読むためには、これまたご先祖様が残した眼鏡をかける必要があった。
特殊な眼鏡のレンズを通して見たその本には、天才的発明品の設計図がいくつも書かれていた。
少年キテレツは、その設計図を解読し、様々な発明品を現代に再現する。そして、その発明品を巡るドタバタ劇がキモとなり、面白おかしいコメディ展開が繰り広げられるのであった。
「……って感じのあらすじだな」
夜の女子寮の一室、ルイズの部屋で才人が語ったのは『キテレツ大百科』なる、才人の出身国である『ニッポン』で有名だった物語の概要だ。
それを黙って聞いていたルイズは、才人が言いたかったことを理解し、なるほどとうなずいた。
まったく、これだから、この『異国の賢人』との生活は、楽しくて仕方ない。
王宮での窮屈な生活から解放されて本当に良かった。ルイズは、心の中で歓喜した。
「つまり、その眼鏡に相当する物があれば、『始祖の祈祷書』が読めるかもしれない。そう言いたいわけね?」
「ああ、合っているかは知らんけど、検討してみる価値はあるだろ?」
そんな才人の言葉に、ルイズは素直に「その通りね」と答えた。
「で、この国に伝わる秘宝に、それらしいものはあんのか? たとえば『始祖の眼鏡』みたいな」
才人のそんな発言を受けて、ルイズは吹き出した。
「なによ、安直ね」
「まずは安直なところから攻めてもいいだろ」
「まあそうだけど、残念ながら六千年も昔に眼鏡はないわね」
六千年。それは途方もない年月だ。考古学や歴史学にはそこまで詳しくないルイズでも、魔法と関係のない部分での当時の文明レベルは、今よりもはるかに低いことは想像が付いた。
「精巧なレンズというものは、割と近代の発明なのよ。タバサの着けているようなオシャレな形の眼鏡は、本当にごく近年に入ってからのものよ」
「まあ、そりゃあそうか……」
祈祷書を解読できる眼鏡があるとは本気で思っていなかった才人は、残念がることもなく引き下がった。
そもそも才人は、ハルケギニアにどんな秘宝や道具があるかを知らない。そのため、それらしい案出しはできないという自覚が彼にはあった。
「でも、そうね。始祖ブリミルにまつわる宝物を持って、文字が浮き出るか試すという案はありよね」
「だろ? トリステインに、歴史博物館とかあるのか?」
「さすがに六千年前から伝わるとされる貴重な品は、博物館には置かないわね。あるとしたら、王宮の宝物庫かしら」
「宝物庫! そりゃ手が出せないじゃん。はい、解散、解散」
才人が急にそんなことを言いだし、デルフリンガーの手入れに戻ろうとする。
だが、そのデルフリンガーは呆れたように才人へ言った。
「なに言ってんだよ相棒。おめえ、自分の主人をなんだと思ってんだ」
「なんだって……学生だろ。ただの子供が、王宮の宝物庫なんて見せてもらえるはずが……」
「いやいや、ちげーだろ。この娘ッ子は王家の血を引く公爵家で、しかも、この国の姫さんの友達だったろ?」
そのデルフリンガーの言葉に、才人はハッとなってルイズへと振り返った。
すると、そのルイズは、くちびるの端を吊り上げる『魔女』の笑みを浮かべていた。
「サイト、明日は王宮へトンボ返りよ」
「お、おう。いってらっしゃい」
「何を言っているのよ。あなたも来るの」
「えっ、俺も? 王宮って、貴族しか入れないんじゃあ……」
「あなた、わたしの使い魔。ヴァリエール家の客人。異国の賢人。何も問題はないわね?」
「そっすね……」
これはご主人様の言うことに従うしかないな。そう納得した才人は、手早くデルフリンガーの手入れを終えた。
そして、明日着るための、王宮に相応しい服を調えるため、タンスの中身を引っ張り出すのであった。
◆◇◆◇◆
翌日、王宮にて。アンリエッタの執務室に、ルイズと才人は無事に通された。
才人はデルフリンガーを携えての登城だったため、剣を預けるよう王女の護衛である衛士に言われた。だがしかし、ルイズが、今回の要件にはこのインテリジェンスソードが必要と主張したため、特別に帯剣した状態での入室を許された。
デルフリンガーは『ガンダールヴ』の何かを知っている。ルイズは、そう確信しているため、始祖ブリミルに関する知識を吐き出すことにも期待していたのだ。
さて、執務室では、アンリエッタ、マザリーニ、そして元アルビオン王国皇太子のウェールズが詰めていた。
ルイズの登場に、マザリーニは仕事を手伝ってくれるのかと喜んだ。しかし、ルイズの説明を受けて逆に渋い顔をした。ルイズ曰く、『始祖の祈祷書』が読めるようになるかもしれないので、宝物庫の始祖にまつわる秘宝を貸してほしいとのこと。
「むう……宝物庫ですか。あそこを開放するとなると、また面倒な手続きが……」
「面白そうでいいじゃない。存分に見ていってもらいましょう」
渋るマザリーニの言葉を
その王女の発言に、マザリーニは当然のように
結局、マザリーニはアンリエッタの要請で、王宮の宝物庫を開放する許可証を書かされることとなってしまった。
「そろそろ休憩したいところだったから、わたくし達も立ち合いましょう」
そういうことで、執務室にいる全員で宝物庫へと移動することになった。
当然、護衛付きだったが、いざ宝物庫の中へ入る段になって、アンリエッタが護衛の入室を禁止してしまった。
「姫さま!」
当然、護衛である衛士がそれは許されぬと主張する。しかし。
「これは王家の秘密が絡みます。わたくしの許可なく、その秘密を暴くことは、まかりなりません」
そうして、ルイズ、才人、アンリエッタ、マザリーニ、ウェールズの五名は、近衛に見守られながら宝物庫へと入室していった。
そして、入室直後、才人は言った。
「なんか俺、兵士さんにめちゃくちゃにらまれたんすけど……」
その発言に、ウェールズは笑った。そして、そのウェールズが才人に言う。
「当然さ。王家の秘密って言っているのに、マントをまとわないキミが入っていくんだからな。しかも、剣を背負っているときた」
「ああ、確かにそれは、警戒されて当然ですね」
「あの様子では、嫉妬心もあるな」
「夜道には気を付ける事にするッス」
そう言い合って、二人は互いに笑った。
そんな男同士の話を他所に、ルイズはさっそく、目録を見ながら始祖ブリミルにまつわる宝物を宝物庫の中から探し始める。
「『始祖の香炉』。それっぽいわね」
「そりゃニセモンだな。形が違え」
「『始祖のオルゴール』。……六千年前に、オルゴールがあるはずないじゃない」
「いやあ、あったんじゃねえか。それはニセモンだけどな」
「『始祖のホウキ』。……始祖ブリミルにまつわる秘宝が、ホウキなわけないでしょ!」
「いや、それ本物だぞ、娘ッ子。まあ、秘宝ではないただの骨董品だわな」
「『始祖のデルフリンガー』!」
「俺は秘宝なんかじゃねーよ! あ、いや、そういや秘宝かもしんねー! ハハハ!」
ルイズが宝物庫の中から探し当ててきた品に、デルフリンガーがコメントを入れていく。
やっぱり、始祖ブリミルにまつわる伝説の剣なのでは、とルイズは思った。場末の武器屋で十エキューで売られていた伝説の剣とはなんぞや、とも言いたくなったが。
やがて、一通りの秘宝を引っ張り出し終わったルイズ。
執務室へと戻り、ルイズはそれぞれの秘宝を使用しての検証を始めることとした。
まずはデルフリンガーが偽物と断じた『始祖の香炉』。
手に持ちながら『始祖の祈祷書』のページをめくっていくが、ページは白紙のまま。
では、香を焚きながら読んではどうかとマザリーニが言うので、アンリエッタの私物の香を焚いてページをめくる。しかし、これも駄目。
香炉は失格。ルイズはそう判断して、次にまたもや偽物と判断されたオルゴールを手に取る。
手に持ってページを開く。駄目。
オルゴールを鳴らしてページを開く。駄目。
「……って、この曲、確か二千年前くらいに作曲されたっていう、賛美歌じゃない!」
機械式ではなく、音を出す魔法がかかったマジックアイテム式のオルゴール。その曲に聞き覚えがあったルイズが、そんな突っ込みを入れた。
「だから言ったじゃねえか。ニセモンだってな」
デルフリンガーが、笑いを声にふくませながら言う。
その言葉に、ルイズは「フン」と鼻を鳴らしてオルゴールのフタを閉じた。
そんなやりとりを見守っていたアンリエッタは、曲を聴いただけで偽物と分かるオルゴールを本物として所蔵していた宝物管理の担当部署に、どんなペナルティを課そうかと頭の中で考えていた。
その後も、ルイズは持ち出した宝物を一通り試した。しかし、どれも成果無し。
ルイズはまさかの結果に、ガックリと肩を落とした。彼女は、割とこの始祖の秘宝を用いた検証、『キテレツ大作戦』に期待していたのだ。
検証を終え、ションボリとしたままルイズは、散らばっていた宝物をまとめる。
だが、そんな彼女に、助言を与える者がいた。それは、ここまでルイズの検証をニコニコした顔で見守っていたウェールズだった。
「気付いているかい? トリステインの『賢者』殿。まだ試していない秘宝が、二つほどある」
「えっ!?」
うつむいて宝物を布に包んで箱に仕舞っていたルイズが、顔を上げてウェールズの方を見た。
そのウェールズは、得意げな顔で、自身の顔の前に手を掲げて見せた。
そこには、光り輝く一つの指輪が嵌められていた。
「これだよ。これも、始祖ブリミルにまつわる秘宝。王家に伝わる、まさしく本物の宝だ」
そのウェールズの言葉に、横で話を聞いて居たアンリエッタもハッとなって自身の指を見た。
そこには、トリステイン王家に伝わる『水のルビー』が嵌められている。
ウェールズの指には、アルビオン王家に伝わる『風のルビー』。
しかし、そこでアンリエッタは首を横に振った。
「いいえ、ウェールズさま。わたくしも以前、この指輪をした状態であの『始祖の祈祷書』を読んでみましたが、白紙のままでしたわ」
アンリエッタのその言葉を受け、ウェールズは指輪の嵌まった手で頭をかいた。
「おおっと、これは少々恥をかいてしまったかな」
ハハハと笑って、誤魔化すウェールズ。
しかし、だ。ルイズは笑わず、真剣な表情を崩さなかった。
「姫さま。『水のルビー』をお借りしてもよろしいですか?」
「あら、ルイズ。わたくしが読んでも駄目だったものが、自分ならいけると?」
「はい」
「……まあ。ずいぶんな自信だこと。
アンリエッタはそう言って、素直にルイズへと自分の指輪を貸し与えた。
うやうやしく指輪を受け取ったルイズは、軽く深呼吸してから、『水のルビー』を己の細い指に通した。指輪の自動サイズ調節機能が働き、ピッタリと彼女の指に嵌まった。それからルイズは、部屋にあるテーブルに置いていた『始祖の祈祷書』を持ち上げる。
そして、先ほどまでの検証と同じように、ルイズは何気ない動作で祈祷書の表紙をめくった。
すると、突然、彼らにとって信じられないことが起きた。
彼女が携えていた『始祖の祈祷書』が光り輝き始めたのだ。
「お、おお……」
「これは……」
「神々しい……」
「うお、まさか……」
まさかの事態に、思わず驚きの言葉を漏らしてしまう一同。
その中で、ルイズは一人だけ冷静さを保ったまま、光る『始祖の祈祷書』のページをじっと見つめた。
ルイズには、ある予感があった。伝説の使い魔『ガンダールヴ』を召喚できた自分ならば、あるいは……、と。『ガンダールヴ』は、始祖ブリミルの使い魔の一つであったとされる。ならば、その『ガンダールヴ』の主となった、自分ならば……。
そう考えるルイズが見つめる、白紙のはずの『始祖の祈祷書』の一ページ目。そこには確かに、文字がくっきりと浮かび上がっていた。
「『これより我が知りし真理をこの書に記す』」
祈祷書が放つ光に照らされながら、唐突に何かを読み上げ始めたルイズ。執務室にいた皆は、その神秘的な光景に目が離せなくなった。