【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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64.戦いのとき来たる

 アンリエッタが宣戦布告文を受け取り、会議の場で開戦を宣言した同時刻。

 トリステイン魔法学院では、三人の天才達が『戦闘機』の研究を続けていた。

 

 初めて『戦闘機』が空を飛んで以降、数日掛けて試験飛行を繰り返した彼女ら。

 研究室という名のボロ小屋には常時エレオノールが詰め、コルベールは授業がある時間以外はここへと戻る。ルイズと才人、キュルケの三人は放課後になってここへ訪れる。そんな習慣が、いつの間にかできあがっていた。

 

 今日も授業が全て終わり、ルイズ達三人がボロ小屋へとやってくる。そこでは、エレオノールとコルベールが、いつものように討論を行なっていた。

 

「操縦をしながら機銃の操作も行なうとなると、もっと操作系を単純化する必要があるわね。このままでは、開戦までに飛行訓練が間に合わないわ」

 

「となると、やはり複座式ですかな?」

 

「それもどうでしょうね。貴重なメイジを二人も乗せると、せっかくの数の優位がなくなるわ。だからといって、今の開発初期段階で非メイジを乗せることは、人命軽視と取られても仕方がないでしょう」

 

「ふむ、人命優先が大前提ですか。その理念には大いに共感できますな」

 

「まあ! こんな話、アカデミーでは鼻で笑われるのに、ジャンは慈悲深い御方ね!」

 

「アカデミーならば、そう扱われてもおかしくないですな……」

 

 仲良さげな二人の会話に、キュルケがハンカチを取り出し両手で端を握り、全力で引っ張る嫉妬の姿勢を見せる。だが、ルイズと才人は、いつものことだとスルーした。

 代わりに、才人はエレオノールが用意したであろう、新しい試作兵器の使用マニュアルを手に取り、読み始めた。

 小難しい専門用語が排された、素人目にも分かりやすいそのマニュアルを才人はスラスラと読み解いていく。

 

「サイトもスッカリこっちの字を読めるようになったようね」

 

 才人の横からマニュアルを覗き込みながら、ルイズがそんな感想を述べた。

 すると、才人はマニュアルから目を離さずに言葉を返す。

 

「あー、多分これも謎の翻訳能力の恩恵だな」

 

「そう。今まで使い魔が文字を読もうと試みたケースは少ないから、貴重なサンプルね。異世界の文字を知っている上での学習だから、動物の使い魔が字を覚えるよりもはるかに早いわね」

 

「それよりも、この、試作ミサイル兵器について聞きたいんだが……」

 

 マニュアルに描かれた新兵器の概要図を指差しながら、才人がルイズへと言う。

 すると、ルイズはその兵器を事前に知っていたのか、付けられた開発コードを口にした。

 

「『空飛ぶヘビくん』ね」

 

「ネーミングぅ……」

 

「そこはまあ、ミスタ・コルベールのセンスだから、わたしに言われてもね」

 

 フライング・スネークと勝手に心の中で思っておこう、と才人は考え、本題であった質問をルイズへとぶつける。

 

「これ、フレンドリーファイアの危険性無いか?」

 

「その可能性は大いにあるわね。だから、できるだけ孤立した状況で放つ兵器よ。でも、いずれは識別できる何かを友軍に持たせるつもり」

 

「敵にその識別用の何かを解析されたら、当たらなくなるってことか」

 

「そうなのよね。でも、サイトが言ったロックオン機能は、今のわたし達では高度すぎて時間がかかるわ。ガーゴイルの技術で、簡易な知能を兵器に持たせることもできるのだけれど……それをすると費用がかさむわね」

 

「もともとミサイルは向こうの世界でも一発で家が建つとか、それくらいの高級品だよ。爆弾とか銃弾は安価だけど」

 

 戦闘機用の誘導ミサイルが、一発何千万円だとか何億円だとか言われていたインターネットでの話を才人は思い出しながら言った。ちなみに、地雷は一個数百円という話も才人は思い出した。非人道的過ぎる兵器なので、才人は地雷の知識を披露するつもりはなかった。

 兵器は人を殺すためにある。その知識を無闇にこの異世界に広めてしまって、本当によかったのかと才人は今さら悩んでいた。

 そんな才人の内心を知らぬまま、ルイズが言う。

 

「ま、『空飛ぶヘビくん』の担当はミスタ・コルベールだから、改良はそちらに任せましょう」

 

『空飛ぶヘビくん』という、ハルケギニアでも今までなかった新兵器をこの短期間で開発してみせたコルベール。

 この通り彼は、『戦闘機』の解析と量産機開発だけでなく、『戦闘機』に搭載するための兵器開発も行なっていた。

 

 先日、ルイズはコルベールにも、『大隆起』について書かれた文書『ラグドリアン・テクスト』を公開することになった。そして、戦争の早期終結の大切さをルイズとエレオノールが、二人がかりで彼に説いた。

 その結果、殺しと破壊を嫌う彼も、人類の滅亡がかかっているとなってか、兵器開発に同意してくれた。

 

 そんな彼は、自身のことよりも、若い少年である才人のことを心配した。

 ハルケギニア出身ではない、召喚によって呼び出された才人。そんな才人は武器や兵器を自在に操る『ガンダールヴ』だ。

 ゆえに、量産型戦闘機の操縦を指導する教導官になってほしいと、トリステイン王政府から要請が来ている。そのため、サイトはなんらかの形で戦争にも巻き込まれるであろうと、コルベールは見ていた。

 

 そんな運命に翻弄(ほんろう)されつつある才人に、コルベールはあるとき言った。

 慣れるな、と。

 

 人の『死』に慣れるな。それを当たり前だと思うな。思った瞬間、何かが壊れる。

 (いくさ)に慣れるな。殺し合いに慣れるな。『死』に慣れるな。

 

 コルベールは真剣な目で、才人へとそう語った。

 タルブ村でキュルケが語ったところによると、コルベールはオーク鬼の群れを『火』の魔法にて一瞬で殺し尽くしたのだという。

 そんな破壊の魔法を使いこなすに至った過去が、彼にはある。だからか、才人はコルベールの言葉をとても重たいものであると感じた。

 

 コルベールは過去のなんらかの出来事で、何かが壊れてしまった人なのだろう。

 そう思う才人に、コルベールはさらに語った。

 

 わたしには夢があるのだ。それは、魔法でしかできないことを、誰でも使えるような技術に還元することだ。

 だから、才人くん。戦いに行くこととなっても、死ぬな。

 キミの故郷の話を私はまだまだ聞きたいのだ。

 

 そんなことをコルベールから告げられた才人は、コルベールに兵器開発をさせる戦争というものに、怒りを感じた。

 彼にはもっと、自由で平和な技術開発をしてもらいたかった。才人は、兵器の使用方法が載ったマニュアルを読みながら、そんなことを思うのであった。

 

 そして、マニュアルを読み込むことしばし。複座式に改造されているという『戦闘機』のコックピットを見ようかと、才人が座っていた椅子から腰を浮かそうとしたところ。

 不意に、研究室にノックの音が響いた。

 すると、すぐさまキュルケが動いて、研究室の扉を開けにいく。

 

 こんなところに訪ねてくるとは、物好きの生徒がイタズラにでもしに来たのだろうかと、才人はわずかに警戒する。

 だが、キュルケが開けた扉の向こうにいた者は、学院の生徒ではなかった。

 教師でもない。学院長でもない。使用人でもない。

 それは、この学院とは関係の無い部外者。

 

 二十代前半の金髪の女性。マントを着けており、貴族であることがうかがえる。

 才人には見覚えがない人物だが、隣にいるルイズは面識があったようで、「あっ」と声を上げていた。

 そんな金髪の女性は、部屋へと一歩踏みこむと、周囲を見回し、言った。

 

「トリステイン王国王女付き秘書官、アニエス・シュヴァリエ・ド・ミランと申します。本日は、アンリエッタ王女殿下より、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール殿に指令を伝えに参りました」

 

 彼女は、アンリエッタが(つか)わした使者であった。

 戦争が、始まる。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 アニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン。

 トリステインの姫将軍であるアンリエッタが設立した隠密隊の長である。

 だが、隠密隊の存在は、極秘事項。そのメンバーや構成人数などは、隊の長とアンリエッタしか知らない国家機密である。

 

 隠密隊の長の立場を隠さねばならぬアニエスであるが、王宮内を自由に行き来するために、王政府から表向きの役職がしっかりと与えられている。それは、アンリエッタの個人的な護衛兼秘書官。

 

 彼女は貴族の一人と数えられる騎士(シュバリエ)の位を持ち、その証であるマントを着用している。だが、彼女は杖を持っていない。代わりに、短剣と銃を携帯していた。

 そう、彼女は魔法を習えぬ平民出身でありながら、今の地位まで成り上がった女傑(じょけつ)なのだ。

 ルイズの平民への魔法教育の施策で彼女も魔法の素養があるとは判明している。だが、まだ『念力』の魔法しか使えないため杖は携帯していない。

 

 そんなアンリエッタの懐刀(ふところがたな)である彼女は、部屋に入って名乗りを挙げると、さっそくとばかりに目的の遂行に移った。

 アンリエッタからの指令書をルイズに渡したのだ。

 

 そこには、アルビオンからの宣戦布告を受けたという最新の情報と、敵軍が通るであろう予測ルートと開戦場所が書かれていた。

 さらに、ルイズへの指令として、使い魔が操縦する『戦闘機』に乗って『エクスプロージョン』にて敵艦隊を撃て、とあった。

 

 その内容をしっかりと確認したルイズは、横にいる才人にもその指令書を見せる。

 すると、才人はすぐさま覚悟を決めた顔となった。

 異世界人である才人が、この戦いに(おもむ)く義務などない。だが、彼は自分のご主人様を一人で戦争に行かせて黙っていられるほど、薄情ではなかった。ここで行かねば男が(すた)る。湧き上がる勇気と共に、彼はそう思ったのだ。

 ゆえに才人は、指令書をルイズに返して出発の準備を始めた。

 

 その慌ただしい様子に、何事かといぶかしげな目になるエレオノール、コルベール、キュルケの三人。

 そんな中、エレオノールが真っ先にルイズへと問いかけた。

 

「ルイズ、何事?」

 

「戦争が始まりました。姫さまからの命令で、今すぐ出撃します。姉さま、ミスタ・コルベール。『戦闘機』の準備を」

 

「出撃!? どういうこと!? なんであんたが、いきなり出撃なのよ!」

 

「アルビオン艦隊に、トリステイン艦隊は敗北しました。なので、わたしが飛んでいってアルビオン艦隊を落とします」

 

「できるわけないじゃない! 姫さまは何を考えているの!?」

 

「いいえ、できます」

 

「あんたの爆発魔法がいくら強力でも、無茶よ! 死にに行くつもり!?」

 

 そんなエレオノールの叫び声に、ルイズは姉に愛されていることを実感しつつ、笑みを浮かべて答えた。

 

「大丈夫です、姉さま。実はわたし、自分の本当の系統に目覚めたんです」

 

 ルイズはそう言ってから、コモン・スペルを唱えて、右手の指先を振った。

 すると、ルイズの手の中の指令書が浮き上がり、ヒラヒラと紙が舞いエレオノールの方へと移動していった。

 そして、エレオノールの手に指令書が収まったところで、ルイズは一言、言った。

 

「ね?」

 

「今のは『念力』……ルイズ、あなた、普通の魔法が使えるようになったの?」

 

「はい。自身の系統も分かったので、それで艦隊を落としてきます」

 

「もしかして『風』の『スクウェア』にでもなったとでも言うの? それでも、さすがに艦隊の相手をするのは無理でしょう?」

 

「『風』ではありません。ただ、艦隊を落とすに足るものであると今は言っておきます」

 

 艦隊を落とす魔法とはなんだ? エレオノールは脳内でグルグルと考えを巡らす。

『トライアングル』以上の王族が二人そろったときにしか使えないという、ヘクサゴン・スペルか。確かにラ・ヴァリエール家はトリステイン王家の血を引く公爵家だ。その素質は十分ある。

 

 いや待て。もう一つ可能性があった。エレオノールはハッと表情を変えた。

 それは、伝説の系統。始祖ブリミルが操ったという五番目の魔法。

 

 考えて見ると、ルイズは使い魔の存在からしておかしい。

『戦闘機』は何十年も前の兵器で詳しくないと言いつつ、操縦を完璧にこなしてみせ。

 新しく搭載したばかりの新兵器もすぐに使い方を把握し。

 研究室にいないときは、学院の広場で達人級の剣技を操ってみせる。

 それはまるで、伝説に語られる――

 

「ちびルイズ、あなたまさか……」

 

 真相に辿り着いたエレオノールは、ルイズにその答え合わせを試みようとする。

 だが、ルイズはそれを中断させるように、声を上げた。

 

「エレオノール姉さま、それ以上は国家機密です。詳細は、(いくさ)から戻った後に」

 

 そう言われてしまえば、エレオノールはそれ以上何も言うことはできない。

 なので、彼女はすぐさま意識を切り替え、『戦闘機』を試験飛行させるために貯蓄しておいた『ガソリン』をタンクが満タンになるまで注ぎ込んでおこうと動き出す。

 

 そして、ルイズ、才人、エレオノールが研究室から飛び出したところで、遅れてコルベールとキュルケも外へと向かおうと室内での準備を終えて扉へと近づく。

 だが、そこで黙って彼らを見守っていた秘書官のアニエスが、コルベールへするどい目線を向けながら、言った。

 

「『魔法研究所(アカデミー)実験小隊』元隊長、ジャン・コルベールだな?」

 

 その言葉に、コルベールはピタリと動きを止めた。

 何事かと、キュルケがコルベールへと振り返ったところで、アニエスがさらに言う。

 

「『ダングルテールの虐殺』を知っているか?」

 

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