【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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84.戦争を終えて

 戦争へのガリアの電撃参戦。その衝撃の事実に、方々の国が動揺を見せた。

 今回の戦争で、中立を保っていたはずのガリア王国。それがわざわざここにきて戦いへと介入してきたことについては、一応の建前が用意されていた。

 それは、ガリア王家の一員、現王の亡き弟の忘れ形見であるタバサことシャルロットが、アルビオンの暗殺部隊に狙われたという理由での参戦であった。

『白炎』のメンヌヴィルによるトリステイン魔法学院襲撃の一件である。

 

 ガリア王家に楯突いた、おろかなアルビオンの反乱軍を滅ぼす。そう宣言して、ガリアは大艦隊を率いてアルビオンの首都ロンディニウムを強襲した。

 今は亡き王弟(おうてい)、オルレアン公シャルルの娘の危機を受けて、オルレアン派は奮起していた。そして、現王派とオルレアン派が手を取り合い、ガリア軍は見事に勝利を収めたのだ。

 

 もちろん、このアルビオンに対する宣言は、現王ジョゼフにとって言葉通りの建前でしかなかった。

 そもそも、トリステイン魔法学院襲撃の背後で暗躍していた者は、ジョゼフの腹心の部下なのだ。見事なマッチポンプであった。

 

 ガリア王ジョゼフの本当の狙い、それは……。

 

「やれやれ、これでアルビオンの土地を得られるな」

 

 空を行く軍艦の豪華な部屋で、ジョゼフはそんなことを独りごちた。王である彼は今、こたびの戦争の戦後交渉を行なう『諸国会議』に出席するために、遠路はるばるアルビオン大陸へとやってきていた。

 部屋の中には、護衛が一人詰めている。その護衛は、ジョゼフがつぶやいた言葉を拾い上げた。

 

「『大隆起』の避難先ですね。軍を消耗することなく飛び地を得る。見事な采配でございました」

 

 すると、ジョゼフはその護衛の方を見て、ぼやくように言う。

 

「『風石』の脅威など、足下を掘ればなくなるというのにな。まったく、臆病者どもには困ったものだ」

 

 そう、ジョゼフの今回の狙い。それは、神聖アルビオン共和国との戦争に介入することで、戦勝国の一つとして浮遊大陸にガリア王国の領土を確保すること。

 来たる『大隆起』に備えた、避難場所の確保だ。

『ラグドリアン・テクスト』の存在を知る、なにかと口うるさい高位貴族達に言うことを聞かせるための餌である。途中参戦とは言えども、連合軍が攻められなかった首都を攻略した功績は大きい。『諸国会議』での交渉次第だが、アルビオン大陸に領土をいくらか確保できる目算はあった。

 

 ジョゼフ本人としては、騒がしい貴族相手のわずらわしい政治などにはいちいちかまけず、ルイズの動向を追うことに集中していたい。それがゆえの貴族用の餌、『大隆起』からの避難先を用意したわけだ。今頃ガリアの国もとでは、高位貴族達がアルビオンの領地の分配を巡って、醜く言い争っていることだろう。

 

「では、飛び地の管理者は誰になさるので? 新しい領土をまとめる者がいないと、その臆病者の貴族が、内部で争いかねません」

 

 護衛がそう尋ねると、ジョゼフは馬鹿にした様子で鼻を鳴らす。争いかねないではなく、実際いままさに争っているだろうと考えてのことであった。

 そして彼は、心底つまらなさそうに言う。

 

「そうだな、誰にするか……。ああそうだ、我が娘が、今の地位に不満そうであったな。よし、イザベラをアルビオンの総督(そうとく)の座に就けるとする。確か、この艦に騎士を連れて同乗していたな。知らせておけ」

 

 まるで平民がその日の夕食を何にするか決めるかのような気軽さで、ジョゼフはアルビオンの飛び地の管理者を決めた。

 

 そして、ジョゼフはそれ以後、アルビオン大陸への興味をほとんど失った。

 戦勝で得られる可能性があった、本命であるアルビオンの秘宝『始祖のオルゴール』の確保は叶いそうになかった。そのため、もはやジョゼフにとってはアルビオン大陸は遊び飽きた玩具のごとき存在であった。『諸国会議』での戦後交渉も、部下に任せるよう取り計らった。

 

 ちなみにジョゼフの娘であるイザベラは、軍艦の中で退屈していたところで、アルビオンの領土をまとめる総督就任の報を聞いて跳び上がらんばかりに喜んだ。

 北花壇騎士団という秘密騎士団の団長を任されていたが、秘密がゆえにその立場を触れ回れないため、どうにもやりがいを感じていなかった。そこへきて、今回の大抜擢だ。

 実のところ、イザベラは親の愛に飢えていた。そこに来て、今回の件で父親からの期待の心を感じて、張り切って仕事の準備を始めた。

 

 もちろん、ジョゼフはイザベラに期待などしていない。たまたま要らない土地に、空いていた人材を割り当てただけ。

 親の心子知らず。悪い意味でそのことわざ通りの事が起きていた。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 終戦から一ヶ月が経った二月(ハガルの月)。トリステイン、ゲルマニア、ロマリア、ガリア。その四国での戦後交渉が進んだ。

 神聖アルビオン共和国の重鎮の多くは、初代神聖皇帝を名乗るクロムウェルごと、首都ロンディニウムの宮殿でガリア艦隊の砲撃によって吹き飛ばされた。

 

 その結果、主を失ったアルビオン大陸は、戦勝国である四国によって、卓上のパイのように切り分けられた。

 その中でも、トリステインは旧アルビオン王家の正当後継者であるウェールズを有しているため、比較的優位に交渉を成功させることとになった。『虚無』の担い手であるルイズがもたらした戦果も大きい。

 

 そして現在。戦後交渉の成果の一つ、旧アルビオン王家の秘宝『始祖のオルゴール』が、ウェールズの前に置かれていた。

 ここは、トリステインの王宮。その王の執務室に、ウェールズ、アンリエッタ、ルイズ、ラ・ヴァリエール公爵ピエール、そしてティファニアが集まっていた。

 その面々の前で、執務机の椅子に座るウェールズは、机の上に置いた『始祖のオルゴール』に手で触れながら言った。

 

「すまない、ルイズ嬢。『アンドバリ』の指輪は、結局見つからなかった」

 

 その言葉を受け、ウェールズの執務机の前で立つルイズは、小さくため息をついた。

 

「わたしも探しましたが、見つからなかったのですよね。誰が持ち去ったのやら……。せっかく痕跡を見つけたのに、一から探し直しです」

 

「共和国の者達の話では、初代神聖皇帝を名乗っていたクロムウェルは、その指輪を使って『虚無』の担い手であると詐称(さしょう)していたらしい。死者を蘇らせる奇跡の魔法だと言い張ってな。皆、スッカリ騙されて、心から信じ込んでいたようだ」

 

「『虚無』の魔法どころか、水の精霊が操る先住魔法なのですけれどね」

 

 とんだ詐欺師もいたものだと、ルイズは呆れ返った。

 ただし、『虚無』の魔法の全容は、担い手であるルイズ本人ですら分からないところがある。『アンドバリ』の指輪の効果や先住魔法のような『虚無』がもし存在していると誰かに言われたら、彼女でも否定しきれないところは確かにあった。

 死者蘇生の真似事をするとなると、確かにその使い手を『虚無』と誤認しても仕方がない部分はある。

 そこまで考えたところで、あらためてルイズはウェールズに問いかける。

 

「その自称神聖皇帝の詐欺師……クロムウェルの生死は、分かっているのですか?」

 

「ああ、ガリア艦隊の砲撃で死んでいたよ。ずいぶんと損壊していたが、死体も見つかった。だが、指に『アンドバリ』の指輪はなかったようだが」

 

「シティオブサウスゴータの水源を汚染したときに、部下に持たせたままということですかね?」

 

「そうかもしれない。なんでもクロムウェルは、常にフードを被った怪しい女性の秘書を連れていたらしい。そちらの死体は見つかっていない」

 

「その女性の名前は?」

 

「不明だ」

 

 ウェールズのやりとりを終え、成果なしと知ったルイズは、困ったものだと小さく息を吐いた。

 

 一方、ウェールズはルイズから目線を外し、次にティファニアの方を見た。目を向けられたティファニアは耳を隠す大きな帽子を被って、だぼだぼのローブ姿で恥ずかしそうにモジモジとしている。幼い頃は屋敷で匿われ、最近まで子供しか居ない村で隠れ住んでいた彼女は、男慣れしていなかった。

 

「それで、そちらが私の従妹(いとこ)殿かい?」

 

 ウェールズのその問いに、ティファニアでなくルイズが答える。

 

「ええ。亡きジェームズ陛下の弟君、モード大公殿下の娘さんです。愛妾(あいしょう)との間に生まれた存在ではありますが、それでも数少ないテューダー王家の生き残りということですね。はい、テファ。挨拶して」

 

「えっと、ティファニア、です……」

 

 慣れない敬語を使って、ティファニアがウェールズに名乗った。

 すると、ウェールズは微笑んでティファニアに言葉を返す。

 

「よろしく。キミの従兄(いとこ)のウェールズだ。もっと気楽に接してくれて構わないよ。なにせ、私達は従兄妹(いとこ)同士なのだから。そこにいるアンリエッタも、キミとは従姉妹(いとこ)だよ」

 

「えっ、はい。ではなくて、うん……」

 

「うん。それで、キミのここでの立場だけど……正式なアルビオン王家の一員として迎えたい」

 

 そのウェールズの言葉に、ティファニアは「えっ」と驚いた。

 そしてティファニアは、頭に被った帽子に両手で触れて遠慮がちに言う。

 

「でも……わたしはエルフの混ざり物で……」

 

「だからこそだよ」

 

 ティファニアの言葉を途中で打ち切らせるようにして、ウェールズは言った。

 

「エルフは、ブリミル教の敵だ。その血を引くキミは、ロマリアからしたら異端審問にかけるべき悪とみなされる」

 

「えっと、わたしはちゃんとしたブリミル教徒で……」

 

「それでもだ。このままではキミの立場は危うい。だからこそ、キミを保護するために、アルビオンの王族であると公表する。そして、しかるべき者達には、キミが『虚無』の担い手であることも知らせることとする」

 

 そう言って、ウェールズは指に()めていた指輪を取り外し、『始祖のオルゴール』の横に置いた。

 その指輪は、ルイズが嵌めている『水のルビー』の色違い。透明な宝石が輝く『風のルビー』である。

 執務机の上に置かれたその二つをウェールズは、前に押し出す。

 

「これは、今日からキミの物だ。無くすことのないよう、大切に保管してくれたまえ」

 

「そのオルゴールと指輪……アルビオンの王家の大切な宝じゃ?」

 

 幼い頃に内緒で触れていた見覚えのあるその二つの秘宝を前に、ティファニアは気圧されたように肩をすぼめる。

 

「王家の宝だが、本質は『虚無』の魔法を発現させるためにある秘宝だ。そして、キミは『虚無』の担い手だ。だから、キミが持つべきだ」

 

 ウェールズにそう言われ、ティファニアは恐る恐る指輪を手にし、母の形見である治癒の指輪の隣、左手の中指にそれを指す。

 すると、瞬時に『風のルビー』はサイズを変え、彼女の指にピッタリと収まる。懐かしい感触に、ティファニアはシティオブサウスゴータの屋敷に住んでいた昔のことを思い出した。

 そして、彼女はもう一つの秘宝、『始祖のオルゴール』をつかむと、大切そうにそれを胸に寄せて抱きしめた。

 その様子を横で見ていたルイズは、一つのことを思う。

 

 ――この子の胸……もしかして、めちゃくちゃ大きくない?

 

 ティファニアが着る大きなローブの胸部に、『始祖のオルゴール』は見事に沈んでいた。

 




第七章は以上で終了です。次章は、日常回を中心とした学院生活に戻ります。
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