【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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72.量産機と新型艦

 学院が夏期休暇に突入した。いつもの三人娘のうち、キュルケはゲルマニアにある実家へ帰省し、タバサはそれに便乗する形でゲルマニアに亡命した母親へ会いに行った。

 残るルイズはと言うと、これまた親のいる実家へと帰省していた。

 

 学院から馬で三日ほどの距離にある、ラ・ヴァリエール公爵領の本屋敷。

 そこへルイズは、空を飛んで帰省した。

 

 だが、今回ヴァリエール公爵家に足を踏み入れた者は、ルイズだけではない。

 使い魔の才人は当然として、ルイズの長姉であるエレオノール、そしてさらにコルベールまでそのメンバーに加わっていた。移動には『ゼロ戦』と『ゼロ・フェニックス』号を使用した。

 

 彼女らが四人連れ立って公爵領へとやってきた目的は、『ゼロ・フェニックス』号の量産機を製造するためだ。

 実は、量産機の製造拠点はラ・ヴァリエール公爵領に作られているのだ。

 

 量産機の設計を行なった三名のうち、二名はラ・ヴァリエール公爵の実子だ。

 そして、残り一名のコルベールは、領地どころか屋敷すらもたない零細貴族。

 よって、トリステイン王政府での協議により、量産機の生産拠点はラ・ヴァリエール公爵領にと取り決められたのだ。

 

 そういうわけで、コルベールもラ・ヴァリエール家の屋敷にやってきたわけだが、彼は才人と一緒に、その屋敷のあまりの大きさに度肝を抜かれた。

 はたしてそれを屋敷と言っていいのか。土地の広さも、建物の大きさも、そして建物の構えも完全に城と形容すべきであった。

 それも、小城の類ではない。要塞としても機能しそうな、巨大な城であった。

 

 だが、それも当然だ。ラ・ヴァリエールは王家の血の流れを汲む公爵家であり、しかもここは、隣国ゲルマニアとの国境にある領地なのだ。

 ゲルマニアと戦争になれば、この土地は最前線と化す。なので、城がここにあるのも納得であると、正気を取り戻したコルベールは才人に語った。

 

 さて、そんな解説をしたコルベールであるが、彼には試練が待っていた。

 立ちはだかったのは、白髪が交ざった金髪をなびかせて美髭(びぜん)を貯えた紳士。ラ・ヴァリエール公爵だ。

 なんということか、愛する娘の婚約者候補とその娘エレオノール本人から伝え聞いていた公爵が、コルベールの力を試そうと模擬戦を挑んできたのだ。

 

 娘三人を溺愛する公爵も、齢はすでに五十を超える。そのためエレオノールには、そろそろ結婚してほしいと彼は思っていた。

 なにしろ、公爵家には跡継ぎとなるべき男子がいない。結婚相手を次期公爵とするなり、生まれた男児を次期公爵とするなり、いろいろ考える年齢に彼はあるのだ。

 

 しかし、愛娘(まなむすめ)が連れて来た男は、自分とは十ほどしか歳の変わらぬ中年男だった。

 さすがにそれは受け入れがたいと、公爵は力でコルベールを排除にかかった。もはや、模擬戦という名の決闘に近かった。

 

 片や、アカデミーの秘密部隊である実験小隊の元隊長。

 片や、王家の近衛である魔法衛士隊マンティコア隊の元隊員。

 二人の戦いは熾烈(しれつ)を極めると思われた。

 だがしかし、公爵はコルベールが戦士として優秀であるとすぐに察し、殺し合いに発展してしまわないよう戦いは純粋な力比べへと変わった。その結果、二人は大きな怪我をすることもなく、互いに精神力を使い切っての引き分けとなった。

 

 そして、二人は戦いを通じて分かり合い、固く友情で結ばれた。ジャン、ピエールと名前で呼び合い、戦いの後に握手を互いに交わした。

 まるで物語において若い少年同士が喧嘩した後のようであったが、この二人、共に五十歳と四十歳を超える、良い歳をした男どもである。

 

 なお、才人は正式なラ・ヴァリエール家の客人として、あるいは伝説の『虚無』の使い魔『ガンダールヴ』として、正しい意味で手厚い歓迎を受けた。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 公爵領に作られた、量産型戦闘機の製造拠点。

 そこには、エレオノールの部下である魔法研究所(アカデミー)実践魔法研究室の研究員達が招集されていた。

 さらに、『ラグドリアン・テクスト』を知る、『風石』の採掘事業に従事していたメイジも多数、採掘を中断して招集された。採掘事業の参加メイジは、貴族だけでなく平民階級の者も多い。

 公爵領の領民からも、量産機製造の工員として多数が働きに集まった。

 

 にわかに活気づくラ・ヴァリエール公爵領。

 

 城のすぐ近くに『土』のメイジが建てた臨時の工房が並び、トリステインの各地から資材が運ばれてくる。

 さっそくとばかりにエレオノールが音頭を取り、各工房が全力稼働した。

 そんな量産機の生産は、トリステインで常識とされたものづくりの手法とは大きく違っていた。

 

 まず、一ヶ所で一つの量産機を作るわけではない。部品の生産作業が工房ごとに分担された分業制が採用されたのだ。

 噴射装置の部品を作る工房は、それだけを作る。薬莢を生産する工房は、それだけを作る。翼を組み立てる工房は、それだけを作る。

 エレオノールが才人から聞き出した、工場制手工業と呼ばれる地球の歴史上で存在した生産手法であった。

 それを見たアカデミーの研究員は(うな)った。生産性が高い、だけではない。製造の全容が把握しにくく、スパイ対策にも有効なのだ。

 今、ここでアルビオンに量産機の製造法を盗まれては、数ヶ月後に再開するであろう戦争に大きな影響を与えてしまう。当然、悪い方にだ。

 

 さらに、トリステインの仮想敵となると、隣国ゲルマニアも含まれる。

 今回の戦争は、ゲルマニアと軍事同盟を無事に結べたため、ゲルマニアは味方だ。

 だが、アルビオンとの戦いに勝利し、数十年掛けて『風石』を全て掘り終わったらどうなるか。ゲルマニアがトリステインに牙を剥く可能性は、否定できないのだ。ゲルマニアはウェールズとアンリエッタの子を帝室に迎え入れる予定ではあるが、その前に強大な力を手にしていた場合、そんな約束は無視してトリステインを平らげようとするかもしれない。

 

 ゆえに、この量産機の製造方法は、ゲルマニアにも易々(やすやす)と漏らすわけにはいかなかった。

 だからこそ、この分業制という新しい手法はトリステインの事情と見事に噛み合っていた。

 

 そんな複雑な事情を抱えつつ、量産機が組み上がっていく。

 量産型戦闘機『フェニックス』号。鉄と超々ジュラルミンでできた金属製の『不死鳥』が、ここに生まれ落ちた。戦争でいかなる活躍を見せるのであろうか。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 さて、量産型戦闘機は無事に製造され始めたが、アルビオンという浮遊大陸でこれを運用するには、一つ足りない物があった。

 戦闘機という乗り物は、幻獣と違って滑走路がないと空に飛び立てない。

『フェニックス』号は単体で空に浮かべる『風石』の機関を三つも備えているため助走距離は短くて済むが、それでも滑走路があるとないとでは大違いだ。

 

 トリステインの領内ならば、『土』のメイジなり平民の工兵なりが戦争に備えて滑走路を作ってやればいい。

 しかし、浮遊大陸であるアルビオンとの戦争で想定される空中戦では、そうはいかない。

 ラ・ロシェールの町からアルビオン大陸まで高さと距離があり、さらにはアルビオンに辿り着いた後もすぐさま滑走路を敷設(ふせつ)できるとは限らないのだ。

 

 それを解決するために、ラ・ヴァリエール公爵は試作機の完成以前から、ある対策を実施していた。

 一つの新型艦が、ラ・ヴァリエール家の全額出資で建造中なのだ。

 

 それは、今までのハルケギニアの常識ではあり得ない形状をした軍艦だ。

 だが、その軍艦の建造を見学した才人は、その形に見覚えがあった

 甲板が平べったい滑走路になっているという、巨大すぎる艦。それを才人の世界では航空母艦、空母と呼んだ。

 

 しかも、その空母には海に浮かぶ時には必要ない、翼が付けられている。

 この空母は、『風石』の力で空を飛ぶのだ。

 値崩れを起こした大量の『風石』がないと生産が実現しなかったであろう、まさにこの世界初の新型艦であった。

 

 空中空母『イヴェット』号。これをもって、ラ・ヴァリエール公爵家はアルビオンとの戦争に参戦する。

 アルビオン大陸は、陸の孤島ならぬ空の孤島。正攻法で行くならば周囲を囲んで重圧を掛けるだけで、そのうち勝手に疲弊していく。

 しかし、ラ・ヴァリエール公爵はその方針を支持しなかった。未来に『大隆起』が待ち受けているためだ。

 戦争など早く終わらせて、『大隆起』対策に動き出さなければならない。そういう思いから、公爵はこの戦争に巨額の資金を投じていた。

 

 ちなみに、投じたものは資金だけではない。得がたい人材も投入していた。

 それは、平民メイジの隠れ里である名もなき秘密の学院から雇った、腕利きのメイジであったり。

 複雑な家の事情を持つ幽閉塔『女学院』から特別に連れ出した、貴族の令嬢であったり。

 そして。愛する妻がある日、突然捕まえた、稀代の女盗賊である土くれのフーケであったり。

 

 そう、土くれのフーケは、ここラ・ヴァリエール領で捕まってから、監獄送りにはなっていなかったのだ。

 捕まえた者は国の官憲(かんけん)ではなく、公爵夫人だ。なので、ラ・ヴァリエール公爵は、国に土くれのフーケを突き出すことなく、彼女と取引を行なった。彼女が盗みをしてまで養いたかった家族を支援する代わりに、その力を貸さないかと持ちかけたのだ。

 もちろん、公爵は彼女に盗みの仕事をさせるつもりなど毛頭ない。

 

 土くれのフーケは、優秀な『土』のメイジである。

 ゆえに、『風石』の採掘作業に従事させるにはとても都合が良かった。

 そして、彼女は巨大な土のゴーレムをわずかな時間で鋼に変える、『錬金』の魔法に精通した高位の使い手でもあった。

 

 それから紆余曲折あって、フーケは『風石』採掘事業から兵器製造に転属となった。今は、『イヴェット』号の広大な鉄の甲板を作るために、『錬金』の魔法を使い続けている。

 そこへ見学に来たコルベールと才人が、その姿を見て驚いていた。学院からある日、突然姿を消した学院長付きの秘書であったミス・ロングビルが、ここで働いているなどとは思わなかったのだ。

 ちなみに、そのミス・ロングビルの正体が土くれのフーケであると知っている者は、ラ・ヴァリエール家の家族と、一部の使用人のみである。

 

 そんな土くれのフーケは、本名をマチルダ・オブ・サウスゴータという。

 彼女の本当の正体は、アルビオンの元貴族である。

 

 反乱軍が討ち、『アンドバリ』の指輪で蘇ったジェームズ一世。かの人物が苛烈な王と恐れられていた約四年前、マチルダの父はその王の指示で殺されて、一族は離散してしまった。

 ゆえに、マチルダは、反乱軍に参加してもおかしくない復讐者の立場であった。

 しかし、彼女は直接的な復讐の道は選ばず、王家の事情に巻き込まれた妹分を養うことに注力をしていた。貴族社会そのものへの間接的な復讐をするために、盗賊に身をやつしてはいたのだが。

 

 そんなマチルダは、妹分を今後も養うために、公爵との取引に応じた。そして今は、アルビオンの反乱軍であり現政府である、神聖アルビオン共和国を滅ぼすための兵器作りに従事している。

 ジェームズ一世を打倒した反乱軍は、彼女にとって復讐を叶えてくれた味方ではない。

 自分で直接王に手を下せたならともかく、第三者が王を殺したところで、彼女はなんとも思わなかった。

 

 自分がアルビオンと戦うのは妹分の生活のためと、完全に割り切っているマチルダ。そんな彼女の鉄と鋼に優れた『錬金』の魔法により、『イヴェット』号の完成の日は近い。

 

 こうして、ラ・ヴァリエール公爵領における戦争の準備は、順調に進んでいった。

 

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