【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま 作:Leni
トリステイン魔法学院。その正門から出た先には、草原が広がっている。
春にはここで使い魔召喚の儀式が行なわれ、異世界である地球から才人が喚び出された。
その草原だが、当時より風景が様変わりしていた。
草原のど真ん中に、ハルケギニアにはあるはずのない地球式の『滑走路』と石造りの『格納庫』が存在していたのだ。
その二つは、ルイズらコルベール研究室の三人の天才達が『戦闘機』を飛ばして保存するために、
草原を割るようにして作られたその『滑走路』だが、なんとアスファルト製だ。
コルベールが陸上油田を行き来して溜め込んでいた『石油』。それを『土』のメイジであるエレオノールが、『錬金』で加工した。まさに出来立てホヤホヤの新発明であった。
一方、『格納庫』はこれまたエレオノールが、片手間で『土』の魔法を用いて作ったものだ。貴重な『戦闘機』を野ざらしにするわけにはいかないとの判断で、作り上げたばかりの建物である。
その格納庫に置かれた『戦闘機』、正式名称を『零式艦上戦闘機五二型』。通称を『ゼロ戦』という。
才人は、その『ゼロ戦』のエンジンを手際よく始動させた。
「いい? この『戦闘機』は貴重なサンプルなの。絶対に機体ごと無事に生きて帰ってきなさいよ!」
エレオノールのそんな声を聞きながら、才人は各種の点検を手早く行なっていく。
調子は良好。その事実に、才人は笑ってしまう。六十年以上も前の兵器がこうやって今も動くのだから、シエスタの曾祖父が高い金を貴族に払ってかけてもらったという『固定化』の魔法は本当にすごい。いわば、この『ゼロ戦』は地球の科学とハルケギニアの魔法が組み合わさった、奇跡の兵器なのだ。『場違いな工芸品』という呼び名も、割と合っているかもしれないと、才人は点検をしながら思った。
その『ゼロ戦』。もしこのまま戦場に投入したとしても、十分活躍するだろうとエレオノールが先日、才人に語っていた。
ハルケギニアでは未だ開発されていない超々ジュラルミン製の翼と、鉄の装甲。それらに対して、エレオノールが厳重に『硬化』の魔法を掛けてある。その堅牢さは、軍艦が撃つ散弾にも耐えられるとエレオノール本人が太鼓判を押すほどであった。
なお、エレオノールは先日、アカデミーの伝手で手に入れたボーキサイトからアルミニウムの『錬金』に成功している。そのため、超々ジュラルミンが『錬金』の魔法で誕生する日も近いかもしれない。
『戦闘機』の量産計画は順調に進んでいた。だが、今回の開戦に量産機の生産は間に合わなかった。ゆえに、才人は『虚無』の魔法を使うルイズを運ぶため、サンプル機のはずのこの『ゼロ戦』で出撃しなければならない。
その事態は、エレオノールも想定外であったようで、彼女は機体の外から才人に向けて叫んだ。
「機銃の弾はサンプルとしていくつか確保してあるけど、まだ再現はできていないわ! くれぐれも慎重に使いなさい! でも、危なそうなら出し惜しみしないこと!」
どっちだよ、と才人はエレオノールの言葉に突っ込みたくなったが、言わんことは分かると口をつぐんだ。
そうして才人は、各部の点検を終え、機体へと乗りこむ。すると、彼とは別口で点検作業を行なっていたルイズも、操縦席の後ろに新設した後部座席に乗りこんできた。
彼女の腰には、『始祖の祈祷書』を持ち運びするための革製の鞄がぶら下がっている。もちろん手の指には、アンリエッタから借り受けた『水のルビー』が
ルイズの今回の役割。それは、アルビオン艦隊に『エクスプロージョン』の魔法を撃ち込むことだ。一方、才人は、その魔法の詠唱が完成するまでの時間を稼ぎ、魔法の射程までルイズを運ぶことが役割である。
「いやはや、すごい時代になったもんだね。『ガンダールヴ』の槍がこんなサイズになるなんてな」
ふと、そんな声がコックピットに響いた。才人が機体に持ち込んだデルフリンガーの独り言である。
使い魔のルーンから流れ込んでくる操縦方法の再確認に意識を集中させていた才人は、それを見事にスルーした。が……ルイズはハッキリとその言葉を聞いていた。
「この『戦闘機』が『ガンダールヴ』の槍なの? 明らかに乗り物なのに?」
「おうよ。娘ッ子よ。ブリミルの野郎が生きていた時代、槍はどんな扱いをされていたと思う?」
「六千年前の槍……ああなるほど、槍というのは当時の『最新兵器』ね」
「おお、正解だ。話が早えな。槍ってのは当時、最大の射程を誇る武器だったわけだ。剣より長く、投げるのも容易ってね」
伝説の使い魔『ガンダールヴ』は、左手に剣を持ち主人を守り、右手に槍を持ち敵を打ち倒したとされる。
ここでいう槍とは、そのときどきでの最先端の武器のことを言うのだろう。デルフリンガーの言うことをルイズなりに解釈した結果、彼女はそう結論付けた。
「つまり、ここに『ガンダールヴ』の剣と槍がそろったってことね」
ルイズは、機体の空きスペースに置かれたデルフリンガーをジッと見つめながらそんなことを言った。
すると、鞘からわずかに刀身を覗かせたデルフリンガーは、金具をカタカタと鳴らしながら言葉を返す。
「俺が『ガンダールヴ』の剣だって話、したかね?」
「あんたの普段の言葉を聞いていれば、いくらなんでも察することはできるわよ」
この喋る魔剣デルフリンガーは、六千年前に始祖ブリミルの使い魔が使っていた、伝説の剣。ルイズとデルフリンガー本人は、そう言っているのだ。
そんな会話をようやく心に余裕ができてきた才人は、しっかりと聞いていた。伝説の剣が、場末の武器屋に売っていた。店主が付けた価格は、十エキュー。ルイズに召喚されて、割とすぐの頃の話である。才人が好きだったテレビゲームで言うと、冒険序盤。
なんつーか、運命的というか偶然にしては話ができすぎだな。と、才人はぼんやりと思った。
「デルフ、お前、ずいぶんなおじいちゃんなんだな」
「剣は歳を取らねえっつーの。錆びはするけどな!」
「『固定化』の魔法がかかっているにしても、研ぎはしているわよね。六千年前に作られたころと比べると、サイズが小さくなっているのかしら……?」
三人でそんなやりとりをしているうちに、『格納庫』へコルベールとキュルケ、アニエスが姿を見せた。
機体からその三者を見下ろす才人。だが才人は、コルベールの顔を見て、ギョッとした顔を浮かべてしまう。
彼の左頬に、明らかに殴られた跡があったのだ。
思わず才人は、身を乗り出した。
「コルベール先生!? その顔!」
エンジン音に負けない声量で、才人が叫ぶ。
すると、ムスッとした顔をしていたアニエスが、堂々とした態度で言った。
「私が殴った」
才人の耳には届かなかった、その言葉。だが、『ゼロ戦』を外部から再確認していたエレオノールがそれを聞きつけ、怒りの表情を浮かべる。
だが、コルベールはエレオノールの肩に手を置き、落ち着くように
「いや、私の過去に関することで、彼女とは因縁があってね。深くは追及はしないでほしい」
エンジン音で会話は聞こえなかったが、才人はコルベールの表情を見て、どうやら
一方、エレオノールはというと、まさか過去の女か、などと騒ぎ始めた。だが、それはないだろうと才人は上から見ていて思う。コルベール研究室に残っていたキュルケが、大人しくしているからだ。彼女は、コルベールとアニエスのやりとりをその場で見ていたはずなのだ。
そんなキュルケは、エレオノールに「
エレオノールは怒りっぽい性格をしているため、普段はアンガーコントロールを意識的にするよう努めている。だが、初恋の相手であるコルベールの事に関しては、その意識も簡単に飛んでしまうようだった。
実際のところ、なぜコルベールが殴られるかに至ったかについての遠因は、先刻、トリスタニアから出撃したアンリエッタにあった。
アンリエッタは、アニエスに指令書の輸送以外にも、一つの任務を任せていた。それは、始祖の指輪『炎のルビー』の回収だ。
アニエスは先ほどコルベールに対し、彼が二十年前『ダングルテールの虐殺』を実行した際に手に入れた『炎のルビー』の譲渡を迫ったのだ。
始祖の指輪である『炎のルビー』は、本来はロマリアに伝わる秘宝。戦争でのロマリアの態度を左右する重要な宝物であった。
その指輪回収の過程で、アニエスは自身が『ダングルテールの虐殺』の生き残りだと、コルベールに明かした。それを聞いたコルベールは謝罪をし、その場で罰してくれても構わないと言い出し始めた。そこでアニエスは、一発殴ることでその場を収めたのだ。
アニエスは幼少期より復讐のために生きてきた人物であるが、戦時へと突入したこの状況で、重要人物であるコルベールを殺害するほど短絡的ではなかった。
そんなコルベールとアニエスのやりとりを最後まで見ていたキュルケ。一方、エレオノールはそのやりとりを見ていない。その違いが、コルベールに対する理解の差となり、キュルケがマウントを取っているようにエレオノールは感じ取ってしまったのだ。
仇の男をめぐったキャットファイトを始めた女二人という、キワモノを見るはめとなったアニエス。彼女は、騒ぐエレオノールとキュルケを無視して、機体に乗る才人を見上げて叫んだ。
「姫殿下は、ラ・ロシェール近郊のタルブ草原が戦場になるとは言っていた! だが、実際にどうなるかは分からん! 臨機応変に頼むぞ!」
「分かりました!」
才人は、タルブ村への道順を頭の中で思い浮かべながら、出発のために風防を閉めようとする。
だが、そこへ声がかかった。左頬を真っ赤に腫らしたコルベールである。
「サイトくん! ルイズくん!」
その声に、才人と、そしてルイズが振り向く。
そんな二人に、コルベールは己が出せる最大の声量で叫んだ。
「生きて帰ってこい!」
その言葉を受け、ルイズは笑顔を返し、才人は右手を掲げてサムズアップを返した。
そして風防が閉じ、『ゼロ戦』のエンジンがうなる。
格納庫から『ゼロ戦』がゆっくりと出ていき、そして『滑走路』を走る。
やがて。最新の『ガンダールヴ』の槍が、魔法学院からタルブへと向けて、飛び立った。
◆◇◆◇◆
トリステインの艦隊を蹴散らしたアルビオン軍は艦隊から兵を降ろし、タルブの草原へと陣を張りつつあった。草原に展開した兵力は約三千。
そこへ、再編成されたトリステイン艦隊が乗せた軍勢が到着し、未だ占領がされていなかったラ・ロシェールの町へと臨時で集めた兵二千と、事前に集めていた兵一千が展開。タルブの草原を舞台に、今にも戦端が開かれようとしていた。
そんなタルブの草原の近くには、一つの村落がある。学院の使用人であるシエスタの故郷、タルブ村だ。
そのタルブ村に、アルビオン軍から飛び立った竜騎士部隊が向かっていた。目的は、村の焼き討ち。陣の近くに村があっては、夜襲などの拠点にされてしまう。そんな懸念から来る、戦略的な判断であった。非道だが、妥当な判断である。
油壺を搭載した火竜と護衛の風竜が、タルブ村へと迫る。
上空から油壺を落とし、火竜に火炎のブレスを吹かせれば、木造の家々が並ぶ村は、またたくまに火の海となるであろう。
必死に逃げ惑う村人達。迫る火竜。今にも村の焼き討ちが始まろうとしていた、そのとき。
ハルケギニア最速と言われる風竜の最高速度をはるかに超える速さで、謎の飛行物体が火竜のそばを通過した。
それと同時、誰も聞いたことのない音が響き……火竜は胴体に複数の穴を
「なんだ今のは!?」
火竜の護衛に付いていた竜騎士の一人、風竜にまたがるメイジは、謎の存在による襲撃に混乱をきたした。
それは、空の向こうからやってきた。
遠目に見たときはトリステインの竜騎士かと彼らは思ったが、想像していたよりも速い接近に、対応が遅れた。
そして、その謎の竜らしき存在は、ドラゴンブレスともメイジの魔法とも思えぬ謎の攻撃で、作戦の要であった火竜を落としたのだ。
そんな謎の竜は、弧を描くようにして宙で
「くっ! なんだというのだ!」
竜騎士は、混乱する頭をなんとか
だが、しかし。
全力で飛ぶ風竜の後ろに、その謎の竜は独特の轟音を立てながら、ピタリと付けてくる。
その謎の竜は自身の風竜よりも速く空を飛び、彼らと交差するように追い抜いていく。
そして、彼は悟った。攻撃を受けたと。その直後に、彼は宙へと投げ出された。
彼は見た。己の愛竜の腹が、血で真っ赤に染まっているのを。
その衝撃の光景に、彼は『フライ』の魔法を唱えることも忘れ、草原へと落下していった。
やがて。
天下無双と
・零式艦上戦闘機五二型
原作ではただゼロ戦とだけ呼ばれていますが、アニメ版ではこの五二型の形状をしているそうです。
一人乗りの機体なので、いろいろと取り外しても正直なところ原作でやっていたような二人乗りは辛そうですが、本作品ではコックピットを丸ごと改造することで後部座席を追加したという設定です。才人に操縦させて一緒に空を飛びたいがために、貴重なサンプルを改造する天才三人組の暴挙……!