【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

79 / 142
79.進行と停滞

 ハルケギニアの冬は、年が明けてからやってくる。

 標高の高いここアルビオンでもそれは変わらず、十二月(ウィンの月)の第二週である現在も、まだ暦の上では秋であった。

 

 アルビオン大陸南部のロサイスに上陸した連合軍だが、このロサイスでは万を超える兵を収容できるような建物は存在しない。

 よって、ロサイス周辺に天幕が大量に張られて、そこに連合軍は駐屯した。

 

 一人も欠けることなく上陸に成功した作戦総司令部も、ロサイスには入らず専用の天幕に留まる。

 そして、総司令部からVIP扱いを受ける『虚無』のルイズと、その使い魔才人は専用の天幕を一つずつ与えられた。

 

 その天幕には、護衛飛行隊の少年達がひっきりなしに訪ねてきては、才人と語り合って帰っていく。

 あの竜騎士ひしめくダータルネスでの戦いにおいて、護衛飛行隊は一人も欠員を出すことなく作戦を成功させた。その圧倒的な戦果に、総司令部からの覚えもめでたく、彼らはここロサイスでも『虚無』の担い手の護衛役として、特別に良質な天幕を与えられていた。

 位置はルイズと才人の天幕のすぐそばなので、暇つぶしになにかと姿を見せては、雑談をしに来るのだ。

 

 もちろん、ここは敵地なので無駄に騒ぐことも少ない。酒を飲んで盛り上がることもあったが、近くに軍の将校の天幕があることもあって、節度を守っての飲み会に留まった。

 しかし、そんな状況ではストレスはたまるもの。彼らはそんな中で、頼れる教官である才人と陽気に会話をすることでストレスを発散させている状況であった。

 なにせ、才人は聞いたこともないような異国の出身。彼の不思議な故郷の話を聞くだけでも、十分暇を潰せるのだ。

 すると、才人の話をルイズも聞きたがり、才人の天幕には常時ルイズが留まることになった。

 

 それがまた、少年達には非常にウケた。むさ苦しい男ばかりの戦場で、美しい貴族の令嬢が笑顔を見せてくれるのだ。

 護衛飛行隊の少年達は貧乏な下級貴族の出がほとんどで、高貴な公爵家の娘と会えるだけで、これ以上ない喜びとなるのだ。

 

 あわよくば、見初められたりなんかして……。などと考える剛の者も一部にはいた。

 しかし、彼らはその公爵令嬢と教官である才人との距離の近さを間近に見てしまい、その想いは早々に潰えてしまった。それでも、戦場の華を目と耳で愛でることは、彼らのよいストレス解消になった。

 

 そんなロサイス郊外で待機する日々が少々続いた、ある日。

 ルイズの天幕に、客がやってきた。

 

 貴族ではない。だが、丁寧に扱われるべき重鎮だ。その正体は、ロマリアの神官。それも高位の者だ。

 今回の戦では、ブリミル教の総本山であるロマリアから派兵がなされている。もちろん、連合軍側の立場での正式参戦だ。

 

 その代表者の一人として位の高い神官が、伝説の『虚無』の担い手を名乗るルイズに挨拶へ来たのだ。

 

「ロマリアの幻獣隊を率いる、ジュリオ・チェザーレだ。以後、お見知りおきを」

 

 その神官は、美しい顔立ちをした若き少年だった。ルイズや才人とそう歳の変わらぬ見た目をしている。戦場に老齢の神官や聖騎士は来られないにしても、隊を率いるにしてはあまりにも若かった。

 そして、彼にはある大きな特徴があった。

 鳶色(とびいろ)の眼と碧眼(へきがん)のオッドアイ。ハルケギニアでは、オッドアイを空に浮かぶ(ふた)つの月になぞらえて、『月目』と呼ぶ。そんな珍しい特徴をその少年は有していた。

 

 飛び抜けた美貌に、神秘的な瞳。しかし、ルイズはそれを気にした様子も無く、挨拶を交わす。

 

「ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールよ。かつてロマリアに異端審問を受けた異端者で、今は『虚無』の担い手をやらせてもらっているわ」

 

「その節は、大変失礼を……」

 

 若き神官、ジュリオの謝罪の言葉に、ルイズは機嫌悪そうに鼻を鳴らした。

 なにやらルイズは、宗教国家のロマリアと因縁があるらしい。才人はルイズの態度を見て、そんなことを思った。

 

「しかし、わざわざわたしに挨拶だなんて、『虚無』へのご機嫌取りかしら?」

 

「いやいや、そういうわけではないよ。トリステインの姫将軍殿下から、指輪の捜索にご協力いただいたと聞いて、御礼の言葉をと」

 

 ルイズの冷たく言い放った言葉に対して、ジュリオはルイズの左手を見ながら言葉を返した。

 ルイズの左手には、トリステインの秘宝、『水のルビー』が()められている。

 

 その視線を受けて、ルイズは彼が言いたいことを察した。

 

「なるほど、ロマリアの参戦は急だったと思っていたけど、姫さまが交渉に成功してのことだったのね。となると、『炎のルビー』はロマリアに返されたというわけかしら」

 

「ああ。未だ指輪はトリステインのもとにあるけど、戦争が終わった後にロマリアへと返還していただけると、姫殿下から確約をもらったよ。今回の正式な派兵は、その対価とも言えるね」

 

「お得意の『聖戦』は発動するのかしら?」

 

「いや、ロマリア主導の戦いではないからね。でも、ぼくたちロマリアは、キミたち連合軍の味方だよ」

 

「だと良いけれど」

 

 なにやらルイズが一方的に牽制(けんせい)しているなぁ、と才人はなんとなく感じたが、それを止めに入ることはしなかった。

 才人も、この神官の少年を生理的に受け付けなかったからだ。美形だから憎いという愚かな嫉妬心によるものではないが、なんとなく見た目からにじみ出る何かが、才人の気に障ってしかたがないのだ。

 

 そのようなことを思いながら、ジュリオとルイズ二人のやりとりを才人が見ていると、不意にジュリオが才人の方へと向いた。

 

「キミが噂の使い魔くんだね。確か、名前はサイトーン」

 

「才人だ」

 

 名前を間違えられて、ムッとしながら才人は答えた。そんなに日本人の名前は発音が難しいのか? 才人はジュリオをにらみつけた。

 

「これはすまない! 大変失礼した! いや、キミの活躍は聞いているよ。『虚無』の担い手の使い魔ということは、やはり伝説の使い魔の一人なのかい? おそらく、『ガンダールヴ』と見たね!」

 

 しかし、ジュリオは才人ににらまれても気にせず、まくし立てるように彼に向けて言った。

 突然の質問に、才人は答えに困って、自身の主人の方を見る。すると、ルイズは正直に才人の正体を明かした。

 

「『ガンダールヴ』よ。たとえ乗り物でも、それが兵器なら『ガンダールヴ』が操る槍となるのよ」

 

 ルイズは全てを暴露した。考えなしでのことではない。才人の正体をロマリアの神官であるジュリオへ伝えることは、ルイズにとってしっかりとした意図があった。

 

「だから、サイトを異端者扱いなんてしたら、始祖ブリミルに逆らう不信心になるってことよ。覚えておくのね」

 

「おおっと……いつかの異端審問が、よほどお気にめさなかったかな?」

 

「当たり前じゃない。ろくな基準もなく、神官が気にくわない相手を私刑にする制度なんて、よくもまあ恥ずかしげもなく使い続けているものね」

 

「うーん、耳が痛い。現在の教皇聖下も、異端審問は非推奨としているのだけれどね」

 

「非推奨じゃなくて、禁止しなさい、禁止」

 

「聖下はまだ教皇の座に就いてから日が浅いからね。政治力が足りなくて、そう簡単にはいかないのさ」

 

 と、そんな毒にも薬にもならない話をジュリオはしばらくしてから、天幕を去っていった。

 そんな彼を見送った後、才人はルイズにポツリとつぶやいた。

 

「俺、なんとなくあいつのこと生理的に受け付けないな……」

 

「あら、話が合うわね。わたしもあの人はちょっと無理ね。内面からにじみ出る、うさんくささを感じるのよね」

 

 思わぬ意見の一致に、二人は顔を見合わせ苦笑した。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 ロサイスに立てこもり、攻め込んでくるアルビオン軍を撃退する予定であった連合軍。

 しかし、アルビオン軍はロサイスに攻めてこなかった。ダータルネスに誘引されてしまった彼らが次に選択した作戦は、首都ロンディニウムへの籠城。

 二つの軍が互いに防衛戦術を選んでしまったのだ。

 

 これは、兵站(へいたん)線が長い連合軍からすると、非常に由々しき事態であった。空路で食糧を運ぶ必要がある連合軍にとって、時間の浪費は避けなければならないものである。

 仕方なしに、連合軍は首都攻めに方針を変更した。しかし、一度構築した陣はそう簡単には解けない。さらに、どう首都を攻めるか、経路選択で作戦総司令部では連日、喧々諤々(けんけんがくがく)の作戦会議が行なわれていた。

 

 そして、上陸から十五日後。連合軍は古都、シティオブサウスゴータへ向けて進軍を開始した。

 ルイズと才人も、そのサウスゴータへの侵攻で役目を与えられた。

『虚無』の魔法の使用、ではない。『イリュージョン』の魔法を多用しすぎると、いざ首都での戦いとなったとき、敵は幻影に騙されてくれないかもしれない。よって、彼らが与えられた仕事は、護衛飛行隊と連携しての制空権の確保である。

 

 空中戦ならば本来ルイズは必要ないのだが、才人の方に問題があった。彼は魔法が使えない。よって、撃墜されて機体から脱出した際に、身を守る魔法が使えないのだ。コルベール研究室で開発されたパラシュートは存在するが、確実ではない。

 なので、ルイズは才人と同乗することを願った。場合によっては、小規模の『エクスプロージョン』で敵の幻獣を撃ち落とすことも可能。そう主張して。

 実のところ、ルイズは『風』の系統魔法である『レビテーション』を使えないため、これは建前であったのだが。本来、戦争になんら関わりのない才人一人の出撃をルイズが嫌がっただけである。言わば、ルイズのわがままだ。

 

 最初、司令部は秘密兵器である『虚無』の出撃を渋った。だが、サウスゴータの占領は確実に成功させなければならない。よって、最終的にはルイズの案を受け入れた。

 無論、司令部も無能ではない。彼らは『ゼロ・フェニックス』号が、さらなる戦果をもたらすことを確信していた。

 試作機にして、ワンオフの機体である『ゼロ・フェニックス』号。そこには、量産機である『フェニックス』号には積まれていない新兵器が搭載されていることを彼らは知っていたのだ。

 

 それは、新型の投下爆弾。空から一方的に地上を蹂躙(じゅうりん)する新兵器が、司令部に渡されていた『ゼロ・フェニックス』号の概要に記載されていた。

 アカデミーの実践魔法研究室室長のエレオノールが『竜の羽衣』の銃弾に使われている無煙火薬を解析して作り出した新型爆弾が、この機体には特別に積まれていた。爆弾の投下機能も、量産機にはない特別仕様として搭載されている。

 つまり、『ゼロ・フェニックス』号は『戦闘機』でありながら、『爆撃機』の役割も果たすことができるのだ。

 

 そうして、総司令部の期待を背負ったまま、ルイズと才人の再びの戦いが始まった。

 

 才人が操縦桿を握り、ルイズが後方から的確な補助をする。

 人の目は二つしかない。戦場に向けられる視線は一つ。しかし、複座式のこの『ゼロ・フェニックス』は、そんな人の弱点を補える。

 二人がかりでルイズと才人は、戦場にて多大な戦果を上げた。

 

 その結果、シティオブサウスゴータへの侵攻は、見事に連合軍側の勝利となった。

 そして、またもや護衛飛行隊はメンバーを欠かすことなく戦いきった。その結果、彼らは見事、サウスゴータの町で行なわれた論功行賞(ろんこうこうしょう)の場で、勲章を与えられることとなった。

 

 この勢いのまま首都へと進もうとした連合軍。

 しかし、その歩みは止まる。アルビオン軍が、始祖の降臨祭を理由に、約二週間の休戦を申し込んできたのだ。

 

 始祖の降臨祭は、ハルケギニア最大の祭りだ。新年の第一週の一日目、才人の故郷でいう元日から始まり、そこから十日ほど続く。

 ハルケギニアの戦争では、降臨祭の期間は休戦する(なら)いだ。

 降臨祭で休めるかどうかは兵の士気に大きく関わる。そのため、連合軍は首都攻めを前にして足止めを強いられてしまった。

 

 しばしの休暇が、万を超える兵に与えられた。

 戦場とは思えない、平和な一時がサウスゴータの町に訪れる。

 しかし、その裏では、アルビオンによる『水』の力を使った策略が進行しようとしていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。