【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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75.『白炎』のメンヌヴィル

 未明。女子寮が、突然現れた傭兵メイジの集団に制圧された。その後、女子寮に居た貴族の息女達は、全員が食堂に集められた。

 いずれも杖を取り上げられ、寝巻き姿のまま後ろ手にロープで縛り上げられている。

 ルイズ、才人、キュルケの三人も、傭兵を何人も殺害したというのに、殴られることすらなく食堂へと通された。この傭兵メイジの集団は、傭兵団のような結束力のある集まりではないのだろうと、ルイズは当たりを付けた。大方、アルビオンが方々から集めた寄せ集めの軍団なのだろう、と。

 

 そして、最終的に食堂に閉じ込められた人数は、教員も含めて百名強。

 そのいずれも、乱暴は受けていないようでルイズはホッと胸をなで下ろした。

 だがしかし、捕虜となったメンバーの中に学院長のオスマン氏がいるのをルイズは見つけてしまった。当然、杖など持っておらず、手も縛られている。貴重な戦力の一人が欠けたことをルイズは察した。

 

 やがて、学院内の制圧が終わったのだろう。傭兵達のリーダーらしき大柄の男が食堂にやってきて、人質となった貴族達の前に出てくる。そして、彼は優しい声で言った。

 

「なぁに、無闇に立ちあがったり、騒いだり、我らが困るようなことをしなければ、お命を奪うことはありません。ご安心めされい」

 

 やったことに対して、ずいぶんと紳士的な対応だ。ルイズは思った。

 おそらく、敵の狙いは学院の生徒達を人質とすることであろう。ここトリステイン魔法学院は、貴族の子女の中でも、特に名門と言われる家の出身者ばかりだ。なるほど、貴族が主体となっているトリステイン軍に対する、有効すぎる手立てだ。

 しかし、よくもまあアルビオン大陸からここトリステインの奥まで、これだけの傭兵を運び込めたものだと、ルイズは敵のことながら感心した。

 

 だが、この状況でそんな気楽なことを考えていたのは、ルイズくらいなもの。

 他の女子生徒達は肝がそこまで太いわけもなく……生徒の中の一人が恐怖のあまり泣き声を上げ始めた。

 

「静かにしなさい」

 

 先ほどは温和な声を上げていた傭兵のリーダーが、今度は冷たい声で言う。

 しかし、生徒の泣き声は止まない。

 

「消し炭になりたいか?」

 

 泣き続ける女子生徒に杖を突きつける傭兵のリーダー。ルイズは、それを見て相手は本気で言っていると察し、とっさに声を上げた。

 

「あなた、『白炎』ね」

 

 ルイズのその言葉に、傭兵のリーダーが反応する。

 

「ほう? 貴族の娘がオレを知るか」

 

「ええ、元貴族の傭兵メイジ、『白炎』のメンヌヴィルという名は、その界隈では有名ね。凄腕だという話だけど、それ以外にも盲目だという噂があるわね。本当かしら?」

 

「ククク……」

 

 ルイズの質問に、傭兵のリーダーこと、『白炎』のメンヌヴィルは答えを返すことなく笑う。

 そして、焦点の定まらぬ目、義眼でルイズの方を見た。

 

「この状況で少しでも情報を得ようとするか。抜け目ないな。……危険だな」

 

 冷たく言ったメンヌヴィルの全身から、死を連想させるような気迫が放たれる。ルイズの隣にいた才人が、それに反応するが、そこに横から声を上げるものがいた。

 

「待ってくれんかね」

 

 その声の主は、学院長のオスマン氏だった。

 

「女性に乱暴するのは、よしてくれんかね?」

 

 その言葉に、メンヌヴィルが気迫を(ゆる)める。

 どうやら、衝動で人質を殺すようなことはしない、理知的な人物であるらしい。ルイズは、そうメンヌヴィルをジッと観察した。

 そんなメンヌヴィルに向けて、オスマン氏が続けていう。

 

「君たちはアルビオンの手のもので、人質がほしいのだろう? 我々をなんらかの交渉のカードにするつもりなのじゃろう?」

 

「ほう、どうしてそう思う?」

 

「長く生きていれば、そいつがどんな人間で、どこから来て、何を欲しがっているのか分かるようになるものじゃ。とにかく贅沢はいかん。犠牲を強いるならば、この老いぼれだけで我慢しなさい」

 

「残念だが、そうはいかん。学院長とは言えど、ジジイ一人だけでは、見せしめの役にも交渉のカードにも足りぬよ」

 

 鼻を鳴らしてそう言い切るメンヌヴィルは、そこでオスマン氏への興味を失ったようで、杖を手に持ったまま黙り込んだ。

 今は泣き止んだ女子生徒にも、ルイズにも、すでに興味をなくしているのだろう。

 

 そんな傭兵『白炎』のメンヌヴィルをルイズは視界の中に収めながら、考える。

 彼らの要求は、おそらく戦争の停止であろう。アルビオンと、トリステイン・ゲルマニア・ロマリアの三国からなる連合軍の間には、戦力差が存在する。もちろん、アルビオン側の劣勢である。ルイズがタルブの草原にてアルビオン艦隊を全滅させた影響が、ここまで尾を引いているのだ。

 

 連合軍の勝利は固かったはずだ。しかし、このまま人質となってしまうと、自分達の存在が連合軍の足を引っ張ってしまう。さて、どう打開したものか。ルイズは頭を巡らせ始めた。

 と、そのとき、食堂の外から傭兵メイジが一人、駆け込んでくる。

 

「隊長! トリスタニアの方角から、マンティコアの群れが!」

 

「……マンティコア? 近衛の魔法衛士隊か?」

 

「すごい数ですぜ!」

 

「なに、交渉のチャンスと思えばいい。お前ら、ガキどもを見張っていろ」

 

 そう言って、メンヌヴィルが食堂を出ていく。

 それを見て、ルイズは千載一遇のチャンスと考えた。

 そして、自分の両隣にいる二人の仲間を瞬時に見る。

 

 才人。寮の部屋から出る前、服の中に暗器を忍ばせていたのを目撃している。敵の傭兵も一人ひとりの身体チェックをしている時間的余裕がなかったので、才人の服には今も暗器が隠されたままだ。

 キュルケ。左手の人差し指に指輪がある。以前、アルビオンに行くときに渡した杖の代わりになる指輪である。問題なく魔法は発動するだろう。

 行ける。そう確信したルイズは、小さな声で言った。

 

「三秒後に、行くわよ」

 

 すると、それをしっかりと聞いていた才人とキュルケが、真剣な表情へと変わる。彼らも、反撃の機会を(うかが)っていたのだろう。すぐさま意識を切り替えたようだ。

 そして、ルイズは口の中でルーンを小さく口ずさんだ。

 

「エオルー……!」

 

 たった一節のルーン。それだけで、極小の『エクスプロージョン』の魔法が発動する。

 それにより、音もなくルイズ達の背後が爆発し、三人を拘束していたロープが四散した。

 そして、才人はすぐさま服のすそに手を突っ込み、暗器として所持していた寸鉄を右手に握る。彼の左手のルーンがそれに反応し、『ガンダールヴ』の力が全身にみなぎってきた。

 

 湧き上がる勇気に身を任せ、才人は駆け出す。狙いは、鉄製の軍杖を持っている傭兵メイジの一人。

 すると、まさかの事態に、傭兵メイジは動揺を顔に浮かべる。しかし、そこはプロの傭兵。すぐさま軍杖を構えて、物凄い速度で迫る才人に突きつけようとした。

 

「エオルー!」

 

 そこに、ルイズの再度の『エクスプロージョン』が炸裂する。

 顔面を爆発させられた傭兵メイジ。さらに才人が傭兵メイジの軍杖を握る腕に寸鉄を叩きつける。すると見事に、軍杖が傭兵の手からこぼれ落ちた。

 すぐさま才人は軍杖を拾い、『エクスプロージョン』の勢いでのけぞる傭兵メイジの顔へ、手にした軍杖を突き立てた。

 脳を貫かれ、即死する傭兵メイジ。だが、才人が敵の虚を突けたのはそこまで。周囲の傭兵達は一斉に杖を構え、才人に向けて魔法を唱えようとした。

 

 だが、そこでキュルケから複数の火矢が飛んだ。

 威力は人一人すら殺せないようなものであったが、傭兵を一時的にひるませるには十分だった。

 そこから才人が、風のように身をひるがえらせ、傭兵メイジを一人ひとり撃退していく。

 

 とっさに人質を確保しようとする傭兵もいたが、そこはルイズの『エクスプロージョン』が炸裂する。

 ルイズとキュルケの援護を受けながら、才人は的確に傭兵メイジの命を刈っていく。やがて、敵の集団は人数を減らしていき……一分もしないうちに、食堂内に八名もいた傭兵メイジは全滅した。

 

「さあ、行くわよ!」

 

 そう言って、ルイズは才人とキュルケを引き連れて、食堂の入り口に走り出す。

 人質は解放していない。この人数のロープを解くことは一苦労であったし、何より杖を持たない貴族を解放したところで足手まといにしかならない。

 ゆえに、ルイズは外の傭兵メイジを排除することを優先した。

 

 それを人質である女子生徒達と教員達も分かっていたのか、文句一つ言わずにルイズ達を見送る。そして、彼女らは、後ろ手に縛られたまま、『虚無』の担い手の武運を始祖ブリミルに祈るのであった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 ルイズ達が食堂の大扉を開けて外に出ると、そこでは六名の傭兵メイジと魔法衛士隊のマンティコア隊がにらみあいを続けていた。

 おそらくは、傭兵達が人質を盾にアルビオン軍の要求を突きつけようとしていたのだろう。

 だが、現在は膠着(こうちゃく)状態にあるようだ。そこに向けて、ルイズが叫ぶ。

 

「人質は解放したわ! マンティコア隊、敵を制圧して!」

 

 その言葉に、すぐさま反応して傭兵メイジに攻撃を仕掛けるマンティコア隊。

 傭兵メイジも、即座にそれに対応して、激しい戦いが始まる。

 

 そして、傭兵のリーダーであるメンヌヴィルは、後ろを振り向いてそこにいたルイズへと杖を構えた。

 

「フハハ、ここに来て形勢逆転か!」

 

「傭兵なのに、常識に囚われすぎね。メイジだからって、杖を取り上げるだけで無力化できるとはかぎらないのよ」

 

「その反省は今後の仕事で、活かすとしよう!」

 

 言外に自身はこの場から生き延びると主張したメンヌヴィルは、素早くルーンを唱え始めた。

 だが、そこに上空から氷の矢が降ってくる。矢は寸分違わずメンヌヴィルを狙う。

 

 その援護の魔法に心当たりがあったルイズは、目線をわずかに上へと向ける。

 そこには、タバサを乗せたシルフィードが滞空していた。トリスタニアに援軍を呼びに行った後、攻撃の機会を(うかが)っていたのだろう。

 

 そのタバサの得意の魔法、『ウィンディ・アイシクル』が、メンヌヴィルを次々と狙い撃つ。

 それを見事に回避しながらも、メンヌヴィルの詠唱は止まらない。

 ルイズは、そのルーンの調べから、彼が強力な『火』の魔法を放とうとしていることを察した。それは、前方にいるルイズ達すべてを吹き飛ばす爆炎魔法。

 ゆえにルイズは、それに対抗すべく短くルーンを唱えた。

 

「ウル・スリサーズ!」

 

「死ねいッ!」

 

 数十発の『ウィンディ・アイシクル』をすべて回避しきったメンヌヴィルの杖から、炎が放たれようとした、そのとき。

 ルイズの放った小さな『ディスペル・マジック』の魔法が、その魔法を消滅させた。

 

「なにいッ!?」

 

 魔法を解除されるというあり得ない現象を察知して、一瞬、隙だらけとなるメンヌヴィル。そこへ、軍杖を構えた才人が飛び出していき……鋳鉄で作られた軍杖が、メンヌヴィルの胸を深々と貫いた。

 肺を貫かれたメンヌヴィルの喉の奥から、音を立てて血が逆流する。

 そして、才人が軍杖をメンヌヴィルの胸から引き抜くと、メンヌヴィルは盛大に血を流しながら地面に倒れた。

 

 さらに、キュルケが唱えていた『火』の魔法が、それでもなお杖を握りしめていたメンヌヴィルの右手を吹き飛ばす。メンヌヴィルは血を吐きながらも自爆用の呪文を唱えていたため、それを防いだキュルケのとっさの判断は彼女達の命を救った。

 メンヌヴィルからすると、助からぬならば諸共に、というつもりだったのだろう。その執念深さにルイズは冷や汗をかきながら、事態を無事乗り切れたことに息を吐いた。

 

 やがて、マンティコア隊も無事に傭兵メイジの制圧を完了し……こうして、未明から始まったトリステイン魔法学院の襲撃事件は、トリステイン側に死傷者を出すことなく終わりを告げたのであった。

 

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