【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま 作:Leni
とある日の朝、寮のルイズの部屋にて、朝の準備を才人がしていると、不意に窓から何かを叩く音が聞こえた。
才人がそちらに振り向いてみると、何やら一匹のフクロウが窓辺に止まり、窓のガラスを叩き続けている。
なんだろうか、と才人が不思議に思っている間に、制服へと着替え終えたらしいルイズが、窓を開けてフクロウを部屋へと招きいれた。
「誰かの使い魔か?」
フクロウには、何やら小さな鞄が付けられており、ルイズがそこから便せんのようなものを取り出している。そのルイズに、才人は問いかけた。
すると、ルイズはフクロウを窓から飛び立たせながら、才人に答える。
「フクロウ便ね。こうやって、手紙や小さな荷物を届けてくれる事業者がいるの。もう少し大きな荷物になるとペリカン便というサービスを使うわ」
「へえ、こっちにも郵便制度があるのか」
「郵便制度? それ、詳しく聞かせてほしいわね」
そう言って窓を閉めたルイズは、机の上からペーパーナイフをつかみ、便せんを開封する。そして中から手紙を取りだし、文面を読み始める。
速読を使って一瞬で読んだのだろうか。ルイズは手紙を畳むと、便せんにしまい直して才人に向けて言った。
「郵便制度の話は今度ね。出かける準備をするわよ」
「へ? 今から?」
「ええ。昼前に迎えが来るらしいから、今日の授業は休むよう申請をしなくちゃね」
「また急だな……」
そうして、才人は慌ただしくルイズの指示で荷物をまとめる。
それからいつも通りに食堂で朝食を取り、再び寮の部屋に戻ってから荷物であるリュックサックとデルフリンガーを回収した。
ルイズは学院長室に一人、外出申請を出しに行っている。残された才人は、荷物を持ってルイズに言われたとおり学院の門まで一人やってきた。
ルイズが来るのを待つことしばし。代わりに、別の存在が空の上から門前へと向けてやってきた。それは、見覚えのあるグリフォンだった。その上には、これまた見覚えのある一人の貴族が乗っている。ワルド子爵だ。
「ワルドさん!」
そのワルドを見て、才人は驚きの声を上げてしまった。アルビオンでの戦友と、まさかの再会である。
グリフォンから降りたワルドは、才人に近づき、彼の肩を手の平で軽く叩きながら笑顔で言う。
「やあ、サイトくん。この間ぶりだな」
「はい、おはようございます」
「ああ。ルイズは?」
「ええと、学院長に外出申請をしに……今日は、俺達二人で出かけることになっているんですが、もしかしてワルドさんも一緒に?」
「そうだな。俺が二人の足になって、とある場所へと運ぶことになっている」
そのワルドの言葉に、才人は偉い隊長さんを移動の足にするとは、ルイズも大胆だなと思った。
しかし、これは濡れ衣である。ルイズも出かけることは今朝知ったばかりであり、運び人がワルドであることも手紙で初めて知った立場であった。
それから、ワルドと才人が世間話を繰り広げること少し。学院の門に、ルイズがやってきた。
「あら、お早いお着きね」
そんなルイズの声に、ワルドが振り向く。
「やあ、ルイズ。少しでも早い方が、向こうで時間を多く取れるだろう?」
「確かにそうね」
事情を知っていそうなその二人のやりとりに、才人は仲間外れにされたような気になった。なので、才人は素直に事情を聞くことにした。
「どこに出かけるんです?」
すると、ワルドは伏せをするグリフォンへと親指を向けるジェスチャーをして、言った。
「まあ、まずは乗りたまえ。話は空の上でしよう」
そうして、才人はルイズと一緒に、朝の空へと飛び立った。
◆◇◆◇◆
グリフォンが空へと舞い、十分高度を取ったところで、ワルドがようやく話を切り出した。
「さて、サイトくん。今回の移動に同行しているということは、キミも『大隆起』の話は聞いたな?」
そのいきなりの言葉に、才人はギョッとする。
「は、はい。ワルドさんも、ハルケギニア滅亡の危機を知っているんですね」
「もちろんだ。なにせ……最初に『大隆起』が起きることを突き止めたのは、俺の母だからな」
「ああ、ルイズが言っていましたね。なんでも、研究職の方だったとか」
以前、幽閉塔でルイズから聞いた話を頑張って思い出そうとしている才人。
そんな彼に、ワルドは真面目な顔で言う。
「亡き母は、アカデミーの研究員だった。アカデミーは知っているかい?」
「ええ。王立の魔法研究所だとかなんとか……」
「その通りだ。普段はブリミル教関連の神学研究ばかりやっているアカデミーなんだが……たまにとんでもない実用的な成果を上げることがある。それが、母の研究だった」
「世界の滅びを予見するなんて、すごいですね」
「すごいかすごくないかで言うと、すごいのだが、問題があってな。母は、その研究成果を誰にも知らせなかったんだ」
「えっ!?」
世界の滅びを知って、誰にも知らせない。そんなことがあるのだろうか。才人は、そう考えた。
もしや、あまりにも荒唐無稽な内容過ぎて、研究を破棄してしまったのか。それとも、事態のスケールの大きさに、
「母は、自身が導き出した答えの重さに耐えきれず、心を病んでしまった。そのため、研究成果は闇に葬られる形となったのだが……」
「アカデミーの研究員になったわたしの上の姉、エレオノール姉さまが、その研究を掘り起こしたの。で、わたしがフィールドワークでそれを検証して、事実だと判明したってわけ」
と、黙って話を聞いていたルイズが口をはさんで、そんな説明を入れた。
才人にとってルイズの姉と言えば、ここにいるワルドと結婚するという人物の印象が強い。未だ会ったこともないのだが。
しかし、その人の名前はカトレアだったはず、と才人は記憶を振り返る。どうやら、ルイズには少なくとも二人の姉がいるらしかった。
「これから向かうのは、そんな『大隆起』の対策において、重要な位置を占める場所ね」
ルイズのそんな言葉に、才人は少し考えて、導き出した答えを言う。
「何かの研究施設か? それこそアカデミーとか」
「半分正解ね。これから行く場所は……」
ルイズは、遠くに見える地平線へと目を向け、真面目な顔を崩さずに言った。
「平民メイジの隠れ里。『大隆起』に備えて、アカデミーが魔法の素養を持つ平民を探し出して、一ヶ所に集めて魔法を学ばせている学び舎。そして、魔法や技術の研究をする、秘密の研究学院よ」
そのルイズの答えを聞いて、才人は「だからキュルケとタバサは連れてきていないんだな」と納得した。
◆◇◆◇◆
元々、この場所は、没落して平民となった元貴族が集まった場所であった。そして、その血を繋いで魔法の知識を代々伝えてた結果、平民メイジの隠れ里となっていた。
しかし、隠れ里とはいっても国の上層部には存在を知られていた。メイジが集団で集まっているのだ。当然、そこには魔法という武力が付随する。そのため、国もただ黙って放置するわけにはいかなかったのだ。
そして、今回、この国は『大隆起』という未曾有の事態に直面した。
魔法の素養を持つだけの平民にすら力を借りなければ、とても掘り出しきれない『風石』の量。
そこで、国は一つの方針を打ち出した。
平民から魔法の素養を持つ者を集め、この平民メイジの隠れ里に集めて、彼らに魔法を教育させる。新しい魔法学院を作ろうとしたのだ。
そうして完成したのがここ、秘密の名もなき魔法学院である。
と、そんな説明を里長なる人物から聞いた才人。
どうやら、『大隆起』という災害に、国は本気になって取り組んでいるようだと、才人は感心した。
「でも、魔法というものは一朝一夕で身につくものじゃないのよね。貴族の子でも、魔法をまともに発動できるのが五歳くらい、自身の系統を見いだして得意系統の基礎魔法を使えるようになるのが、十歳くらい。そして、この魔法学院ができて、まだ三年といったところよ」
そんな解説を入れたのはルイズである。
すると、ワルドも「そうだな」と言って、才人に説明をした。
「この学院で魔法を使えるようになった者でも、ほとんどが『念力』という最も簡単なコモン・スペルを使えるようになったところだ。最も期待している『土』の系統魔法の発動まで辿り付いた者は、まだいない。残念なことにね」
「ま、そこは仕方がないわ。気長に待ちましょう。それよりも、今回の視察の主目的よ」
そう言って、ルイズは黙ってルイズとワルドの言葉を聞いていた里長を促し、学院の施設を進んでいく。
やがて、才人達が辿り付いた場所は……鍛冶場であった。
鎚で金属を叩く音が、周囲に響く。どうやら、刃物の鍛造を行なっているようだ。
それを見て、才人は「おや?」となった。
以前、トリスタニアで訪ねた武具店に置かれていた武器は、ほとんどが鋳造、すなわち型に溶かした鉄や鋼を流して冷え固まらせる手法で造られた剣だったはずだ。
それが、ここでは鍛造、すなわち熱した鉄を叩いて鍛える手法で刃物を作っている。
そのことを才人はルイズに指摘してみた。
すると、ルイズは満面の笑みを浮かべて、才人に言った。
「ここでは、トリステインの衛士や軍人に流すための剣杖を造っているわ」
「剣杖……」
その言葉を聞いて、才人は無意識でワルドが腰に下げている杖を目で追った。
確か、ワルドは、日本刀風の杖を持っていて、それを剣杖と呼んでいたはずだ。そして、開発者はルイズとも言っていたはずだ。
「サイト。あなた以前、剣杖はあなたの国の武器に似ているとか言っていたわね?」
才人の目線の行く先をしっかりと見ていたルイズが、才人に尋ねた。
「ああ、『日本刀』っていう、昔、俺の国で侍という戦士階級が携帯していた武器だな」
「そこで、一つ見てもらいたい物があるの」
そう言って、ルイズは鍛冶場の奥へと進んでいく。すると、そこには杖を持った鍛冶師らしき男達が、一つの剣を前に魔法を放って何かを調べていた。
その彼らに、ルイズは話しかける。
「ご苦労様。ちょっとだけ、それ借りるわよ」
「おっと、お嬢。来ていたんですかい。どうぞ、持っていってくだせえ」
鍛冶師らしき男達は、そう言って、剣の前から退く。
するとルイズは、鞘から抜かれたその一本の剣をつかみ、才人に見せてきた。
一方、才人は、遠目に見えた時点でその剣の存在に驚かされていた。
そう。その剣は、明らかに普通の剣ではなかった。
「『日本刀』、なのか……? こしらえは西洋風だけど……明治時代あたりの『軍刀』か?」
才人は、まさかの故郷で使われていた物と似た刃を持つ片刃の剣に、意識を奪われた。
そして彼は、ルイズに差し出されたその剣の柄をとっさにつかむ。
すると、才人が左手に嵌めている皮膚手袋の下にある『ガンダールヴ』のルーンが反応を示す。
才人はいつも新しい武器を手に持った時にする癖で、その剣を『鑑定』した。心を剣に寄せ、奥底まで覗き込もうと集中する。
と、そのとき、才人の耳にルイズと鍛冶師の会話が聞こえてきた。
「で、竜麟を鉄に混ぜる実験の結果は、どうだったのかしら?」
「へえ。魔力の通りはよくなりましたが、肝心の鉄が脆くなりましてね……」
「あら、やっぱりそうなるのね」
「すいやせん、お嬢。わざわざ竜騎士隊からかっぱらってきてもらったのに、こんな結果で。王宮に叱咤されたと聞きましたぜ?」
「いいのよ。わたしが叱られるだけで新しい素材の研究が進むというなら、どんどん挑戦すべきよ」
何か気になる話をしているなー、などと才人は思いつつも、『日本刀』らしき剣の鑑定は終わった。
「鍛冶による鍛造品、波紋は無し、状態よし。刃の内部が鋼の層になっているっぽいから、十中八九、俺の故郷の剣、『日本刀』だろうな。見た目からして、百年くらい前のものじゃねーかな」
その才人の言葉に、周囲の鍛冶師達がざわめきを返す。
そして、そのうちの一人が才人に尋ねた。
「どのように作っているか、分かるか!?」
「あー、多分、材料は砂鉄。何度も折り曲げるように鍛造を繰り返す感じ」
「砂鉄! なぜ、わざわざ砂鉄などから!? 鉄鉱石でよくないか!?」
その鍛冶師の疑問に、才人は反射的に答える。
「俺の故郷、日本では砂鉄からつくる鋼の一番良いところ、玉鋼っていうんだけど……それを重要視する風潮があるって、インターネットで見た」
「『いんたーねっと』は知らんが、納得できる話だな! 貴族の間でも、軍杖は鋳造がいいとか鍛造がいいとか、派閥が多くて面倒くせえんだ! オレ達が作るヴァリエール印の剣杖は、鍛造じゃなきゃ作れねえがな!」
「あと、日本は鉄資源に乏しいんだったかな……?」
「そりゃまた、砂鉄にも頼るってもんだ!」
才人の回答に、盛り上がる鍛冶師達。
実際には、砂鉄から鉄を作るたたら製鉄は、鉄鉱石から鉄を作る製鉄と比べて比較的低い温度で鉄を取り出すことができるといった理由なども存在していたのだが、才人はそのあたりの知識を持ち合わせてはいなかった。
そんな盛り上がりの中、才人にもふとした疑問が湧いてくる。彼は、素直に周囲の鍛冶師達へとそれをぶつけた。
「ここで使っている鋼って、鉄鉱石から作っているのか? てっきり、『錬金』の魔法で作っているんだと思っていたけど」
日本が砂鉄から玉鋼を作るなら、ハルケギニアでは『錬金』から鋼を作る。そう予想しての質問だった。
「ああん? いや、最近は鉄鉱石の値がやたらと安いから、そこから魔法を使わず製鉄しているぜ。『土』の系統に目覚める生徒が増えたら、いずれは鉄鉱石から鋼を『錬金』して手間を省きてえところだがよ」
「へー、鉄は安いのか。鉱山でも新しく開発したとか?」
「いやいや、『風石』を回収するために地中深くまで地面を掘り返すからだな。だから、鉄だけじゃなくて他の鉱石や宝石も値段が下がっているぜ!」
なるほど、と才人は納得した。確か、『風石』自体の価格も下がっているとか、いつだかに聞いたな。などと、彼はおぼろげな記憶を探った。
そして、その後も才人は鍛冶師達に質問攻めにあう。
だが、さすがの才人も刀鍛冶に関しては、インターネットで見たあやふやな知識以外は持ち合わせていない。完全に専門外だった。
結局才人が彼らに教えることができたのは、二つ。鉄が熱いうちに打って鍛え、水に突っ込むことで冷やして硬度を上げる『焼き入れ』の話。そして、その焼き入れの際に土を使うことで『
そんな話を繰り広げた後、才人はルイズの案内で、人のいない応接室に向かった。
室内にいるのは、才人、ルイズ、そしてワルドの三人だけ。そこでルイズは、才人に改めて確認を取った。
「あの剣は、才人の出身地、『ニッポン』の武器ね?」
「ああ、そうだ。昔使われていた、携帯用の『打刀』だな。戦争用の物は、もっと刃渡りの長い大太刀とか長巻っていう武器が使われていた、らしい」
才人のもつ刀の知識は、せいぜいそこまでだ。実際に刃渡りが何センチかなどは全く知らない。
だが、ルイズとしては、それで十分な回答だったらしい。
「やっぱり、『場違いな工芸品』は、才人の出身地の物だったみたいね」
「……?」
初めて聞く謎のワードに、才人は不思議そうな顔を浮かべた。
その才人に、ルイズは言葉を続けた。
「実は、才人の出身地の武器と思われる物が、『聖地』って呼ばれている東にある異種族の国周辺で見つかっているの」
「!?」
「ブリミル教の総本山ロマリアが、その武器を昔から回収していてね。彼らはそれを『場違いな工芸品』って呼んでいるの。あの才人が言う『打刀』は、その一つをわたしのコネでなんとか手に入れた物よ」
「場違いで、工芸品って、なんだそのネーミング」
「ハルケギニアの文明とも、エルフの文明とも違う様式の物品で、複雑怪奇で使い方も分からない工芸品としか言いようのない謎の存在。まあ、わたしは、それらをあなたの出身地の兵器と見ているんだけど」
「なんで、俺の世界の兵器が……」
「そして、近々、ロマリアも把握していないであろう『場違いな工芸品』をわたし達で回収する」
ルイズのその言葉に、ワルドが反応した。
「まさかルイズ、『聖地』へ行くなんて言うまいな?」
そう言って険しい顔を浮かべるワルドに対し、ルイズは「ないない」と言って手を顔の前で振る。
そしてルイズはワルドを安心させるかのように、穏やかな声で言葉を続けた。
「向かう先は、トリステイン内のタルブ村。回収する『場違いな工芸品』は、『竜の羽衣』。才人の国で言う『戦闘機』よ」
先延ばしにしていた、タルブ村行き。それがとうとう果たされる時が来た。
・平民メイジの隠れ里
本作品のオリジナル要素。平民落ちした元貴族のメイジ自体は土くれのフーケを始めとしてハルケギニアには普通にいるので、こういった場所があってもよさそうかなという感じで用意しました。ハルケギニアにおいて魔法は文明を支える重要な存在なので、傭兵落ちしなくてもこういったコミュニティを形成して仕事を取ってこられれば食いっぱぐれることはないことでしょう。
・焼き入れ
原作十四巻での説明によると、エルフの独自技術でハルケギニアには存在しなかった技術の可能性があります。