【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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87.結婚と戴冠

 四月(フェオの月)の初日、フレイヤの週の虚無の曜日。この日は、トリステインにとって記念すべき日となった。

 ウェールズとアンリエッタの結婚式の日が、ついに訪れたのだ。

 

 国事であるその結婚式は、まずパレードから始まった。

 首都トリスタニアの王宮から出て、婚礼の儀が行なわれる寺院までの道のり。そこを馬車に乗った新郎新婦二人が移動しながら国民へ御目見得するのだ。

 トリスタニアの市民に見える形で屋根のない馬車に仲良く乗った二人が、笑顔を振りまく。

 そこに正装した魔法衛士隊のグリフォン隊、ヒポグリフ隊、マンティコア隊の三隊が付き従い、晴れやかな雰囲気でパレードは進む。

 

 この日、首都には、多くの人が詰めかけていた。

 今回のこのパレードを見るためだ。正式に国王となるウェールズと、王妃となるアンリエッタを目に収める目的、だけではない。

 

 華やかなパレード。だが、それはただ華やかなだけではなかった。

 空には不死鳥が飛び、馬車の周りには妖精が舞っていた。

 いずれも伝説に語られるが、ハルケギニアに実在していない生物だ。空想上の存在と言っていい。

 さらに空から花びらが舞い、地に落ちるとスッと消えていく。

 

 これらはいずれも、ルイズの『虚無』の魔法、『イリュージョン』で作り出された幻影であった。

 そう、戦争を勝利に導いた『虚無』の魔法が見られると、王政府から事前に発表があったのだ。

 

 幻想的な光景に、詰めかけていた国民は感嘆し、思わずため息をもらした。

 そうして、聖獣ユニコーンが引く馬車は街を進み、やがて首都の中央広場にあるサン・レミ寺院まで辿り付いた。

 馬車が止まったところで、不意に色鮮やかな光で作られた大輪の華が寺院の上空に咲いた。

 

 ルイズが、才人から聞き出した、祝いの場で打ち上げられる『花火』なるものを『イリュージョン』で再現したのだ。

 次々と咲く光の華に、観客から歓声が上がる。

 

 ルイズとしては、火薬を用いて本物の『花火』を作り出したかったところ。だが、結婚式までの日程に余裕がなかったため、研究は間に合わなかった。今後、『火』の魔法に長けるコルベールに任せてみるのも悪くないかもしれないと、ルイズは魔法を操りながら考えた。

 

 そうして、ウェールズ、アンリエッタ、そしてルイズと魔法衛士隊は寺院へと入っていく。

 ここサン・レミ寺院では、多数の貴族が婚礼の儀の始まりを待っていた。

 

 国内の貴族だけでなく、国外からも多くの来賓(らいひん)が訪れている。

 一国の王と、その王妃となる者の結婚式だ。各国の重鎮が、この日を祝いにやってきているのだ。

 

 しかし、ガリアとロマリアは両国とも戦後処理に忙しく、国家元首であるジョゼフと教皇は参列できていない。代わりに、ガリアからはアルビオン大陸ガリア領総督の王女イザベラが、そしてロマリアからは枢機卿が数名、来賓としてやってきていた。

 ゲルマニアからは、皇帝自らがやってきていた。ウェールズ、アンリエッタ夫妻の子がいつかゲルマニアに送られると決まっているため、二国間の同盟の強さをアピールする必要があっての皇帝の参列だ。

 

 そうして、婚礼の儀が始まる。

 王に相応しい厳かな衣装に身を包んだウェールズと、華やかな白のドレスを着たアンリエッタが、聖堂にて並んで立つ。

 その前には、伝統的な巫女の衣装に身を包んだルイズが、古めかしい革張りの本、『始祖の祈祷書』を手に持ち立っている。

 

 ルイズが、新郎新婦に向けて声を放つ。

 その声は、マジックアイテムにより拡声され、数百人いる参列者にまで届いた。

 

「この麗しき日に、始祖の調べの光臨を願いつつ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。(おそ)れ多くも祝福の(みことのり)()みあげ(たてまつ)る……」

 

 巫女の(みことのり)だ。

 伝統に(のっと)るならば、ここから火に対する感謝、水に対する感謝……と、順に四大系統に対する感謝の辞を、詩的な言葉で韻を踏みつつ詠みあげることになる。

 

 だが、参列客は誰もそんな形式張った言葉は期待していなかった。

 彼らは事前に知らされていたのだ。トリステインに伝わる本物の『始祖の祈祷書』の序文が読み上げられることを。

 

 そのために、ロマリアでは今回の式の参加枠を巡って、神官達が戦後処理を放って連日会議を開いて議論という名の喧嘩をしていた……などという噂が、トリステイン国民の間でささやかれていた。

 

 ルイズは、『水のルビー』が嵌められた左手で『始祖の祈祷書』を持ち、右手でゆっくりと祈祷書のページをめくる。

 そこには、ルイズにしか見えない古代語の文字が、しっかりと浮かび上がっていた。

 

序文。

 

これより我が知りし真理をこの書に記す。この世のすべての物質は、小さな粒より為る。四の系統はその小さな粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。その四つの系統は、『火』『水』『風』『土』と為す。

 

 そんな言葉から始まった、『始祖の祈祷書』の朗読(ろうどく)

 皆、静まりかえり、拡声のマジックアイテムで響きわたるルイズの声に、耳をかたむけた。

 

 そして、読み上げはしばらく続く。

 朗々(ろうろう)と読み上げるルイズの声を皆は黙って聞いた。

 だが、ある一節に差しかかったところで、ロマリアの関係者から小さなざわめきが起こった。

 

これを読みし者は、我の行いと理想と目標を受け継ぐものなり。またそのための力を担いしものなり。『虚無』を扱うものは心せよ。志半ばで倒れし我とその同胞のため、異教に奪われし『聖地』を取り戻すべく努力せよ。

 

 六千年前から伝わるという『始祖の祈祷書』の真作が、ブリミル教の『聖地』について触れているのだ。

『聖地』は、エルフが支配する東の地にあるとされている場所だ。今まで、ハルケギニアの長い歴史で何度も『聖地』を求めてエルフへの征伐(せいばつ)が行なわれたが、一度としてハルケギニアの人々が『聖地』を確保することは叶わなかった。

 その宗教関係者達の反応に、ルイズは苦い気持ちになりながら朗読を続けた。

 

 そして、序文は『虚無』についての説明と、『虚無』を発現するための方法について触れられていく。

 ルイズがあえてこれを読み上げたことには意味があった。

『虚無』の魔法の素質を持つ者は、系統魔法がまともに使えない可能性が高い。過去のルイズがそうであった。

 

 だが、今後ルイズと同じように魔法がまともに使えないメイジが現れたとしたら。

 その者は『虚無』の素質ありとして、保護されるようになるだろう。

 幼い頃の自分がしたような、辛い気持ちにはさせないという未来への思いが、ルイズにこの序文を公開させる踏ん切りをつけさせた。

 

したがって我はこの書の読み手を選ぶ。たとえ資格なきものが指輪を嵌めても、この書は開かれぬ。選ばれし読み手は『四の系統』の指輪を嵌めよ。されば、この書は開かれん。

 

  ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ

 

 序文の最後に記されていた始祖ブリミルの名を告げて、ルイズは『始祖の祈祷書』を閉じた。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 巫女であるルイズが仲立ちとなり、ウェールズとアンリエッタは互いを永遠に愛する誓いの言葉を交わしあった。

 そして、一通りの儀式が終わり、婚礼の儀は終了となった。

 しかし、これでサン・レミ寺院での儀式は終わりではない。

 婚礼の儀に続いて、戴冠式(たいかんしき)が行なわれるのだ。

 

 トリステインの王族であるアンリエッタと婚姻を交わして、ようやくウェールズは国王の座に就くことが許される。

 現在、空位となっている国王の座。就くことが許されたならば、すぐに国王となってもらおうという王政府の意向で、婚姻の儀と戴冠式を同日に行なう運びとなったのだ。

 

 場所は、変わらず寺院の聖堂。参列者も入れ替わらず、シームレスに戴冠式に移った。

 太后マリアンヌから、新国王となるウェールズにトリステインに代々伝わる金の王冠が被せられる。

 トリステインに新王がようやく誕生した。その事実に、国内の貴族達はホッとした顔で若き新王を見つめた。

 

 だが、戴冠式はそれで終わりではなかった。

 王冠を頭上に(いただ)いたウェールズに、近づく者がいたのだ。枢機卿マザリーニだ。彼は、手に前王が着けていた王のマントを持っていた。

 それをマザリーニは新王ウェールズに手渡す。そして、マザリーニはウェールズが着けていた赤いマントを外し、自らを従者とするかのごとく、前王のマントを着せ始めた。

 

 この一連のやりとりには、参列していたトリステインの貴族も(うな)った。

 

 それまで王政を支配していると見られていたマザリーニが、前王のマントを新王にまとわせた。

 これは、マザリーニが王に従うという意思表明であると彼らは見たのだ。

 

 だが、そもそもマザリーニは、トリステインの王家に逆らう姿勢は端から見せていない。

 マザリーニはトリステインの躍進と王家の輝かしい未来しか考えておらず、全ては貴族達の勘違いであった。

 

 そうして、二時間に及んだ婚姻の儀と戴冠式は、参列する貴族や神官達に見守られて、無事に終了した。

 それから、王と王妃は再び街中でパレードをすることとなる。

 今度の主役は二人ではなく、新王となったウェールズ一人である。結婚式としてのパレードではなく、戴冠式としてのパレードなのだ。

 いわば、国民への新しい国王の顔見せであった。

 

 王と王妃は二台の馬車に分かれて乗り、街中を進む。

 さらに今度はルイズの『イリュージョン』ではなく、本物の幻獣を使った魔法衛士隊の飛行演舞が行なわれた。

 

 グリフォン、ヒポグリフ、マンティコアが迫力満点に王の周囲を飛ぶ。

 そして、馬車が王宮へと辿り着いたあたりで、最後に量産型戦闘機『フェニックス』号による編隊飛行が行なわれて、大盛況のままパレードは終わった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 婚礼の儀と戴冠式が終わり、最後は王宮のダンスホールで披露宴(ひろうえん)が執り行なわれた。

 サン・レミ寺院での式よりも参加者を減らしての、立食パーティーだ。

 

 そこに、巫女用の衣装から華やかな桃色のドレスに着替えたルイズが、才人にエスコートされながら入場した。

 才人も礼服を着て、さらに騎士(シュヴァリエ)のマントを着用している。

 

 才人のエスコートをまんざらでもない表情で受け入れるルイズ。

 そんなルイズに、戦争を勝利に導いた『虚無』に縁を作ろうと、多くの貴族が訪ねてきた。

 これは食事どころではないな、とうんざりしながらルイズは訪問者に対応していった。

 

 そんな時間が一時間ほど続いただろうか。

 疲れ切ったルイズと才人のもとに、三人の貴族が同時にやってきた。

 

 ワルド子爵夫人カトレアと、エレオノール。そして、エレオノールに腕を組まれたコルベールだ。

 ラ・ヴァリエールの三姉妹の集結となって、遠慮したのかピタリと来訪者が減る。

 そこでようやく、ルイズと才人は小休憩として食事を口にすることとなった。

 

「ふう、疲れたー。人多すぎだっての」

 

 才人が、ワインで口を濡らしながら、そんな愚痴を吐いた。

 すると、コルベールもピカピカに磨かれたワイングラスを片手に、笑いながら言う。

 

「ハハハ。災難だったね。しかし、国王夫妻には簡単に近づけない以上、キミたち二人に人が集まるのは仕方のないことさ。なにせ、戦争の英雄だ」

 

 すると、そんなコルベールにルイズは炭酸水の入ったグラスを手に、おかしそうに言った。

 

「そういうミスタ・コルベールこそ、『イヴェット』号の艦長としてだいぶ顔を覚えられたのではありませんか?」

 

「いやいや、そこはエレオノール嬢が周囲を牽制(けんせい)してくれてな。おかげでゆっくりと食事を楽しめたよ」

 

 コルベールのその言葉に、エレオノールは得意げな顔をした。

 ちなみに、キュルケはこの場にはいない。彼女自身は隣国の無位無官の貴族令嬢であるが、かつてのウェールズ救出の功績が認められて、披露宴への参列自体はしている。しかし、国もとから訪ねてきたツェルプストー家の対応をするために、コルベールのもとから離れているのだ。

 一方、コルベールは、本来ならば国王の披露宴に参加できるような有力貴族ではない。だが、彼は今回の戦争で多数の兵器開発に携わった重鎮として、王政府にスッカリ顔を覚えられ、今日も全ての式に参列を許されていた。

 

 そんなコルベールをカトレアは興味深そうに見ていた。

 姉の婚約者候補として、その人となりを観察しているのだ。カトレアは、ラ・ヴァリエール公爵家の次期当主の座に興味はない。なので、長姉とこの男が結ばれるのなら、次期当主の座はコルベールかコルベールとエレオノールの子に受け渡されることになり、カトレアもそのこと自体には否やはない。

 ゆえに、カトレアは去年の夏から今日この日まで、コルベールが姉に相応しい男か見極め続けていたのだ。

 

「うん、合格」

 

 そして、カトレアは既に出していた結論を再度確認するようにつぶやいた。

 その言葉を会話に交ざらずにいた才人が耳にした。何が合格なのだろうと、才人がカトレアに振り向くと、彼女はなんでもないと言うように笑顔を浮かべた。

 

 そしてカトレアは才人に近づき、近くのテーブルにあった料理を薦めた。

 

「この新作料理、美味しいわよ。ハンバーグって言うらしいの」

 

 と、カトレアが示したのは、立食用に一口サイズとなったハンバーグであった。

 それを見て、才人は「ああ」と言葉をもらして、カトレアに語りかけた。

 

「その料理、俺の故郷の料理なんです」

 

「あら? そうだったの?」

 

「ええ、一年くらい前に、魔法学院の料理長に教えたんですよ。でも、なんでここにあるんだ?」

 

「料理長って、マルトーおじさまよね。それなら、披露宴の手伝い要員として、魔法学院から料理人が何人も呼び寄せられているらしいわ」

 

「へー、じゃあ、これもマルトーさんが作ったのかな?」

 

 そう言って、才人はテーブルにワイングラスを置き、テーブルの給仕に一口ハンバーグを頼む。すると、小皿に一口ハンバーグが載せられて、才人に手渡される。

 ハンバーグには、茶色いソースがかけられている。

 その香りに心当たりがあった才人は、服を汚さないよう気を付けながらフォークでハンバーグを口に運んだ。

 

 ――ああ、やっぱり。マルトーソースだ!

 

 マルトーがいつだか才人に披露した特製ソースだ。

 賄いにしか出さないと言っていたソースだが、もしかすると客に出せる素材を作ってあらためて用意をしたのだろうか。そんなことを考えながら、才人は好物の一つであるハンバーグを咀嚼した。

 その味は洗練されていて、非常に美味だった。

 

「おーい、ルイズ。このマルトーさんの新作ハンバーグ、すげえ美味えぞ」

 

「あら本当?」

 

 コルベールと話し込んでいたルイズは才人に呼ばれて、テーブルに近づいてくる。

 そして、給仕からハンバーグの皿を受け取り、フォークでそれを口にした。

 

「……美味しい! わあ、学院で食べるよりもずっと美味しくなっているわね!」

 

 そんなルイズの言葉を少し離れたところで『虚無』の様子を(うかが)っていた貴族達が、ちゃっかり聞いていた。

 そして、次々と貴族がテーブルに集まり、ハンバーグを給仕に注文する。

 

 急に人が集まってきたことに給仕は慌てて、ハンバーグを用意していく。妙に盛り上がる一角に、ルイズに興味を示さなかった貴族も顔を見せ、人だかりができる。

 ヘルプで入った多くの給仕がハンバーグを配っていき、さらに厨房からも追加でハンバーグが用意された。

 

 そして、貴族達は見慣れぬ料理であるハンバーグを食べていく。

 すると。

 

「これは美味い!」

 

 その味に、美食に慣れているはずの高位貴族ですら魅了された。

 そして、口々に料理の感想を言い合い、どこの誰が作った料理なのかに話題が移る。

 そこで、トリステイン魔法学院の料理長が作った、『虚無』の担い手の使い魔『ガンダールヴ』の故郷の料理であると給仕が正直に説明を入れた。

 

 当然のことながら、テーブルの近くにいた才人に注目が集まった。

 そして、貴族達は今度は才人に話しかけるようになり、彼の故郷の話題に話が広がる。

 

 戦争で多大な戦果を得た『フェニックス』号は、才人の故郷の兵器をもとにして作られたと才人が漏らす。

 それを作り上げたのは、ここにいる三人の天才だとまで言ってしまい、貴族達は大いに盛り上がった。

 

 そうして、多くの貴族と会話を繰り広げた一同は、スッカリ顔と経歴を覚えられてしまうのであった。

 

 ある意味で、主役である国王夫妻よりも注目を浴びたルイズと才人。

 その二人を貴族達の群れから少し距離を取って見守るカトレアは、二人の仲が今後どう進むのかと、未来を楽しみにするのであった。

 

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