【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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59.竜の羽衣

 平民メイジの隠れ里から帰還した翌日。今日もワルドと共に、学院の外へと飛び立ったルイズと才人。

 ただし、昨日とは違い、三人だけでの空の旅ではない。キュルケ、タバサ、そして学院のメイドであるシエスタが同行している。向かう先は、シエスタの出身地であるタルブ村である。

 

 ワルドのグリフォンには、才人が男同士の内緒の会話をすると言って乗り込んだ。そのため、ルイズはタバサの使い魔であるシルフィードに乗ることになった。

 そんなシルフィードの背の上、キュルケが今回の目的である秘宝『竜の羽衣』についてシエスタに尋ねていた。

 

「どうして、『竜の羽衣』って呼ばれているの?」

 

 貴族であるキュルケの問いに、(ひか)えめな性格であるシエスタが遠慮(えんりょ)気味に答える。

 

「それを(まと)ったものは、空を飛べるそうです。しかし、村の誰も空を飛んだところなど、見たことはないのですが……」

 

 そんなシエスタの回答に、キュルケは思わず面白くなって笑い出した。

 その笑い声を聞いて、シエスタは「ですよね。笑い話にしか聞こえませんよね」と苦笑して答える。だが、キュルケは手の平を顔の横で振って「違う違う」と否定の言葉を放った。

 

「そうじゃないの。まさしく予想していた物が出てきたと思ってね。十中八九、あたし達の狙いの品よ」

 

「そうなのですか?」

 

 あんなものをなぜ必要とするのだろうという思いを言外(げんがい)に含ませて、シエスタが問い返す。

 

「ええ、その『竜の羽衣』は、『飛行機』っていう空飛ぶ道具なのよ。ね、ルイズ」

 

「そうね。『飛行機』の、それも戦争に使う兵器、『戦闘機』でしょうね」

 

 そんなキュルケとルイズの言葉を聞いて、シエスタは目を丸くして驚く。

 

「あれ、本物だったんですか……でも、誰も空を飛べなくて……あれに乗って東の空から飛んできたって主張していた曾祖父も、結局、村の人の前で一度も飛べなかったそうですよ。その挙げ句、『もう飛べない』なんて言い出して、村に住み着いちゃったそうです」

 

 そんなシエスタの説明に、ルイズは少し考え込んでから、導き出した推論を返す。

 

「それは、燃料が切れていたんでしょうね。空飛ぶフネの『風石』に当たるものね。サイトは『ガソリン』じゃないかって言っていたけど」

 

「『ガソリン』、ですか?」

 

 聞き覚えのない単語に、シエスタは首をかしげる。不思議がるシエスタに、ルイズは口もとを吊り上げて答える。

 

「ええ。『石油』を精製して作るそうよ」

 

「『石油』!」

 

 そんな反応を示したのは、シエスタではなくキュルケであった。そのキュルケが、ルイズに問いかけた。

 

「『石油』って、あの半年前に探しに行った、地面から湧く黒い油よね?」

 

「ええ。ミスタ・コルベールが最近『灯油』の『錬金』に成功したあの『石油』よ。もし、『竜の羽衣』の中に『ガソリン』が少しでも残されていたら、それを参考に『ガソリン』も『錬金』できるかも……」

 

「でも、曾祖父の代の品でしょう? いくら油だからって、まだ残っているかしら?」

 

「まあ、残っていれば幸運、程度ね」

 

 と、そんなキュルケとルイズの会話を聞いていたシエスタが、遠慮がちに言う。

 

「あの……曾祖父は、頑張って稼いだお金で貴族にお願いして、『竜の羽衣』に『固定化』の呪文をかけてもらったそうです」

 

 まさかのその言葉に、ルイズはまるで飛び跳ねるように喜んだ。

 シルフィードの背の上なので、本当に飛び跳ねはしなかったが。

 

「それはすごいわね! もしかしたらその『竜の羽衣』、今も『ガソリン』を供給すれば空を飛べるかもしれないわ!」

 

 これから待っているであろう秘宝との出会いに、ルイズはワクワクした気持ちで期待と好奇心を高めていくのであった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 一同がラ・ロシェール近くの田舎村であるタルブに到着したのは、昼過ぎになってからだった。

 まさかの貴族の集団での来訪に、村はまたたく間に大騒ぎとなった。

 

 しかも、村へ訪ねてきた貴族の一人は、あのトリステインに名高い魔法衛士隊の隊長なのだ。次から次へと村人が仕事を中断して見物にやってくる始末で、その結果、ルイズ達を歓迎していた村長が怒鳴って彼らを追い散らす事態にまでなった。

 その騒がしい村の様子に、好奇の目線を向けられたワルドは苦笑するばかり。だが、魔法衛士隊という王族の護衛の役割をしていると、たまにあることだ。なので、ワルドは村人の無礼を特に騒ぎ立てることもなかった。

 

 こういったことは、田舎の村ではたまにあることなのだ。

 あまりにも貴族慣れしていないため、貴族を過度に恐れることもなく、むしろ好奇の対象とする。

 そして、大抵の場合は村を挙げての歓迎会となり、そして時には美味しい思いをできることだってある。

 この村ではヨシェナヴェなる名物料理があると、空でグリフォンを駆っているときにワルドは才人から聞いていた。それを少々、ワルドは楽しみにしていた。

 

 ここタルブ村は、トリステインの玄関口ラ・ロシェールのほど近くの草原沿いに存在する。だが、街道を行く者が寄るような宿場町ではない。まさしく田舎の村であった。

 

 そんな田舎の村の村長が、ルイズ達一行を案内する。彼女らがまずやってきたのは、『竜の羽衣』が安置されている村の寺院ではなく、シエスタの曾祖父が眠る共同墓地であった。

 故人が残した遺品である秘宝を譲り受けるにあたって、まずはその墓前へと挨拶をしておこうというワルドからの提案だった。

 このワルド、村人の好感度を上げることに余念がない。夕食に振る舞われるであろうヨシェナヴェが、楽しみで仕方がないようだ。

 

「曾祖父が、死ぬ前に自分で作った墓石です」

 

 墓地に足を踏み入れてからすぐ。そう言ってシエスタが指し示したのは、他の村人の白い墓とは違う、異質な黒い墓石。

 墓石には墓碑銘(ぼひめい)が刻まれていたが、曾祖父の故郷の文字が刻まれているため、村の誰も読むことができないとシエスタは語った。当然、ルイズ達も、魔法の助けなしにはその墓碑銘を読むことはできなかった。ただし、一人を除いて。

 

「海軍少尉佐々木(ささき)武雄(たけお)、異界ニ眠ル」

 

 それを読み上げた者は、黒髪黒目の少年。才人であった。

 一同が才人を見つめる中、彼は続けて言った。

 

「やっぱり、シエスタのひいじいちゃんは、俺の故郷と同じ国の出身みたいだ」

 

 その言葉に、シエスタは驚きに包まれる。

 そして、才人達に同行していた老齢の村長が、一歩前に出て才人へ向けて言った。

 

「実は、この墓の主は、一つ遺言を残しておりましてな」

 

「遺言を……」

 

「ええ。この墓石の銘を読めるものが現れたら、その者に『竜の羽衣』を渡すよう、言いつけたそうです」

 

「ということは……」

 

「もともとお渡ししても構わないとは思っておりました。ですが、彼と同じ国の出身なら、我々も安心して『竜の羽衣』を(たく)せます」

 

 村長のその言葉に、才人はジッと感じ入り、黒い墓石へ向けて合掌して一礼をした。

 

「そして、なんとしてでも『竜の羽衣』を陛下にお返ししてほしい、と。空を飛んで国もとへとお帰りなさるのかな?」

 

 そんな村長の言葉に、顔を上げた才人は困ったような顔で答えた。

 

「それは、即答しかねますね。なにせ、俺はあと何年かはこの国に滞在するつもりですから」

 

「そうですか。まあ、無理にとは申しませぬよ。我々タルブ村の者としても、そこまで『竜の羽衣』に思い入れがあるわけではありませんからな。むしろ邪魔なので引き取っていただきたいくらいで。ハハハ!」

 

 そんな村長の暴露話を聞いた才人は、遺言を残した人の墓前でする話じゃねえな、と呆れるのであった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 寺院に安置されていた『竜の羽衣』は、才人の予想していた通り『戦闘機』であった。

 シエスタの曾祖父の時代ということから予想していた通り、第二次世界大戦ごろに使われていたであろう、日本製のそれ。翼と胴体には日の丸が描かれていた。

 それを目の前にした才人は、感極まると同時に、手で触れて『ガンダールヴ』のルーンが反応して動揺してしまった。

 

「そっか、これも武器判定を受けるのか……」

 

 そんな才人のつぶやきを聞いていたルイズは、目をキラリと光らせた。『ガンダールヴ』のルーンが反応する武器。すなわち、才人の『鑑定』の対象である。

 それはつまり、才人の手にかかれば、この複雑そうな機械の操縦方法も分かるということで……。

 

 ルイズは、さっそく才人と共に『戦闘機』の点検を始めた。

 そして、調べること一時間ばかり。

 

「これ、多分『ガソリン』さえあれば、今も飛べるわね」

 

 そのルイズの言葉に真っ先に反応したのは、意外なことにワルドだった。

 

「ルイズ。これは魔法の力を用いずとも空を飛ぶとのことだが……解析すれば、量産は可能か?」

 

「魔法の品じゃないから、アカデミーでは難しいでしょうね」

 

「そうか……」

 

 ルイズから返ってきた答えに、ワルドは本当に残念そうな表情を浮かべて、肩を落とす。

 

 ワルドが突然量産の話をしたことにも、ちゃんとした理由がある。

 アルビオンとの戦争の機運が高まる今、もし空飛ぶ騎獣を持たないメイジや平民の兵士が、量産された道具で空を飛んで制空権を確保できたならば。来たる『レコン・キスタ』との戦いが優位に進むだろうことは、容易に予想ができた。

 しかし、そんな気落ちするワルドに、ルイズは面白おかしそうに笑いを含む声で言った。

 

「あら、わたしが言ったのは、アカデミーでは難しい、よ。アカデミーが無理なら、それを可能とする場所で解析すればいいのよ」

 

「それは……例の里かい?」

 

 ワルドは、昨日にルイズ達と行ったばかりである平民メイジの隠れ里を想像し、周囲に他国の貴族がいることを配慮し隠れ里についてぼかして言及した。

 だが、ルイズの返答は否だった。

 

「アカデミーは、あくまで魔法を研究する施設。例の里も、ここまでの機械を任せるにはまだ荷が重い。そもそもこの『戦闘機』は、魔法が一切使われていない『カガク』の産物。だからわたしと、専門家がいる場所で精査するわ」

 

「専門家がいるのか。いったい何者だい?」

 

 ワルドのその言葉に、ルイズは口もとを吊り上げるようにして笑って言う。

 

「トリステイン魔法学院の魔法教師、ジャン・コルベール。わたしが知る中で、一番の天才発明家よ」

 

 それを聞いたワルドは『戦闘機』を学院に運ぶ手配をするため、トリスタニアの王宮へと取って返していった。

 ヨシェナヴェのことは、すっかり彼の頭の中からは消え去っていた。彼も立派なトリステイン王国の衛士の一人ということである。

 




・控えめな性格であるシエスタ
原作の地の文曰く、おとなしそうに見えて、一旦決めるととことん大胆になる性格。もしくは、思い詰めると大胆なこともしでかすが、元は控えめな性格。本作品では、才人は完全にルイズに囲われていてシエスタが手を出す隙が一切無いため、彼女の大胆でエキセントリックな性格が発起される機会は訪れていません。
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