【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま 作:Leni
67.魔女の告白
『魔女』が新兵器を開発して、トリステインを
そんな噂が現在、トリステイン魔法学院で飛び交っていた。
唐突な開戦によりトリステインとアルビオンが激突した、タルブの草原での戦いから数日経った。その日数の経過によって、トリステイン軍がアルビオン軍を破って見事に勝利した報は、トリスタニア経由ですでにこの学院まで伝わっていた。
まさかの大勝利に生徒達は沸くも、続けて流れてきた『魔女』の活躍の噂に、彼らは困惑した。なんでも、自らの使い魔を連れてのたった二人だけで、アルビオン艦隊を全滅させたのだとか。
彼らは思う。
ミス・ヴァリエール、何やってんの?
しかも、生徒達は、その噂を否定することはなかった。
トリステインの『魔女』ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールは、そういうことをやる人物だ。二年生と三年生の間には、そういう共通認識があった。そして、『魔女』の武勇伝を上級生達から聞いていた一年生も、その噂を信じた。
それに追加して、彼らはつい最近、奇妙な音を立てて学院の上空を飛ぶ謎のマジックアイテムを何度も目撃していた。
タルブの戦場には、『
では、その『不死鳥』の正体とは。
きっと、あの鉄の装甲に覆われた、鳥のような竜のような、空飛ぶ不思議な乗り物のことなのだろうと、生徒達は察した。
乗り物の名前はルイズやキュルケから『竜の羽衣』であると生徒達は聞いていた。
だがしかし、まさか竜ではなく『不死鳥』と呼ばれているとは。なんとも縁起が良い名前だ。生徒達は口々に、そう言い合った。
そして、生徒達、特に男子生徒の何割かは思った。
自分もあの『不死鳥』に乗ってみたいと。
そういうわけで、戦いの終結から数日後、学園へ『不死鳥』と共に戻ってきたルイズに、男子生徒達が殺到した。
「ミス・ヴァリエール! ぼくにもあの『不死鳥』を駆らせてくれ!」
そんな男子生徒の一人が告げてきた要求に、ルイズは正直に答えた。
「あの機体は操縦系が複雑だから、訓練していない素人が乗ると落ちるわよ」
その言葉に、男子生徒達はあっさりと引き下がる……ことはなかった。
貴族特有の理由なき自信が「自分ならいける」という思いをルイズにぶつけるに至った。
そんな根拠のない言葉を聞いたルイズは、やれやれといった様子で彼らに答えた。
「そんなに乗りたかったら、国が募兵を始めたら軍に志願すれば? 何ヶ月かしたらまたアルビオンとの戦争が再開するでしょうから、あれの量産機に乗れるかもしれないわよ」
「量産機! あるのかい!?」
「目下製作中よ」
『不死鳥』こと『ゼロ戦』は、タルブの戦役で白日の下にさらされた。そのため、『戦闘機』の量産計画は、もはや機密でもなんでもなく、隠すものではなくなった。
むしろ、戦意高揚のために、積極的に量産計画のことを生徒達へ知らせるべし。そんなことをルイズは戦場から帰る際に、トリステイン軍の将官達から指示されたくらいだった。
そういう理由から、ルイズは『戦闘機』の量産計画を餌にして、空に憧れる生徒達を戦争への道に引きずり込んだ。
そのことで、ルイズはあとになって学院長のオスマン氏に、しこたま怒られた。しかし、彼女は全く恥じ入る様子はなかった。自分が怒られる程度で来たる戦争でのトリステイン王国の勝率が上がるなら、それでいいとの判断であった。
◆◇◆◇◆
ルイズが学院に帰還して方々に挨拶してから一晩経った日の、放課後。
数日ぶりに、才人を連れてコルベールの研究室にやってきたルイズ。だが、険しい顔をして待ち構えていたエレオノールを見て、思わず引き返そうとした。
昨日はたまたまエレオノールがトリスタニアのアカデミーに帰還していたため、ルイズは彼女とまだ戦場から戻った後に面会していなかった。そして、エレオノールがこの表情をするときは、説教が飛び出してとても面倒なことになると、実家での経験で知っていた。そのため、とっさに逃げ出そうとしたのだ。
しかし、立ちふさがるようにして入り口をキュルケとタバサが固め、ルイズは逃げ場を失った。その事態に、思わず天を見上げるルイズ。
そんなルイズにエレオノールは近づいていって、彼女の
「さあ、ちびルイズ。アルビオン艦隊を沈めたという魔法について、詳しく説明してもらうわよ」
やはりそう来たかー、と、襟首をつかまれたままルイズは思った。
そうして、まるで
なお、部屋の主であるコルベールは、苦笑をするばかりで止めに入ろうとはしなかった。
「ええと、わたしの事情は特に秘密扱いするつもりはないですから、こうも退路を断たなくてもいいと思います」
ルイズのその言葉を聞いて、エレオノールは顔をしかめた。
とことんまで問い詰めるつもりが、肩透かしを食らった気持ちになってしまった。ゆえに、エレオノールはルイズの頬を指で押しながら、不機嫌そうに尋ねた。
「この前は、国家機密とか言っていなかった?」
「今回の戦いで、わたしの魔法が白日の下にさらされたので、むしろ事情を広めて戦争への士気を高めろと言われましたね」
「誰に?」
「グラモン元帥に」
ルイズの答えに、エレオノールは納得した。グラモン元帥は、彼女ら姉妹の父親であるラ・ヴァリエール公爵の古い知り合いで、
そう納得したエレオノールは、ルイズのプニプニの頬をいじることをやめ、あらためて彼女に言葉を向ける。
「で、ちびルイズ」
「はい」
「あなたの目覚めた系統は、『虚無』。そうね?」
「はい」
「あなたの使い魔は、『ガンダールヴ』。そうね?」
「はい」
「よろしい」
そんな姉妹の会話に、入り口を固めていたキュルケとタバサは驚いた。
一年来の付き合いであるルイズが伝説の系統に目覚めた、ということだけではない。それを外国人である自分達に聞かせていることにも、驚いたのだ。
明らかな国家機密。だが、ルイズが言うには機密でもなんでもないとのこと。外国に漏れることも、おそらく想定の範囲内なのであろう。
しかし、『虚無』である。六千年前にハルケギニアへ降臨した始祖ブリミルが使ったとされる伝説の魔法。四大系統魔法の例外、五番目の系統魔法だ。宗教家以外は皆、ただの神話かおとぎ話としか見ておらず、実在するとは思ってもいなかった。
それがトリステインに味方していると知れ渡れば、確かにアルビオンとの戦争を悲観するような市民は減るだろう。積極的に知らせる方針となっても、確かにおかしくはないとこの場にいる皆は思った。
それからルイズは、あらためて研究室にいた皆に向けて語り始めた。ここに至るまでの経緯全てをだ。
自分が呼びだした使い魔は、始祖ブリミルの使い魔である『ガンダールヴ』のルーンを持っていた。
『ガンダールヴ』は、あらゆる武器を自在に操り、主人を守る存在であった。
伝説の使い魔を得たことで、自分が『虚無』ではないかと疑い始めた。
そこで、トリステイン王国に伝わる秘宝を用いて、『虚無』に目覚めた。
使えるようになった魔法は、『エクスプロージョン』という初歩の初歩の初歩とされる爆発魔法のみ。
他の魔法は、魔剣デルフリンガー曰く、必要になったときに覚えるらしい。
『虚無』以外の魔法はコモン・マジックが使える。四大系統魔法は相変わらず使用できない。
『竜の羽衣』は『虚無』とは特に関係のない、才人の故郷の兵器である。
なお、才人はここではない別の世界から召喚された異世界人である。
『竜の羽衣』の所有者である、学院メイドのシエスタの祖先も、才人と同じ異世界の出身である。
魔剣デルフリンガー曰く、『竜の羽衣』は『ガンダールヴ』の槍である。
『竜の羽衣』のような未知の兵器は、エルフが占領している『聖地』周辺で見つかることがすでに分かっている。
未知の兵器をブリミル教の総本山であるロマリアは『場違いな工芸品』と呼び、昔からこっそり拾い集めている。
よって、『聖地』には『ガンダールヴ』の槍を異世界から呼び出す『何か』が存在している。
「という感じです」
「なるほど……」
ルイズの告白を黙って聞いていたエレオノールは、腕を組んで考え込むように目を閉じた。
そして、十秒ほど経ってから目を開け、再びルイズに問う。
「では、ちびルイズ。これからの方針は?」
その問いに、ルイズは口もとを吊り上げて笑い、答えた。
「はい。方針は、『これまでと変わらず』です」
「よろしい」
ルイズの返答に満足したのか、エレオノールは顔に笑顔を浮かべて、組んでいた腕を解いた。
そんな姉妹のやりとりに、入り口を固めたままだったキュルケは困惑しながら問う。
「えーと、どういうこと? 何がこれまでと変わらないのかしら?」
その疑問の声に、ルイズは振り返って答える。
「前と変わらず、アルビオンとの戦争に備えて、『戦闘機』の量産を目指すってことよ。手伝い期待しているわよ、同盟国候補のゲルマニアさん」
これまでと変わらず。それはつまり、アルビオンとの戦争に量産機を投入するというトリステインの上層部の意見は変わっていないということだった。すなわちそれは、ルイズが学院の生徒達に向けて言った、戦争に志願すれば量産機に乗れるという言葉も、嘘ではなかったことになる。
キュルケは戦争に志願兵として参戦するつもりはないため、この研究室で手伝いをすることが、国と戦争への貢献となる。そうルイズが遠回しに言っていると気づき、キュルケは笑顔でうなずいた。
一方、そんなキュルケとのやりとりを聞いていたエレオノールも、ルイズの言葉に続くようにして言う。
「ここで、このおちびが調子に乗って方針変更するだなんて言い出したら、はっ倒してやるところだったわ」
そんなエレオノールの言葉に、場の雰囲気は
それからエレオノールは、その場で手を叩いて、「さあ、本日の業務を始めるわよ」と普段通りの研究を開始するよう
そうして、いつものように、研究室が『戦闘機』の量産機開発のために動き始めた。
と、そんな一連のやりとりを入り口付近で黙って見守っていた、才人。
どうやら何事もなく
すると、入り口を固めていたタバサが、まだそこに立っていた。そのタバサは才人をジッと見ながら、話しかけてくる。
「……『気』は嘘?」
そんなタバサの言葉に、才人は心の中で「それがあったか」とつぶやいた。
『ガンダールヴ』の力をタバサに説明するため、以前、才人は嘘を吐いたのだ。日本人は『気』というスーパーパワーを使えるなどと、嘘。それをタバサは、見事に信じ込んでいた。だから、才人はわずかな罪悪感を解消するため、素直に告白した。
「すまん、それ、嘘だ」
「そう……」
タバサはそれで納得したのか、入り口に振り返って扉を開けようと取っ手に手を伸ばした。
どうやら、才人と同じように剣の修練に向かうつもりのようだった。
そして、タバサが扉の取っ手に触れた、その瞬間。
勢いよく扉が開かれ、タバサは思わずつんのめってしまった。
「わっ、ごめんなさい! 大丈夫?」
扉の向こうから、そのような声が響いた。どうやらタイミング良く、研究室に客が来たらしい。
転びそうになったタバサを支えたその客は、古典的な貴族らしい金髪の巻き毛を
そして、もう一人。モンモランシーにまとわりつくようにして、貴族の少年ギーシュも同行していた。
ギーシュに引っ付かれたまま、モンモランシーが研究室の中へと入ってくる。
そして、モンモランシーは部屋にいたルイズを見つけると、必死な様子で彼女に向けて叫んだ。
「ルイズ、助けて! ギーシュがおかしくなったの!」
ギーシュは元々おかしい言動をするヤツだろ。思わず出そうになったそんな言葉を才人は、頑張って飲みこんだ。