【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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83.二人目の『虚無』

 目の前のハーフエルフの娘が、『虚無』の担い手。

 まさかの話に、カリーヌは驚く。さすがに嘘か間違いではないかと疑いにかかる。

 

 そのとき、不意に部屋の外から、元気な子供達の歌声が聞こえてきた。

 

 神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる。

 

 神の右手がヴィンダールヴ。心優しき神の笛。あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空。

 

 神の頭脳はミョズニトニルン。知恵のかたまり神の本。あらゆる知識を溜め込みて、導きし我に助言を呈す。

 

 そして最後にもう一人……。記すことさえはばかれる……。

 

 四人の僕を従えて、我はこの地にやってきた……。

 

「この歌は……?」

 

 カリーヌが初めて聞く不思議な歌に、目をパチクリとさせた。

 すると、ティファニアは恥ずかしそうに目を伏せながら、カリーヌへと答える。

 

「えっと、そのオルゴールから聞こえてきた歌なの。よく歌っていたら、子供達が覚えちゃって……」

 

 そのティファニアの言葉をカリーヌの横で聞いていたルイズ。

 すると、ルイズはカリーヌの予想外の行動に出た。

 左手に()めていた『水のルビー』を外して、ティファニアに差し出したのだ。

 

「これを」

 

「え?」

 

 ティファニアが、反射的に差し出された指輪を受け取る。

 そして、有無を言わさずルイズが続けて言った。

 

「そうね、小指にでも嵌めてみてくれる?」

 

「う、うん……」

 

 言われるまま、ティファニアは左手の小指に『水のルビー』を通す。

 すると、『水のルビー』は自動でサイズが変わり、ピッタリとティファニアの小指に嵌まった。

 

 それを見て、ルイズは確信する。この人は、『虚無』の担い手だと。

『水のルビー』のサイズ調節能力。それは、今まで何人にも試したが、ルイズにしか機能しなかった。それがこのハーフエルフの娘に反応したということは、ルイズと何かしらの共通点があるわけだ。それが『虚無』の魔法ということは容易に想像が付いた。

 

 そしてルイズは、駄目押しに腰に下げていた革のポーチから、『始祖の祈祷書』を取り出して、ティファニアに渡した。

 

「それ、読んでみて。『虚無』の担い手なら、読めるはずよ」

 

「……ええと、さっきから、『虚無』ってなんなの?」

 

 ティファニアのその言葉に、ルイズはマチルダの方を見た。

 すると、マチルダは肩をすくめるジェスチャーを取って、ティファニアではなくルイズに向けて言う。

 

「ティファニアが『虚無』というのは、あくまでわたしの予想さ。でも、多分合っているだろう?」

 

「……そうね。さあ、テファだったわね。読んでみて」

 

「う、うん……」

 

 ルイズに促されるまま、ティファニアは『始祖の祈祷書』のページを開いた。

 すると、祈祷書のページから輝きが漏れた。『虚無』の力を持つルイズが初めて指輪を嵌めてページを開いたときと、同じ光景である。やはり、とルイズは目を細めた。

 

「ええと……読めるわね。これは、古代語……?」

 

 祈祷書の最初の一ページ目に目を落としながら、ティファニアが言う。

 すると、ルイズはティファニアに「読めそうなら数行でいいから読み上げてみて」と音読を促した。

 

「難しそうなことが書いてあるわ……序文。これより我が知りし真理をこの書に記す。この世のすべての物質は、小さな粒より為る。四の系統はその小さな粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。その四つの系統は、『火』『水』『風』『土』と為す。これより我が知りし真理をこの書に記す

 

 まさしくそれは『始祖の祈祷書』の最初に書かれているはずの文章であった。

 

 ルイズ以外、誰も読むことができなかった白紙の祈祷書。それが、ティファニアにも読める。

 それはつまり、ティファニアもルイズと同じ存在だということ。ここに、二人目の『虚無』の担い手の存在が確認された。

 話を聞いていたカリーヌは、事の大きさにまるでめまいでも起こしたような気分となる。

 

 だが、娘のルイズは違った。

 

「おめでとう。『虚無』の担い手ということは、始祖ブリミルの血に連なる、偉大な王家の者と認められるということよ」

 

「えっと、ありがとう?」

 

 ルイズの祝福の声に、ティファニアは困惑しながらそんな言葉を返す。

 すると、ルイズはさらに、ティファニアを困惑させることを言い出した。

 

「アルビオン王家の生き残りは、トリステイン王国の国王に内定している王子と、その王妃となるトリステイン王女の二人だけなのよね。つまり、テファはその気になれば、空位になっているアルビオン王国の女王にだってなれるわよ」

 

 そんなルイズの言葉に、ティファニアは仰天する。そして、焦ったように「いやいやいや」と首を横に振った。

 

「わたしが女王とか、無理無理!」

 

「エルフの血を引いていようが、『虚無』ならいけるわ」

 

「無理! 血筋とかじゃなくて、政治とか、わたしなんにも分からないわ!」

 

 そんなティファニアの必死な様子に、ルイズは「冗談よ」と笑った。

 そして、あらためて金髪翠目の美しいハーフエルフに向けて、ルイズは言った。

 

「でも、『虚無』という箔が付いたことで、大手を振って人前で出歩けることは本当よ。一緒に、ラ・ヴァリエールの地に行きましょう。もちろん、子供達も一緒にね」

 

 そのルイズの言葉に、ティファニアはようやく笑顔を浮かべて、ルイズに返した。

 

「うん、よろしく」

 

 こうして、ラ・ヴァリエール公爵家は、村に隠れ住んでいたハーフエルフと五人の子供達を保護することとなった。

 なお、『始祖の祈祷書』を読み進めても、ティファニアは新しい『虚無』の魔法を習得することはなかった。それはつまり、彼女は今、新しい魔法を必要としていないということ。彼女が村を出ることに対し、何かしらの困難が待ち受けてはいないということでもあり、ルイズはホッと胸を撫で下ろすのであった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 ラ・ヴァリエール公爵ピエールは眠ったままなかなか目を覚まさなかった。

 このままウエストウッド村で安静にさせるべきという意見も出たが、カリーヌは空中空母『イヴェット』号への撤退を決断した。

 いつアルビオン王国軍が軍を再編させて戻ってくるか分からない。ゆえに、カリーヌはアルビオンからの脱出を選んだ。

 

 そうして、ウエストウッド村に住んでいたティファニアと子供達は、慌ただしく村を出るために荷造りを始めた。

 それからカリーヌ達の到着から一夜明けた早朝に、一同は村を後にして森を出た。

 

『イヴェット』号と合流し、空飛ぶ幻獣を使って全員が『イヴェット』号へと乗りこむ。

 そして『イヴェット』号は、先に撤退した連合軍を追って、アルビオンから脱出した。

 

 ウエストウッド村の子供達は、生まれて初めて乗る空飛ぶフネに大興奮。ティファニアも、好奇心を抑えられない様子でそわそわとしていた。

 そんな彼女達にルイズはついて回って、マチルダと一緒に面倒を見てやった。

 

 一方、才人はコルベールや護衛飛行隊といった顔なじみのところに顔を出し、お互いの無事を喜び合った。

 護衛飛行隊は、あの七万の軍勢が率いていた竜騎士との激しい空中戦でも落とされることなく、生き抜いたらしい。

 これも、ルイズの『イリュージョン』の魔法のおかげだと口々に言っていた。

 

「いやあ、危ないところもあったんだけどな。でも、そこで幻影が良い感じにサポートしてくれたんだ。ミス・ヴァリエールはどれだけ戦場に目を向けていたんだろう」

 

 ルイズをそう褒める飛行隊の隊長ルネ・フォンクの言葉に、才人は自分が称賛されたかのように喜んだ。

 地上で戦っていた才人も、ルイズの幻影にはずいぶんと助けられた。どれだけ自分のご主人様はあの戦場で頑張ったんだろう。才人は(ほこ)らしくなった。

 

 それから才人は護衛飛行隊の少年達と一通り戦いの苦労を語り合った後、病室に見舞いに行った。

 病室には公爵ピエールを始めとして、ティファニアの秘宝で治療を受けた元重傷者達が収容されている。

 ピエールの容態も気になったので、才人は病室へ様子を見にいくことにしたのだ。

 

 病室の扉をくぐると、そこにはカリーヌが詰めており、なんと意識を取り戻したピエールと言葉を交わしていた。

 

「公爵! 目が覚めたんですね!」

 

 才人はピエールが横たわるベッドの横へと、小走りで駆け寄る。

 すると、ピエールはヒゲに覆われた口もとに笑みを浮かべて、才人に言った。

 

「おお、ミスタ・ヒラガ。どうやらわしは生き延びたようだ。キミにも心配を掛けてしまったようだな」

 

「いえ、無事なようで嬉しいです」

 

「ああ。今回ばかりは本気で死ぬかと思ったんだがな」

 

 そう言って、ピエールは声を上げて「ワハハ」と笑った。

 どうやら、まともに会話が可能なくらいには快復したらしい。才人はホッと胸を撫で下ろした。

 そんな才人に、ピエールは優しい目を向けながら言う。

 

「しかし、戦場ではキミにずいぶんと助けられたな」

 

「公爵も大活躍だったじゃないですか」

 

「いやいや、途中でキミに背を守られなかったら、わしは討ち死にしていただろう。そうだ! 王政府に、キミを『騎士(シュバリエ)』へ推薦しておこう!」

 

「『騎士』って、確か……」

 

 才人は、トリステインにおける貴族階級を思い出した。

 その中の一番下が、『騎士』だ。子孫には受け継がれないが、純粋な功績でのみ就ける位。他の貴族も、相手が『騎士』となると一目置くほどであるという。

 才人も以前、アルビオン潜入任務成功の功績で、与えられそうになった貴族の位であった。そのときは、地球に帰る気満々であったため、拒否して報奨金と剣を受け取っただけで済ませたが。

 

「いやいや、騎士って、まさかそんな……」

 

「駄目かね? なっておいて損はないぞ。義務はほとんどないし、こう言っては生臭い話となるが、年金も出る」

 

「ああ、そうですか。それならまあ……」

 

 いずれ日本に帰るつもりではあるが、義務がないならばなっておいてもいいかな。才人はそんなことを思った。

 そんな二人のやりとりをベッドの脇に立つカリーヌは笑顔で見守っていた。

 

 そうして平和な時間が過ぎ、『イヴェット』号は無事に連合艦隊と合流を果たす。

 アルビオン軍からの追っ手もなく、『イヴェット』号はラ・ロシェールへ辿り付き、町に人を降ろした。

 

 本来は『王軍』所属のルイズ、才人、護衛の飛行隊の少年達、そして公爵の代わりにカリーヌがラ・ヴァリエール家の『領軍』の代表として、連合軍本部を訪ねる。

 そこにはウェールズ元皇太子が総大将として控えており、彼女らを歓迎した。

 アルビオン軍七万の脅威から撤退する連合軍を支援した英雄達として迎え入れられたのだ。殿(しんがり)を務めさせたことに対する謝罪ではなく、称賛であるあたりに、ルイズは政治の面倒くささを感じ取った。

 

 そうして、ルイズ達が一通りの賛辞を受け取った後、あらためてウェールズが発言した。

 

「それで、まだ極秘の話なのだが……実は、ガリアが連合軍側として参戦した」

 

 その言葉に、一同は驚きの表情を浮かべた。一人、国際情勢に詳しくない才人を除いて。

 才人は、ぼんやりとハルケギニアの地理を思い出す。確かガリアは、トリステインの南方に位置するという大国だ。今回の戦争では、中立を決め込んでいたはずだ。

 なるほど、それが電撃参戦となると、皆もこれほど驚くわけだ。才人はそう納得した。

 

 そして、ウェールズは皆の落ち着きが戻ってから、さらに言った。

 

「今頃、ガリアの艦隊は、首都ロンディニウムを攻めているだろう。つまり……」

 

 ウェールズは、そう言いながら複雑そうな表情を浮かべる。

 

「戦争は終わりだ。ガリアには、美味しいところだけを持っていかれたな」

 

 ガリア軍による首都攻略成功の報がもたらされたのは、それから三日後のことであった。

 

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