【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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77.新たな魔法

 トリステイン魔法学院への傭兵の襲撃事件から二日後。十二月(ウィンの月)第一週(フレイヤ)四日目(マン)

 この日は、空にかかる(ふた)つの月が重なる日の翌日であり、アルビオン大陸がもっともラ・ロシェールの町へと近づくタイミングであった。そんなラ・ロシェールの町に、トリステインとゲルマニア、ロマリアの連合軍が集結した。

 連合軍の兵数は約七万。いずれの兵も空を飛ぶフネに乗りこんでおり、その数六百隻。まさしく空を埋め尽くすほどの大艦隊を形成している。

 

 そのうちの一つ、『ヴュセンタール』号に、ルイズ達は『ゼロ・フェニックス』号で着艦した。

『ヴュセンタール』号は、もともとは竜騎士を載せるための広い甲板を持った軍艦であった。そして、今回の戦争で量産型戦闘機『フェニックス』号を搭載するために、数ヶ月をかけて大規模改修を受けていた。

 その結果、ヴァリエール家の『イヴェット』号に及ばないまでも、立派な空中空母として改修に成功していた。

 

 そんな『ヴュセンタール』号が、今回のアルビオン侵攻軍の総司令部となっていた。兵装をほぼ持たないため、ここに司令部があることは味方の軍にも知れ渡っていないのだが。

『フェニックス』号を複数載せた旗艦。そこでルイズは、幕僚(ばくりょう)相手に作戦会議を行なうこととなった。

 

 ちなみに、会議に参加する幕僚の中には、今回の旗印であるウェールズ元皇太子はいない。彼は、ラ・ロシェールの朽ちた巨木、世界樹(イグドラシル)の港にて後方支援を行なうこととなっている。

 万が一があっても、アルビオン王家最後の生き残りである彼を失うことはあってはならない。トリステイン、ゲルマニアの二国による判断であった。

 

 そんなウェールズが欠けた総司令部にて、ルイズは着席したまま発言する。

 

「まず大前提としまして」

 

 会議用の長テーブルの前に座り、ズラリと居並んだ将校達をルイズは見回す。

 いずれも名の知れた上位の貴族や聖騎士ばかり。格好もそれに相応しい物だ。連合軍のため統一感がないが、立派な服装を皆が着込んでいた。

 だがしかし、いずれも華美すぎはしない動きやすさを保った軍服であるあたりが、ここが宮廷ではなく戦場であることを感じさせた。

 そんな彼らに、ルイズは続けて言う。

 

「タルブ戦役のような、広範囲の爆発魔法はもう使えません」

 

 自分を試すように見つめる男達に向けて、ハッキリとルイズはそう告げた。

 その宣言に、肩に金色のモールを突けた軍服姿の幕僚達から落胆の声が上がる。

 そして、幕僚の一人がルイズに問う。

 

「その理由は?」

 

「精神力の不足です。そうですね、皆様は黄金の『錬金』がどうなされるかはご存じですか?」

 

 ルイズの言葉に、幾人か心当たりがあったのか、「なるほど」と小さく声が上がった。

 そのうえで、ルイズは全員に説明するように言葉を続けた。

 

「黄金を『錬金』するには、『スクウェア』クラスの『土』のメイジが一ヶ月ほど精神力を溜めて、ようやく成功します。しかも、完成するのはわずかな量。タルブでの爆発魔法『エクスプロージョン』は、それと似たようなものです。あの戦果は、わたしが生まれてからずっと溜めてきた全ての精神力を注ぎ込んだ結果です」

 

 ルイズがたとえにだした黄金の『錬金』は、『土』のメイジの間で広く知られた事実だ。

 だからこそ、ハルケギニアでは金の価値が保たれ、最高位の貨幣として金貨が用いられているのだ。

 

「では、この戦争で『虚無』はもう使えないと?」

 

 一人の将校から挙がったさらなる疑問。それに対し、ルイズは口もとを吊り上げて答える。

 

「いいえ。それは違います。使えないのはあくまで、広範囲高威力の爆発魔法です。代わりに、新たな『虚無』の魔法を使えるようになりました」

 

 その宣言に、居並ぶ男達から「おおっ」と期待の声が上がった。

 これほどもったいぶっているのだ。よほどの魔法なのだろうと男達は思った。

 そしてルイズは、左手の指に嵌めたトリステインの国宝、『水のルビー』を右手で触れながら、魔法の名を告げる。

 

「新たな魔法の名は『イリュージョン』。広範囲に幻影を出現させ、敵を惑わせる魔法です」

 

 その言葉に、男達の表情が今度は真剣なものへと変わった。新たな『虚無』の魔法の使い道を考えているのだろう。そこはさすが、三国の軍の上に立つ者達であった。

 そこに頼もしさを感じながら、ルイズは自身の話を締めるようにして言った。

 

「さて、この幻影を歴戦の将である皆様なら、どう使います?」

 

 会議の場は、様々な作戦が飛び交い始め、やがて紛糾した。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 タルブ戦役と名付けられた、半年前の戦い。そこでは『虚無』の魔法『エクスプロージョン』によって、アルビオンの軍艦十数隻が跡形も無く爆発し、四散した。

 しかし、アルビオン空軍には、未だ四十あまりの軍艦が残っている。

 一方、連合軍は六百隻の空飛ぶフネの内、約七十の戦列艦を持つ。しかし、三国による連合軍であるため指揮は一本化しておらず、数字ほどの戦力差は存在していないと見なされていた。

 

 そうした状況の中で、連合軍は敵の艦隊を退けてアルビオン大陸に上陸し、フネに乗せて運んだ万単位の陸兵を展開させる必要がある。

 その上陸先の候補は二つ。北部の港ダータルネスと、南部の空軍基地ロサイスだ。

 

 港の規模からいって、ロサイスへの上陸が最善であると、事前に練られた戦略では決まっていた。

 しかし、それはアルビオン側も当然承知している。素直に南部へ連合軍の艦隊を向かわせたところで、正面からの叩き合いになってしまう。上手く上陸に成功したところで、陸軍同士での激しい戦いとなり、消耗戦を強いられてしまうこととなる。

 

 総司令部もその事実に頭を痛めていたのだが、ここに来て伝説の『虚無』が味方をした。

 広範囲の幻影を作り出す魔法。それは、以前タルブ戦役で使われた大規模な爆発魔法よりも、戦略的な価値が高い、まさしく救いの一手だった。

 

 ダータルネス周辺にルイズを運び、そこで幻影の魔法『イリュージョン』を使って北部から連合軍が攻めてくると思わせる。

 当然、敵軍は北部へと陸軍を向かわせるだろう。

 その隙に敵艦隊を叩き、南部から連合軍を上陸させ、ロサイスを制圧する。つまりは、幻影による陽動作戦であった。

 

「健闘に期待する」

 

 作戦会議後にそう言って才人の肩を叩いたのは、トリステインの『空海軍』所属の将軍の一人だ。『フェニックス』号に乗るパイロット候補生の教導のために、才人は何度もその将軍と顔を合わせている。初めはお固い軍人然としていたその将軍だが、交流を続けるうちに実直な快男子であると才人は知った。

 いかにも『空海軍』出身らしい、身分よりも階級や経歴を重んじる男であった。戦闘機を操る唯一無二の技能者として、貴族ではない才人にもよくしてくれた人物だ。

 彼には、死んでほしくない。才人はそう思った。

 

 作戦開始時刻は翌日だ。それまで才人とルイズは、この『ヴュセンタール』号で過ごすことになる。

 搭乗員から丁重な扱いを受けられる立場である二人だが、彼らは念のためにダータルネスまでの足となる『ゼロ・フェニックス』号の様子を見にいくこととした。

 空を飛ぶ空中空母の甲板。魔法によって風が抑えられたそこに、二人はやってくる。

 

 すると、二人は量産型戦闘機である『フェニックス』号の最終点検を行なっていたパイロット達に、手厚い歓迎を受けた。

 

「やあ、教官。いよいよ明日だね」

 

 才人にそう声をかけるパイロットは、いずれも若き貴族の少年達だ。才人が教導役を務めた時に聞いた限りでは、その多くが元竜騎士隊所属らしい。しかも、竜騎士隊から来た者のほとんどが、ただの見習いの立場だった。

 竜は、どの種類もそう簡単には増えない。そのため、己の騎乗する竜を持てていなかった若者達。その彼らに、竜ではなく機械仕掛けの『不死鳥』が、一人一機ずつ与えられた。

 最初は、鉄でできたその乗り物に戸惑っていた彼ら。だがしかし、彼らは、その機体を乗りこなすうちに『不死鳥』が持つ潜在能力に気づいた。そして今では、自分用の『フェニックス』号に『固定化』や『硬化』の魔法をかけてカスタムするくらいには、スッカリ愛着を持つまでになっていた。

 

「もう作戦は決まったのかい、教官」

 

「ああ、後で発令されるだろ。きっと、みんな度肝を抜かれるぞ」

 

 才人は問いかけてきた顔なじみの少年へ、得意げにそう告げた。教官とは、もちろん才人のことである。

 すると、集まっていた少年達が一斉に笑顔になって、才人の隣で興味深げに周囲の『フェニックス』号を観察していたルイズを見た。

 ルイズはすでに伝説の『虚無』の担い手として、有名になっていた。

 (ちまた)では、ここ数ヶ月の間ずっと、詩人や役者が彼女を讃えており、市民の戦意を高揚(こうよう)させる唄が飛び交っていた。

 そんな有名人のルイズの姿を見た彼らは、笑顔のまま仲間うちでの会話を始めた。

 

「だろうな! 僕達には、始祖ブリミルの加護がある! きっと、誰も見たことのない『虚無』の魔法が炸裂するんだ!」

 

「どんな魔法なんだ?」

 

「やっぱり爆発するのか? 名門トリステイン魔法学院の『賢者』殿は、爆発魔法の名手と聞いているぞ!」

 

「いやいや、伝説の『虚無』だぞ? きっと、誰もが想像できない、すごい魔法が飛び出すんだ」

 

「賭けるか?」

 

「いいねえ。ぼくは天候を操作して、反乱軍の畜生どもを海の底に叩き落とす魔法とみたね」

 

「それは『風』の魔法じゃないか? やっぱりここは、神聖な光が飛んでいって敵を貫いてだな……」

 

「敵艦の『風石』を消し去って墜落させる」

 

「それは、いささか地味じゃないか?」

 

「派手なだけで戦争に勝てたら世話ないぞ。戦略、戦術というものは渋みがあってこそで……」

 

「それこそ、渋みで敵に勝てるかよ!」

 

 ルイズが使う『虚無』の魔法について、己の空想をぶつけ合う少年達。さすがにこの段階では作戦を漏らせないため、才人は黙って彼らの話を聞いていた。

 そうしてひとしきり笑い合ってから、彼らは上官が怒鳴り込んでくる前にと、各々の機体の点検へと戻っていった。

 それを見送った才人も、ルイズを連れて試作機である『ゼロ・フェニックス』号へと向かう。

 

「良いヤツらだろ?」

 

 才人は隣を歩くルイズへとそう言った。

 すると、ルイズは短く同意する。

 

「そうね」

 

「死なせたくねえなぁ」

 

「……そうね」

 

「なんで戦争なんてするんだろうなぁ、俺達」

 

「わたしだって戦争なんて嫌だけれど、こればっかりはね」

 

「たくさん人が死ぬんだろうなぁ」

 

「そうね。でも、早期に終戦まで導くことでそれを少しでも減らす助けをできるのが、『虚無』であるわたしと、『ガンダールヴ』であるあなたよ」

 

「……そうだな」

 

 そうして才人は黙り込み、『ゼロ・フェニックス』号を前に、たたずんだ。

『空海軍』の将軍も、『フェニックス』号を手にした少年達も、みんな死んでほしくはない。しかし、これから自分が行なうのは、敵との殺し合いだ。犠牲無くして終わりはないだろう。才人は、最後の覚悟を決めた。

 戦争が、始まる。

 

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