【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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第八章 戦士の休息
85.『虚無』の鏡


 終戦から二ヶ月が経った三月(ティールの月)。トリステインの王宮では、まるで新年前の年末のように人々が忙しさに駆け回っていた。

 戦後の論功行賞の調整に忙しいだけではない。来月となる四月(フェオの月)の初日に、延期されていたウェールズとアンリエッタの結婚式を今度こそ行なうこととなったからだ。

 ルイズも、式で(みことのり)を唱える巫女の役割をあらためて任されることになった。そのため、トリステイン魔法学院が短い春期休暇に突入したと同時に、ルイズは王宮に呼び出されることとなった。

 

 今回はルイズ単独ではなく、才人も同行している。彼は、以前のアルビオン潜入任務で受け取らなかった騎士(シュヴァリエ)の位を今度こそは受け取らされた。戦場で彼に助けられた形となった、ラ・ヴァリエール公爵からの熱い一押しによるものである。

 才人は『ゼロ・フェニックス』号を乗りこなしての戦果も多大であった。そのため、次期トリステイン王であるウェールズによって、小さな領地を与えて男爵の位を授けることも提案に挙がっていた。だが、才人はこれを固辞した。彼は未だ、『大隆起』の問題を解決した後の、地球への帰還を諦めてはいなかったからだ。

 

 だが、そうして騎士になり次代の国王の覚えめでたくなった才人。サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガと名乗ることを許された彼は、マントを着用した一人の貴族として、大手を振って王宮内を闊歩(かっぽ)することが可能となった。

 

 そんな才人とその主人であるルイズ。今や戦勝の象徴的存在である『ガンダールヴ』と『虚無』の二人は、結婚式の準備に駆り出されて、忙しい毎日を王宮で過ごしていた。

 そして、ある日、ルイズと才人は朝からウェールズに呼び出されていた。

 向かう先は、なぜか国王専用の寝室だ。

 

 どういうことだろうと、王宮の廊下を進みながら首をかしげる二人。

 二人が寝室に通されると、そこにはウェールズとアンリエッタ、そして護衛の隠密隊隊長アニエスがすでにいた。

 

「よく来てくれた」

 

 ウェールズは笑顔で二人を迎え入れた。

 そして、形式通りの挨拶を交わした後、ウェールズは雑談もせずにいきなり本題を切り出した。

 

「ここが国王の寝室であることは、事前に知らされているね? この部屋について、秘密の話がある」

 

「寝室に秘密、ですか……」

 

 ルイズは、ウェールズの言葉から彼が言いたいことを予測した。

 

「秘密の脱出路でも見つかりましたか?」

 

 品の良い調度品や、天蓋付きの大きなベッドが置かれたその寝室をルイズは見回しながら、そう言った。

 すると、ウェールズとアンリエッタは二人で目を合わせて、互いに笑いあった。

 

「さすがは『賢者』殿だ。今回はその脱出路について相談事があってね」

 

 ウェールズのその言葉に、ルイズは頭が痛くなりそうな気分になった。

 有事のための国王の脱出路。それをなぜ、自分とその使い魔が知らされているのか。

 どう考えても、新体制となる王政府に自分達を取り込む気が満々ではないか。ルイズは今すぐにでも、ここから逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。

 

 しかし、寝室の入り口は、護衛のアニエスが固めている。逃げ出すことは不可能であった。

 

「脱出路なんだが、見れば『賢者』殿も気に入ると思う」

 

 そう言って、ウェールズは寝室の壁に近づく。

 そして、壁の一部に手で触れると……何か重たい音がして、壁の一部が動き始めた。

 それは、魔法なのか機械仕掛けなのか、壁に回転ドアが仕込まれていた。

 

「へえ……」

 

 いくらか昔に貴族の間で流行った、秘密の通路だ。ルイズはその仕組みに心当たりがあった。

 一方、才人は故郷の忍者屋敷のごとき回転ドアに、一人、内心でテンションを上げた。

 

「この先だ、中はせまいので、一人ずつ入ることとしよう。では、まずは私からだ。後ろから覗いてみるといい」

 

 そう言って、次期王が自ら秘密の脱出路へと率先して入っていく。

 それをルイズは後ろに行って覗き込むが……秘密の通路は、通路ではなかった。

 回転ドアの向こう、それは一メイル四方しかない狭い部屋。いや、部屋というのも(はばか)られる、ただの収納スペースとでも言うべき空間だった。

 

 だが、その空間の真ん中に、大きな姿見が鎮座(ちんざ)していた。

 その姿見に手をかざすウェールズ。すると、姿見の鏡面が、まばやかに光り、輝き出した。

 

「えっ?」

 

 ルイズはまさか抜け道ではなくマジックアイテムが置かれているとは思わず、そんな声を上げた。

 そして、その隣で同じように部屋を覗き込んでいた才人が唐突に言った。

 

「『サモン・サーヴァント』のゲートだ!」

 

「ええっ!?」

 

 才人の言葉に、ルイズはまたもや驚き声を上げた。

 その反応に、ルイズ達の後ろに立っていたアンリエッタが「フフフ」と笑う。

 そして、姿見の前に立つウェールズは、背後のルイズ達に振り返って言った。

 

「『サモン・サーヴァント』のゲートではないが、似たようなものかもしれない。これは、遠くに存在する対の鏡に移動する、空間を渡るゲートだ」

 

 ルイズはその説明に、回転ドアを目撃したときに見せた才人の数倍、テンションを上げた。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 ウェールズ、ルイズ、才人、アンリエッタの順で姿見に現れたゲートをくぐる。

 ゲートから出た先は、十畳ほどの部屋だ。

 部屋の真ん中には、立派な天蓋付きのベッド。その隣には、タンスなどの調度品。いずれも先ほどの国王の寝室にも劣らない、立派な品々が並んでいる。

 そして、部屋の中には、隠密隊の一人が壁際に立って敬礼をしていた。

 

「警護、ご苦労」

 

 その隠密にウェールズはねぎらいの言葉をかけた。

 そんな部屋を見て、ルイズはこの場所がなんであるかを察した。

 過去のいずれかの王が、愛妾との密会に利用していたのだろうと。これ見よがしに置かれたベッドなど、いかにもな存在であった。ただの避難先とするにしては、部屋が立派すぎるのだ。

 

 そんなルイズの推理を他所に、ウェールズは皆を連れて、隠密の先導で部屋を出た。

 部屋の扉はこれまた秘密の入り口のようで、その先は古めかしい倉庫の中だった。その倉庫は地下室らしき場所で、階段を上ると、石造りの建物の内部に出た。これまた古い建物のようだが、最近補修が入ったのか、壁が新しく塗られているのをルイズは見破った。

 

 さらに、隠密隊の一人による案内で、一同は建物から出る。

 建物の外には荒野が広がっており、さらに遠くではなにやら街道の整備でもしているのか、作業員が地面に何かを敷いているようであった。

 その光景に、ルイズはここがトリスタニアでないことを察した。やはり、あの姿見が空間転移のマジックアイテムという話は本当だったのだ。

 

「ここは、ド・オルニエール領だ。いかがかな、『賢者』殿」

 

 ド・オルニエール領。その地名に、ルイズは心当たりがあった。

 

「確か、トリスタニアから西に馬で一時間ほど行ったあたりの領地でしたね。十年ほど前に領主が土地を手放して、王家の直轄(ちょっかつ)領になったのでしたか」

 

「国内の地理もよく勉強しているようだね。そう、あの鏡は、それだけの距離を一瞬で移動できるわけだ」

 

 ウェールズのその言葉に、ルイズは目を輝かせた。

 あの鏡は、国宝レベルのマジックアイテムだ。いや、王の寝室に隠されていたのだから、まさに国宝そのものなのかもしれない。

 そんなルイズに、ウェールズがさらに言う。

 

「それで、『賢者』殿。あのマジックアイテムに心当たりはあるかい? 名前や、由来などだ。私も過去の宝物庫の目録を当たったが、該当するものが見つからない」

 

「いえ、知りません」

 

 そのルイズの率直な返事に、ウェールズはもともと期待していなかったのか、落胆する様子も見せずに次の問いを重ねる。

 

「では、あの鏡がどのような仕組みのマジックアイテムなのか、心当たりはあるかい?」

 

「人を遠くに一瞬で運ぶ魔法は、四大魔法に存在していません。過去にルーンが喪失(そうしつ)したという魔法にも、禁呪とされた魔法にも該当するものはありませんね」

 

「そうか……量産できれば流通に革命が起きたのだがな……」

 

 残念そうに言うウェールズ。それに対し、ルイズは内心の気の高ぶりを隠せない様子で言葉を続けた。

 

「生物を一瞬で遠くに運ぶ魔法は、わたしには『サモン・サーヴァント』の魔法しか心当たりがありません。しかし、あるいは、『虚無』にそのような魔法が隠されている可能性はあります」

 

「なるほど、『虚無』か」

 

「はい、未だ全容が明かされていない『虚無』なら、可能性は否定できません。もしくは、見知らぬ先住魔法もありえるかもしれませんが」

 

「ふうむ……」

 

 そこでウェールズは思案を始めた。彼が何を考えているのかルイズには分からないが、あの姿見の調査を自分に命じてくれることをルイズは期待した。

 そして、ウェールズは再びルイズの目を見て、おもむろに口を開く。

 

「実はな、『賢者』殿。ここ、ド・オルニエール領をキミに貸し与えようと思っている」

 

「えっ? 貸し与える、ですか?」

 

 まさかの話題の飛びように、ルイズは困惑する。

 

「ああ。先の戦争の功績で、この地を与えてもよいのだが、キミは領地経営をしたくないのだろう?」

 

「ええ、ごめんですね。そのような雑事にかまけるくらいなら、魔法や『カガク』の探求に時間を使います」

 

「だろうな。なので、土地を貸し与える。領地経営はしなくていい。ああ、それともう一つ、キミの使い魔殿を我らで取り立てたい」

 

 さらに飛んだ話に、ルイズはウェールズの思惑を理解しきれず、オウム返しでウェールズに問う。

 

「サイトを取り立てる、ですか?」

 

「ああ、『フェニックス』号の操縦者を集めた飛行隊。それを組織し、この地をその訓練地とするのだ。ほら、向こうで工事をしているだろう? あれは、キミがトリステイン魔法学院の外に作った『滑走路』だ」

 

 ウェールズが、遠くで作業する人達の方を指さして言った。

 そして、ウェールズは指を下ろし、ルイズに向けて言葉を続ける。

 

「主なメンバーは、戦争時にキミの護衛を務めた護衛飛行隊だ。それと、トリステイン魔法学院からも隊士を募集する。キミの使い魔殿は、その隊の教導官だ」

 

「なるほど……」

 

 空間転移の姿見と今の話に、どのような関係があるのかは分からなかったルイズ。だが、ウェールズがわざわざここ、ド・オルニエールに彼女と才人を連れてきた理由の方は察した。

 要するに、今回のこれは下見なのだ。

 

「キミの立場は、教導官の主では隊との関係が薄すぎるから、領地の管理責任者と兼任して、部隊の技術部門、そこの主任ということとする。もちろん、キミは『フェニックス』号に乗る必要はない。飛行隊の隊士の話を聞き取りして、次世代機に必要な参考意見をまとめる役とでもするかな」

 

「了解しました!」

 

 王宮で宰相もどきをさせられるよりは、はるかにマシな任務。ルイズはそれを喜んで受けることにした。

 だが、ウェールズの話はまだ終わってはいなかった。

 

「そして、いざというときには、この地をトリステインの王族の逃亡先とするわけだ。ゆえに、飛行訓練だけではなく、地上での戦闘訓練も積んでもらうこととする。戦闘訓練の教導官は、キミが学院にねじ込んだ軍杖術の教官がいたね。彼に打診しよう」

 

 軍杖術の教官。ルイズが才人の剣の師として呼び寄せた、元マンティコア隊の衛士バッカスである。

 彼は才人の師としての仕事以外にも、学院にて軍杖術を教えていたが、厳しい訓練に脱落者が続出していたことを(なげ)いていた。

 そこに来て、今回の抜擢。おそらく彼には喜んでもらえるだろうと、ルイズは考えた。

 

 そこまで説明をしたところで、ウェールズは最後に言った。

 

「キミには学院の休みや放課後に、この地にときおり訪ねてもらうことになるだろう。その合間で良いから、あの姿見についての解析も独自に進めてくれたまえ」

 

 そうして、ルイズは喜んでウェールズの命に従った。

 王宮で進む結婚式の準備の(かたわ)ら、姿見の調査をしに、まだ主のいない国王の寝室に通う毎日。それに付き合った才人は、今が結婚式が行なわれる前で本当によかったと思った。

 国王の寝室をウェールズが使うようになってからルイズが毎日のようにここへ通ったのでは、宮廷内で変な噂が立っていただろう。

 

 そして、姿見の解析開始から一週間後。

 ルイズは、ド・オルニエール領に正式に通うことになる前に、まさかの成果を出した。

 それは、小規模の『イリュージョン』を発動するマジックアイテムの作成。『虚無』の魔法を道具に込める手段の確立に成功したのであった。

 

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