【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま 作:Leni
才人がハルケギニアへ召喚されて、丸一年が経過した。
今年も二年生が使い魔召喚の儀式を行ない、学院はにわかに盛り上がった。様々な動物や幻獣が呼び出され、それを見せびらかすように二年生が学院を練り歩く姿が見られた。
さて、使い魔召喚の儀式の次に、学院ではフリッグの舞踏会が行事として予定されている。
昨年は
今年は、戦争や戴冠式などの影響で延期を重ね、
皆が心待ちにする華やかな舞踏会の日。
しかし、
参加できなくなるような非行をやらかしたわけではない。飛行隊として公式の仕事が入ってしまったのだ。
「ロマリア行きか。楽しみだね!」
ド・オルニエール領で体力作りのための走り込みを行なうギーシュが、余裕そうな表情でそんなことを言った。
訓練開始の当初は青い顔をして走っていたギーシュだが、この一ヶ月近くで多少の体力がついたようだ。このように、話しながらのランニングもこなせるようになった。
「いやあ、国の費用でロマリア旅行とは、入ってよかった飛行隊だねえ」
最近少し顔筋がシュッとし始めたマリコルヌも、ギーシュの後ろを走りながら陽気に笑う。
だが、その二人の話に気にくわなかったのか、眼鏡の少年レイナールが苦言を呈する。
「仕事で行くんだ。気楽な旅行ではないぞ」
だが、隊を率いる立場のギーシュは気にした様子も見せずに答えた。
「そうは言っても、ぼくらはまだ『フェニックス』号を満足に動かせないんだ。仕事をしたくてもできない。うん、仕方ないよね」
そう言って、ギーシュは気楽に笑った。
そう、不死鳥飛行隊の仕事。それは、ロマリアで『フェニックス』号を飛ばす仕事であった。
彼らは、ロマリアで行なわれる教皇の即位三周年記念式典にて、ウェールズの結婚式の際に見せた編隊飛行を披露してほしいとの要請をトリステイン王政府から受けたのだ。
しかし、アクロバティックな編隊飛行ができるのは、未だ元護衛飛行隊のメンバーだけ。ただし『フェニックス』号を運用するにあたって、パイロットだけがいれば全て回るわけではないと、彼らはこの一ヶ月近くの訓練で十分理解していた。
なので、今回のロマリア行きは、飛行隊の全員での参加となった。王政府からの要請なので、遠征費用はもちろん国が持つ。さらに、不死鳥飛行隊のメンバーには、普段の給金とは別に特別手当が出る予定となっていた。
これに喜ばない飛行隊のメンバーはいなかった。
なにせ、ロマリアに行けるだけではない。教皇の即位記念式典で腕前を披露できるなど、飛行隊にとって最高の名誉でもあったのだ。なので、まだ満足に編隊飛行をこなせない不死鳥飛行隊の学生達は、先輩パイロットである元護衛飛行隊のメンバーをうらやむ者も多くいた。
「オレは、あの『イヴェット』号に乗るのも楽しみだ」
ランニングをしながら、飛行隊の学生の一人が、そんなコメントをした。
そう、ロマリアは遠くにある国なので、そこまで『フェニックス』号を運ぶ必要が出てくる。
なので、今回のロマリア行きはラ・ヴァリエール公爵家が所持する空中空母『イヴェット』号も同行することとなっていた。
現在も、不死鳥飛行隊の先輩パイロット達は空を飛ぶ『イヴェット』号にアプローチして、発着陸の訓練を続けている。
ロマリアには当然、『フェニックス』号用の滑走路などない。よって、ロマリアでアクロバット飛行を披露するとなると、『イヴェット』号から飛び立つ練習は必須であった。
ちなみに、『イヴェット』号は今回のロマリア行きで、王政府が正式にヴァリエール公爵家から借り受けることが決まっている。さらに、式典へと向かう国王ウェールズも『イヴェット』号に乗り合わせることも決まっていた。
現在、王政府も新規で空中空母を建造中であるが、式典には完成が間に合わないようだ。空中空母は『フェニックス』号の発着陸のためと機体の保管のために、ある程度の甲板の広さが必要となる。よって、自ずと巨大艦となるため、建造に時間がかかる難点があった。
そんなことを雑談で話しながら、ギーシュ達学生組は無事にランニングを終えてしばしの休憩を取り始めた。
口々に彼らは、俺らも体力がついたなぁ、などと言い合いながら湯冷ましを飲む。
ド・オルニエール領は過去の領主の経営失敗で、若者が出ていってしまい、老人ばかりの寂れた領地となってしまった。
そんな領地にやってきた少年達。彼らは貴族だが、才人が平民に威張り散らすことを厳しく禁じたため、住民達は彼らを
領主の館の近くに新たに建てられた飛行隊の宿舎には、若い雇われ使用人も新しくトリスタニアから住み込みでやってきた。
貴族の若者が多く滞在するということや、鉄道馬車の駅舎が作られたこともあり、商人も頻繁に訪ねて来るようになった。これにより、ド・オルニエール領は活気づいている。
ワイン用の良質なブドウが採れることもあってか、新たに移住する農家の誘致も進んでいるようだ。
今のド・オルニエール領は王家直轄領であり、国王がその内政手腕を惜しみなく発揮しているため、発展が約束された土地なのだ。
その発展の要素の一つとして不死鳥飛行隊の存在があり、隊員の学生らも卒業後はここに住み込みで働くようになる。
領が発展するのは、飛行隊の彼らとしても大歓迎であった。
「ああ、水なんかじゃなくてワインが飲みたいな」
湯冷ましを飲むマリコルヌが、そんなことを言い出した。
だが、真面目なレイナールがそれを止めるように言う。
「これから掛かり稽古だぞ。酔って木剣を振るって、相手の頭をかち割りたいのか」
「だよねぇ。うーん、稽古の後の楽しみに取っておくとしよう」
そうして、彼らの話題はロマリア行きから、ド・オルニエール領のワインがどれだけ美味いかについてに変わっていった。
◆◇◆◇◆
アクロバット飛行を二機一組で訓練する。
二機のうちの片方は、才人が操る『ゼロ・フェニックス』号だ。今回のロマリアでのアクロバット飛行は、才人本人は飛ぶことはない。彼はあくまで、教導官という立場だからだ。
だが、隊で一番飛行が上手いのは才人である。なので、こうして二機一組の訓練で、常に駆り出されてペアの相手にその腕前を伝えられるよう努力していた。
彼がハルケギニアに滞在する理由は、『大隆起』対策に挑むルイズを手伝うためである。
正直なところ、不死鳥飛行隊の教導官の仕事をやる理由は一切無い。
しかし、才人が『大隆起』対策で手伝えることというと、地球の科学知識を絞りだしてルイズ達に伝えることくらい。
毎日やれる業務のようなものは何もなかった。
だから才人は、仕事として給金がもらえるこの教導官の仕事を思いのほか気に入っていた。
『ゼロ・フェニックス』号の操縦桿を握り、機体をひるがえす。上下逆さまとなり、重力が頭を地面に引っ張っていく感覚を覚える。
宙返りをするような形で機体を動かし、縦にグルリと一回転。そして、上下が正常に戻ったところで、才人は手元に新設されたバーを動かした。これは、機体の後部からスモークを発するための新機構だ。今頃、ド・オルニエール領の空には、機体が描いた二つの白い輪が浮かび上がっていることだろう。
そうして一通りのアクロバット飛行の練習を終え、才人とその僚機は『イヴェット』号の甲板へと順番に降り立った。
接触事故を起こさないよう、機体を甲板の所定の場所へと移動させ、機体を降りる。
本日の飛行訓練は、これで終わりだ。才人は連続で飛行を行なってバキバキに凝り固まった身体を伸ばし、乗組員の誘導に従って甲板から艦橋へと移動した。
すると、艦橋には不死鳥飛行隊の元護衛隊メンバーと、ルイズ、そしてコルベールが詰めていた。
彼らは、今の飛行訓練の様子を録画したマジックアイテムを見ながら、訓練の出来を確認していた。映像で訓練の内容を後から見られるのは、とても有効であった。
マジックアイテムの価格が小さな屋敷一つ建てられる高価なものでなかったら、今頃トリステイン中に広まっていてもおかしくない、アカデミーの実践魔法研究室製の大発明である。
「おーい、今のどうだった?」
才人が、マジックアイテムの前に立つルイズに向けて尋ねた。
「ええ、良いんじゃないかしら。このまま練習すれば、本番までに十機の編成で飛べるでしょうね」
「そりゃよかった」
才人はそう言って、今も展開し続けるマジックアイテムの映像を確認し始めた。
そんな才人に、ルイズが横から言う。
「ねえ、余裕そうだし、やっぱりカラースモーク採用しない?」
「またそれか。言っただろ。今回で一気に手札を見せるよりも、段階的に披露していって、飽きられないようにすべきだって」
「でも、せっかくカラースモークを作ったのに……」
「完成した物をすぐ使いたがるの、やめような」
そんなルイズと才人のやりとりをいつの間にか飛行隊の少年達が目を向けて、見守るようにしていた。
そして、小声で彼らが言い合う。
「仲いいよな、あの二人」
「そりゃあ、使い魔と主だしな」
「そういうのじゃなくて、恋仲なんじゃないかって」
「そうだな。でも、使い魔って、主と相性が良い個体が選ばれるって言うぜ? 主に懐かない使い魔って、滅多に聞かないぞ」
「でもそれって、使い魔から主に対する傾向だろ。主から使い魔の態度は、いろいろだ」
「つまり、ミス・ヴァリエールのあれは素で教官が好きってことか……」
「かーっ、甘酸っぺえ!」
「あれで教官がいずれ故郷に帰るとか言っているの、嘘だろって思う……」
そんな会話がなされていることに気付かず、ルイズと才人はカラースモークの採用の是非について、しばらく議論という名の痴話喧嘩もどきを続けた。
そうして、ド・オルニエール領での飛行訓練の日々は続いていき……。
しかし、その行き先、ロマリアでは、思わぬ出来事が待ち受けているのであった。
第八章は以上で終了です。次章はロマリアで明かされる謎と、ガリアの大きな戦いとなり、物語が本格的に動きます。