【完結】わたしのかんがえたかっこいいるいずさま   作:Leni

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99.場違いな工芸品

 教皇との会談を終え、ルイズは早速とばかりに姉のエレオノールを捕まえて『世界扉(ワールド・ドア)』の魔法のマジックアイテム化に挑み始めた。『虚無』のマジックアイテム化は、すでに『イリュージョン』の魔法で確立している。それほど時間はかからないだろうと、ルイズは才人に告げた。

 

 そして、一人残された才人は、どう時間を潰すか迷った末に、コルベールのもとへと向かった。

 コルベールは才人が異世界人だと知る数少ない人物の一人だ。

 その彼に、才人は両親にどんな手紙を送るべきか相談することにした。もちろん、教皇が『虚無』の担い手であることは伏せてだ。ロマリアの秘宝に、異世界に通ずる何かがありそうだという方便を用いて、手紙を送る旨を伝えたのだ。

 

「ははあ、それで私に相談をと」

 

「はい。コルベール先生は尊敬すべき人生の先達ですので、こういうときは頼りになるかなって」

 

「それは嬉しいけれどね。残念ながら、手紙の内容はサイトくんが一人で考えるべきことだよ」

 

「やっぱりそうですよね……」

 

 予想していた答えに、サイトはわずかに肩を落とした。両親に便りを出せるようになることは嬉しい。しかし、その文面をどうするのか彼はとても悩んでいた。

 異世界に召喚されて使い魔やってます。そんな事実を書いたとして、親に信じてもらえるのかという思いもあった。

 一人考え込む才人に、コルベールは苦笑して言った。

 

「しかし、そうだね。私から言えるのは……親が健在ということは、とてもありがたいことだよ。私の両親は、もう亡くなっているからね。この歳になってようやく、両親の偉大さを感じることもある」

 

「そうですか……」

 

「もし私が親に手紙を送れるとなれば……うん、まず伝えるのは感謝かな」

 

 そのコルベールの言葉に、才人はハッとなった。

 そうだ。自分の状況を伝えるなんてことよりも、大事なことがあった。両親に今まで育ててくれた感謝と心配をかけた謝罪を伝えなければと。

 それに気付かせてくれたコルベールに、才人はさらに尊敬を深めた。さすがは、人生の先達であり、生徒を導く教師だと。

 

「ありがとうございます! おかげで、ちゃんと手紙を書けそうです!」

 

「うむ。手紙が親御さんのもとへ無事に届くことを祈っているよ」

 

 コルベールは、才人の喜びようを見て、正しく少年を導けたと満足そうに笑った。

 そして、ふとここでコルベールは一つの可能性に気付く。

 

「ところでサイトくん。異世界の地球につながる秘宝があると言ったね?」

 

「えっ? はい。人が通れるようなサイズではないようなんですが」

 

「しかし、手紙は通る大きさだと。サイトくん。君は以前、雑談で『インターネット』の話を私にしてくれたね」

 

「しました?」

 

「ああ、『戦闘機』の解析の時に、しきりに『インターネット』があればと言っていたよ」

 

「そうでしたか……」

 

「それで、私が作った充電器で動くようになったあのノートパソコン、あれで『インターネット』が使えるのだろう」

 

「はい。ハルケギニアからは繋がりませんけど」

 

「異世界と繋がる秘宝があれば、『インターネット』が使えるのではないかね?」

 

「!?」

 

 まさかの可能性に、才人は驚愕した。

 才人のノートパソコンは、有線ケーブルを用いることなく『インターネット』に接続できる機器が付属している。

 もし才人の両親が、その機器の契約を解除していなければ、『世界扉』を通じてノートパソコンは『インターネット』に接続できることになる。

 教皇が使った『世界扉』は、向こうの景色がハッキリと見えた。それはつまり、地球から光がこちらの世界に届いたというわけであり……電磁波の類も届くのではないかと、才人は気付いた。

 

「サイトくんは以前、『インターネット』は遠く離れた相手と手紙のやりとりもできると言っていたね。それならば、ご両親とも気軽にやりとりをできるのではないかね?」

 

「その通りです! うわ、一方通行だと思っていたけど違う! 向こうからの便りはもらえないと思っていたけど、そうか、電子メールがあるのか!」

 

「そうなると、ご両親とのやりとりが落ち着いたら、こちらから聞きたいことをいろいろ質問することだってできるということで……」

 

「うわあ、『インターネット』と合わせたら、ハルケギニアの技術が一気に進みますよ」

 

「おおっ、それはすごい! で、今すぐ地球とは繋がるのかね?」

 

「ああ、その準備を今、ルイズとエレオノールさんがしています。あと、ノートパソコンは『イヴェット』号に置いてきてあって……」

 

「取りに行こう!」

 

 そういうことになり、コルベールは部屋の世話役を呼び出し、忘れ物を取りに行くと言って馬の用意を頼んだ。

 すると、しばらくしてから使用人ではなく神官のジュリオがコルベールの部屋にやってきた。

 

「忘れ物を取りに行くんだって? 馬だと時間がかかるだろうから、ぼくの竜に乗せてやってもいいぜ」

 

 そう才人に言うジュリオ。才人にとっては好きになれない相手だが、今の彼はそんなことも気にせずにジュリオに向けて言った。

 

「ああ、俺の故郷の道具があるんだ。故郷への扉が開けば、親との手紙のやりとりも楽になる」

 

「なるほど、異世界の道具か……」

 

 ジュリオは何かを考え込むと、「よし」と言って才人とコルベールを交互に見てから言う。

 

「竜に乗せるのはいいけれど、その前にミスタ・ヒラガ。キミに見せたいものがある」

 

「うん? 何をだ?」

 

「『場違いな工芸品』っていう、ロマリアの宝さ」

 

 その言葉に、才人はキョトンとする。

 そして、次の瞬間、才人は思い出した。『場違いな工芸品』。それは、以前ルイズに連れられていった平民メイジの隠れ里で聞いた言葉だ。その里にあった、日本の軍刀の正体。エルフの支配地、『聖地』周辺で見つかるという、地球産と思われる武器類のことだ。

 コルベールも、かつてルイズからその存在を耳にしていた。あの『竜の羽衣』も、その一つであると。

 

「これから案内するよ。ついてきな」

 

 ジュリオにそう言われ、才人はチラリと隣にいたコルベールの方を見た。

 

「なあ、ジュリオ。コルベール先生も連れていっちゃ駄目か?」

 

「うん? ああ、ミスタ・コルベールは確かあの空飛ぶ機械の開発者の一人だったね。構わないよ」

 

 そう言って、ジュリオは才人とコルベールを連れて、大聖堂内を移動し始めた。

 廊下を歩き、トリステインの賓客には立入を許されない区画へと移動する。そして、地下へと踏み込み、螺旋階段を下っていく。

 ジュリオは途中で回収したランプを手に持ちながら、明かりの灯されていない湿った地下を進んでいく。

 

 ジュリオは平民であり、魔法を使えない。よって、『明かり(ライト)』の魔法に頼ることはできなかった。

 一方、コルベールもロマリア市内ということもあって杖を携帯していないため、頼りないランプ一つで三人は進むはめになった。

 やがて、三人は開けた場所に出た。円筒状の広間で、四方に鉄扉がある。扉は埃にまみれ、錆び付いていた。しばらくの間、開けられていないことがうかがえる。

 

「この先に『場違いな工芸品』が? 保存状態がよくないのではないですかね?」

 

 コルベールがそう言うと、ジュリオは苦笑して言葉を返す。

 

「一応、ロマリアの秘中の秘なものでしてね。品自体には『固定化』の魔法がかけられているので、経年劣化はしていないはずですよ」

 

 そう言って、ジュリオは鉄扉の一つに向かう。扉は、厳重に鎖で封印されていた。その鎖についた錠前に、これまた道中で回収した鍵を差し込む。

 甲高い音を立てて鎖は外れ、ジュリオは扉の取っ手を握って開けようとする。

 しかし。

 

「まいった。錆び付いてる」

 

「おいおい。本当に大丈夫かよ」

 

 思わず、才人は突っ込みを入れていた。

 

「お二方、ちょいと開けるのを手伝ってくれないかい?」

 

 その言葉に、才人とコルベールは呆れた表情を浮かべて、ジュリオを手伝いに鉄扉へと向かった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 扉の先には、多数の銃器が置かれていた。

 火縄銃やマスケット銃から始まり、年代を追うように近代の姿へと近づいていく銃が右の棚に並ぶ。

 それを順番に目を通していくと、ハルケギニアにはありえない小銃が才人の目に映った。その小銃を手に取ると、才人の左手のルーンが反応する。

 

 銃には『ENGLAND   ROF』との文字が刻まれていた。イギリス製の銃だ。

 そして、その隣の銃を目にする。

 才人は、ゲームで見覚えがあるそのロシア製の小銃を次に手に取った。

 

「AK小銃か……」

 

 弾倉を外してみると、中には弾がぎっしり詰まっていた。

 

「おいおい、弾もちゃんと入っているのかよ」

 

 才人が呆れたように言うと、部屋に備え付けられていた魔法の明かりを点けたジュリオが、彼のもとにやってきて言った。

 

「消費したらそれっきりだからね。大事に『固定化』をかけて保存していたわけさ。まあ、そこのミスタ・コルベールにかかれば、『フェニックス』号の機銃みたいに弾丸も再現できそうだがね」

 

 その言葉に、コルベールは才人の手元を見ながら無言でうなずいた。

 おそらく可能であろうとコルベールは見た。もし自分には無理でも、エレオノールに任せればきっと代替品を作り上げるだろうという確信があった。

 

「残念なことに、『固定化』をかける前に壊れてしまったものもあるけれどね」

 

 ジュリオがそう言うので、才人は棚に並んだ現代的な銃を一つ一つ確認した。銃は、十数丁ほどあったが、半分ほどは今も使えそうであった。火縄銃やマスケット銃も含めると、数十丁の銃が棚に収められていた。

 さらに他の棚を見ると、こちらは年代物の武器が並んでいた。

 剣や槍、クロスボウ、ブーメラン……ルイズの所持する軍刀とはこしらえが違う日本刀まであった。

 

「おや、サイトくん。これは学院で秘蔵されている『破壊の杖』に似ているぞ」

 

 コルベールが何かを見つけたようで、才人は彼を振り返る。

 そこには、ロケットランチャーが一丁存在した。だが、弾はないようだ。他にも、大砲やミサイルランチャーまであった。

 さらに、才人は巨大なオブジェを発見する。

 

「うわ、これ、ジェット戦闘機の機首じゃないか?」

 

「なにっ!? 本当かね!?」

 

 才人がまさかの代物に驚き声を上げると、コルベールが小走りで寄ってきて、機首らしきものを検分し始めた。

 

「ふうむ、これはなかなか参考になる……」

 

 ごく一部のパーツでしかないのに、コルベールは何かを見いだしたようだ。さすが先生と、才人はその様子を感心して眺めた。

 

「おっと、それだけで驚いてもらっては困るよ。こっちに来な」

 

 ジュリオはそう言って、二人を倉庫の奥へと案内した。

 すると、そこには油布を被せられた子供の竜ほどのサイズの小山があった。

 

「デケえ。なんだこりゃ」

 

 才人がそう言うと、ジュリオは得意げな表情で油布を引っ張り、取り去った。

 その下から出てきたものは……。

 

「うわあ、戦車だ!」

 

 それは、巨大な鋼鉄の塊。

 鉄板を幾重にも組み合わせた箱のような乗り物。いつだか才人がコルベール達に語った無限軌道が両脇についた、鋼の乗り物。

 ハルケギニアの青銅砲とは何世代も離れた、洗練された鉄の砲塔が錆びることなくその威容を放っていた。

 

「ドイツのタイガー戦車だ……」

 

 才人は左手をその戦車に触れさせる。ルーンが反応し、その構造を『鑑定』する。そして才人は、このタイガー戦車が今も動くことを知った。

 

「動かせそうかい?」

 

 ジュリオがそう尋ねると、才人は正直に答える。

 

「燃料を追加して、複数人で乗れば、今でも余裕で戦えるだろうな」

 

「そりゃすごい!」

 

「すごいのは、こんな重たいものをここまで運んだお前らだよ……」

 

 呆れたように才人が答えると、ジュリオは得意げな顔で言う。

 

「そうだね。ぼくたちロマリアは、何百年も前から『聖地』にこっそりと近づいて、これら『場違いな工芸品』を回収してきたんだ。それだけじゃないぜ。キミのようなこちらに迷いこんできた異世界人とも、何度も接触を図っているのさ」

 

 才人はその言葉に、日本の軍人であったシエスタの曾祖父を連想した。

 なるほど、地球からは武器だけでなく、それを持った人間も一緒に連れてこられるのかもしれない。

 

「さて、ここからが本題だ。これら『場違いな工芸品』を全てミスタ・ヒラガ。キミに進呈する」

 

「は?」

 

 才人は、ジュリオが何を言い出したのか一瞬理解できず、言葉にならないそんな声を上げた。

 ジュリオはそれも気にせずに、まくし立てるように言った。

 

「これら『場違いな工芸品』はね。全て、『ガンダールヴ』のために存在する『槍』なんだ」

 

「槍? いや、どう見ても近代兵器じゃねーか。あ、いや、待てよ……確かデルフの野郎が言っていたな……」

 

 才人は、以前『竜の羽衣』に乗った時に相棒のデルフリンガーが言った言葉を思い出した。

 

「確か、槍は始祖の時代では『最新兵器』で、『ガンダールヴ』の槍はその時代の最先端の武器のことを指す言葉だとかなんとか……?」

 

「よく知っているね。デルフ、ということはキミの持つインテリジェンスソードの入れ知恵かな?」

 

「ああ、あいつ、どうやら六千年前の『ガンダールヴ』が使っていた剣らしい」

 

「本当かい? 初代『ガンダールヴ』の剣とか、そりゃあ、聖遺物ってやつじゃないか」

 

「デルフが聖遺物……? いやいや、そんな上等なものじゃないぞ」

 

「いやいや、キミこそ何を言っているんだ。六千年前の生き証人がいるとか、歴史がひっくり返るぞ」

 

「ああ、そう言えばロマリアを作った始祖の弟子は、いけすかないヤツだったとか言っていたな」

 

「うわあ、やめてくれよ、そこらで歴史の真実をばら撒かせるのは」

 

 そんなやりとりを続けて、才人はあらためて興奮気味に戦車を検分していたコルベールに向けて言った。

 

「先生、ガソリンを入れれば動かせそうですよ。でも、こんな物どうやって地上に運ぶのか……」

 

「それなら、不死鳥飛行隊の全員で『レビテーション』をかければなんとか動かせるだろうね」

 

「ああ、その手が……ジュリオ、ここに他のメイジを入れてもいいのか?」

 

 才人がジュリオに尋ねると、ジュリオは「構わない」と返した。そして、さらに才人に向けて彼は言う。

 

「もう、この部屋の中身は全てキミの物さ。なにせ、僕は『ガンダールヴ』じゃなくて『ヴィンダールヴ』だからね。これらは使えない」

 

 その言葉に、才人は一瞬何を言われたのか分からなかった。

 そして、次の瞬間、才人は一つの歌を思い出した。それは、ティファニアのいたアルビオンの村で、子供達が歌っていた始祖の(しもべ)の歌。

 

「『ヴィンダールヴ』って、確か、『虚無』の使い魔の……」

 

「フフッ、そうさ。ぼくは、ロマリアの『虚無』担い手の使い魔、『ヴィンダールヴ』。キミがあらゆる武器を使う『神の盾』なら、ぼくはあらゆる獣を操る『神の笛』なのさ」

 

 ニヤリと笑って、ジュリオは言った。

 そして、困惑する才人に向けて、ジュリオはさらに言う。

 

「始祖ブリミルが従えた、四人の僕同士、これからよろしくな、兄弟」

 

 その言葉に、才人は思わず嫌そうな表情を浮かべてしまった。

 




・タイガー戦車
原作の挿絵を見る限りでは、その正体はおそらく『ティーガーⅡ』。約七十トンありますが、聖地からロマリアの地下まで運ぶのにどれだけ苦労したのでしょうか。
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