【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま 作:Leni
ウェールズとアンリエッタの結婚式を数日後に控えた、
各国とも、トリステインとアルビオンの間で緊張が走っていることを理解している。そのため、物々しい護衛を連れての集合となった。
その中の一国、ブリミル教の総本山であるロマリア連合皇国からは、枢機卿の一人が来た。
式次で、新郎新婦の二人に祝福を与える役割を任されている。
帝政ゲルマニアからは、皇帝自らがやって来ている。
本来ならばアンリエッタを皇后として迎えるはずだった彼だが、不機嫌な様子はなく、むしろ上機嫌で
ガリア王国からは王女のイザベラが参加。彼女はトリステインの何が気に入らないのか、不機嫌な態度を隠さないでいた。
ちなみにガリア王族のタバサことシャルロットは、式への参加予定はないようだった。
そして、残るハルケギニアの大国は、アルビオン。
アルビオンの反乱軍『レコン・キスタ』は、今では浮遊大陸を掌握し終わり、新政府を樹立。国名を神聖アルビオン共和国として、貴族議会で国を運営していくと発表していた。
その共和国の元首は、初代神聖皇帝を名乗る者であった。新たなアルビオンは帝国を名乗っているわけでもないが、トップの呼び名は皇帝である。
そんな初代神聖皇帝は、名をクロムウェルといった。元々はブリミル教の聖職者で、アルビオンにおける正式な立場としては、貴族議会の議長となっている。その彼が、今回の結婚式に参列するとアルビオン新政府は発表していた。まさかの事態に、トリステインの首脳部は彼らの思惑を読みきることができなかった。
かつてのアルビオンの内乱にて、反乱軍は王権を否定してアルビオンの王党派を
本来ならば、それを理由にトリステイン王国と神聖アルビオン共和国の戦争が始まってもおかしくはないのだが……むしろアルビオン新政府は、ウェールズとアンリエッタの婚姻を歓迎するとして、国主クロムウェルを祝いに向かわせるとまで言い出したのだ。さすがに国家元首自らの訪問となると、トリステインもアルビオンの結婚式への参列を拒否することは外交上難しかった。
この結婚式、何かが起きる。アルビオン新政府は、確実に何かを仕掛けてくる。
それは、トリステイン王政府だけでなく、周辺諸国の者達も共通して思うことであった。各国の代表者は何が起きるのやらと、ハラハラしながらトリステインでの日々を過ごすことになった。
そして本日。アルビオン大陸から、トリステインの玄関口であるラ・ロシェールへと、来賓を乗せたアルビオンの艦隊が向かってきた。
「巨大な艦だ。後続の戦列艦が、まるで小さなスループ船のように見えますな」
アルビオンの艦隊を迎えるため、ラ・ロシェールの上空で待機していたトリステイン艦隊。その旗艦の『メイカトール』号艦長フェヴィスが、艦隊司令長官のラ・ラメー伯爵へ向けて言った。
すると、ラ・ラメー伯爵は眉をひそめて吐き捨てるようにフェヴィスへと返事をする。
「あれがアルビオンの新型艦、『ロイヤル・ソヴリン』号か。
「王権の名を持つ『ロイヤル・ソヴリン』ではなく、『レキシントン』号と名を変えたそうです」
「チッ! 盗っ人
苛立たしげにラ・ラメー伯爵が言う。彼は、トリステイン王室、すなわち姫将軍アンリエッタへの忠誠心が強い。アンリエッタは、軍部を掌握している。だからこそ姫将軍などと言う通り名で呼ばれているのだ。
ゆえに、彼女の血に連なるアルビオン王家を滅ぼした反乱軍に、彼は強い不快感と不信感を抱いていた。
だが、仕事は仕事。長官として、彼は神聖アルビオン共和国の元首を歓迎しなければならない。
そんな複雑なトリステイン側の事情など知るまいと、アルビオン艦隊はゆっくりとラ・ロシェールへと降下してきた。
トリステイン艦隊がそれに併走すると、相手の旗艦は
『貴艦隊ノ歓迎ヲ謝ス。アルビオン艦隊旗艦『レキシントン』号艦長』
国同士の面子がかかった通信の名義が、たかが艦長。アルビオン艦隊の司令官のものでも、艦に乗り合わせているであろう神聖皇帝のものでもない。
その事実に、不快感をあらわにする艦長フェヴィス。だが、一方でラ・ラメー伯爵は、内心はさておき、表向きは冷静な様子で返信を指示した。
『貴艦隊ノ来訪ヲ心ヨリ歓迎ス。トリステイン艦隊司令長官』
旗を掲げた返信に、アルビオン艦隊からさらに返礼がくる。
大砲を撃ったのだ。
ただし、それは攻撃ではない。大砲に詰められた火薬を爆発させるだけの空砲である。
トリステイン艦隊からの通信への返礼であった。数は三発。
通常ではありえない、その返礼の音の大きさに、ラ・ラメー伯爵は内心恐怖を感じた。噂では、敵艦は新型の大砲を搭載したと聞くが……。そんな思いを抱えながら、伯爵は艦長に指示を出す。
「答砲しろ」
「何発撃ちますか? 最上級の貴族なら、十一発と決められております」
礼砲の回数は、相手の格式や位で決まる。そんな伝統に
「七発でよい」
相手の艦には、アルビオン新政府の国家元首が乗っているとされている。だが、指示した数は十一ですらなく、七。
これが、トリステインからの反逆者への評価だと言わんばかりの回数であった。
その相手を下に見た伯爵の指示に、艦長は笑顔で部下達に命令を下す。
「答砲準備! 順に七発! 準備が出来次第、うち方、始め!」
そして、指示通りに七発の空砲が空へと響き……。
アルビオン艦隊最後尾に位置していた、一番旧型の小さな艦『ホバート』号が、爆発を起こした。
◆◇◆◇◆
『『レキシントン』号艦長ヨリ、トリステイン艦隊旗艦。『ホバート』号ヲ撃沈セシ、貴艦ノ砲撃ノ意図ヲ説明セヨ』
『本艦ノ射撃ハ答砲ナリ。実弾ニアラズ』
『タダイマノ貴艦ノ砲撃ハ空砲ニアラズ。我ハ、貴艦ノ攻撃ニ対シ応戦セントス』
『砲撃ヲ中止セヨ。我ニ交戦ノ意思アラズ』
そんなやりとりが、アルビオン艦隊とトリステイン艦隊の間で交わされる。旗を用いた通信だ。
その内容を要約すると、次のようになる。
『トリステインの野郎! テメー、オレの仲間を撃ちやがったな? どういうことか言え!』
『ハァ!? 実弾なんて撃ってないぞ!?』
『今のが空砲なわけねーだろ! 分かった、それなら反撃するわ』
『いきなり撃つんじゃねえよ!? こっちは戦う気なんてないぞ!』
真実は果たしてどうなのであろうか。
この大事件、実際のところはというと、アルビオン側の策略であった。
トリステイン側を攻めたいアルビオン。しかし、大義名分がない。いきなり一方的な侵略などしては、中小国であるトリステイン相手だけならともかく、周辺諸国も敵にまわる可能性がある。
なので、今回の件でアルビオンはトリステインに攻撃を受けたと主張し、反撃という言い分でトリステインを攻めようというのだ。
そもそも、今回のアルビオン艦隊には皇帝のクロムウェルなど乗り合わせてはいなかった。初めからトリステインを騙すつもりで武装してやってきたのだ。
もちろん、周辺諸国もアルビオンの偽りの主張を本気にするわけもない。だが、それでも建前があるとないとでは大違いであった。
そして、大義名分を勝手に得たことにしたアルビオン艦隊は、トリステイン艦隊に砲撃を次々と浴びせかける。
そのうち、アルビオン艦隊の旗艦『レキシントン』号の新型砲は、トリステイン艦隊の砲の一・五倍の射程を誇る。
不意打ちという策と、遠距離からの一方的な攻撃が、トリステイン艦隊を襲う。
もちろん、トリステイン艦隊も不意打ちや卑劣な策を警戒していなかったわけではない。各艦はしっかりと実弾を用意してあり、いつでも戦闘に入れる準備はしてあった。
しかし、艦隊の規模はアルビオンの方が上であった。
アルビオンはその独自の森林保護政策により、木材が豊富なのだ。それにより軍艦の所持数が多く、しかも建造技術にも優れていた。
そんな数と質の差により、戦いはアルビオンの優位に進み……。トリステイン艦隊は司令長官のラ・ラメー伯爵が乗る旗艦を落とされ、混乱のうちに敗走を開始した。
◆◇◆◇◆
トリステイン艦隊敗北の知らせは、すぐにトリスタニアの王宮へと届けられた。
それを受けて、軍部を掌握している姫将軍アンリエッタは、すぐに将軍や大臣達を集めて対策会議を実施。どう対処を行なうかの話し合いが開始されようとしたところで、アルビオン新政府からの宣戦布告文が届いた。
『自衛ノ為、神聖アルビオン共和国政府ハ、トリステイン王国政府ニ対シ宣戦ヲ布告ス』
そんな一文で締められた、トリステインを責める言葉が詰まった一方的な宣戦布告であった。
この布告文は、結婚式に合わせてやってきていた各国の代表者にも公開されている。恥知らずなアルビオンの所業を各国に知らしめようという、トリステイン側のあがきの一環である。
「まったく、小賢しいこと。誰がこんなことを信じるものですか。反乱軍は、後世で卑怯者のそしりを受けることでしょう」
今にも宣戦布告文を破り捨てたい気持ちになりながら、アンリエッタが
すると、会議に参加していたグラモン
「しかし、姫将軍殿下。式の前ですから、ゲルマニアとの軍事同盟もまだ締結されておりません。いかがいたしますか」
そう、ゲルマニアとの同盟は、結婚式と戴冠式を済ませた後に、国王となったウェールズが正式に結ぶ予定であったのだ。
だからこそ、今回の式に、ゲルマニアの皇帝がわざわざ参列する予定だったというわけである。
その皇帝の所在をアンリエッタは秘書官に問いかける。
「ゲルマニアの皇帝陛下は、いずこに? 今すぐ臨時同盟を結ぶことも検討しませんと」
「戦に巻き込まれてはかなわんと、国もとへと帰還するようです。これは、ガリアもロマリアも同じです」
「まったく、つれないわね」
周囲の国々は、様子見に
だが、不安なものは不安だ。そんな会議の参加者の一人が、アンリエッタに問う。
「姫さま、どう動きますか」
「当然、戦います。ウェールズさまをこちらが抱えている以上、どうあっても反乱軍が止まることはないでしょう。しかし、ラ・ロシェールはもう陥落しているでしょうから……」
アンリエッタは、広いテーブルに広げられたトリステインの地図を見下ろす。
そして、ラ・ロシェールを指差し、そこから指を横に動かして、言う。
「ここね。タルブの草原。ここで迎え撃ちます。当然、わたくしが総指揮を執ります」
アンリエッタが指さすその地図の地点には、ラ・ロシェールの山の
ううむと、うなり声をあげる一同。彼らは、トリステインとアルビオンの間に広がる戦力差を想像して、厳しい戦いになることを覚悟した。内乱で国が乱れたアルビオンだが、それでもなお、航空戦力はアルビオンの方が上。
さらに、アルビオン側からこのタイミングで仕掛けてきたということは、戦争準備を完璧に整えての侵略なのであろう。アンリエッタの結婚式のために各国を迎え入れる用意を進めていたトリステインは、戦争の準備が未だ万全とは言いがたかった。
今回のアルビオン艦隊来訪で、アルビオン側からなんらかの策を仕掛けられると、トリステインの軍部は事前に予想していた。しかし、反乱軍『レコン・キスタ』がアルビオンの王党派を打倒してから、まだ一ヶ月も過ぎていない。新政府樹立から見ると半月すら経っていないのだ。
ゆえに、この段階での本格的な開戦は、軍部としては想定をしていてもあくまで低い可能性のことであると判断していたのだ。
そんな事情から、軍部の者達は一様に難しい顔をしている。だが、ここにきてなお冷静な表情を崩さぬアンリエッタ。その彼女の姿に、皆は頼もしさを覚えた。
ここにいる皆は、アンリエッタがアルビオン新政府との内通者を
だが、このままでは戦況が厳しいものとなるのは必至。ゆえに、会議の場に座るグラモン元帥が、皆を代表するようにアンリエッタへと尋ねた。
「殿下、何か策がおありかな?」
その問いに、会議室にいる皆の期待の目がアンリエッタに集まる。
するとアンリエッタは、ここに来て初めて笑みを浮かべて、答えた。
「すでに、頼もしい仲間へと連絡を取っております。大丈夫、勝てます。我がトリステインには、『始祖』と『
そう断言する姫将軍アンリエッタの言葉には、強い意志と友への期待が込められていた。