【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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第七章 アルビオン戦役
74.暁の戦い


 トリステイン魔法学院の夏期休暇が終わり、新学期が始まってからさらに時は過ぎ。季節は秋となった十月(ケンの月)に、トリステイン王政府からアルビオンへ逆侵攻を行なう旨が発表された。

 本格的な戦争の始まりに、学院は沸いた。アルビオン王家を打ち倒した卑劣な反乱軍。ヤツラを自らの手で倒してやると、血気盛んな男子生徒達が騒ぎ出したのだ。

 

 そんな学院へ、王政府直属の軍部である『王軍』から募兵官がやってきた。

 戦争へ志願する生徒を臨時の士官として採用するために、訪問してきたのだ。

 

 だが、この『王軍』の行動に、トリステイン魔法学院の学院長であるオスマン氏は猛反発した。

 

「学徒動員とは、なんたること。とても受け入れられぬ」

 

 しかし、怒りを向けられた募兵官は、これをさらりとかわす。

 

「学徒動員とは、なんとも聞こえの悪い。我々はあくまで志願者を集めるだけです。徴兵ではありませぬよ」

 

 そう、王政府はあくまで、戦争に志願する生徒のみを集める方針であったのだ。

 しかし、そこはプライドの高いトリステイン貴族の男子達。そのほとんどが、先を争うように『王軍』へと志願した。

 さらに、学院の教師のうち、老齢で戦えない者を抜いた男性のほぼ全てが、『王軍』に参戦を申し出ることとなった。

 

 この結果に、オスマン氏は頭を抱えた。生徒だけでなく、教師までもが、と。

 

 学院が機能不全に(おちい)る。オスマン氏は、そのように王政府へと抗議文を送った。

 だが、王政府からの返信には、こうハッキリと書かれていた。勉学は戦争が終わってからだ、と。

 

 さて、そんな戦争に、ルイズも参戦することになった。なにせ、彼女は『虚無』の担い手だ。彼女が居ると居ないのとでは、軍どころか国民全体の士気に関わる。

 そんなルイズの扱いは、『王軍』の司令部直属の秘密兵器。学院から集められた生徒のような、士官の扱いは受けていない。ゆえに、彼女には士官教育を受ける義務も課されなかった。

 

 代わりに忙しかったのは才人だ。『ガンダールヴ』である彼は、現状ハルケギニアで一番、量産型戦闘機『フェニックス』号の操縦が上手い。ゆえに、ラ・ヴァリエール公爵領に臨時で作られた、『空海軍』の戦闘機教習所の教導官として、駆り出されることとなった。

 集まってきたパイロット候補生達は、貴族ではない才人の言葉にしっかりと従い、戦闘機を乗りこなしていった。軍は上下関係が重要。特に、『空海軍』ではそれが顕著だ。教導官ともなると絶対的な上官として扱われ、逆らうことは厳禁とされていた。

 やがて、候補生達はその真面目な態度でメキメキと操縦の腕を上げていく。ルイズ達が量産機の操縦系を可能な限り簡略化したこともあって、急ごしらえの飛行隊は(いくさ)に耐えうる練度まで高まった。

 

 そんな忙しい日々を送る才人であったが、公爵領に滞在していたのはルイズと才人の二人だけではない。コルベールも学院の教師としての仕事を休んで、ずっとここに滞在していたのだ。

 そんなコルベールはというと、どういうわけか、ラ・ヴァリエール領から出征(しゅっせい)する『領軍』に組み込まれてしまっていた。

 本人は『火』の魔法を破壊に使わぬと決めた身であったが、酒の席で公爵にハルケギニアの未来のためと説得されて、つい参戦を了承してしまったのだ。

 そして、あれよあれよのうちに、ラ・ヴァリエールの『領軍』が(ほこ)る最大戦力、空中空母『イヴェット』号の艦長にすえられてしまった。

 

 零細貴族であるコルベールに箔を付けるための、公爵からの計らいである。

 公爵は、本気で彼を愛娘エレオノールの婚約者候補として推していた。

 コルベール本人としては、エレオノールと知り合って短いことであるし、キュルケからも想いを寄せられていることでもあるしで、エレオノールからの求婚はなあなあで流していたのであるが。

 

 なお、エレオノールは貴重な『土』の『スクウェア』であるが、アルビオンとの戦いには向かわない。公爵家からは、ルイズ、ラ・ヴァリエール公爵、そして公爵夫人という三名ものメンバーが参戦することとなっている。

 ゆえに、エレオノールは公爵家の血を絶やさぬために、夫であるワルド子爵が出征するカトレアと二人で、ラ・ヴァリエールの領地にて戦争の終わりを待つことに決まった。エレオノール本人は、コルベールが艦長を務める『イヴェット』号に乗りたがったが、公爵に大人しく待つよう説得されて、渋々待機を受け入れた。

 

 そうして各々が戦争のために動き始め、またたく間に時は過ぎ去っていった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 いよいよアルビオンへの侵攻を三日後に控えた、十二月(ウィンの月)の初日、虚無の曜日。ルイズと才人は、未だ前線へと出発していなかった。

 彼女らが今、居るのは、トリステイン魔法学院。前線へと向かう前に、身の回りの荷物を取りに、ラ・ヴァリエール公爵領から学院へと戻ってきていたのだ。

 才人が操る『ゼロ・フェニックス』号があれば、軍が集まるラ・ロシェールへと侵攻前日に向かっても、余裕で間に合う。ゆえに、ルイズは学院に残る女子生徒達に出陣前の挨拶をしていった。

 

 学院には、キュルケとタバサの姿もあった。当然だ。彼女達は留学生で、トリステインの戦争に参加する理由はない。

 キュルケの祖国であるゲルマニアは、トリステインと軍事同盟を結んではいる。ただし、実家からは帰国命令も、参戦命令も出ていないため、戦争に参加するつもりは彼女には特になかった。攻撃に優れた『火』のメイジといえども、別に好き好んで他人を焼きたがる性質は持っていないのだ。

 

 そもそもハルケギニアでは、戦争は男が行なうものだという風潮が存在する。わざわざ貴族の女性であるルイズや公爵夫人が参戦することの方が、珍しいのだ。

 

 ゆえに、キュルケとタバサは、ルイズとそして才人の無事を祈って、四人での壮行会を行なった。虚無の休日のため授業のない四人は、昼からルイズの部屋へと集まって一緒の時を過ごし、夜遅くなってから解散した。

 それから、かつての学院での日々と同じように、ルイズと才人は同じ寮の部屋でそれぞれ別のベッドに入り、眠りに就いた。

 

 そして、明朝。日も昇らぬ時間。

 

「娘ッ子! 相棒! 敵襲だ! 起きろ!」

 

 不意に発された、デルフリンガーの叫び声を聞いて、ルイズと才人は目を覚ました。

 

 瞬時に意識を覚醒させるルイズ。寝ぼけ眼で起き上がり、左右を見回す才人。

 対照的な二人だが、朝に弱いはずのルイズに才人はビンタを食らい、すぐさま意識をハッキリさせた。

 

 さらにルイズは、その場で急いで戦闘用のブーツに履き替える。

 才人も、部屋に常備してある暗器を身につけていった。

 すると、下の階の方から扉が破られる音が響いてきた。デルフリンガーの言葉は、どうやら正しかったようだ。

 早着替えを終えたルイズは、才人を連れて部屋を出る。

 それからわずかに遅れて、隣の部屋からも使い魔のフレイムを連れたキュルケが、制服を着た状態で飛びだしてきた。

 

「ルイズ、何事!?」

 

 キュルケが言うが、ルイズは首を横に振って「分からない」とだけ答える。

 と、そのとき、階下から女性の悲鳴が聞こえてきた。それと、「大人しくしやがれ!」という野太い怒声も聞こえてくる。

 

「……アルビオンの後方撹乱(かくらん)策、かもしれないわね」

 

 ルイズはそう言い、とりあえずの目標をタバサとの合流に定めた。

 寮の廊下をルイズ、才人、キュルケ、フレイムが進む。ルイズは短剣を抜き放ち、才人も屋内で振るうには少々大きいデルフリンガーを抜いている。キュルケも、愛用の杖を抜き放って警戒を強めていた。

 

 周囲を警戒しながら、廊下を小走りで行く一同。階段付近に差しかかったとき、階下から何者かが登ってくる足音が聞こえた。

 とっさに、階段の死角へと身を隠す一同。

 そして、階段から姿を現した者は、杖で武装した傭兵メイジの格好をした男二名であった。

 すぐさま『ガンダールヴ』の力でもって飛び出す才人。デルフリンガーでの峰打ちで、二人の杖を持つ右腕を叩き折った。

 さらに、ルイズがそれを追い、短剣で傭兵メイジ二人の喉をかき切った。

 

「うおッ!? ルイズ!?」

 

 鮮やかなルイズの殺人技に、才人がギョッとした顔をする。

 だが、ルイズは「シッ!」と才人に黙るようジェスチャーを返す。そして、ルイズは小声で才人に言った。

 

「明らかな襲撃よ。居るかもしれない仲間を呼ばれないよう、声を上げられる前に殺すわよ」

 

 ルイズの真面目な顔に、才人はここでようやく覚悟を決める。

 峰打ちなんて甘いことをして、相手に叫ばれたら全てが台無しになるところであった。

 

 それからルイズ達は、タバサの部屋へと辿り着く。だが、そこはもぬけの殻だった。

 

「どうやら、タバサはすでに身を隠したようね。さすが、元秘密騎士」

 

 ルイズは、タバサの見事な判断に感嘆する。

 すると、真面目な顔をしたキュルケが、ルイズに尋ねた。

 

「どうする? あたし達も身を隠す?」

 

 階下からは、今も悲鳴と怒声がときおり響いている。敵はまだこの寮の中にいるようだった。

 

「いえ、すでにこの階には敵の死体がある。ここで身を隠したら、潜伏していることがバレてしまうわ。なので、潜伏役はタバサに任せて、わたし達は一人でも多く敵を削りましょう」

 

 ルイズのその言葉に、キュルケは納得し、寮内に潜む敵を倒しに向かった。

 足音を立てないように進み、領に忍びこんだ傭兵メイジを狙う一同。

 だが、四人目を殺したところで、寮内に大声が響いた。

 

「こいつ、殺されてやがる! 反抗している生意気な貴族がどこかにいるぞ! 集まれ!」

 

 とうとうバレたか、とルイズ達は逃げることを考える。

 彼女らが今いるのは寮の二階。魔法を使えば逃げ出すことは十分可能だった。しかし。

 

「抵抗している貴族ども! 姿を現せ! でないと、捕まえたガキを一人ずつ殺していくぞ!」

 

 その言葉に、ルイズはこれ以上、敵を削ることを諦めた。さすがのルイズも、級友を見殺しにする冷徹な判断は下せなかった。

 代わりに、次の作戦をすぐさま頭の中で練る。自分一人が出ていき、才人とキュルケには潜伏するタバサと合流してもらって、シルフィードで離脱して、トリスタニアから援軍を呼ぶよう指示を出そうと思ったのだが……。

 

「男が一人、女が二人、火トカゲが一匹! いるのは分かっているぞ!」

 

 まさかの声に、ルイズ達は苦い顔で顔を見合わせる。いったいどんな魔法を使ったのか、ルイズ達の人員構成が完全に見破られていた。

 そして、投降を迫られた彼女達は、渋々と敵の前に出ていった。

 

 女子寮の入り口近く。そこには黒装束の傭兵メイジに『ブレイド』の魔法を首筋に当てられて、人質となったモンモランシーがいた。寝間着姿のまま涙を流して震えるモンモランシー。乱暴はされていないようだったが、『ブレイド』の魔法が少しでも動けば、彼女の首と胴はすぐさま泣き別れになるだろう。

 

 その光景に、ルイズは抵抗するそぶりも見せずに短剣をその場に捨て、才人もデルフリンガーを足下に置いた。

 最後に残ったキュルケもさすがに抵抗は不可能と判断して杖を放り投げ、ルイズ達三人は傭兵メイジの集団に拘束されて、他の人質達ごと食堂へと閉じ込められるのであった。

 

 そうして手にしていた武器を手放すことになった三人だが、彼女らの意思は未だ折れていない。

 反撃の機会が訪れるのを待つべく、希望を手に三人は虎視眈々(こしたんたん)としていた。

 

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