【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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73.あの戦いから帰ったので結婚した

 夏真っ盛りの八月(ケンの月)第一(フレイヤ)の週、虚無の曜日。

 ラ・ヴァリエールの領地に、トリステインの貴族が多数集まっていた。

 アルビオンとの戦争に関する集まり……ではない。今日この日、貴族同士の結婚式が行なわれるのだ。

 

 めでたく婚礼を迎える二人の名は、片方をジャン。もう片方をカトレアと言った。

 ジャンの本名は、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。

 カトレアの本名は、カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。

 魔法衛士隊グリフォン隊隊長のワルド子爵と、ラ・ヴァリエール公爵の次女カトレアが、本日の主役である。

 

 栄えあるラ・ヴァリエール公爵家の婚礼とあって、トリステインの内外から注目を集めた今回の式。

 しかし、小康状態にあるとは言え、戦争の最中での式である。アルビオンからの攻撃の標的にされるわけにはいかないと、トリステインの重鎮の参加は少なく、国外からの招待客もほとんどいなかった。

 

 そんな規模を縮小した結婚式。

 まずは、正式な夫婦であると認められるための婚礼の儀式が行なわれる。

 場所は、ラ・ヴァリエール家の城にある礼拝堂。

 

 そこに、ワルドとカトレアが並んで立っていた。

 長い銀髪に、整った口ヒゲを湛えた美丈夫。桃色がかった金髪を綺麗に結い上げた美女。

 その美しい二人の組み合わせには、招待客の多くがため息を漏らした。

 

 ワルドの格好は、白いスーツ。なかなか着こなすことが難しい礼服だが、参列した招待客の女性陣は彼のその姿を褒めたたえた。魔法衛士隊の隊長の地位もあって、まさに女性の皆が新婦をうらやむ理想の男の姿がそこにあった。

 カトレアはというと、こちらもドレスの色は白。貴族の結婚式のしきたりで、新婦は純白のドレスを着ることとなっている。豊満なその身体付きとも合わせて、まるで魅了の力を操る妖精でも降臨したのかと、男性陣は目を奪われるばかりであった。

 

 さて、そんな二人の前には、始祖ブリミルの聖像を背に、マザリーニ枢機卿が立っていた。

 彼は婚姻の媒酌人(ばいしゃくにん)。才人の故郷で行なわれている教会式の結婚式でいうところの神父役だ。マザリーニはわざわざこの式のために、トリスタニアから呼ばれてやってきていた。警備の都合上、参列できなかったウェールズとアンリエッタの代役も兼ねている。

 

 だが、代役と言っても媒酌人としてマザリーニがいることの意味は大きい。

 彼はかつて、ロマリアの次期教皇として多くの宗教家に推されていたほどの傑物(けつぶつ)なのだ。

 ただ、本人はロマリアでの栄光よりも、不安定を極めていたトリステインの国政に関わり続けることを選んだため、教皇の座には就かなかった。二年前の教皇選出会議では、ロマリアからの帰国要請を拒んだほどの筋金入りの政治家なのである。

 

 そのマザリーニが、今日は政治家ではなく神官として新郎新婦を前に式を進行する。

 

「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。(なんじ)は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか」

 

 マザリーニのその言葉を受けて、ワルドは重々しくうなずく。そして、式典用の杖を握った左手を己の胸の前に置いた。

 

「誓います」

 

 それにマザリーニはうなずきを返し、次はカトレアの方へと顔を向ける。

 

「新婦、ラ・ヴァリエール公爵次女、カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして夫とすることを誓いますか?」

 

「誓います」

 

 花の咲くような笑顔で、カトレアが誓いの言葉を返す。

 参列者に後ろを向く形であったため、その笑顔は皆の目には留まらなかったが、確かにマザリーニと始祖ブリミルの聖像はカトレアの笑みを見ていた。

 

 そして二人は、杖を片手に持ちながら、皆の前で口づけを交わしあった。

 二人はこの時より、夫婦であると正しく認められた。

 

 そうして、婚礼の儀式は無事に終わった。礼拝堂の出口に参列客が並ぶ中、ワルドとカトレアは腕を組みながら礼拝堂を後にする。

 そんなカトレアの手には、杖ではなくブーケが握られている。

 

 立ち並ぶ参列客の中程まで二人が歩みを進めると、カトレアはその場でブーケを上へと放り投げた。

 すると、次の瞬間、そのブーケ目がけた参列していたエレオノールとキュルケが飛びつきにかかる。

 しかし、そこでいきなり強い風が吹く。その結果、エレオノールとキュルケの後ろで見守っていたルイズの手元に、ブーケが飛びこんだ。

 

「ちびルイズに出し抜かれたァ!」

 

「ああーッ! そんなーッ!?」

 

 エレオノールとキュルケの落胆の声に、参列客から笑いの声が上がる。

 

 ブーケを反射的にキャッチしてしまったルイズは、手元のブーケを見て、呆然(あぜん)としてしまう。

 ブーケトス。奇しくもそれは、才人の故郷の結婚式で行なわれるものと、似たようなジンクスを持っていた。

 そのジンクスを思い出したルイズは、とっさに思う。

 

 ――自分が次に結婚する? いや、ないない。

 

 ルイズに結婚願望はない。だから、ブーケにだって飛びつかなかった。しかし、風のいたずらの結果、こうしてブーケを受け取ってしまった。

 自分に恨みがましい目を向けてくるエレオノールとキュルケに、ルイズはどうしたものかと考える。

 

 そうだ、戦争が終わったら今度こそ結婚式を挙げる、幼馴染みの姫さまの代わりに受け取ったことにしておこう。

 そもそも、自分は結婚するにも相手がいないではないか。

 

 と、そこまで脳内に思いを巡らせたところで、ルイズの脳裏に己の使い魔の顔が思い浮かんできた。

 

 ――いや、それはないから!

 

 とっさに頭を横に振るが、いずれ故郷に帰るであろう才人の姿がなかなか脳裏から消えないルイズ。

 彼女は、花の匂いでそのイメージを上書きしようと、ブーケに鼻を寄せた。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 場所を移して、披露宴が行なわれる。

 開催場所は、なんと建造中の新型艦『イヴェット』号の甲板だ。

 

 巨大で、それでいて帆もない平らな軍艦を一同は物珍しげに眺める。

 これが本当に空を飛び、前に進むのかと口々に話している。

 

 そんな中で、披露宴の開催を告げる言葉が、新婦の父親であるラ・ヴァリエール公爵から発せられた。

 

「このたびは、我が義息子となったジャンと、我が娘カトレアの婚礼の儀に参加いただき、まことに感謝いたす。三人の愛しき我が娘も、こうして一人、巣立ちの時を迎え、迎え……うおおお! カトレア! 行かないでくれーッ!」

 

 途中で耐えきれなくなって号泣しだした公爵に、周囲は爆笑を起こす。

 

「わっはっは! 娘を盗られる親の気持ちが分かったか!」

 

「気を落とすな、ピエール! 孫はいいものだぞ!」

 

 最前列にいた公爵の昔なじみから野次が飛ぶ。

 そして、孫という言葉を放った男、グラモン元帥に対し、公爵は全力でにらみつけた。

 

「早い! 気が早い! 結婚してから三ヶ月は、カトレアには清らかな身で居てもらわねばッ!」

 

「何を言っているんだ。そのころには戦争が始まって夫は出征しているんじゃないか? さてはピエール、馬鹿だな?」

 

「娘のためなら、いくらでも馬鹿となる!」

 

「親馬鹿よりも、孫馬鹿になっておけ!」

 

 やいのやいのと騒ぎ出した公爵と元帥。それを笑って眺める才人の剣の師匠ことバッカス。

 混沌とする開催の挨拶だったが、最終的に公爵夫人のカリーヌが、公爵をドツいて無事に披露宴が始まった。

 

 公爵家自慢の料理長が作る料理が並び、公爵がこの日のためにハルケギニア中から集めた上等なワインが、次々と開けられる。

 さっそくとばかりに、やけ酒を始めた公爵にグラモン元帥とバッカスが絡みにいく。この三人は、かつて魔法衛士隊マンティコア隊の同期であり、唯一無二の親友同士なのだ。

 

 披露宴の参加者への対応は代わりに公爵夫人が担当して、皆が披露宴を全力で楽しみ始めた。

 

 本日の主役の一人、カトレアの周囲には、招待された魔法学院時代の友人達が集っている。

 その中にはゲルマニアからやってきたキュルケとタバサ、そして妹のルイズの姿もあった。

 

 楽しげに会話をするカトレア達。

 それを少し離れた場所で一人、ワイングラスをかたむけながら、才人は眺めていた。

 周囲は知らない貴族達ばかりで、顔なじみのルイズの近くに行きたい彼だった。しかし、会ったこともないカトレアの友人達がいる場所に突っ込むのは、どうにも気後れをしていた。

 

 一ヶ月以上のラ・ヴァリエール領での滞在で、才人はカトレア本人とはすでに知り合いだ。

 しかし、彼女もここのところずっと結婚式の準備で忙しく、気の置けない仲とまではいっていない。なので、あの中に一人で突入する勇気を才人は持てなかった。

 

 すると、そんな彼を見かねたのかどうなのか、本日の主役の一人であるワルドが他の貴族との挨拶を切り上げて才人に近づいてきた。

 

「やあ、サイトくん。今日は来てくれてありがとう」

 

「あっ、ワルドさん。結婚おめでとうございます!」

 

 定型の挨拶を交わしてから二人は互いに酌を交わしあって、ワイン片手に談笑を始めた。

 初めは他愛のない世間話だったが、だんだん二人は酒が入り、思わぬ方向に話題が進む。

 

「で、サイトくん。その後、ルイズとはどうなのかね?」

 

「えっ」

 

「仲は進展しているのか、いないのか」

 

「進展も何も……別にそういう仲ではないですよ?」

 

「おや、そうだったのか? てっきり、想い合っているとばかり」

 

 ルイズとの仲を邪推してくるワルドに、サイトは焦って否定の言葉を返す。

 

「いやいや。そもそも俺、いずれは故郷に帰ろうと思っていますんで」

 

「あの可愛いルイズを置いてかい?」

 

「…………」

 

「まあ、将来的にルイズと恋仲となったとしてだ」

 

「ないっすよ」

 

「仮定の話だ。恋仲になったとして、覚悟は決めておくといい」

 

「なんの覚悟ですか?」

 

「公爵に決闘を挑まれる覚悟だよ」

 

「ええっ……」

 

「本当に、覚悟するといい」

 

 ワルドの本気の表情に、才人はたじろいだ。

 そういえばと、才人は思った。この領地に来たばかりのころに、公爵とコルベールが決闘じみた模擬戦を行なったことを彼は思い出したのだ。

 なお、そんなコルベールは、エレオノールを脇に置きながら、招待客の一人である空海軍の将校に量産型戦闘機のことを話している。

 

「公爵も命を奪うまではしまいが、覚悟しておくことだ」

 

「嫌だなあ……」

 

 どうやらワルドの中では、ルイズと才人が恋仲に発展することは確定事項であるようだった。

 そして、酔った二人の会話は、また脇道に()れる。

 

「ところでサイトくんは、アルビオンとの戦争には参加するのかい?」

 

「あー、どうですかね。ルイズ次第でしょうか。ルイズが行くなら、守るために出張りますよ」

 

「なるほど、では、公爵との決闘よりも先に、戦争で命のやり取りをする覚悟が必要そうだな」

 

「そっちは、もうとっくに覚悟決めていますよ。ワルドさんと一緒にアルビオンに行ったときから」

 

「頼もしいものだ。どうか、我が義妹を頼む。ルイズは『虚無』である以前に『賢者』であり、ハルケギニアの希望だからな」

 

 そう言って、ワルドは強く才人の肩を叩いた。

 あまりの勢いに、才人が手に持つグラスからワインがこぼれる。だが、すでに酔っ払っている才人はそれも気にせず、自分のご主人様は慕われているなあと、のんきに考えていたのだった。

 

 こうして、披露宴は進んでいき、皆に祝福されるまま結婚式は無事に終わった。

 一組の男女がこうして幸せのまま結ばれた。やがて来たる戦争は、そんな二人を引き裂くのであろうか。それとも、戦いに向かう男に栄光をもたらすのであろうか。

 戦いの時は、着実に近づいている。

 




第六章は以上で終了です。次回から、アルビオンとの本格的な戦争が始まります。

・カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
原作と違って、このカトレア嬢はラ・フォンティーヌの領主ではありません。この作品では、魔改造ルイズがカトレアの病気を完治させたため、ラ・ヴァリエール公爵は彼女にラ・フォンティーヌの土地を割譲していません。
このフルネームですが、ラ・ヴァリエール領の領主一家であるルブラン家のカトレア・イヴェットちゃんって意味なんでしょうか。ラ・ボームの意味は知りません。出生地か何か?

・結婚式
原作二巻と二十二巻の結婚式をもとに式次を捏造しました。やけに現代日本の結婚式に似ていると思われても、原作を参考にしているという言い訳を盾にする所存。
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