【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま 作:Leni
タルブ村の『竜の羽衣』は、竜騎士隊の手により魔法学院へと運ばれた。
ちなみに、運び賃は王政府の負担になった。
『竜の羽衣』は遠い異国の兵器ということで、国家事業として解析と量産計画が発令されたのだ。そのプロジェクトリーダーは、ルイズでどうかと王宮から打診があった。
王宮での執務は拒んでいたルイズだが、こういった事業への参加は大歓迎な彼女。喜んでプロジェクトリーダーを引き受け、早速とばかりにコルベールと一緒に『竜の羽衣』こと『戦闘機』の解析作業に移った。
コルベールという天才の開発力は、非常に高い。
そして、ルイズという天才の解析力も、非常に高い。
そこへ、武器の構造を理解できるという才人の能力も合わさる。
またたく間に、『戦闘機』の仕組みは丸裸になっていった。
『戦闘機』の学院到着から三日後には、その細部まで構造が見破られ、大きな紙には細かい部品までの図がビッシリと描かれることとなった。
解析作業は順調だ。
では、量産作業に目処が立っているかというと。そうではなかった。
「これは、なんとも。我々の技術力、いや、トリステインの技術力では、これらの部品は再現できないだろうな」
そのコルベールの答えが全てだった。
ハルケギニアの高度な金属加工といえば、『土』の魔法を使うことが大前提である。だが、その魔法では、この『戦闘機』に使われている加工精度は出せない。
コルベールは才人に、これらの部品は一切魔法を使用せずに作られていると聞いて、あまりもの技術格差に遠い目をしてしまった。しかも、この兵器は六十年前の骨董品だというのだ。
ここで才人が、旋盤やフライス盤、プレス機の開発といった、加工に必要なアイデアを出せればよかったのだが……。残念ながら彼は一般的な高校の出身であり、工作機械に対する知識など皆無であった。
好奇心旺盛でインターネットから多数の知識を集めてはいても、専門性が求められる分野には、てんで役に立たない一般人な才人であった。
だが、ここで状況が一変する出来事が起きる。
今回の事業の話を聞きつけたアカデミーの研究員が一人、学院に駆けつけてきたのである。
その者の名は……。
「エレオノール姉さま、なんでここに!?」
エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール。
ラ・ヴァリエール公爵家の長女。ルイズの実の姉であった。
◆◇◆◇◆
父親であるラ・ヴァリエール公爵ゆずりの金髪。美人だが、切れ目でキツめの顔。逆三角形の眼鏡。
年の頃は二十代後半の彼女は、アカデミーで三十人ほどいる主席研究員の一人であった。
だが、彼女の肩書きはそれだけではない。『大隆起』の脅威に対抗する目的で設立された新部署、実践魔法研究室の室長という、トリステインの技術研究の最先端を走る存在であった。
そんな彼女が、『戦闘機』の解析場所である、コルベールの個人的な研究室という名の掘っ立て小屋に突然やってきた。
その事態に、ルイズは少々困惑しながら、姉に対して問いかける。
「姉さま、採掘事業で忙しいのでは?」
「引き継ぎはしてきたわ。アルビオンとの戦争に備えて、新兵器の研究をしてこいと、姫殿下からの指令が来てね」
どうやら、今回の事業に虎の子の室長を投入するという、最善の一手をアンリエッタは打ったようだと、ルイズは悟った。
だが、いいのだろうか。ルイズは少々気がかりなことがあった。
「姉さま。バーガンディ伯爵さまとの婚約おめでとうございます。それで、伯爵さまを放って置いて学院に滞在していいのですか?」
そう、ルイズの姉であるエレオノールは、婚約がまとまったばかりなのだ。
彼女の年齢は当年で二十七。トリステインの貴族としては、晩婚とも言われかねない年齢だった。
「ああ、あの婚約だけど、破棄したわ」
「は?」
まさかの答えに、ルイズは固まる。
「だって、あの御方、ちょっと知恵が足りないんだもの。話が合わないわ」
そんなことを言って、エレオノールは「フン」と鼻を鳴らす。
「やっぱり、殿方は知に優れていないとね。ルイズもそう思うでしょう?」
「いえ、わたしはそこまで相手に求めませんが。……では、アカデミーの研究員に、気になる殿方が? あそこならば賢い方々も多いでしょう?」
「いえ、いないわね。あそこで、わたしやルイズを超える知性を感じたことはないわ」
バッサリと、自分はアカデミーで一番賢いのだと言い切るエレオノール。
その言葉に、ルイズは苦笑するしかなかった。
「実践魔法研究室では、わたしが一番賢いからわたしが室長なのだし、他の部署は役に立たない神学研究をすることに疑問を持たないぼんくらばかりよ」
そう、アカデミーは魔法研究所と名前がついているが、メインで行なわれている研究は、ブリミル教に関連するもの。いわば神学研究の場なのであった。
『土』の魔法に造詣が深いエレオノールが九年前、アカデミーに入所して最初に任された仕事。それは、ブリミル教の聖像をいかに美しく作れるかの研究であった。
その頃すでに『賢者』の片鱗を見せ始めていた末の妹が鼻で笑いそうな研究内容に、内心でブチ切れた彼女。だが、それを表に出すことなく研究の成果をしっかりと出し、その裏で実用的な研究を続けて周囲を認めさせていった。それが、室長への就任という結果につながったのだ。
「外の『戦闘機』なる機械は見せてもらったわ。素晴らしいわね」
「でしょう!?」
エレオノールの称賛の言葉に、ルイズは我がことのように喜んだ。
あれ、わたしの使い魔の故郷の機械よ! と、そんな事実が、なぜか彼女の自尊心とつながっていたのだ。
「で? 研究の進捗は?」
「……ふむ、ミス。私から説明させていただいても?」
と、コルベールがここで初めて発言をした。そう、この研究室には、ルイズとエレオノールだけでなく、コルベールと彼のマネージャーを自称するキュルケも詰めていたのだ。
「ああ、あなたが共同研究者のミスタ・コルベール?」
「ええ。ミス・ヴァリエールでよろしかったですかな?」
「ええ、そうお呼びいただいて結構」
そこから、コルベールによる現在までの進捗状況の説明が始まった。
そして、一通り聞き終わったところで、エレオノールがなんとでもないという顔で言った。
「分かりました。再現は不可能だと」
「ええ、加工精度がとても出せませんな」
エレオノールの言葉に、コルベールがそう答える。
すると、エレオノールは笑みを浮かべて返す。
「ミスタの発想には驚かされましたが、まだまだ考えが凝り固まっているところがあるようですね」
「む、何か見落としでもありましたかな?」
「いえ、再現はわたしも不可能だとは思いますわ。でも、無理に再現はしなくてもよろしいのではなくて?」
「再現はしなくてもいい……そうか!」
「あら、思いつきましたか?」
「ええ、ミス・ヴァリエール、あなたは素晴らしいですな! ルイズくん、キミは素晴らしい姉を持ったな!」
二人で盛り上がる様子に、一人付いていけないルイズ。
彼女はムッとして、コルベールに言った。
「どういうことですか? あの『戦闘機』を再現できなかったら、量産は不可能ということでは?」
「いや、そうとも限らないのだよ。ルイズくん、昨日、『戦闘機』の小さな模型を作って飛ばしたね?」
「ええ、ゴム動力でプロペラを回して、見事に飛びましたね」
そう、ルイズとコルベールは、才人が子供の頃に作ったという、輪ゴムを捻ってプロペラを回して飛ぶ『戦闘機』の小さな紙製の模型を空に飛ばしたのだ。
それを思い出し、ルイズもハッとなる。
「あっ! つまり、『戦闘機』の外側の形さえ整えれば空を飛ぶから、内部は細かいところまで再現しなくても……」
その答えに、エレオノールは満足そうに笑みを浮かべる。
「やっと分かったようね、ちびルイズ。大事なのは空を飛ぶための形状。そしてプロペラを回す燃料は、なにも『石油』なんて稀少な素材から抽出しなくてもいい。ちょうど今、この国でだぶついている素材があるわ」
「『風石』ですね!」
「正解」
仲よさげな歳の離れた姉妹のやりとりに、コルベールも思わず笑顔になる。
そして、彼はふと気になったことがあってポツリとつぶやいた。
「ふむ、『風石』がだぶついているのですか。新しい鉱脈でも見つかったのですかな」
それならば、空を飛ぶのにも苦労は少ないだろうと、ホッとしたコルベール。
だがしかし、一つだけ懸念が彼にはあった。
「戦争用の兵器製造、か。人類の進歩のためとは言え、あまり加担はしたくないものですな」
と、そんなコルベールのつぶやきをいつの間にか会話を止めて聞いていた、ルイズとエレオノール。
どうやら、コルベールは自分の知恵が人殺しに使われることに忌避感があるようだと、ルイズは察した。
そこで、ルイズは隣にいるエレオノールに小さな声で耳打ちした。
「例のテクストを彼に開示しませんか?」
まさかのルイズの言葉。例のテクストとは、『大隆起』の予測と対策について書かれた『ラグドリアン・テクスト』のことである。
その存在を知り、研究室を立ち上げてその対策に
「ちびルイズ!? 急に何を言い出すの!」
「ハルケギニアの未来のためには、ミスタ・コルベールの類いまれなる開発力は、必要不可欠です」
そんなルイズの主張を聞いて、コルベールをにらみつけるエレオノール。
コルベールは、キツめの顔をした彼女ににらまれ、思わず苦笑してしまう。ルイズが何を言ったかは彼のあずかり知らぬ所だが、何やらエレオノールの気分を害すことがあったらしいと察した。
そして、エレオノールのにらみつけが続くこと数十秒。
エレオノールは、閉じていた口をゆっくりと開いた。
「分かりました。わたし達の未来を
◆◇◆◇◆
「ミスタ? アカデミーへと来ませんか? わたしと一緒に研究の毎日を送りましょう!」
エレオノールの知恵試しの結果。彼女はコルベールの知恵の深さに感服し、恋に落ちていた。
これほどの知恵者、自分の末の妹以外に見たことがない。まさに、エレオノールが長年追い求め続けていた、理想の男性像そのものであった。
かなり歳は行っているが、それは結婚適齢期を少々過ぎた自分も似たようなもの。むしろ、お似合いカップルなのではと、エレオノールはのぼせ上がった。
「アカデミーですか。申し訳ないですが、学院の教師が性に合っていましてな。誘ってくれた手前、断りづらいですが、遠慮させていただきたい」
だが、コルベールを己の職場に連れ帰るという試みは、見事に失敗してしまった。
なるほど、彼は根っからの教師ということか。そう納得したエレオノールは、次のアプローチを開始した。
「でしたら、ミスタの研究のパトロンにならせていただけません?」
「おお、それはありがたいですな。実は、研究のために、継いだ家の屋敷も土地も何もかも、全て売って研究費に変えてしまったのですが、それでも資金が不足していまして。支援をいただけるならば、ありがたい」
コルベールのその研究に対するストイックさに、エレオノールの心はさらに撃ち抜かれた。
「では、わたしが個人的なパトロンとなるよりも、わたしの実家からの支援があった方がよろしいでしょうね」
「ヴァリエール家からの支援ですか!? それはまた、ものすごい話ですな」
「でも、実家から支援を引き出そうとすると、一つ条件がございまして」
「ふむ、うかがいましょう」
と、ここでルイズはピンと来た。
姉さまが、ヤバいことになっている。明らかに、恋する乙女の表情となっていると、ルイズは気付いた。
ルイズがハラハラしながら見守る中、エレオノールは思いっきり踏みこんだ。
「その、わたしと婚約していただければ、実家からいくらでも支援を引き出せますわ」
「こ、婚約ですと!?」
まさかの話の飛躍に、コルベールの頭は真っ白になった。
公爵家であるラ・ヴァリエール家の長女との婚約。しかも、ラ・ヴァリエール公爵家の当主には子息がいない。つまり、このエレオノールが継承権第一位なのだ。
途方もない話に、コルベールはどうしたものかと焦る。
すると、そこへ新たな厄介事が追加される。
「待ちなさい! 黙って聞いていれば勝手なことを!」
三人が研究を進める中で、一人ジッと話を聞いていたキュルケの参戦である。
キュルケはコルベールに近づき、彼の腕を取り、それを自身の豊かな胸に押し付けた。
「んまっ!」
突然の行動に、エレオノールが絶句する。
見知らぬ
その様子に、キュルケは余裕の表情を浮かべて、言った。
「ジャンは、あたしのものよ。ヴァリエールなんかには渡さないわ」
「まあ! ミスタ・コルベール! あなた、こんな若い婚約者がいらっしゃったんですか!?」
「いや、ミス・ツェルプストーは、婚約者でもなんでもないが……」
コルベールが弁明するようにそう言うと、エレオノールは目を吊り上げて叫んだ。
「ツェルプストー! ツェルプストーですって!? この泥棒猫が、またヴァリエール家から男を盗み取ろうというの!?」
「盗み取ろうとしているのは、あなたじゃないの! 先に目をかけていたのは、あたしよ」
「キーッ! あなたね!」
「なによ!」
「なんなのよ!」
突然始まった、ハゲ頭の中年男性を巡る恋のバトル。これには当事者のコルベールは、困惑するばかりだ。
一方、第三者であるルイズは、巻き込まれまいと少しずつ距離を取っていった。
そして、研究室から脱出したルイズは、一人思う。四十歳を過ぎてから急に来るモテ期なんてあるのね、と。
・執筆進捗
最終話まで書き終わったので、全話予約投稿しました。一日一話ずつの更新で、六月上旬に完結予定です。