【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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第九章 虚無の担い手
96.ロマリア連合皇国


 ロマリア連合皇国。トリステインの南にあるガリア王国をさらに南下した半島に存在する、都市国家連合体である。

 ロマリアはもともとは、ブリミル教の始祖ブリミルが没した地とされており、始祖ブリミルの弟子が墓守となり起こした一つの都市国家でしかなかった。しかし、ブリミル教の権威を背景に、その都市国家は規模を拡大。大王と呼ばれたジュリオ・チェザーレ王の時代には、半島から北上してガリアの半分の土地を占領するまでに至った。

 しかし、世は盛者必衰。ロマリアの国力はやがて落ち、ガリアに土地を取り返され、半島は複数の都市国家に再び分かれた。

 戦争を幾度も繰り返し、現在ではロマリアを頂点に置いた都市国家連合を形成するようになった。

 

 それでも、ロマリアは過去から現在まで、変わらずブリミル教の全ての寺院を束ねる総本山であり続けている。国力はトリステイン、ゲルマニア、ガリアに及ばずとも、ハルケギニア大陸西部に広がるたった一つの宗教を背景としたその権威は、未だ健在であった。

 その権威を象徴する存在が、ロマリアの王、教皇である。

 

 現在の教皇、聖エイジス三十二世こと、ヴィットーリオ・セレヴァレが即位したのは約三年前。五月(ウルの月)第四週(テイワズ)のことだ。

 そして今年、その即位が行なわれた日と同じ日付に、ロマリアでは教皇の即位三周年記念式典が実施される。

 

 トリステインからの参列者である国王ウェールズは、王妃アンリエッタと共にその日程より二十日早くロマリア入りしていた。

 護衛に少量の艦隊を引き連れ、王自身はヴァリエール公爵家から借り受けた『イヴェット』号に乗りこんでいる。最新鋭の新型艦である『イヴェット』号にウェールズが乗りたがったからだ。

 

 ウェールズは元アルビオン王である厳格な父とは違い、割とフランクな性格をしていた。

 航行の間、艦長であるコルベールと、なぜか付いてきたエレオノールの技術的な話をニコニコとした笑顔で聞いていた。

『フェニックス』号と建造中の新型空中空母の話では、素人ながら鋭い意見も時折漏らしており、技術畑である二人はウェールズをいたく気に入った。

 そのあたり、権威ではなく義理や人情といった方面でカリスマを発揮できる王なのかもしれなかった。

 

 艦内では、ウェールズは同行させた従妹のティファニアを常に連れていた。

 ティファニアはハーフエルフだが、『虚無』の担い手でもある。そこで、ロマリアからティファニアを今回の式典に連れてくるよう、要請がきていた。

 異端審問を行なおうというわけではない。偉大な『虚無』の担い手にブリミル教の祝福を与え、正式なブリミル教徒として認定してハーフエルフだろうと他所に手出しをさせないようにするという、ロマリアからの粋な計らいであった。

 

 そして、もう一人の『虚無』の担い手のルイズは、艦内でどうしていたかというと……。

 

「おーい、ルイズ。もう寝る時間だぞ。ゲームをやめろ」

 

「あとちょっとー」

 

 才人が持ち込んだノートパソコンにインストールされていたゲームにドハマリしていた。

 コルベールが、『ゼロ戦』に積まれていた発電機をもとに作ったノートパソコン用の充電器。それを今回、『イヴェット』号に積んで、ルイズは移動時間をノートパソコンの研究に努めようとしたのだ。

 しかし、そこで才人の魔が差した。

 ノートパソコンにインストールしていたゲームの数々をあらためてルイズに紹介したのだ。

 

 もともと、『フェニックス』号用のシミュレーターの参考に、FPS系のゲームを才人にプレイさせてもらっていたルイズ。

 それが今回、追加で怒濤のようにゲームを紹介されて、彼女はその沼に浸かってしまった。

 障害となるはずの言語の壁だが、実のところルイズはすでに日本語を習得していた。なんと、コモン・マジックには文字の翻訳を可能とする魔法があるのだ。それを使って、短期間で彼女は地球の言語を自由に操れるようになった。

 

 ちなみに、ルイズが特にハマったのは戦略系のシミュレーションゲームで、彼女は飲食を忘れてノートパソコンにかじりつくようにしてプレイを続けた。

 

 そんなルイズをさすがに心配した才人は、ルイズの世話をしながらなんとかノートパソコンから離そうとした。

 そして、母が自分に対して口うるさく言っていた地球での日々を思い出し、才人は心の中で母に謝罪をした。

 

「いい加減にしろ! もうパソコン貸さねえぞ!」

 

「待って、あと少し、あと少しで勝てるから!」

 

 才人は、娯楽に乏しいハルケギニア人にヤバい代物を与えてしまったかもしれないと、少々どころではないレベルで後悔した。

 

 と、そんなやりとりを艦内で繰り広げつつ、『イヴェット』号はガリアを縦断するようにしてロマリアへと向かった。

 途中、首都付近で今回の式典に出席するガリア艦隊が出発の準備を整えている様子が見えたが、ガリア王とはロマリアで会うこととなるため、途中下船はせずにそのまま南下して半島へと向かった。

 ガリアと半島の国境線となっている火竜山脈を乗り越え、半島を南に進みロマリアへと辿り付く。

 

 始祖ブリミルの系譜であるトリステイン王家の来訪とあって、艦隊はロマリア市民に大歓迎を受けた。

 市内にはトリステインの国旗がはためき、聖獣ペガサスが歓迎の飛行を艦隊の前で行なった。

 

 そして、艦隊はロマリア南部の港、チッタディラに艦を泊めた。

 

 伝声管で、艦内に下船準備の連絡が入る。そこで才人は、ノートパソコンに未練を残すルイズを引きずるようにして、艦内で割り当てられた部屋を出ようとする。

 しかし、ここで待ったがかかった。

 

「おい、相棒、置いていくなよ」

 

 才人の愛剣、デルフリンガーだ。

 そのデルフリンガーに向けて、才人は呆れたような顔で言った。

 

「いや、ロマリア市内は武器や杖の携帯は許されてないって言っただろ。抜けない武器を持ち歩くとか余計な荷物になるから、置いていくって何度も説明したよな?」

 

「武器もなしで歩くとか、不用心だろうが。『ガンダールヴ』が武器なしでどうするってんだ」

 

「そこは、武器に見えない暗器を持っているから大丈夫だ」

 

「おいおい、暗器でメイジに勝てるかよ」

 

「ずいぶんと渋るな、デルフ……」

 

 才人は、珍しいデルフリンガーの態度に、何かあったのかといぶかしげになった。

 すると、デルフリンガーは思いも寄らないことを言った。

 

「だってよう、ここはあのいけすかねえヤツが作った街だぜ? 絶対に何かあるって!」

 

「街を作った? それって……」

 

「聖フォルサテのこと?」

 

 デルフリンガーと才人の会話に、ルイズが割って入った。

 聖フォルサテ。ロマリアの建国者にして、伝説に語られる始祖ブリミルの高弟である。

 

「そうそう、やつは、すげーいけすかないヤツでな……」

 

「へえ、詳しく」

 

 デルフリンガーの愚痴に、ルイズが乗った。

 だが、それを才人は割って入って止めた。

 

「だから、もう艦を降りるんだって。デルフも、六千年前のことを今さらグチグチ言ってるんじゃねえよ」

 

「けっ!」

 

「むう……」

 

 デルフリンガーとルイズが同時に気にくわなそうな反応を示すが、才人は無視してルイズを部屋の外に引っ張り出した。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 そうして、『イヴェット』号を降りたウェールズ国王一行は、一日掛けてロマリアの用意した馬車でチッタディラ港から都市ロマリアへと移動した。

 市内の入場門では、杖や武器を身から離して箱に詰めるなどしなければならない。

 しかし、ちゃっかりそれをすり抜ける者もいた。ルイズは腕の中に杖を仕込んでいるし、才人は投石紐と金属の弾丸をアクセサリに見せかけて携帯している。

 もちろん、検問も杖や武器を隠し持っていないか厳しくチェックはする。しかし、他国の国王の一行ということもあってか、才人は見事に投石紐を持ち込むことに成功した。

 

 だが、ここで見事に検問に引っかかる者がいた。

 ハーフエルフとしての耳を堂々と晒していたティファニアが、衛士に見咎められたのだ。

 

「エ、エルフではないか!? どういうことだ! 異端、異端であるぞ!」

 

 その叫びに、詰め所から衛士達が一斉に飛び出してきた。

 これは大事になる、とトリステインの者達が身構える。しかし。

 

「馬鹿者! その御方は、アルビオンの王女殿下であるぞ! 通達を聞いていなかったのか!」

 

 衛士の中でも特に偉そうな人物が、検問を担当していた衛士をその場で殴りつけた。

 よほど全力で殴ったのだろう、検問の衛士はその場に倒れ、鼻血を吹き出した。

 そして、さらに偉そうな衛士は、検問の衛士の頭をつかみ、地面にこすりつけ始めた。そして、偉そうな衛士が顔を上げて、困惑するティファニアに向けて大声で言った。

 

「殿下、申し訳ありません! この者には厳しい処分を与えますので、どうか問題にはなさいませぬよう……!」

 

「え、えっと……?」

 

 事態についていけず、オロオロとするティファニア。

 そんな彼女に、検問を通過したルイズが戻ってきて、言う。

 

「テファ、一言許すって言ってあげなさい。じゃないと、国際問題になって面倒なことになるから」

 

「こ、国際問題!? 許す、許します! 許すので、その辺にしてあげて……!」

 

 地面に額をこすりつけられる検問の衛士が可哀想になったのか、ティファニアが慌てて許しの言葉を告げた。

 すると、偉そうな衛士は検問の衛士の頭を離し、その場で片膝を地面に突いて、胸から下げていた聖印を手に握って祈りのポーズを取った。

 

「始祖ブリミルに連なる尊き血、そして偉大なる『虚無』の担い手に感謝を……」

 

「は、はい……」

 

「しかし、王女殿下。ロマリア市内ではそのお耳は少々目立ちまする。帽子を被るなどして、隠していただけるとこちらも助かります。事情を知らない神官が、またぞろ異端審問だと騒ぎ立てる可能性がございます」

 

「異端審問……ごめんなさい、混ざりもので……」

 

 学院では堂々と耳を晒せていたからか、てっきりここでも受け入れてもらえると思っていたティファニア。

 しかし、突きつけられた現実の前に、彼女はションボリと肩を落とした。

 

 そして、そんなやりとりを見ていたルイズは、膝を突く衛士に呆れたように言った。

 

「ミスタ・トロンボンティーノ。あなた達、まだ性懲りもなく異端審問がどうとか言っているのね。教皇聖下が非推奨の通達を出したって聞いているのだけれど」

 

 そのルイズの言葉に、偉そうな衛士、聖堂騎士隊隊長のカルロ・クリスティアーノ・トロンボンティーノは、苦い顔を浮かべた。

 

「ミス・ヴァリエール。その節は、大変お世話になりました」

 

「ええ、異端審問のときは世話になったわね。こうして『虚無』の魔法を覚えてやってきたけど、あなた達はまたわたしの魔法を見て、異端審問にかけるのかしら?」

 

「勘弁してください……」

 

 そうして、ルイズは口もとを吊り上げて笑い、ティファニアを連れて検問を通過していった。

 やがて、ルイズは心配そうに事態を見守っていた才人のもとへと歩いてくる。

 そんなルイズに、才人は尋ねた。

 

「なんだかあの騎士と因縁がありそうだったけれど、何かあったのか?」

 

 すると、才人の周りにいた不死鳥飛行隊の面々も、興味があったのかルイズに注目する。

 そんなルイズは、面白おかしそうに笑って、語り始めた。

 

「昔、トリステインにロマリアの偉い神官がやってきたことがあったんだけれどね。わたしの爆発魔法を見て、異端扱いして異端審問にかけようとしたの。火あぶりにしようとしてきたから、じゃあそれは本当に聖なる火なのかって問い詰めて、火の中に神官を蹴り落としてやったのよ」

 

 ルイズの神をも恐れぬ所業に、不死鳥飛行隊の少年達からざわめき声があがる。

 

「で、当然大騒ぎになって、国際問題に。最終的にはヴァリエール家全員でロマリアに乗りこんで、聖堂騎士相手に大暴れしてね。最後は、教皇になったばかりの聖下に仲裁されて、わたしは異端じゃないってお墨付きをもらったわ」

 

 とんでもないことするな、と才人は思った。

 しかし、実際ルイズが神官達に私刑を受けそうになったところを見たら、自分も大暴れしそうだと思い、才人はヴァリエール家の面々に親近感を覚えたのだった。

 




・文字の翻訳を可能とする魔法
『リードランゲージ』。ゲームの第一作『ゼロの使い魔 小悪魔と春風の協奏曲』の限定版特典『ご主人様と使い魔のシークレットダイアリーDISC』のボイスドラマに登場するコモン・マジック。ボイスドラマではルイズがこの魔法を使うことで才人の日記を解読しました。才人がいちいち日記を付けるような人物かと思ってはいけない。
この魔法の存在を許すとシエスタの曾祖父の遺言が台無しになります。ただし、彼はハルケギニアの魔法に詳しくなかったということで一応の説明はつきます。
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