【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま 作:Leni
そんなある日の魔法学院で、外壁の外に建てられた格納庫へ人が続々と集まってきていた。
ルイズやコルベールをはじめとする、いつもの『戦闘機』研究メンバーだけではない。学院長のオスマン氏や、空に興味がある生徒達といった面々も集まっていたのだ。
いつもならば、ここまで人が集まることはなかった。普段でも、ルイズ達の研究中にときおり、好奇心で顔を見せる野次馬がやってくることはあった。だがしかし、今回はその比ではない人数だ。
「これより、トリステイン製『戦闘機』の試作機、『ゼロ・フェニックス』号のお
多くの観衆を前に、ルイズが高らかに宣言する。
すると、集まっていた観衆から、歓声が上がった。
そう。この集まりは、以前から開発に着手していた『戦闘機』、その試作機となる第一号……割り振られた機体番号としては第零号とされている機体の完成を記念した
この試作機をもとにして、これからアルビオンとの戦争再開に向けてトリステインは量産機を製造していくこととなる。
「では、まずは試作機の外観から見ていくわよ!」
ルイズが、格納庫に
まずは、大まかな形。細長い胴体に、二枚の翼だ。その両翼の下からはゴム製の車輪が下に伸びている。
そのフォルムは、タルブ村の秘宝『竜の羽衣』を参考にした流線形となっていた。
ただし、機体の前方にあるはずのプロペラが存在しない。
代わりに動力として、両翼の付け根と機体後部に、新規で開発した推進機関が付いている。強風の噴出装置だ。
この噴出装置は、『風石』から強力な風を継続的に噴出するという代物。
『竜の羽衣』式の『エンジン』の採用は、試作機、そして量産機では見送られた。
加工精度が出せない。そして、『ガソリン』の大量生産が困難。その二つの理由によるものだ。
そこで推進機関として、この噴出装置が新たに開発された。動力源である『風石』は今、トリステインで余りに余っている状況だ。量産機に取り付けるには、最良の選択と言えた。
ちなみにこの噴出装置は、才人が漏らした言葉からルイズが考案したものだ。
「『戦闘機』って、現代ではプロペラ機じゃなくてジェット機なんだよな」
と、日常会話で急に飛び出した言葉であった。その言葉から連想していって、ルイズはこの推力に辿り付いた。
そうして、魔法の世界であるハルケギニアでは、プロペラ機ではなく一足跳びに『風石』式ジェット噴射を採用したジェット機もどきが生まれてしまった。
「さて、形状と動力の次は、装甲面を見ていきましょう。大切な搭乗者の命を守る部分よ。これは、騎士が乗る幻獣にはない、『戦闘機』ならではの長所ね」
胴体部には、鉄板による装甲を採用している。鉄は重たい。しかし、『風石』を積んだ噴出装置を三発も積んだため、問題なく空を飛べる試算がなされてた。事前の試験飛行も、しっかりと成功している。
今、トリステインでは戦争に向けて大量の鉄材が製造されている。その一部は、量産機のために使用されることが決まっていた。
両翼の素材は、エレオノールが再現に成功した、超々ジュラルミンというアルミニウム合金を採用した。
これは、『竜の羽衣』の両翼に使われていたものを解析し、鉄からアルミニウム、アルミニウムから超々ジュラルミンと段階的に『錬金』したものだ。だが、今ではその合金の成分と比率も判明しているため、量産機を作るに当たっては鉄からアルミニウムへの『錬金』以降は魔法に頼らずとも製造できる見通しである。
機体の表面には、空の上での迷彩効果を考えて、薄い水色の塗料が塗られている。
トリステイン王国を象徴する『水』の系統に
なお、『フェニックス』号ということで、赤の塗料を候補に挙げたものはコルベール研究室にはいない。戦場の空で目立っても、良いことは何もないのだ。
「という感じね。この試作機は装甲に『硬化』の魔法をかけてあるけど、量産機に関してはいちいち『硬化』はかけない予定となっているわ。命が惜しい人は、自分に渡された機体に個別でかけることになるでしょうね」
今のところ、量産機のパイロットは全員『フライ』の魔法が使えるメイジが乗ることになっている。もし撃ち落とされても、自力で生き延びることができるようにという人命重視の方針である。
「自力で生き延びるといえば、幻獣と違って撃ち落とされたときに機体からの脱出が困難に見えるわよね? でも、大丈夫。緊急時に機体の外に飛び出せる、脱出装置が付いているわ」
さすがにここではそれを試せないため、ルイズは用意していた黒板に、脱出装置の仕組みを書いていった。
それを見て、観衆は
名誉の戦死という言葉はトリステインにもあるが、戦場に出て好き好んで死にたがる者は誰もいないのだ。
「というわけで、いよいよ本番! 空に飛ばしてみせるわよ!」
一通りの説明が終わったところで宣言されたルイズのその言葉に、観衆が一瞬で沸く。
そうして一同は格納庫の外にいったん出て、滑走路の両脇に展開した。
それを確認したルイズは、試作機に乗りこむ二人のパイロットに合図を出した。
才人とエレオノールである。
その合図を受けて、試作戦闘機『ゼロ・フェニックス』号の噴出装置がわずかに稼働する。
独特の噴出音を立てながら、機体が前に進み出し、格納庫から外へと試作機が姿を見せる。
そして、噴出装置の出力が上がる。轟音と共に、試作機が前へと進み始め……やがてフワリと機体が浮いたかと思うと、『ゼロ・フェニックス』号は空へと飛び立った。
『竜の羽衣』を参考にして、ハルケギニアの純粋な技術により作られた試作機が、空を飛んだ。
事前の試験飛行での成功を見ていたはずのルイズ。だが、周囲の驚きの声に思わず感動してしまい、目に涙が薄らと浮かんできてしまった。
感動した者は、ルイズだけではない。
この場に詰めていたすべての観衆が、人の手で造り上げられたという試作機の飛行にロマンを感じた。そして、感動に身を任せて万歳を唱え始めた。
「
魔法学院の上空を飛ぶ試作機。大きく弧を描くように飛んでいたそれは、やがてアクロバティックな動きでひるがえり始めた。
竜騎士ではとてもできないような曲芸飛行。しかも、竜種で最も速い風竜よりも、さらに速く飛んでいる。
その光景を目の当たりにした観衆は、ここ一番の盛り上がりをみせた。
「ヴィヴラ・トリステイン! ヴィヴラ・トリステイン!」
こうして試験飛行は、事故もなく大成功を収めることとなった。
◆◇◆◇◆
陸に帰還した試作機『ゼロ・フェニックス』号。ちなみに、噴出装置は逆噴射をすることで、減速が可能だ。さらに『風石』そのものの力でも空に浮けるため、『竜の羽衣』と比べて短い距離での離着陸が可能だった。
滑走路の真ん中で止まったそんな試作機だが、次は搭載している兵装の確認を行なう。
「試作機の兵装は、今のところ二つ完成しているわ。一つは、連続して撃てる銃ね」
その言葉を聞いて、観衆はわずかに落胆する。大砲ならまだ分かるが、銃などという平民の武器が、空を飛ぶ強大な幻獣に通用するのか? そんな思いから来る落胆である。
しかし、その思いは、次の瞬間吹き飛ぶことになる。
コルベールが『レビテーション』の魔法で運んできた機銃のサンプルを見たからだ。
デカい。とても人が携帯できるような大きさではない。まるで、小さな大砲だと観衆の一部は思った。
「これと同じ機銃が、あの試作機に二門付いているわ。さて、さっそく試し撃ちしてみるわよ! エレオノール姉さま、お願いします!」
ルイズがそう言うと、いつの間にか試作機から降りていたエレオノールが、ルーンを唱えて杖を一振りする。
すると、滑走路の脇に積まれていた土山から、体高六メイルほどもある岩のゴーレムが立ち上がった。
エレオノールは『土』の『スクウェア』である。この程度のゴーレム生成は、片手間でできることであった。
岩ゴーレムは、試作機から少し離れた正面に仁王立ちする。
そこでルイズが、未だに試作機のコックピットに乗っていた才人に合図を出す。すると、試作機の前方に搭載されていた二門の機銃が、銃弾を吐き出した。
独特の重低音が響きわたり、連続して銃弾が発射されていく。
すると、銃弾を受けた岩ゴーレムは次々と身を削られていき……機銃が弾を吐き出さなくなった頃には、ゴーレムの胴体は穴だらけになっていた。
「どうかしら? これがわたしの使い魔の故郷の兵器、『竜の羽衣』を解析した最新式の銃よ」
そのルイズの言葉を受けても、観衆は沸かなかった。
あまりの威力の高さに、引いてしまったのだ。そして、一部の生徒は思う。これを小型化した銃で平民が武装したら、熟練の軍人メイジでも命が危ないのではないか?
その懸念は、事実ではあった。
ルイズ達『戦闘機』解析チームは、『竜の羽衣』こと『ゼロ戦』の機銃を完璧に解析してしまった。
だが、それをコピーすることは困難を極めた。
まず、真鍮製の薬莢からして真似ができなかった。
だが、あるときこれまた日常会話で才人が漏らした、『プレス加工』という言葉にヒントを得たエレオノールが、真鍮製の薬莢を加工することに成功した。
真鍮そのものは、『錬金』の魔法で容易に量産できる金属だ。ギーシュの父親であるグラモン元帥などは、真鍮製の巨大なゴーレムをそこらの土や岩から瞬時に生み出すことを得意としている。
さらに『戦闘機』の銃弾は、エレオノール経由でアカデミーの実践魔法研究室に送られ、中身もしっかりと研究の対象となった。そして、ハルケギニアで一般的な黒色火薬とは別物の無煙火薬が、アカデミーの研究員達の手で生み出された。雷管もしっかりと解明し、実践魔法研究室の中でだけ銃の歴史が数百年スキップされることとなった。
そうして完成した機銃。あまりもの強力さと誰でも使えるという手軽さに、室長であるエレオノールはこれを表に出すべきか迷った。しかし、彼女は最終的にこの機銃を量産機へ採用することに決めた。
ハルケギニアにおける銃の研究については、隣国ゲルマニアがトリステインの何歩も先を行っている。
エレオノールがこの機銃を表に出さなくても、いずれはゲルマニアが似たような物を開発するだろう。
そうなれば、国力に劣るトリステインは、将来ゲルマニアに蹂躙されてしまう可能性があった。トリステインの王室とゲルマニアの帝室は、未だに血縁で結ばれていないのである。
ゆえに、エレオノールはアカデミーの実践魔法研究室室長として、この技術をトリステインが最初に握ることを選んだ。トリステインが技術的優位を得るためだ。銃弾の解析をゲルマニア出身のキュルケが手伝うコルベール研究室ではなく、アカデミー内で行なったのも、その判断から来るものであった。
肝心のキュルケは、自国のためなどというどうでもいい理由で、技術スパイをするつもりなどさらさらないのだが。ゲルマニア貴族は、その国の成り立ちからして一つにまとまっていないのだ。
「さて、もう一つの兵装は、巨大な魔法の火矢を吐き出すものよ。それが今のところ二種あるのだけど、こちらはこの場では試せないわね」
と、沈黙していた観衆に、ルイズが言う。
すると、観衆はハッと我に返り、魔法の兵装を見られないことに不満の声を上げる。
「仕方ないじゃない。片方はここで試し撃ちするには高価すぎて、安価なもう片方は危険なの。前者は簡単に言うと火矢型のガーゴイルよ。知能を持つ火矢が、標的を自動で判断して追いすがるわ。もちろん、火矢なので使い捨て」
ルイズのその言葉に、観衆から驚きの声が上がる。ガーゴイルを一回の攻撃のためだけに使い捨てるとは、なんとも贅沢な兵器だ。
「後者は『ディテクトマジック』の応用で魔力を追って追尾する複数の火矢なのだけど……観衆のみんなの魔力を追ってしまう可能性があるのよね。戦争本番では、同士討ちを防ぐための識別票が配られる予定だけど、今日のためにわざわざ、人数分を用意するのもね」
そのことに納得した観衆は、素直にルイズの言葉を受け入れた。自分が火矢で撃たれるかもしれないとなると、さすがに無理を通す者はいなかった。
そうして、飛行試験と武装試験の二つは無事に終わり、試作機の完成披露会は成功に終わった。
それから数日後。試作機の完成を聞きつけたアンリエッタとウェールズがトリスタニアから訪ねてくることになり、学院は大騒ぎとなった。
そこで王族と学院の全生徒が見守る中で、再度の披露会が行なわれることになり……試作機はアンリエッタにより正式に認められ、量産機の製造開始にゴーサインが出されることとなった。
人造の『