【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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66.タルブ解放戦

 やった。

 タルブ村を襲わんとしていた竜の群れを打ち倒した才人は、内心で喜びの声を上げた。

 その直後、才人は、かつてコルベールから言われた言葉を思い出して、ハッとなる。

 

 人の『死』に慣れるな。それを当たり前だと思うな。思った瞬間、何かが壊れる。

 戦に慣れるな。殺し合いに慣れるな。『死』に慣れるな。

 

 そうだ。タルブ村を守れたことは喜ばしいこと。だが、自分は今、竜に乗っていたメイジを落としたのだ。

 メイジは自力で空を飛べるとはいえ、魔法が間に合わず地面に叩きつけられた者もいたかもしれない。機銃が命中した者もいたかもしれない。

 死んだかもしれない彼らは、軍人として任務を遂行(すいこう)しようとしていただけなのだ。だから、殺した数を誇るな。才人は自分をそう(いまし)めた。

 

 そして、(はや)る気持ちを押さえつけ、才人は己の責務を(まっと)うするべく動く。

 それはすなわち、臨時に備え付けられた後部座席にいるルイズに『虚無』の魔法を撃たせるため、敵の艦隊へ少しでも近づくことだ。

 才人は、操縦桿をギュッと握りしめ、後部座席に座るルイズに向けて叫んだ。

 

「ルイズ! 準備はいいな? 突入するぞ!」

 

「ええ。詠唱を開始するわ。任せたわよ」

 

 ルイズはそう答え、『始祖の祈祷書』を開き、そこに浮かびあがった古代語のルーンを読み上げ始める。

 メイジの使う魔法は、事前にルーンを唱えて待機させておくことが可能だ。しかし、待機させておく時間にも限度があるため、こうして突入と共に詠唱を開始する必要があった。

 

 エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ。

 

 ルイズの詠唱が、コックピット内に響く。

 すると、才人は己の左手に熱を感じた。使い魔のルーンが、主人の詠唱に反応しているのだ。

 それと同時に、才人は己の心の内から無限の勇気が湧いてくるような感覚を覚えた。

 

 なるほど。才人は思った。どうやら、『ガンダールヴ』という存在は、正真正銘、主の盾となり、詠唱を完成させるための一種の防衛装置であり、兵器であるらしい。

 才人は、操縦席の脇に置いたデルフリンガーをチラリと見る。だが、才人はそこで何も言うこと無く前に向き直り、デルフリンガーがいうところの『ガンダールヴ』の槍の操縦桿を強く握った。

 そして、草原に陣を張るアルビオン軍の上空に展開している敵艦隊へ、『ゼロ戦』を突っ込ませた。

 

 オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド。

 

 敵艦隊へと近づくと、才人達の接近に気付いたのか、すぐさま陣から竜の群れが飛び立ち、彼らの前に立ちはだかる。当然、竜の上には騎士が乗り合わせていた。アルビオン自慢の竜騎士隊である。

 だが、まだ散開していないその竜の群れに向けて、才人は『空飛ぶヘビくん』の発射レバーを引いた。コルベールが開発した新兵器である。

 

 すると、ロケット推進の巨大な火矢が十発、『ゼロ戦』から一斉に飛び出した。

 SFロボットアニメでこんなミサイルの発射シーンがあったな、なんて思いながらも、才人は『空飛ぶヘビくん』の行方を目で追った。

 

 敵の竜騎兵も、迫り来る火矢を回避しようと懸命に竜の手綱を操る。

 しかし、この火矢は『ディテクトマジック』で魔力反応を追って追尾する新兵器。散開しようとした竜騎兵は、次々と火矢に撃ち落とされていった。

 

 未知の兵器を前にした動揺が、敵兵に広がる。才人はそれを逃さず、『ゼロ戦』を駆り、一匹ずつ確実に竜へと機銃を撃ち込んでいった。

 竜騎士も抵抗を続けるが、『ゼロ戦』は風竜よりもはるかに速い。しかも、その動きは独特で、幻獣同士での空中戦に慣れた彼らは、この世界で初となる『戦闘機』との戦いに対応しきれなかった。

 そして瞬く間に、十五はいた竜の群れは全滅した。

 

 ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ。

 

 竜騎士の守りを失った敵艦隊に、才人は『ゼロ戦』を近づける。

 プロペラが風を切り、独特の音を立てて『ゼロ戦』がアルビオン艦隊に迫る。

 だが、敵も無抵抗でやられるばかりではない。才人が巨大な軍艦に迫ったところ、轟音が響いてコックピットが激しく揺れた。

 

「くっ! なんだ!?」

 

 才人は『ゼロ戦』のコックピットの中で、煙を噴いた敵艦の砲門を注視しながら叫んだ。

 すると、脇に置いたままだったデルフリンガーが答えた。

 

「散弾だ! 砲門の近くに寄るんじゃねえ!」

 

「んなこと言っても、ああもハリネズミみたいに大量の大砲が付いているんじゃあ……」

 

 土の『スクウェア』であるエレオノールが施した魔法で、『ゼロ戦』の装甲は信じられないほど頑丈になっている。

 しかし、だからといって散弾を受け続けることが良い状況とは、才人には思えなかった。

 事前にルイズから、ある程度の『エクスプロージョン』の射程は聞いている。それは、まさに散弾を食らい続ける危険距離であった。

 すると、迷う才人に、デルフリンガーが助言を投げかけた。

 

「上に回り込め! あそこなら砲門はねえ!」

 

「本当か! さすがは俺の相棒だ! 六千年の経験は違うな!」

 

 才人はデルフリンガーを褒めながら、操縦桿を操り、機体を上へと向けた。

 弧を描いて天に向けて上昇する『ゼロ戦』。

 すると、才人は思わぬ光景を見た。軍艦の上部には、ろくな兵装が存在していなかったのだ。デルフリンガーの言うとおりであった。おそらくは、自艦の上空に敵艦が来るという状況を想定していないのだ。それだけ、竜騎士の守りに絶対的な自信を持っていたのであろう。

 

 ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル……。

 

 そして。とうとうルイズの詠唱が完成した。

 いよいよ伝説の『虚無』の魔法が見られるか。と、才人が再び操縦桿を強く握った、その時だ。

 ルイズはすぐに魔法を発動せず、代わりに前方の座席に座る才人へ向けて言った。

 

「ねえ、サイト」

 

「……どうした?」

 

「わたし、決心した」

 

「何をだ?」

 

「わたし……初めて明確な意思を持って人を殺すわ」

 

「……そうか」

 

「ねえサイト、あなたの国はすごいわね。戦争をしないという理想を何十年も追い求め続けているだなんて」

 

「たった六十年とちょっとの話だよ。六十年間、どこの国にも攻められなかっただけだ。今、まさに攻められているトリステインとは違う」

 

「そう……」

 

 才人は使い魔として、『ガンダールヴ』としての役割を見事に果たした。

 では、主人であるルイズは、『虚無』の担い手として、役割を果たせるのか。

 

 ルイズは考える。人を殺さずに、あの艦隊を落とすことはできる。

 今から撃つ魔法は、概念的な爆発を起こすものだ。人を殺さぬよう、艦隊の機関部だけを狙って破壊することはできる。

 しかしだ。敵艦が地上に不時着したとして、中から出てきた兵達は、地上のアルビオン軍と合流することになる。

 そうなれば、なんとか数の面で互角となっているトリステイン軍が、劣勢に追いやられてしまう。

 だから、ルイズは、敵艦に乗るアルビオン人を皆殺しにすることを決めた。

 

 おそらく、敵艦に乗るアルビオン人の多くは、『反乱軍』に賛同する者ではないのだろう。軍人として、兵隊として、上に従わざるを得なかっただけ。状況が変われば、アルビオン新政権に牙を剥く者だっているのだろう。ルイズはそう考えたが、それでも今ここにいるトリステインの軍人達の命を守るため、この場でアルビオン艦隊を全滅させようとする気持ちは変わらなかった。

 

「なあ、ルイズ」

 

 と、覚悟を決めたルイズに、今度は才人が呼びかける。

 

「なに?」

 

「『死』に慣れるな、だ」

 

 才人が言ったその台詞。コルベールが語っていたことだ。

 その言葉をルイズは、しっかりと受け止める。そして。

 

「それでも、わたしは自分の意思で、彼らを殺すわ」

 

 ルイズはそう言い放ち、杖が仕込まれた右腕を小さく振った。

 

 伝説の『虚無』が、現代に蘇る。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 タルブの草原のすぐ近くにそびえ立つ山脈。その山中にあるラ・ロシェールの町にて、トリステインの軍が艦隊から兵を降ろした。

 アルビオンの策を警戒して秘かに集めていた兵と足して、三千の数がそろっていた。対するアルビオンの兵力も、偵察によると推定三千。しかし、アルビオン艦隊は完全に制空権を確保している状態だ。

 遠くの空に浮かぶ敵艦隊を見て、厳しい戦いになると感じ取った兵達の士気は、今一つ上がりきっていない。

 

 だが、兵を率いるアンリエッタ姫将軍は、一人、自信に満ちあふれた態度を崩さなかった。

 だからこそ、敵に背を見せる将官は一人も出ず、さらには脱走兵を出すことを許していなかった。

 

 そして、山道を下りて山の(ふもと)に辿り着き、陣を組むトリステイン軍。麓の先に広がるタルブの草原へと展開するアルビオン軍相手に、今にも戦端が開かれんとした、そのとき。

 遠くの空から、奇妙な姿形をした竜が飛んできて、敵の竜騎士を一方的に蹂躙(じゅうりん)し始めた。

 その様子は、トリステイン軍からもしっかりと観測されていた。

 

 謎の援軍に、動揺を隠せない将官達。

 だが、そんな彼らに、アンリエッタは堂々と言った。

 

「『不死鳥(フェニックス)』が降り立ったようですね」

 

「『不死鳥』ですか。まさか、比喩ではなく、本当に『不死鳥』が味方するとは」

 

 アンリエッタのそばに控えていたグラモン元帥が、目を凝らしながら『遠見』の魔法がかかった双眼鏡を覗き込む。

 グラモン元帥は齢五十を超えている。すでに軍を退役しているのだが、トリステインの危機に黙ってはいられないと、今回の戦に同行していた。元帥は終身職であるがゆえに、軍務を退いてなお元帥としての権限を彼は有していた。

 

「それだけではありませんよ」

 

 アンリエッタがさらに言ったその言葉に、グラモン元帥は双眼鏡から目を離し、アンリエッタに問いかける。

 

「会議の場では、『始祖』が味方しているとおっしゃいましたね。まさか、『不死鳥』に続いて、始祖ブリミルを降臨させたとでも?」

 

「いいえ」

 

「……では、殿下の言う『始祖』とは?」

 

「降臨したのは、始祖ブリミルの魔法の使い手ですわ」

 

「始祖の魔法……まさか!?」

 

「ええ、そのまさかです」

 

 アンリエッタがそう告げた、次の瞬間。空の上に、巨大な光球が生まれた。

 その光球は、音もなく敵艦隊を丸ごと飲みこんでいき、昼の空に二つ目の太陽を形作った。

 

 そして。

 

 空に生まれた二つ目の太陽が消え去った後には、艦隊だった物が全て爆散し、バラバラに砕けて落下し始めていた。アルビオン自慢の木造艦は無数の木片と瓦礫(がれき)の山となって、地上に陣を張っていたアルビオン軍に降り注ぐ。

 アルビオン軍も、まさか本格的な開戦前に軍艦を落とされるとは思わず、自陣の近くに艦隊を寄せたままだったのだ。

 グラモン元帥は慌てて双眼鏡を覗き込み、タルブの草原の方を向く。すると、そこには次々落ちてくる木片から必死に身を守ろうとして、混乱するアルビオン陸軍の姿があった。

 

 それを見て、グラモン元帥は確かな勝機を見いだし、アンリエッタに向けて言った。

 

「殿下、今です」

 

「ええ。――進軍せよ! (つづみ)を鳴らし、(とき)を上げよ! 皆の者! 伝説の『虚無(ゼロ)』と『不死鳥(フェニックス)』の加護は、我らトリステインにあり!」

 

『虚無』に目覚めた頼もしい友は、与えた役割を想像以上にこなしてくれた。後は、自らの力でトリステインに勝利をもたらすのみ。

 そう覚悟を決めたアンリエッタは、百合の紋が刀身に彫られた剣杖を鞘から抜き、アルビオン軍を指し示すように掲げる。剣杖の鋭い刃が、夕焼けの日の光にきらめいた。

 

「全軍、突撃!」

 




第五章は以上で終了です。次回から、本格的な戦争が再開するまでの猶予期間でルイズがいろいろする、幕間的な第六章となります。
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