【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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57.始祖の祈祷書

これより我が知りし真理をこの書に記す。この世のすべての物質は、小さな粒より為る。四の系統はその小さな粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。その四つの系統は、『火』『水』『風』『土』と為す。

 

 そんな言葉から始まった、『始祖の祈祷書』の序文。ルイズが読み上げるその内容は、魔法に長けたアンリエッタとウェールズにとっても聞き覚えがない魔法理論だった。

 だが、ルイズの台詞をしっかりと聞いていた才人は、別のことを思った。

 

 この世のすべての物質は、小さな粒より為る。それはつまり、『分子』と『原子』のことではないか、と。

 

 電子顕微鏡でもないと見ることができない小さな小さな『原子』の存在。六千年もの昔に、始祖ブリミルなる人物は、それを理解していたというのか。途方もない真実に、才人は頭がクラクラとしそうになった。

 

 そんな才人の思いも知らず、さらにルイズは祈祷書を読み上げていった。

 その内容は、やはり驚くべきものだった。

 小さな粒は、さらに小さな粒からなる、と。才人はこれにも思い当たるものがあった。『素粒子』だ。

 

 始祖ブリミル、どれだけの人物なんだ。ハルケギニア最大の宗教に語られる魔法の始祖なだけはあると、才人は戦慄(せんりつ)した。

 そして、才人はチラリと、枢機卿なる宗教家であるらしいマザリーニを見た。彼は、ルイズが『始祖の祈祷書』を読み上げ始めてからというもの、床に膝を突いて涙を流しながら祈りの体勢を取っていた。

 やはり、これは宗教的にも大きな意味合いを持つ光景らしい。才人は、自分のご主人様が、大きな何かに巻き込まれないかと、心配になってきた。

 

 そんな才人の思いが届いているのかいないのか、ルイズの朗読は続く。

 

 祈祷書に曰く、さらに小さな粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文があり、それは四にあらざる零の系統、すなわち『虚無の系統』であるとのことだ。

『虚無の系統』という言葉に聞き覚えがない才人だったが、部屋にいる他の者は違ったらしい。アンリエッタも、ウェールズも、祈っていたマザリーニも、驚愕の表情を浮かべていた。

 ただ一人、ルイズだけは読み上げる口もとに笑みを浮かべていたが。

 

 そして、ルイズは序文の最後を蕩々(とうとう)と読み上げた。

 

――したがって我はこの書の読み手を選ぶ。たとえ資格なきものが指輪を嵌めても、この書は開かれぬ。選ばれし読み手は『四の系統』の指輪を嵌めよ。されば、この書は開かれん。

 

 ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ

 

 と、そこまで読み上げたルイズは、祈祷書から目線を外し、顔を上げた。

 

「以上が、序文となります」

 

 そのルイズの締めの言葉に、一同は大きく息を吐いた。

 祈りを捧げていたはずのマザリーニも、途中からは祈祷書の内容に集中して、ルイズの言葉に聞き入っていたくらいだ。

 

 それから、数十秒ほど、誰も何も言わない時間が過ぎた。

 沈黙の後、最初に口を開いたのは、アンリエッタだ。

 

「すごいわ、フランソワーズ。あなた、『虚無』のメイジだったのね!」

 

「そのようです」

 

「すごいわ、本当にすごい! 伝説の『虚無』は実在したのですね!」

 

「みたいですね」

 

「……感動が薄くないかしら? ルイズ。ルイズ・フランソワーズ。あなた、あの『虚無の系統』の魔法を使えるかもしれないのよ。なにゆえ驚いていないの?」

 

 アンリエッタに問われ、ルイズは少し困った顔をしてから、才人の方をチラリと目で見る。そして、一拍置いてからアンリエッタに言った。

 

「正直なところ、自分が『虚無の系統』ではないかと予想していました」

 

「ああ、それは、四大系統の魔法が使えないから?」

 

「それもありますが……サイト、手袋を外してみて」

 

 と、ルイズが唐突に才人へと指示を出した。

 才人は普段から左手に火傷痕を隠すための皮膚手袋をはめている。実際は、火傷痕などは存在しないのだが。本当に存在しているのは……。

 

「えっ、外して大丈夫か?」

 

「今さらよ。わたしが『虚無』と分かったら、あなたの存在も連鎖して知られるのよ」

 

「そういうもんか……」

 

 才人はルイズの言葉に従って、左手の手袋を外す。その下には、使い魔のルーンが刻まれていた。

 それをアンリエッタとウェールズ、マザリーニが覗き込む。

 

「使い魔のルーンですわね」

 

「しかし、見たことのないルーンだ」

 

「いえ、これは、どこかで見たことがあるような……。確かロマリアで……」

 

 と、唯一、マザリーニだけ心当たりがある様子。そんな彼に、ルイズは正解をさっさと言ってしまう。

 

「始祖ブリミルが使い魔としていたうちの一つ、『神の左手』である『ガンダールヴ』のルーンです」

 

「『ガンダールヴ』! なるほど、伝説の『虚無』の担い手には、伝説の使い魔が召喚されるというわけですな!」

 

 マザリーニは、歓喜とも驚愕とも取れる独特の表情で、跳び上がらんとばかりに声を上げた。

 当然、アンリエッタとウェールズも驚いている。

 

 その驚きように、才人は内心で、なんかえらいことになってるな……と他人事のような感想を思い浮かべた。

 

 そんな才人の左手をアンリエッタは取り、その一方で彼女は才人ではなくルイズの方を見た。

 

「『ガンダールヴ』を使い魔に持つ、『始祖の祈祷書』が読める者。おそらくは『虚無の系統』を使える。では、ルイズ。『始祖の祈祷書』の先のページには、『虚無』の魔法を使うための何かが書かれているのかしら?」

 

 そう言われたルイズは、「試してみます」と言って、再び『水のルビー』が嵌められた手で『始祖の祈祷書』のページをめくり始めた。

 

「……序盤のページに、呪文が一つだけ書かれていますね。後ろのページは白紙のままです」

 

「あら。指輪一つに呪文一つということかしら? ……ウェールズさま」

 

 アンリエッタはウェールズの名前を呼ぶ。すると、ウェールズはうなずきを返し、手にはめていた『風のルビー』を外してルイズに渡した。

 それからルイズは、『風のルビー』をはめて祈祷書をめくり、その後『水のルビー』と『風のルビー』をはめてページをめくり、さらに指輪をはめる指を変えてページをめくりと、いろいろ試していく。

 そんな作業を一通りして、それからルイズは指輪を外してため息をついた。

 

「見える内容は変わりませんね。序盤のページの魔法一つのみです」

 

 その結果に、わずかに落胆する一同。すると不意に、才人の背中でわずかに鞘から刀身を覗かせていたデルフリンガーが、コメントを発した。

 

「昨晩、言っただろ。読むためには状況が足りねーんだ」

 

 その言葉に、ルイズは眉をひそめて言い返す。

 

「状況って何よ」

 

「『虚無』の魔法ってのは、必要な時に必要なだけ与えられるんだよ。今、一つだけ読めるのは、それがお前さんにとって基礎の魔法だからだ。多分」

 

「デルフ、あなた、何を知っているの?」

 

「さあー、忘れた。なんとなくそう思ったから言っただけだ」

 

「忘れたって……」

 

「なにせ俺、千年以上生きてっからな! 昔のことは忘れっちまったよ!」

 

「役に立つんだか、役に立たないんだか、分からない剣ね!」

 

 そんなルイズとデルフリンガーのやりとりを聞き、周囲の面々は困惑するしかなかった。

 それから、アンリエッタがデルフリンガーの出自をルイズに尋ねたり、マザリーニが『ガンダールヴ』の持つ力を聞いてきたりと、しばらくまとまりのない話が進む。

 そして、ウェールズがルイズに一つ尋ねて、場の空気が変わった。それは、この場にいる全員が気になっていたことだった。

 

「で、ミス・ヴァリエール。『始祖の祈祷書』に一つだけ記されていたという魔法とは、いったい?」

 

 その質問に、ルイズは口もとを吊り上げ、笑顔になって答えた。

 

 初歩の初歩の初歩。『エクスプロージョン(爆発)』と。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 爆発の魔法。なんともルイズに相応しい『虚無』の魔法だと、皆が思った。

『始祖の祈祷書』には、その魔法の発動に必要なルーンもしっかりと記されていたらしく、試し撃ちをしてみないかという話に当然なった。

 もちろん、爆発という危険性のある魔法のため、執務室で試すわけにもいかない。

 

 よって、急遽、場を城の中庭に移し、王宮の外を警護していたマンティコア隊にアンリエッタが命じて、中庭に誰も近づけさせないようにした。

 名目は、魔法の実験だ。嘘ではない。ただ、『虚無』の魔法を試すという事実は伏せてだが。

 

 そうして、ルイズは先ほどのメンバーに見守られる中、『始祖の祈祷書』を手に持ちながら中庭に立つ。そして、祈祷書のページをめくり、そこに書かれたルーンをルイズはゆっくりと読み上げていった。

 

「エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ」

 

 その最初のルーンを唱えた瞬間。ルイズの中で、今まで感じたことのない何かが弾けた。

 グルグルと、頭の先から全身に向けて、何かが巡っていく。

 

「オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド」

 

 懐かしいようで、それでいて新鮮なリズムとメロディーが、ルイズの心の中で踊る。

 それは我が子に歌う子守歌のように。それは神を讃える賛美歌のように。

 

「ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ」

 

 今まで、どんな系統の魔法を詠唱しても、覚えなかった感覚。

 今まで、心の奥底についていた錠が、次々と鍵で外されていくような感覚。

 

「ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル……」

 

 長い、長い詠唱ののち。

 その魔法は完成した。その瞬間、ルイズの中で何かが『カチリ』と嵌まった。

 そして、ルイズは理解する。己が今、どのような魔法を放とうとしているのかを。『エクスプロージョン』の魔法が、どのような仕組みでどのような結果を生み出すのかを。

 全てを悟ったルイズは、前に突き出していた杖を仕込んでいる右腕を下げて、深呼吸をした。

 

「ルイズ?」

 

 ルイズの後ろで彼女が詠唱する姿を見守っていたアンリエッタは、様子の変わったルイズに呼びかけた。

 するとルイズは、魔法を発動するでもなく、背後に振り返る。

 

「姫さま、実験は中止です。ここで『エクスプロージョン』は撃てません。危険すぎます」

 

「……それほどなの?」

 

「はい。王宮に被害がいくどころか、王宮を囲む城壁……王城全体が消し飛びます」

 

「まあ!」

 

 アンリエッタは、あまりもの魔法の威力に、驚愕を隠せなかった。

 そんな規模の魔法、熟練の『スクウェア』のメイジですら使えない。

 思わずアンリエッタは、身震いをしてしまった。そして、その規模の魔法を『レコン・キスタ』との戦いに利用できないかととっさに考えてしまい……自分の業の深さに自己嫌悪してしまった。

 

「やれやれ、王城がなくなっていたら事でしたな」

 

 と、マザリーニが冷や汗を流しながら、そんなコメントを発した。ブリミル教の枢機卿として、『虚無』の呪文を唱える実験の後押しをしてしまったが、ルイズの言に、後押ししたことを少々後悔してしまった。そして、ルイズが軽率に魔法を放つような人物ではなくてよかったと、彼は胸を撫で下ろした。

 

 それから、ルイズは皆に主張した。『エクスプロージョン』は途方もない威力を持つ魔法のため、実験で放つべきではない。相応の精神力を消費するであろうから、来たる『レコン・キスタ』との戦いが来るまで取っておくべきだと。

 下手に地上の上で放つと大地がえぐれてクレーターができ、新しい湖が生まれてしまうかも、とも言い、その場にいる皆を恐怖させた。

 

 そんなルイズの話を聞いていた才人は、一人思う。

 

 ――この城が全部消し飛ぶとか、それって小型の核爆弾とかじゃね? 放射線とか大丈夫か?

 

 才人は、『始祖の祈祷書』に語られていた小さい粒という言葉が引っかかり、どうしても頭の中から核分裂のイメージが離れなかった。

 

 その後、才人は、アンリエッタから正式に『水のルビー』と『始祖の祈祷書』の長期貸与の許可を得たルイズに連れられて、学院へと帰還した。

 そしてその夜、才人はルイズに核爆弾の説明と、その危険性について話してみたのだが……。

 

「大丈夫よ。『エクスプロージョン』は、もっと概念的な爆発だから。しかもなんと、破壊する対象を取捨選択できるみたいなのよ。人は傷付けないで、服だけ破壊する、とかね。あの場で撃たなかった本当の理由は、魔法衛士隊とかも実験を見ていたからよ。大事な手札は、ちゃんと伏せておかないとね」

 

 そのルイズの言葉に、才人はホッと一安心。

 しかし、その後、ルイズから核爆弾についての質問を次々とされる才人。そこまで核反応関連の知識に詳しくない才人は、なんとか思い出した『E=mc^2』の式をルイズに知らせたところで、疲れ果ててその日は眠ってしまうのであった。

 




・呪文詠唱完了後の魔法発動中断
原作ではやろうとしたキャラ自体出てこなかったはずなので可能かどうかは分かりませんが、本作では可能としています。発動を中断したら精神力も消費されないということにします。
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