【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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6.三人の魔女

「あっ! 忘れてたわ!」

 

 夜も更けたので異世界の話の続きはまた明日、と解散しようとしたところで、ルイズが突然叫んだ。

 

「どうしよう、サイトの寝る場所、わたし何も用意していないわ」

 

「あら、そういえばそうだったわね……まあ使い魔用の寝床を用意していたとしても、藁束(わらたば)は客人に相応しいベッドじゃないとは思うけれど」

 

 才人は彼女たちのやりとりを聞いて、やはりここは夢の世界なんかではないのだと、改めて認識した。

 寝床の確保なんて言う現実的な話など、曖昧な夢の中でされるはずがない。

 

「ま、ルイズ。それに関しては安心してちょうだい」

 

「何? どこかに空きベッドでもあるの?」

 

「空きベッドは無いわ。でも、人一人分入るベッドのあてはあるわ」

 

 キュルケはそう言うと、椅子をずらして才人の近くへ寄り、そのまま才人の肩へとしなだれかかった。

 

「ね、異世界の紳士様。今夜は、二人一緒のベッドで過ごしましょうか。素敵な異世界の話のお礼に、ゲルマニアの『微熱』あふれる夜をお教えしますわ」

 

「マ、マジでー!?」

 

 ワインの酔いによって活発に動いていた才人の心臓は、褐色の美女の身体に爆発しそうなほど鼓動を開始した。

 

「なななななななな」

 

 一方、キュルケの言動を目の前で目撃したルイズは、ワインの酒気で桃色にほてった顔を真っ赤に変えた。

 

「きゅっ、きゅきゅきゅきゅるけ! 人の使い魔に、なななななにしようとしししてるのよっ!」

 

 知識豊富な賢者であるルイズだが、男女の関係については非常に初心(うぶ)であった。動揺しすぎて、彼女はたまに発作的に見せるどもり声を出してしまった。

 

「あら、サイトはヴァリエール家の客人なんでしょう? ヴァリエールの男を自分のものにするのは、ツェルプストーでは当然のことよ」

 

「んなっ!」

 

 何を言い出すのか、この雌犬は。

 そうだ、目の前の赤毛は盛りのついた雌犬だ。犬には調教が必要だ。

 ルイズは沸騰したままの頭でそう考え、とっさにルーンを短く唱えて右手の指を大きく弾いた。

 キュルケの足下が『衝撃の爆発』で弾ける。

 

「ね、ねえ、キュルケ。わ、わたしの近くで『そういうこと』をしないって何度も教えたわよね」

 

「え、ええ、そうねルイズ。今日は、使い魔召喚の初日ですもの。自分の使い魔と一緒に過ごすのが、習わしってものね」

 

 キュルケは、かつてルイズと反目し合っていた学院での日々を思いだした。

 入学当初、連日のように男を寮の自室に連れ込むキュルケに、隣部屋のルイズは汚らわしいと怒った。

 そして、キュルケが連れ込んだ男を裸のまま爆破して、次々と窓の外に放り投げていったのだ。

 

 当初キュルケは、当然のことながら部屋の扉に鍵をかけていた。これを破るには学院の校則で固く禁じられている『アンロック』の魔法を使うか、盗賊のような錠破りの技を使うしかない。

 だが、ルイズは『アンロック』も錠破りも使わず、ただ扉を破壊することで中に押し入った。

 自分の都合のためなら他人の迷惑など省みない。それが、本気でキレたときのルイズの性質だった。

 

 そんなことを思い出しながら、キュルケは「冗談に決まっているのに……」とつぶやく。今の彼女には、才人ではない本命の片思い相手がいるのだ。

 やがて彼女は、フレイムの頭を撫で、ルイズの部屋をフレイムと共に出て行った。

 

 火トカゲの尾の炎が失われたルイズの部屋は、大きな光源を失って一気に暗くなる。

 

 その後、ルイズから部屋のベッドを使うよう勧められた才人。だが、自身は床で寝ると言い出したルイズに慌て、結局、毛布を借り、ベッドを使うことなく床の上で眠った。日本に居た頃は、毎日、床敷きの布団ではなくベッドで寝ていたので、寝付くまでに少々の時間を要した。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 ルイズは二日連続で、頭痛と共に目覚めた。

 二日酔いだ。昨日は、なんの酒を飲んだのだったか。そうだ、何か嬉しいことがあって秘蔵のワインを空けたのだ。

 良いお酒は二日酔いをしない。そんな言葉は嘘であると、位の高い貴族家出身のルイズは知っていた。

 

 頭が痛い。

 授業をサボって寝ていたい。

 

 そう思いルイズは、ベッドの上で丸まろうとする。

 

 だが、いつもと何か感触が違った。

 あの暖かい上質の毛布の感触が返ってこない。

 

 ――寝返りで、蹴落としたのかしら?

 

 仕方なしに、ルイズは片手で頭を押さえながらむくりと身を起こした。

 ベッドの両脇を見るが、毛布が落ちてしまっている様子はない。

 寝ぼけ眼で部屋を見渡すと目的の毛布はベッドのはるか遠く、部屋の片隅に丸まって落ちていた。

 

 なんであんな場所に。

 

 痛みの治まらぬ頭を振って、ルイズはベッドの上から降りた。

 そして、何故か吹き飛んでしまっていた毛布を取りに部屋の隅に歩いていく。

 

 腰をかがめて毛布を引っ張ろうとするルイズだが、何かが引っかかって持ち上がらない。

 今度は腰を入れて毛布を引っ張り上げる。すると、毛布の中から何かが転がり出た。

 

 なんだろう、と目をこすって、その何かを覗きこむルイズ。

 

 そこには、見知らぬ男が眠っていた。

 

「キャアアアアアアーッ!?」

 

 悲鳴の後に、爆発音が朝の寮内に響き渡った。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「あはっ、あははははは!」

 

 突然の騒音に何事かと駆けつけたキュルケ。しかし、煤けた才人を介抱する寝間着姿のルイズを見て、またいつもの癇癪でも起こしたかとあきれかえった。そして、ルイズから事情を聞くと、予想外の事実に思わず笑い出してしまった。

 

 寝ぼけて、自分の使い魔を不審者と間違えるだなんて!

 

 キュルケがお腹を抱えて笑い続けていると、ルイズに真っ赤な顔で「着替えるから、部屋の外で起こしてあげて」と才人を押しつけられ、部屋から追い出された。

 

 流石に寮の廊下で笑い続けるわけにも行かず、キュルケは笑いをこらえて杖を手に取る。そして、ルーンを唱えて、才人へ軽い目覚ましになりそうな魔法をかけた。

 

「おはよう、サイト。トリステイン流の爆音轟く朝は、どうだったかしら?」

 

 巨乳美女の抱擁による起床。本来なら飛び上がって喜びそうな状況であったが、才人の気分は最悪であった。

 

「頭が痛い……」

 

 爆発の痛みか二日酔いの痛みか。

 とりあえずキュルケは、二日酔いによるものだと説明しておいた。

 

 ちなみにキュルケはそれなりの酒豪であり、二日酔いなど関係ないとばかりに、朝早く起床し着替えもすでに終えていた。

 そんなキュルケは隣の自室の扉を開けて中からフレイムを呼び出すと、ルイズの部屋の前で彼女が出てくるのを待った。

 

「はー、改めて見ると、デケーなー」

 

 才人は、のっそりと部屋から姿を現したフレイムを見ると、腰をかがめてその頭を撫でた。

 使い魔は怖くないものだと昨日教えられていた才人は、恐怖ではなくその好奇心を目の前の火トカゲに向ける。フレイムは心地よさそうに目を細めて「きゅるきゅる」と意外に可愛い鳴き声を出している。

 

「サイトの世界には、サラマンダーはいないのよね」

 

「ああ、小説とかに出てくる、空想上の生き物って感じかな。しかし、どうやって燃えてるんだこれ」

 

 フレイムの背を撫でながら、才人はフレイムの尻尾に注目した。

 

 尻尾が燃えている。

 

 才人が背を優しく撫でると、フレイムは「きゅるきゅる」と喉を鳴らして、まるで犬のようにその尾を左右に振る。

 傍らのキュルケが何も言ってこないと言うことは、この尾の炎で火事が起きる心配などはないのだろう。

 

 ファンタジーだ。

 

 才人は、ただひたすら感心した。

 

「サラマンダーは火の幻獣。わたし達の使う四大系統の魔法とはまた違う、独自の魔法の力を持ったトカゲなのよ」

 

「やっぱり魔法かー。すげーな」

 

「チキュウの『カガク』では、こういうことはできなくて?」

 

「生き物に火を付けて、火傷も負わさずに生かしておくだなんて、現代科学じゃ無理だろうな」

 

 そんな会話をキュルケと才人は二人でしばらく続けていた。

 が、いつまで経っても、ルイズが部屋から出てくる様子はなかった。

 

「なあ、ハルケギニアの貴族って、こんなに朝の支度に時間がかかるものなのか?」

 

「化粧覚え立ての子供じゃないんだから、それはないわ。おかしいわねぇ」

 

 さらに数分待ってみるが、部屋の扉は開かないままだ。

 しびれを切らしたキュルケは、勢いよく扉をノックして叫んだ。

 

「ルイズ、ルイズ、どうしたの。もう朝食の時間よ!」

 

 だが扉の向こうからの答えはない。

 もしかして、とキュルケは返事を待つことなく扉を開いた。

 

 扉の向こう側では、学院の制服に着替えたルイズが、床の上に広げられた毛布にくるまって寝息を立てていた。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「はあ、貴族の子女が、歩きながら朝食を取るなんて……」

 

「あら、別にこれくらい良いじゃない。わたしなんて、外を飛び回るときは馬上で食事を取るわよ」

 

「そういう変な食事の取り方をするから、いつまで経っても大きくならないのよ」

 

「言うほど背は低くないつもりよ」

 

「胸の話よ」

 

「胸は関係ないでしょ、胸は!」

 

 そんなキュルケとルイズの会話を聞きながら、才人は食堂で貰ってきたパンを口に含んだ。

 美味しい。

 パンの中はまだ湯気が立つほどに温かい。焼きたてのパンは、こんなに美味しいものなのだと、才人は感心した。

 

「手で食べられるわたし達はともかく、フレイムはちょっと辛そうね」

 

「ぎゅるぎゅるー」

 

 ルイズが焼きたてパン片手に、彼女達の後方を着いて歩くサラマンダーのフレイムを見て言った。フレイムの鳴き声も、どこかくぐもっている。

 そんなフレイムを観察しながら、さらにルイズは言う。

 

「ああ、昨日は気にしていなかったけど、そのサラマンダー、火竜山脈の幻獣だったわよね」

 

「ええ、この尻尾は間違いないわ。ブランドものよー。好事家に見せたら値段なんかつかないわよ?」

 

「ブランドだの値段だの、『物』としての評価なんかしたら、使い魔が悲しむわよ、ゲルマニア人さん」

 

「うっ、たしかにそうね……。ごめんねー、フレイム。あなたがどこのサラマンダーであっても、わたしはあなたが好きよ」

 

「きゅるきゅるー」

 

 キュルケの言葉に、嬉しそうな鳴き声を返すフレイム。そんなやりとりに、ルイズは満足してさらに言葉を続ける。

 

「それで良いのよ。ま、火竜山脈の火の幻獣については前々から興味あったから、今度調べさせてもらうわね」

 

「あら、『物』ではないフレイムを簡単にいじくりまわしてあげさせると思って?」

 

「あなたの使い魔の情報の代価は、わたしの使い魔の出身世界の情報。十分すぎる取引だわ」

 

「……やっぱりルイズ、あなたゲルマニアの貴族になった方が、上手くやっていけるわよ」

 

 パンを食べ終わった才人は、仲の良い二人が言い合う姿を後ろから歩きながら、ぼーっと見ていた。

 

 マントが揺れる二人の後ろ姿。キュルケを見ると、歩くたびにマントにその大きな尻の形がくっきりと浮かんできた。

 男心を全力で刺激する魅惑のヒップ。

 彼女は乳もすばらしかった。うん、あの乳は良いものだ。才人は朝っぱらからそんなことを考えた。思春期全開だった。

 

 そして、ルイズの方を見る。

 すると横からかすかに風が吹き、ルイズのなめらかなウェーブがかかった金髪を揺らした。

 朝の陽光が風になびいた髪を照らし、その金色の髪の表面に薄らと綺麗な桃色の輝きを浮かび上がらせた。

 

 不思議な色だ。才人はそう思った。

 

 才人が見たことのあるブロンドの髪と言えば、ブリーチで黒髪を脱色した白っぽい金髪くらいのもの。

 才人は、ルイズのような天然のブロンドというものを今まで長時間目にしたことがなかった。

 

 地球から次元を隔てた遠い異国の地で出会った、二人の少女。

 きっと自分がこの世界に喚び出されたのは、『出会い系』などという安直な恋を求めた才人を神様が見咎めたからだ。そして、自分に相応しい女性は他にいるとして、この地へと送り出して美女との出会いを運命づけてくれたのだ。ありがとう神様仏様!

 安直で能天気でヌケている才人は、この世界にはいない遠い地球の神仏に感謝した。ちなみに彼は無宗教である。

 

 才人が一人でそんな妄想をしているうちに、学院の本棟が間近に迫っていた。

 すでに授業が始まるぎりぎりの時間。他の生徒達の姿は見えない。

 だが、一人、本棟の入り口にたたずむ者が居た。

 

 学院の女子制服を着ているが、その容姿は幼げで生徒かどうかは疑問が残る。

 シャギーの入ったボブショートの青い髪。幼げな顔には赤いメガネをかけている少女。両手には大きな木の杖を抱えていた。

 

「あらタバサ。どうしたのこんなところで突っ立って」

 

 その少女の姿を見て、キュルケは気さくに話しかけた。

 どうやら彼女の知り合いのようだった、と才人は目をパチパチとしばたたかせた。少女は童顔で背が低いが、まぎれもない美少女だった。

 どうなっているんだ、異世界の顔面偏差値。実に結構。ありがたやありがたや。才人は、またもや神仏に感謝をした。

 

「……二人とも昨日は居たのに、今朝の食事にこなかった。心配」

 

「あらあらあら、もう可愛いわねぇ、この子は」

 

 キュルケはタバサと呼ばれた少女を全身で抱擁し、身体をすり寄せた。

 

「え、と、知り合い? 下級生?」

 

 突然、目の前で繰り広げられ始めた百合色のやりとりに、才人は困惑しながらルイズに尋ねた。

 

「あれでも同級生よ。ちょっとキュルケ、サイトにその子紹介するから、離しなさい!」

 

「はあーい」

 

 キュルケの抱擁から解放されるタバサ。

 その表情は、抱きつかれている最中も解放された後も同じ、無表情のままだ。

 

「タバサ、この人は私の使い魔、サイト」

 

 少女に向けたルイズの言葉を聞いた才人はとりあえず、少女に向けてペコリとお辞儀をしておいた。

 

「そしてこの子はわたし達と同じ魔法学院の新二年生。ガリアから留学してきている、シャルロット・エレーヌ・オルレアン。タバサって呼んであげて」

 

「うん、よろしくな、タバサ」

 

「…………」

 

 タバサはじっと才人を見つめると、やがてゆっくりと才人に向けて礼の姿勢を執った。

 可愛いけれど、どうもつかみ所が分からない子だ。才人は、心の中で思った。

 

「『雪風』のタバサ、『微熱』のキュルケ、そしてわたし、『魔女』のルイズの三人を合わせて、学院の三魔女と皆は呼ぶわ」

 

 ルイズは腰に手を当てて、才人に向けて胸を張った。

 

「どう考えても蔑称なのに、ルイズは気に入っちゃっているのよね」

 

「とばっちり……」

 

「ふふん」

 

 あきれるキュルケに、無表情ながら不満を口にするタバサ、そして誇るルイズ。

 その三人を見て才人は、赤青黄の信号機トリオだな、とそんなことを取り留めもなく考えた。

 

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