【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま 作:Leni
舞踏会も無事に終わり、日常が再び戻ってきた、そんなある日の放課後。
ギーシュが先頭を進み、学院の門をくぐろうとしたところ。彼らは、門前で何やら一悶着が起きているのを目撃した。
「お願いします! どうしても食べたいんです!」
「いやあ、困りますよ……」
学院の門前。そこには、以前の学院襲撃の反省もあってか、屈強な門番が複数名詰めている。
その門番に、一人の少女が詰め寄っている様子であった。
少女はどうやら平民らしく、マントを着用していない。しかし、その服装はしっかりと縫製がなされた上等なもの。
年のころは十七、八ほどとギーシュ達と同年代。身なりが整っており、仕草もどこか優雅さが感じられた。豪商の娘か何かかと、ギーシュは予想した。
「やあ、どうしたのかな?」
ギーシュが門番のところへと、そう言って割り込んでいく。
本来なら平民の言い争いなどに関わるようなギーシュではない。だが、相手が同年代の少女で、しかも金持ちの豪商の娘らしき立場の者。知り合っておいて損はないと、一瞬で打算して声をかけたのだ。
「これはこれは、飛行隊の隊長殿。お役目ご苦労様です」
門番が、後ろから現れたギーシュに敬礼をする。ギーシュ達は毎日のようにド・オルニエール領と学院を往復するため、門番達はすっかり不死鳥飛行隊のメンバーと顔なじみとなっていた。
門番と揉めていた少女も、ギーシュの方を見た。
その顔を見て、なかなか可愛いじゃないかと、ギーシュは思う。だが、彼は平民の子にまで所構わずナンパを仕掛けるほど、さすがに節操なしではなかった。代わりに、ギーシュは少女へ優しく諭すように言った。
「お嬢さん。学院への訪問販売は、特別な書状が必要だよ。商人ならば、そのあたりを
親元から飛び出した、駆け出しの商人と推測しての忠告。
だが、少女はそんなギーシュの言葉を聞いて、キョトンとした顔になった。
「え? ……あっ! わたし、商人ではありません。料理人です」
「うん? 食堂へ雇われに来たのかい? さすがに飛び入りは厳しいのではないかね」
「それも違いまして……この学院の食堂で特別に出されているという、肉料理を食べたくて訪ねてきたのです」
「ええっ……? なんだいそれは」
まさかの回答に、ギーシュは思わず困惑した声を出してしまう。
特別な肉料理。確かに学院の食堂は実家では食べられないような上等な料理が多く出るが、そんなものあっただろうかとギーシュは思った。すると、少女はやや興奮した様子でギーシュに言う。
「トリステインの国王陛下の結婚式で出されたという、特製の肉団子! それはぜひとも食べねばと、ガリアから訪ねてきました」
「特製の肉団子……?」
なんだそれは、とギーシュは首をかしげる。
すると、それをギーシュの後ろで話を聞いていた才人が、ギーシュに向けて言った。
「ハンバーグのことじゃないか? 結婚式だと一口サイズになっていたから、肉団子って言われたらそうかもしれないぞ」
「ああ、ハンバーグか。確かにアレは、この学院じゃないと食べられないねえ」
ギーシュも才人の言葉を聞いて、ようやく納得してうなずいた。
すると、その会話を少女も聞いていたのか、パッと表情を明るい笑顔に変えて、ギーシュに詰め寄った。
「そう、それですわ! ハンバーグ! 遠くガリアの地まで響いた美味なる肉料理、ぜひとも食したいのです!」
妙齢の少女に身体を寄せられて、上機嫌になるギーシュ。だが、門番達はさすがに貴族への暴挙は許せないと、ギーシュから少女を引き離した。
そして、門番は厳しい口調で少女に告げる。
「この学院は、貴族の学び舎。キミのような怪しい平民を中に入れるわけにはいかん。どうしても料理のために中へと入りたいのなら、料理人の募集があったときに雇われ人として来なさい。もちろん、雇われるに当たって推薦状は必要だが」
厳つい門番にハッキリと告げられ、少女の気勢がしぼむ。
そして、少女は肩を落としながら、言った。
「貴族ならば、中へと入れるのですね?」
「うむ? いや、ここは名門校だからな。それなりの家柄の貴族家の者でないと、足を踏み入れることもできないぞ」
門番は、少女がどこかの金に困っている貴族を引き連れて入場しようと考えていると判断し、そのように切って捨てた。
すると、少女は決意を秘めた顔になり、門番に向けて言った。
「また、明日来ます」
そうして、少女は門の前に作られた鉄道馬車の駅舎の中へと入っていった。
そんな門番と少女のやりとりを見守っていたギーシュ達は、いったいなんだったのだろうと互いに顔を見合わせた。
だが、ド・オルニエール領行きの鉄道馬車の出発時刻が近いことに気づき、彼らも駅舎へと入っていった。
駅舎の中には少女はおらず、代わりに駅舎から馬に乗ってトリスタニアの方向へと向かう少女の姿を彼らは目撃した。
「トリスタニアの貴族に、パトロンでもいるのかねぇ」
ギーシュがそう言い出すと、飛行隊の少年達は口々にあの少女の背景を妄想で語り始めるのであった。
◆◇◆◇◆
その翌日、虚無の曜日。
料理人の少女リュリュは、貴族の証であるマントを着用して学院の門へと現れた。
しかも、ガリアの大使館からの書状を携えていた。その書状は、リュリュの身分証明書だ。ガリアの一都市であるルションの行政官の娘であることを示す、正規の書状。
それをもって、リュリュは学院の中へ入場することが認められた。実のところ、彼女はそれなりに高い家柄の貴族だったのだ。
「フフフ、食を探求するなら、捨てたはずの貴族の地位も必要になることがあるのですね……」
と、そんなことを独りごちながら、彼女は学院の門を通過した。
そしてリュリュは、学院長に挨拶に行くでもなく、案内人を任された使用人を引き連れて真っ先に食堂へと向かった。
食堂に入ったリュリュは、厨房へと真っ直ぐ向かい、そこにいた料理長のマルトーを捕まえて、交渉を開始した。
国王夫妻の結婚式で出たという、ハンバーグなる肉料理を食べさせてほしいと。
すると、マルトーは困惑しながらこれを了承。ちょうどその日の夕食はハンバーグを出すために仕込みを続けていたので、すぐさまハンバーグを作って出してみせた。
それを食べた、リュリュの反応はというと……彼女はマルトーへと詰め寄り、そのレシピを知りたがった。
「対価はしっかり払いますから! なにとぞ、なにとぞ!」
このトリステインにおいて、料理人が持つレシピは一財産だ。
識字率が上がり本の普及率も上がって、レシピ本がいくつか出版されるようになってきた。だが、それでもマルトーのような貴族相手の料理人という者達は、他人に易々と教えられない秘伝のレシピを多数持っている。
なので、マルトーは渋った。ハンバーグのレシピを秘蔵しようとしたのだ。だが、それは己の立場を守りたいなどという利己的な理由から来るものではなかった。というのも……。
「いや、俺が考え出したレシピじゃねえんですよ。他人に知らせるとなると、
「どこの店の料理長のレシピですか!?」
「いや、遠い異国出身の人でしてな……貴族の騎士様なもんで、こっちとしてもそう不義理をするわけには」
「では、わたしが直接交渉します! ほら、わたし、貴族! 交渉、ちょっとできる!」
「お、おう……」
こうも貴族のマントをヒラヒラと見せつけられては、平民のマルトーはなかなか拒否しづらい。
よって、マルトーが取った選択は、丸投げであった。
その日、ハンバーグの発案者となっている才人は、ド・オルニエール領にいなかった。
学院内にあるコルベールの研究室で、ルイズ、コルベール、エレオノールの三人の天才と新しい発明の話し合いをしていたのだ。
彼が作りたかったものは、航空ショー用のスモークだ。
戦争が終わり平時となった今、不死鳥飛行隊が任務として駆り出される先は、先日の結婚式で行なった編隊飛行のようなイベント運営の場である。
そこで才人は、編隊飛行をより高度にして、アクロバット飛行を披露しようと考えたのだ。
だが、ただ曲芸飛行を見せるだけでは物足りない。飛ぶついでに、スモークを引いてより目立たせようと考えたのだ。
その話を聞いて、コルベールはとても喜んだ。
兵器の平和利用。なんと素晴らしい言葉だろうかと、コルベールは奮起した。
そして、それにエレオノールも付き合った。本来ならばトリスタニアのアカデミーにいるべき彼女。だが、鉄道馬車がトリスタニアと魔法学院の間に開通したことをいいことに、彼女は
残るルイズは、そもそもが不死鳥飛行隊の技術主任である。才人がせっかく出した案なのだから、研究に参加する気満々であった。
そんな彼らを今日もキュルケは、研究室の掃除をしながら見守る。
二日毎には姿を見せるエレオノールを最初は忌々しく思っていた彼女。だが、エレオノールが意外と話し上手なこともあってか、いつの間にかキュルケとエレオノールは仲良くなってしまった。そして、今ではすっかり、二人は同じコルベール研究室のメンバーとして馴染んでしまっていた。
そんな虚無の休日の研究室に、客がやってきた。
料理人の貴族、リュリュである。
彼女は、研究室に入るや否や、大きな声で言った。
「ハンバーグのレシピ、売ってください!」
宣言通り、門でのいざこざの翌日にやってきた料理人の少女に対し、才人はレシピを高く売りつけることに成功した。
・リュリュ
外伝『タバサの冒険』の二巻に登場する原作キャラ。この世界のタバサは花壇騎士を引退済みなので、リュリュは極楽鳥の卵をゲットできていません。