【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま 作:Leni
「あなたが『異国の賢人』ね。ルイズから話は聞いているわ」
ルイズの姉、エレオノールが学院にやってきた翌日。才人はコルベールの研究室で、彼女と顔合わせを行なっていた。
才人は、一回りほど年上のキツい目をした美人に気圧されながら、とりあえず挨拶をした。
「初めまして。平賀才人です。妹さんにはお世話になっています」
「ふむ、最低限の礼儀はあると」
「……どうも」
「貴族と接するには不足しているけど、そこは文化の違いと思っておきましょう。話を聞くに、学生だったらしいし」
どこまでルイズは家族に自分のことを話したのだろう、と才人は思いながら、なんとか顔合わせを乗り切ろうと作り笑いをする。正直、何かボロが出やしないか、彼は気が気じゃなかった。
「で、早速だけど、あなたの故郷の空飛ぶ道具、『戦闘機』について聞き取りを行なっていくわよ」
「……はい。ただ、あれは六十年は昔の戦争で使われた兵器で、うちの国ではそれ以降戦争をしていないので、俺はそこまで詳しくないですけど」
「学生に兵器の詳細な知識なんて期待していないわ。一般常識でいいから答えなさい」
「あー、はい」
それから、才人はいろいろなことを話した。
『戦闘機』の操縦方法、動力機関の原理、『戦闘機』の運用方法、似ているようで少し違う『爆撃機』が祖国にもたらした被害、そして燃料の『ガソリン』について。
「なるほど、『石油』は、太古の植物の死骸であると」
『ガソリン』は何からどうやって作られるかの話から、原料の『石油』についての話題となり、エレオノールは的確に才人から話を聞き出していた。才人は、エレオノールのことを聞き上手というか聞き取り上手だな、とその話術に感心した。
「ええ。人類がこの世に誕生する以前の何千万年、何億年も前の植物が堆積して、地中で『石油』になるんです。海の中だったら、プランクトン……目に見えないほど小さな生物が折り重なって海底に堆積して、『石油』になるんだとか」
「太古の植物がもとになってできる……『石炭』と同じ成り立ちかしら」
「そうだったかな……『石油』や『石炭』、あと地中から吹き出る燃える空気の『天然ガス』とかを『化石燃料』と言います」
「『化石』って、あの地中から発掘される石化した生物の骨?」
「それですね」
「なるほど……」
才人は、限界まで頭の中身を搾り取って、エレオノールの問いかけに答えていく。
もう少し日本にいたときに勉強しておくんだったかな、と後悔の念が湧いてくる。だが、今は持てる知識を吐き出すしかない、と才人はエレオノールの聴取に応じていった。
そして。
「これが『プラスチック』……油からこんな固形物を作るとか、不思議ね」
エレオノールがルイズの持つ四色ボールペンを見て、ルイズからそれを奪おうとして取っ組み合いになり。
「『ノートパソコン』……ちびルイズ! なんでこれ報告しなかったのよ! 新規性がないって、この小さな箱一つにこれだけの機能を詰め込むことがどれだけすごいか、分かってないの!?」
ノートパソコンを見て驚いた最初のハルケギニア人として、そのすごさをルイズに説くことになり。
「継続して使うには『充電』が必要……待って、継続して使えるの? ミスタ・ヒラガ。ハルケギニアのマジックアイテムの性能を高く見積もりすぎよ。ガーゴイルやそこのインテリジェンスソードみたいに安定している品って実は少ないの。だいたいは長時間の使用で暴走するのよ!」
ノートパソコンの詳細を聞き出した彼女は、逆に才人へハルケギニアのマジックアイテム事情を説明するはめになり。
「どうにかして『充電』を実現させたいわね……あら、ジャン、何か良い案があるの? えっ、確かに『戦闘機』には『発電機』なるパーツが組まれていたけど……それを改造して『充電』!? 天才か!」
ノートパソコンの充電だけでなく発電機の解明で、トリステインの明るい未来を見いだすことになり。
次から次へと話題が変わり、才人はこの新たな天才に、次々と知識を吐き出していった。
そして、とうとう『戦闘機』とは一切関係ない、才人の故郷のあらゆる物を対象にした聞き取り調査へと趣旨が変わった。
「移動手段は、自動車……馬車に動力と燃料を積んで、馬なしで道路を走る車に乗るのが一般的でしたね」
「ああ、プロペラが回るなら、車輪もそりゃあ回るわよね」
才人は、紙と黒のボールペンを使って、故郷の物品の絵を思いつく限り描いていった。才人に絵心はないが、それでも見られない絵を描くほど不器用というわけでもない。情報を伝えるにはそれで十分であった。
「でも、俺の出身地の東京は日本の首都で、人口が一千万人を超えていたので……道路がすぐに渋滞しちゃって、自動車はあまり日常の利用に向いていませんでしたね」
「一千万って、大国の全人口じゃないの!」
「そこはまあ、食糧事情が肥料と農作機械の発達で改善したと言いますか……いや、日本は食糧自給率が低いので、多くが輸入頼りっすけど」
「交易が盛んなのね?」
「ええ、日本は島国で、船を使った大量輸送と、飛行機を使った高速輸送の二本立てで、前世紀の最大の発明であるコンテナが――」
そんな才人とエレオノールのやりとりをルイズとコルベールは、黙って見守っていた。エレオノールが聞き取り上手なら、それに任せてしまおうという姿勢だ。
「なるほど、鉄道」
「はい、鉄道です。地面に鉄のレールを二本並ぶように敷いて、そのうえにいくつも連なった鉄の自動車みたいなものを走らせて……こっちにトロッコってあります?」
「あるわね。採掘現場とかでよく使われているわ」
「そのトロッコをデカく乗りやすくして、動力とブレーキを積んで大規模に動かした物が、鉄道です。大量の人や物を陸上輸送できます」
「いいわね。最近、トリステインでは採掘事業が盛んだから、鉄鉱石は
才人はそのエレオノールの言葉を聞き、何日か前にも同じことを聞いたな、と平民メイジの隠れ里でのことを思い出した。
「でも、鉄鉱石が採れすぎて、鉄に加工する人手が足りていない状況なのよね。溶鉱炉も足りていないし、もう少し、『土』のメイジが増えればいいのだけれど」
悩ましげに言うエレオノールの姿に、才人は何かで見た製鉄の設備の情報を口にしてしまう。
「『転炉』の作り方が分かればよかったんだけどなぁ」
「……『転炉』って何?」
「あー、大量の鉄鉱石を溶かして鋼まで加工する、超巨大な炉ですね」
「どういう構造をしているの、それ!?」
「知らないッス」
「じゃあ、どういう見た目!?」
「それも知らないッス」
「役に立たないわね!」
「ひでえ!」
突然の罵倒に、才人はキレたときのエレオノールの表情が、キレたルイズそっくりだ、なんてことを思った。
すると、突然、エレオノールは目を閉じて、深呼吸を始める。才人はそれを見て、怒りを静める何かをしているのかな、とエレオノールの冷静さに感心した。ここでさらなる罵倒をしてヒステリックになるのではなく、感情をコントロールしようとするとはさすが大人の女性、なんて尊敬の目を向けていた。
そして、十秒ほど目をつぶっていたエレオノールは、才人に改めて問う。
「鉄道の他に、道を進むために有用なものは何かあるかしら? 鉱物の大量輸送をしたいのよね。鉄のレールは便利そうだけど、辺境に設置するとオーク鬼やコボルドとかの亜人種の盗難に遭って、ヤツらの武器になっちゃうのよ。だから、単独で完結している物がいいわ」
「あー、それこそ自動車のトラック……ああいや、悪路を進むために、馬車のタイヤをゴム製にするとか。こっちの馬車の車輪って木製か鉄製ですよね? でも、以前ルイズとコルベール先生が、自転車っていう乗り物を作ったときにゴムのタイヤを作ったんですよ」
その才人の答えを聞いて、エレオノールはキッとした目でルイズを見た。
「ちびルイズ、本当?」
「ああ、そういえば作ってそのままでした」
「もう! 本当にこの子はもう! 発明という物は、あなたの知識欲を満たしたらそれで終わりじゃないのよ! 人様の役に立つよう世の中に出さないと、発明する意味はないの!」
姉に叱られる妹という、一人っ子の才人にとっては珍しい光景を見せられ、才人はほんわかした気持ちになる。
そして、エレオノールによる説教が始まりそうになるが、コルベールが取り成して、再び才人への聴取へと戻る。
「ゴムのタイヤは良い案ね。なにしろトリステインにも、まだ開発されていない土地はいっぱいあるから。悪路がそこらにあふれているわ」
「だとしたら、街道整備はどうです? コンクリートで道を固めたり、あとは『石油』から作ったアスファルトで地面を固める塗装ができるんです」
「興味はあるけれど、街道整備は各領主の裁量に任されているので、鉄道と同じくらい実現は難しいわね」
「じゃあ……うーん、戦車やブルドーザーみたいに車輪にキャタピラーを付ければ、大抵の悪路は進めるでしょうね」
才人は、紙に無限軌道の絵を描き上げていく。ついでに、いくつか重機の絵も描いていった。もし製造が実現すれば、トリステインの土木事情が大きく変わるであろう代物だ。
「すごいわね、これ……素材は?」
「鉄鋼。重量が乗るから、多分、粗悪な鉄じゃ無理かも?」
「ということは、これも大量の鋼が必要ね。本当に、『転炉』の作り方が分かったらよかったのに」
「そこは専門じゃないので、知りませんとしか言えないッス。工業高校の出だったら機械工学とか鉄鋼業とかに詳しかったんでしょうけど……俺、専門性のない普通高校だったんで」
といった感じで、才人はその日、夜遅くまでエレオノールの聴取を受け続けることになったのであった。
◆◇◆◇◆
そんなことのあった日の翌日、放課後。
才人がコルベールの研究室へなんとなく訪れると、何やらルイズとコルベール、そしてエレオノールがテンションを高くして騒いでいた。
「完成!」だとか「すばらしい」だとか「さすがわたしの『錬金』ね」などと言い合っていた。
そんな天才達の輪の中に入ることを
「キュルケ、何かできたのか?」
「ああ、いらっしゃい。なんでも、『ガソリン』ができたらしいわよ」
「えっ、もう!?」
昨日の今日だぞ、と驚愕する才人。
すると、そんな才人の来訪に気づいたエレオノールが、満面の笑みを浮かべて近づいてくる。
「来たわね、ミスタ・ヒラガ。さあ、行くわよ」
「えっ、どこにですか?」
「決まっているじゃない。空よ」
エレオノールは、笑みを浮かべながら指で研究室の天井を指した。
つまりだ。
『ガソリン』が完成したので、『戦闘機』に乗って空を飛ぼうという誘いであった。
「姉さま! ずるいです! 最初はわたしが飛びたい!」
と、そこに抗議の声を上げる者がいた。ルイズだ。
だが、エレオノールはそれを鼻で笑って、ルイズに向けて言った。
「何を言っているの、ちびルイズ。ミスタ・ヒラガは魔法が使えないのよ。そうなると、実験段階での同乗者は『フライ』や『レビテーション』を使える者がなるべきよ」
そのエレオノールのもっともな言葉に、ルイズはグッと言いよどむ。
そして、本当に悔しそうな顔で引き下がった。さすがに使い魔と自分の命がかかっている状況で、知的好奇心は優先できなかったらしい。
「あら、『フライ』が必要なら、あたしのジャンでもよくないかしら?」
と、挑戦的な目を向けながら、そんな言葉をエレオノールに言うキュルケ。二人の間で火花が散る光景を才人は幻視した。
しかし、これにはコルベールが否定の言葉を上げた。
「いや、『ガソリン』は、『土』のメイジであるミス・ヴァリエールがいなければ完成しなかったでしょう。栄えある飛行実験第一号は、彼女がふさわしいでしょうな」
優しい目で、コルベールはエレオノールを見ながら言った。
その様子にキュルケは歯がみする。一方で、エレオノールはキュルケに勝ち誇った顔を向けていた。
そんな修羅場一歩手前の空気を打開するように、才人が口をはさむ。
「えーと、俺が乗るのは決定事項?」
「あれの操縦方法に一番詳しいのは、あなたでしょうが」
エレオノールのそんな言葉に、才人は納得するしかなかった。彼は『ガンダールヴ』。それが武器や兵器ならば、自在に使いこなすことができる伝説の使い魔なのだ。
そして。
二人は複座式に改造された『戦闘機』のコックピットに乗りこみ、多数の野次馬が見守る中、学院の広場から空に飛び立った。
この日、ハルケギニアの人類は初めて、純粋な『カガク』の力で空を飛んだ。
・トロッコ
ハルケギニアにも存在します。原作十八巻で登場します。ただし、動力があるのかやブレーキがあるのか等は不明です。