【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま 作:Leni
トリステイン魔法学院の生徒は、十五歳で入学する者が多い。
特に学院での年齢規定はないのだが、トリステインの慣習としてこの年齢での入学が一般的となっている。
さて、この歳の人間、特に男子に共通する特徴とはなんであろう。
それは、思春期の真っただ中で、性的なことに興味津々ということである。
そんな中に、今年度から新たに規格外の爆乳ハーフエルフ美少女が投入されることになる。
エルフはハルケギニア人にとって、恐怖と憎悪の象徴だ。しかし、思春期の男子の目の前に、爆乳のハーフエルフ美少女が出されると、どうなるか?
その結果は、簡単なことだ。
一年生の男子は、全員がその美貌に目を奪われた。
今まで見たこともない、大きすぎる胸部。
エルフは恐ろしい。確かに生徒達も、親や家庭教師などからエルフに挑んだ過去の『聖戦』での敗北は聞いている。しかし、実際に彼らの中で、エルフに挑んだ者は一人もいない。『聖戦』は遠い日の記録上の戦いでしかない。彼らの親世代ですら、エルフを実際に目にしたことがない。
そんな状況で、魅力的な身体的特徴と整った顔立ちを持ち合わせたハーフエルフの美少女を見てしまえば……。魅了される以外の選択肢は、男子生徒達にはなかった。
入学式の場で、男子生徒の視線を浴びるハーフエルフ少女ティファニア。
なんなら、女子生徒の一部も彼女に視線を向けていた。大きすぎる胸に目を奪われる理由は、何も性欲由来とは限らないのだ。物珍しさも、それに一役買っていた。
生徒達の注目を一身に受けるティファニアだったが、その事実を気に入らない女子生徒ももちろんいた。
その一人が、今回の入学者の中で最上位の名門となる家の一つ、クルデンホルフ大公家のベアトリスだ。
クルデンホルフ大公家は、トリステイン内に大領地を持つ家だ。小規模ながら、トリステイン王政府から独立を認められており、一応の国を名乗っていた。その規模は、才人の出身世界でいうとただの地方都市に相当する面積しかない、小さな小さな国のような存在ではあるのだが。
その名門の彼女は、地元から騎士団を率いて魔法学院にやってきていた。本人としては、周囲に注目されての華やかな入学を飾るはずであった。
三年生にいるというヴァリエール公爵家には歴史的な重みは敵わないが、それでも名門中の名門出身の貴族令嬢。彼女は周囲に殿下と呼ばせて、もてはやされることを期待していた。
しかし、いざ入学式が始まってみると、注目されたのはブリミル教の敵であるエルフの娘。ベアトリスは
「あの娘、どうしてやろうか……」
嫉妬心から、凶行に走りそうになるベアトリス。
だが、彼女はギリギリで踏みとどまった。エルフの耳を持ちながら、この学院に入学できるほどの人物だ。もし、大きな家が背後にいて自分と対立したとしたら、実家に迷惑をかけてしまうかもしれない。
そうして彼女は、モヤモヤとした気持ちを抱えながら、入学式を乗り切った。
そして、入学式の後、一年生は三つのクラスに振り分けされた。ソーン、イル、シゲル。それぞれ伝説の聖者の名から取られたクラス名である。そのうちの一つ、ソーンのクラスにティファニアとベアトリスは割り振られた。
同じクラスの所属である。それを知ったベアトリスは、眉をひそめた。エルフとクラスメートだなんて!
そうして、教室に集まったクラスメートは、教師の進行で自己紹介を行なうことになった。
ここトリステイン魔法学院に集まる貴族は、いずれも有力な貴族家の出身だ。生活もおぼつかない無位無冠の貧乏貴族はほとんどおらず、名のある貴族家ばかりが集まっている。ゆえに、この自己紹介は重要な意味を秘めていた。
互いの立場を認識し、今後の学院生活の立ち位置を確立するのだ。
ベアトリスは、ようやくティファニアの素性を知れると思い、内心でニヤリと笑った。彼女の家格が自分より低ければ、彼女を虐げてやろうと考えたのだ。相手はエルフだ。虐げたところで、誰も文句は言わないだろう。そうベアトリスは考えた。
そして、自己紹介は進み、ティファニアの番が訪れた。
「テ、ティファニアです! みんなよろしく!」
人の多さに慣れていないティファニアは、フルネームではなく今まで名乗っていたファーストネームだけの自己紹介をしてしまう。当然、これを聞いたベアトリスは、彼女がアルビオンの王族であることに気づけない。
「アルビオンの、田舎の森でずっと生活をしていたの。魔法は得意じゃないけど、みんなよろしくね。あっ、見ての通り、ハーフエルフなの。人間の父と、エルフの母の間に生まれた私生児ってものらしくて……ええと、みんなよろしく!」
よろしくを三回も繰り返したその自己紹介を聞いて、ベアトリスは内心で大笑いした。亡国アルビオンの田舎貴族! しかも妾の子!
この経歴を聞いて、もはやティファニアに注目する生徒はいないだろう。そう確信し、ベアトリスは自分の自己紹介の場で、存分にアピールを開始した。
「ベアトリス・イヴォンヌ・フォン・クルデンホルフよ。かのクルデンホルフ大公家の姫よ! 実家からは竜騎士を二十騎連れてきているから、皆様頼りにしてくださってもよろしくてよ」
そう生まれを誇る、ベアトリス。しかし、周囲から向けられる視線は思いのほか弱く……。
ほとんどの生徒は、すでに自己紹介を終えたティファニアの方を気にしているようであった。
その事実に、ベアトリスは嫉妬心を爆発させた。
そして、彼女は決意した。田舎者のエルフを排除してやろうと。この世から、永遠に。
◆◇◆◇◆
トリステイン魔法学院の学院長室。
そこでは、一人の職員が就任の挨拶をしていた。それは、以前もこの学院で働いていた職員である。言うなれば、復職の挨拶。それを行なっているのは、一年ぶりに学院長秘書への復帰となったマチルダであった。
「マチルダ・ド・ロングビルです。以後。よろしくお願いします」
そう、土くれのフーケとしてヴァリエール公爵家に捕まり、アルビオンの戦争に参戦して戦果を上げ、公爵の命を助けたマチルダであった。
彼女は以前、学院の宝物庫を狙おうと、ミス・ロングビルを名乗って学院長秘書としてここに勤めていた。
それが今回、トリステインの王政府の推薦で再び学院長秘書として就任していた。
まさかの王政府の名前に、学院長のオスマン氏は驚いた。しかも、以前とは違うことがある。それは、ロングビルとしか名乗っていなかった彼女がフルネームを名乗っていたことと、貴族のマントを着用していたことだ。
「うむ、これからもよろしくのう。しかし、以前もアルビオンの没落貴族とは言っておったが……トリステインで貴族に列せられたのかね?」
オスマン氏は、マチルダの貴族のマントに目を向けながら、そう言った。
「ええ、戦争で少々手柄を上げまして。国王陛下直々にロングビルの名を新しく
「ふーむ、しかし、アルビオンにロングビルという家名はあったかのう……てっきり、ファーストネームと思っていたのじゃが」
「ファーストネームとして名乗っていましたが、マチルダが本名です。ですが、この機会に家名としていただきました。以前の家名は、アルビオンの地名でしたので」
「ふむ。なんという地名なのか、聞いてもよいのかの?」
「以前の私は、マチルダ・オブ・サウスゴータと言う名でしたね」
「むっ、それは……」
と、オスマン氏は思い当たるところがあったのか、マチルダに詳細を聞き出そうとする。
しかし、そこで突然、学院長室に飛びこんでくる者が出て、話は中断されてしまった。
「オールド・オスマン! 緊急事態です!」
そう言って叫ぶのは、学院の教師の一人。『土』の授業を担当するシュヴルーズであった。
「なんじゃ、騒々しい」
眉をひそめて、オスマン氏は部屋に飛びこんだ中年の女性教師に目線を向ける。
すると、シュヴルーズは焦ったようにオスマン氏に言う。
「大変です、ミス・クルデンホルフが、ミス・テューダーに因縁を付けて!」
「なんじゃ、そんなことか。事前に予想はできていたことじゃろ。今さら騒ぐことではないわい」
ミス・テューダーとは、ティファニアのことだ。彼女は、アルビオンの王家であったテューダーと名乗ることを許されていた。
「それどころではないのですよ! ミス・クルデンホルフは騎士団にミス・テューダーを拘束させて、学院の外にある駐屯地で異端審問を行なおうとしているのです!」
「ふむ……」
異端審問。それは、ブリミル教の神官が行なう悪名高い行ないであった。
異端、すなわち、ブリミル教にとっての異分子を見つけ、審問にかける。審問とは、簡単に言ってしまえば私刑だ。ブリミル教に適さない存在であると難癖を付けて、刑を受けさせるという暴挙として、広くハルケギニアの民に知られていた。
しかし、ブリミル教は多くの国によって国教として認められている。そのブリミル教に特別な資格があると認められた者は、仮に異端審問で異端者を処刑しても、罪に問われないという問題が存在していた。
「ふうむ、さっそく問題を起こしよったな」
「何を落ち着いているのですか、オールド・オスマン! ミス・テューダーが異端審問にかけられるなど、大問題ですよ!」
「そうじゃな。なにせ、ミス・テューダーはアルビオンの王族なのであるからして……」
「ですよね! では、大至急、中止の勧告をお願いします!」
「うーむ、しかしな。この程度の困難、彼女には自力で乗り越えてほしいものじゃが……」
「言っている場合ですか!」
シュヴルーズに怒鳴られ、オスマン氏はため息をつきながら、学院長室の壁に掛かっていた大きな鏡に向けて杖を振った。
すると、その鏡に、学院の外に設けられた騎士団の天幕が並ぶ駐屯地の様子が映る。
そこに映ったのは、異端審問の現場、などではなかった。
そこでは、クルデンホルフ大公家の竜騎士団と不死鳥飛行隊が互いに軍杖を抜き、争っている様子が映っており……さらには、スクウェアクラスの巨大ゴーレムが今まさに立ち上がらんとしていた。
「フォッ!?」
オスマン氏は、まさかの光景にアゴが外れんばかりに驚いた。
◆◇◆◇◆
マチルダは怒っていた。
大切な妹分。それを異端審問にかけようとしていると聞いて、即座に学院長室を飛び出したのだ。
そして、やってきた現場では、ミス・ヴァリエールの使い魔である才人が煮立った釜の前に立ち、妹分のティファニアを庇うようにして
俺は彼女を守るよう国王陛下から頼まれた。文句があるならかかってこいと。
そして、その言葉に怒ったベアトリスが竜騎士団を才人に差し向けた。
それに対抗して、
思いのほか頼りになるヤツラだ、とマチルダは感心した。
だが、そこでマチルダは思いも寄らない言葉を聞いた。
ベアトリスが、ティファニアを狙えと言い始めたのだ。この言葉に、マチルダはキレた。
彼女は怒りのまま土ゴーレムを生成し、その上に乗った。高さ三十メイルに迫らんとするそのゴーレムは、マチルダの魔法により一瞬で鋼の表皮をまとった。その力強さは、土くれのフーケとして活動していた以前の比ではない。
あまりにもスムーズに動くそのゴーレムは、マチルダの本来の領域である『トライアングル』を越え、『スクウェア』の域に到達していた。
魔法の
そして、驚き固まっているベアトリスに、マチルダが怒りのままゴーレムの拳を叩きつけようとしたその瞬間。
不意に、ゴーレムの振り下ろした腕が爆発した。
「みんな、そこまで! 止まりなさい!」
その声にマチルダは、ようやく冷静さを取り戻した。
ゴーレムを操作し、ベアトリスへの攻撃を中止させる。そして、マチルダは眼下を見た。そこでは、ヴァリエール家の娘、ルイズが
「ヴァリエールの名において、この争いをわたしが預かります! 皆、杖を引くように!」
その言葉に、皆が杖を収め、争いを止めた。
ヴァリエール公爵家の名は、ここトリステイン魔法学院における最大のビッグネームだ。その家の威光は、大公家であるクルデンホルフをしのぐほど。よって、この場にいる全員が従うしかなかった。
そのヴァリエールの娘ルイズは、戦争の英雄でもあった。ブリミル教の伝説に語られる『虚無』の担い手でもある。彼女に本気で逆らえる立場の者は、学院には誰もいない。
その彼女が、周囲を見渡す。彼女の目の先には、煮立った湯が入れられた大きな釜があった。
「異端審問をしていたようね。誰か、経緯を話してくれるかしら。異端審問を実行しようとしたのは、誰?」
そう問うが、答える者はいない。
しばらく、沈黙が場を支配する。それに焦れたのか、彼女は己の使い魔である才人に問うた。
「サイト。下手人は誰?」
「そこにいる金髪ツインテールだな。クルデンなんとか大公家とか言っていた」
その答えに、ルイズはキッとベアトリスを見た。すると、ベアトリスは「ヒイッ!」と悲鳴を上げて後じさった。
そして、ベアトリスは弁明を始めた。
「違うのです、ミス・ヴァリエール!」
「何が違うの? 言ってみなさい」
ルイズが、即座にベアトリスに問うた。
「わたしは、異教のエルフを審問にかけようとしただけで……何も後ろ暗いことはありません!」
「そう、後ろ暗いことはないのね? 異端審問は正当だと?」
「はい!」
「異端審問の方法は、煮立たせた聖水に異端者を浸からせて、始祖の守りがあるならば無事で済むと。そういうことね?」
「はい、その通りです!」
「そう。じゃあ、異端審問は正当という事ね?」
「はい!」
「よろしい。では、まずはあなたがこの釜の中に入ってみせなさい」
「はい……?」
ベアトリスは、まさかのルイズの言葉に、困惑の表情を浮かべた。名門出身のミス・ヴァリエールなら、エルフを打ち倒すことに同意してくれる。そう、彼女は思い込んでいた。
だが、ルイズはまさかの要求をベアトリスにしてきた。
「さあ、あなたが始祖ブリミルの敬虔な信徒だというならば、まずその身を
「え、いや、それは……」
「ミス・ロングビル。彼女を捕まえて。そして、湯に」
そのルイズの要求に、ゴーレムの上にいたマチルダはニヤリと笑って、ゴーレムの無事な方の片腕を操作して、素早くベアトリスを捕まえた。
それに竜騎士達が反応するが、マチルダが操るのはスクウェアクラスの戦術級ゴーレム。その
そして、マチルダはゆっくりとベアトリスを釜に近づけていく。
「いやっ! 止めて! 死ぬ! 死ぬぅ!」
「死なないでしょ? 異端審問なら、敬虔な信者であるあなたは無事で済むはずよ」
ベアトリスの叫びに、ルイズは淡々と言った。
「いやあッ! 死ぬ! 助けて! 誰か、助けてッ!」
必死の叫びに、さすがにやりすぎなのではと周囲の野次馬の誰もが思った。
だが、止められる者はいなかった。ヴァリエールの娘と、スクウェアゴーレムを前に、声を出せる勇気ある者はいない。ただ、一人を除いて。
「や、やめてあげて……!」
そう声をあげたのは、なんと異端審問を受けていた本人である、ティファニアであった。
周囲の目が、一斉にティファニアへと集まる。
「それ以上は可哀想だから……冗談でも、熱湯に入れるとか言ったら駄目よ! あんなに泣いているじゃない。ほら、マチルダ姉さん、助けてくれたことには御礼を言うけど、彼女を放してあげて!」
その勇気あるティファニアの行動に、周囲の皆は尊敬の目を向けた。
そして、ティファニアの言葉通り、マチルダはゴーレムに指示を出して、ベアトリスを解放した。マチルダも、本気でベアトリスを熱湯に浸からせるつもりも初めからなかった。
一方、地に投げ出されたベアトリスは、恐怖のあまりその場で大声で泣き始めた。
すると、なんということか、ティファニアはそのベアトリスに近づいていき、彼女を抱きしめて、あやし始めたではないか。
「ほら、大丈夫よ。もう、誰もあなたをいじめないわ」
ティファニアに抱きしめられ、その大きな胸の中で
泣きじゃくっていたベアトリスの様子はだんだんと鎮まっていき、やがてティファニアの胸に顔をうずめ始めた。
圧倒的母性を前に、ベアトリスの脳が無意識のうちに敗北を認めたのだ。
そもそもティファニアは、アルビオンのウエストウッド村で孤児達を集めて世話を焼いて生活していた。彼女には、同年代の少女と比べて何百倍もの母性が、内に秘められていたのだ。ベアトリスは、入学のために少し前に別れたばかりの故郷の母を思い出して、ティファニアの胸の中で涙をこぼした。
一件落着。誰もがそう思った。
だが、そんな中で、空気を読まずにルイズがティファニアに尋ねた。
「そもそもなんで、テファの立場で異端審問なんて受けているのよ。おかしいでしょ」
その言葉に、野次馬達は一斉に疑問を覚えた。彼女が異端審問を受けた理由は、彼女がエルフの特徴を有しているからだ。異端審問そのものの是非はともかく、異端審問の対象にはなりそうである。それが、おかしいだと?
皆が同時に思ったそんな疑問の中、ルイズはさらに問う。
「テファ、ちゃんとみんなに自己紹介はしたの?」
「うん、名前はなんとか言えたけれど……」
ベアトリスを抱きしめ背中をさすりながら、ティファニアは答える。
そんな彼女に、ルイズはもう一度問うた。
「家名はちゃんと言った?」
「えっと、忘れちゃって……」
「このお馬鹿!」
とっさにルイズはティファニアを叱りつけた。
そして、ティファニアは集まる野次馬の前で、あらためて自己紹介をするようにルイズに申しつけられた。
ベアトリスはティファニアから離れたが、名残惜しそうにティファニアの胸を見つめていた。よほど彼女の胸部に母性を感じたのであろう。
そして、ティファニアが皆の前で告げる。
「ティファニア・テューダー、です。よろしくね?」
その名に、ルイズと才人、マチルダ以外のこの場にいる全員が凍り付いたように固まった。
そんな皆に、ルイズが補足するように言った。
「この子、アルビオンのテューダー王家の生き残りだから。もし彼女を意図的に傷付けるようなことがあったら、
そのルイズの言葉を聞いて、大公家の名を背負うベアトリスは卒倒した。