【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま 作:Leni
明くる日、作戦開始時刻直前の事。
ルイズと才人は、『ゼロ・フェニックス』号に乗りこみ、出撃準備を完了させた。
目標は、アルビオン大陸北部の港、ダータルネス。
甲板士官から地図を受け取った才人は、コックピットの中でそれを再確認した。
教導官を務めたここ数ヶ月の間で、才人は空を飛ぶために必要な航法もかじっている。それを一つ一つ頭の中に思い出しながら、地図をなめ回すように見た。
もちろん、今回の作戦は『ゼロ・フェニックス』号一機だけで行なうわけではない。
量産型戦闘機である『フェニックス』号に乗った護衛飛行隊が
『ゼロ・フェニックス』号と『フェニックス』号は、最速の幻獣と言われる風竜よりも最高速度に優れる。そのため、作戦は飛行隊のみで行なわれることとなった。
つまり、これがハルケギニア初となる、『戦闘機』を多数投入した本格的な
地図を確認し終わり、手持ち無沙汰となった才人。
彼は、後部座席に座るルイズのことがふと気になり、後ろへと振り返った。
すると、特注の軍服を着込み長い髪をポニーテールにまとめたルイズは、手に持ったメモ帳を凝視し、素早くめくっていた。
「何を見ているんだ? 詠唱の確認か?」
精神集中をしていたならば、邪魔するのは悪いと思っていた才人。だが、そんな様子も見られなかったため、彼はルイズへと話しかけた。
すると、ルイズはメモ帳から目を離さずに才人へと答える。
「違うわ。ルーンは暗記済みよ。これは、今までサイトに教えてもらった地球の知識をまとめたメモよ」
「うん? なんでこんなときにそんなもんを?」
才人がそう尋ねると、ルイズは「フフン」と笑って言う。
「魔法を使うために必要な精神力はね、感情に連動して高まるの」
そういえば、トリステイン魔法学院での授業で教師が、そんなことを言っていたかもしれない。もう遠い記憶となりかけていた学院での日々を才人は思い出した。
「さらにね、どうやら『虚無』の魔法に必要な精神力は、その傾向がより
そのルイズの言葉に、才人は思わず笑った。ゲームのバグ技を利用しているみたいだ、と才人は思った。
そして、傍らに置かれたデルフリンガーに、才人がルイズの言ったことは本当のことかと尋ねてみると……。
「おう、そうだぜ。まあ、好奇心で精神力を高めるなんてヤツは初めて見たがな! 普通は、怒りとか憎しみとか愛とか、そういうもんだろーが!」
空の上ではなんの役にも立ってくれそうにない、刀剣類であるデルフリンガー。しかし、彼はときたまこうやって、的確なアドバイスをしてくれることがある。
なので、才人はコックピットの中にデルフリンガーを持ち込んでいた。撃ち落とされて脱出に失敗したら、三人一緒に海の藻屑だな、なんてことを考えながら。
「戦争中にいちいち敵を憎んでなんていたら、真っ当に作戦が
メモ帳からようやく目を上げたルイズが、デルフリンガーの言葉にそんな反論をする。
「じゃあ、愛はどうだ?」
デルフリンガーが、からかいを含んだ声色で金具を鳴らす。
「何への愛よ」
「たとえば相棒がハグをするとかだな!」
「んなっ!?」
デルフリンガーの思わぬ発言にルイズが驚き声を上げ、才人はビクリと肩を跳ね上げた。
いやいや冗談じゃないぞ。才人は焦った。
ここは狭いコックピット。そこに美少女と二人で閉じこもっているというのに、そんなことを言われたら意識してしまうではないか!
才人は、戦争に向けた覚悟が吹き飛ぶかのような想いで、頭がいっぱいになった。
すぐ近くにルイズが居て、香水でも付けているのか良い匂いまでする。これで意識をしないなど、思春期からまだ抜けきっていない才人には不可能であった。
「抱きついたら殴るわよ」
才人が一人、
自分はこんなに悩んでいるのに、この女は余裕そうにしやがって。そんなことを思いつつ、才人は言葉を返す。
「いやいや、しねえよ。そもそもそんな自由に身体を動かせる環境じゃねえ」
ベルトで身体を固定しているため、後ろに身を乗り出すことは困難。コックピット自体、そんな盛大にハグをできるようなスペースもない。
距離は近いが、立ちはだかる障害は大きい。その事実に、才人は心を落ち着けようと努めた。
一方、ルイズの心の内はどうなのかというと。彼女は、紅くなっているであろう己の顔を才人に見られなくて、ホッとしていた。
そしてルイズは、今の会話から来る羞恥心で精神力がより高まったことを自覚し……さらに顔を
デリカシーのない魔剣の余計な言葉が作戦の成功確率を高めたとは、総司令部の誰も想像していなかったことであろう。
そんなゆるいやりとりをしているうちに、作戦時間がついにやってきた。
◆◇◆◇◆
作戦開始時刻が訪れると同時、遠くの雲の隙間に、アルビオンの戦列艦が姿を見せた。
『遠見』の魔法でそれを見つけた観測班は、すぐさま魔法の鐘を激しく叩いた。魔法の鐘は遠くまで音を響かせ、作戦開始の報を知らせた。
「『虚無』及び、護衛飛行隊、出撃されたし! 目標『ダータルネス』! 作戦通りに!」
そんな伝令が甲板に響き、出撃を指示する甲板士官のフラッグが振られる。
そうして、事前に知らされていた順番で、機械仕掛けの『
才人も操縦桿を握り、『ゼロ・フェニックス』号を発進させた。
すると、敵艦隊から三隻ほどのフネが、『不死鳥』を吐き出す『ヴュセンタール』号に近づいてくる。
「焼き討ち船か!」
才人は、事前に勉強していた船種の中から、その正体を言い当てた。
そのフネは燃えていた。船内に火薬を仕込み、無人のまま敵艦へと突っ込ませ自爆させるという、特攻兵器である。森林保護政策により木材が豊富で、船を気軽に使い捨てられるアルビオンならではの作戦であった。
迎撃するか? 才人は迷った。
自分の役割は、ルイズを『ダータルネス』へと連れていくこと。ここで旗艦を守ることは正しい行ないか。
判断に迷う才人だが、僚機は違った。虎の子の兵器であるガーゴイル搭載の火矢を一発、焼き討ち船に向けて撃ち放ったのだ。
コルベールとエレオノール合作の火矢が複数に分裂し、三隻の焼き討ち船を的確に撃ち抜く。
そして、焼き討ち船は『ヴュセンタール』号に到達することなく、空中で大爆発を起こした。
「……ハハッ、そうだった。俺は一人で戦っているんじゃないんだ」
思わず才人は笑って、そう言った。
仲間の存在に頼もしさを感じた才人は、操縦桿を力強く握り、目標の大陸北部、『ダータルネス』に向けて
その周りを護衛飛行隊の『フェニックス』号が飛ぶ。
すると、『ゼロ・フェニックス』号に一機の『フェニックス』号が近づいてくる。
なんだろうか、と才人が目を向けると、コックピットに座る一人の少年がサムズアップを才人に向けてきた。
ああ、こいつは焼き討ち船を撃ち落としたヤツだ。顔なじみの少年に、才人は笑顔でサムズアップを返した。
一機の『ゼロ・フェニックス』号と十機の『フェニックス』号が、竜をも置き去りにする速度で空を飛ぶ。
『フェニックス』号を駆る少年達は、いずれも才人の教え子だ。編隊飛行はお手の物で、空に浮くアルビオン大陸へ向けて進んでいった。
すでに遠くなった後方からは、艦隊砲撃の激しい音が届いてくる。だが、それを振り切って才人達はアルビオン大陸を遠目に見ながら空を飛ぶ。
飛行することしばし。グルリと回るようにして航路を取った一同。いずれの機体も不調を起こすことなく、編隊飛行を続けて大陸北部へと辿り着いた。それは、空飛ぶフネでも不可能な短時間での到着であった。
そして、一同は事前の打ち合わせ通りのルートでアルビオン大陸へと近づいていく。
あまりにも速い『不死鳥』の群れ。しかし、アルビオンの警戒網はそれすらも捕捉する。空を行く使い魔が、主人の目となり遠くから高速で飛んでくる影を発見したのだ。
その使い魔の主である観測班の報告を受けて、すぐさまアルビオンの陸上基地から竜騎士が飛び立つ。
そして、攻め寄る『不死鳥』の壁となるように、百騎近い竜の群れが陣形を取って立ちふさがった。アルビオンに名高い、天下無双の竜騎士隊だ。
両者が接敵する。
しかし、『ゼロ・フェニックス』号を守るように前に出た『フェニックス』号が機銃を発射すると、竜騎士がまるで煙にまかれた羽虫のように落ちていった。
魔法ではなく、機銃による一撃。それは竜騎士達にとって未知の攻撃であり、完全な不意打ちとなった。
竜の群れでできた壁に、穴が空く。飛行隊が連なるようにしてその穴に糸を通すように、繊細な飛行ですり抜けていく。
一方、無事で済んだ竜騎士達は魔法やブレスを必死で飛ばす。しかし、高速で飛行する才人達『不死鳥』の群れには届かない。
そうして、『虚無』を乗せた『ゼロ・フェニックス』号と護衛飛行隊は、一機も数を減らすことなく、敵の警戒網を突破した。
やがて、才人とルイズは、機体の風防から覗く眼下に港を見た。
切り拓かれた丘に、何本もの鉄塔が建っている。空飛ぶフネのための
彼らは、無事に『ダータルネス』へと辿り付いたのだ。
それを視界に収めたところで、ルイズは魔法の詠唱を開始した。
才人は『ゼロ・フェニックス』号の速度を抑え、鉄塔の周囲を旋回する。
後方からは竜騎士の群れが追いすがってきている。それに対し、十機の『フェニックス』号が才人達を守るように迎撃に向かう。
長い詠唱が、コックピットの中に響く。
その最中、ルイズはこれから使う魔法の概要を思い出していた。
『始祖の祈祷書』に曰く、初歩の初歩。
描きたい光景を強く心に思い描くべし。
なんとなれば、詠唱者は、空をも作り出すであろう。
詠唱が続く中、護衛飛行隊と敵の竜騎士隊の戦いが始まる。『フェニックス』号の機銃がうなり、火矢が飛び、敵の『マジックアロー』の魔法が機体をかすめる。しかし、鉄で守られ『硬化』の魔法が掛けられた『フェニックス』号は落とされない。
逆に、近隣国最強であるはずの竜騎士隊が、数に劣るはずの不死鳥の群れに撃ち落とされていく。機銃が、火矢が、メイジの魔法を超える威力で竜を
そんな戦いの中、才人は敵からできるだけ距離を取りながら、ルイズの詠唱が終わるのを待つ。
才人は、操縦桿を操りながら、かつてコルベールが言った言葉を思い出した。
『死』に慣れるな。
今、彼の目の前では、地球からもたらされた『戦闘機』によって生まれた新兵器で、敵兵が『死』を与えられている。
その事実に、才人は苦い気持ちでいっぱいになった。
仲間が生き残ることは嬉しい。敵である竜が墜ちていくのを見るのは、一種の爽快感だってある。しかし、竜に乗る相手も、立派な人間だ。それを一方的に撃ち落としていく自分達。一瞬で命が
覚悟はしていたが、これが戦争か。なんて
才人の心の内は晴れぬまましばらく乱戦は続き、やがて、ルイズの詠唱が完成する。
発動した『イリュージョン』の魔法が、空に連合艦隊の虚像を作り出した。
その幻影は、アルビオン軍を完全に騙しきり、アルビオン所属の歩兵の大軍を北部へと誘引させ……。
本物の連合艦隊は、見事にアルビオン大陸への上陸を果たし、南部のロサイスを占領することに成功したのであった。