インナーカラーはサオリよりもっと深い蒼なのですが、ぱっと見まんまサオリです。
テストに出ます。
最近、ナギサとミカは一人の生徒について言葉を交わしている。茶会が終わるとすかさず話し、やれこの髪型があの子には合うの! だとか、やれこの服があの子には合います! だとか。
私を置き去りにされるのは、いささか気に食わないものがある。私という存在を無視されているような気がして。
その生徒の名は藍園ココロ。どういうわけか、私の予知夢に出て来る誰かと瓜二つの見目をしているのだ。
しかし、よく観ると違う。観測した彼女は何と言うかだいぶん緩い雰囲気で、見た髪の色もインナーカラーが少しだけ違う。ほんのわずかな違いだが、この違いは私を安堵させるに足る違いだった。
私を悩ませる悪夢はひどく突発的なもので、自分でも度し難いほどの憂鬱さをもって息を吐いてしまうこともある。
よもやここでその予知の時が来たのではと焦り調べたものの、蓋を開ければなんてことはない普通の少女がいた。
気を張った故にとても気疲れしたな。とぼとぼと茶会からの帰り道、図書館へと向かう道中ふらりと浮遊感。そういえば最近は悪夢で早く目が覚めて、未だに慣れぬ執務と戦っていたんだった。
ふらふらと足がもつれ、ついに倒れ伏してしまった。これはいけない、体が思うように動かない。
「───わわ、──夫ですか!?」
「...! .....!? 」
誰かが呼びかけているみたいだが上手く応えられなくて。
お寝ぼけセイアですまない。誰だかわからないが、助けてくれたりするのかな...。
こんなところで悪夢なんて見たらまた最悪だ。何事もなく眠れるといいのだ...が...。
夢を見た。いつもと違う夢だった。
いつも通りに見たくもない滅亡の予知夢を見るのだと思っていたが、今回は少しだけ違った。
何処からともなく光が差し、ふわりと浮いた私を悪夢から遠く離す。遥か彼方へと私の手を引き、一つの夢へと連れて行く。
私が、幸せそうに寝ている姿。厭世的になっていた近頃の気分が少しだけ晴れたような気がする。
自分のこんなところ見るのは少々こっ恥ずかしいが、こんな風に寝られる日が来るのであれば。
案外どんなことも、なるのかもしれないな───
「ん...」
倒れた私は、どうやら救護騎士団の詰所で寝かされていたようだ。
「あ、気が付いた~!」
起きたら件の彼女が居た、運んでくれたのは彼女かな? 縁と浮き世は末を待てというものだが、まさかこんなに早く会えるとは。
手を握っているが、まさかそのままずっと見ていたのか?
「廊下で倒れてたんですよアナタ! なんか大きな病気だったらどうしようかと思って...びっくりした~!」
「それはすまないことをしたね。摩耗した精神も、それを収めた器も、休める間もなく執務が舞い込むんだ。休息もまた、仕事の一つであるのにもかかわらず、ね」
皮肉めいてそういうと、彼女は少し困った顔をしながら笑う。
「じゃあいましばらくは休息の時間ですね。少しお話でもしませんか?」
こんな言い草をして、慌てたり嫌な顔をして出ていってもおかしくないだろうに、仕方のない人を見る目をしてそんな誘い方をする。
「構わないとも。本もなく独りで暇をつぶせるように、私の心は出来ちゃいない」
私にはそれを断るなんて選択肢はとれなかった。陽射しのように差し伸べられたその手をとって、また口を開く。
「どうして、あそこで倒れちゃってたんですか? って聞くのはさすがに不味いか...? 」
「不味くはないとも、あんなところで倒れていたから、さぞ驚かせてしまっただろう」
あちゃー、また声に出てたー! とでも言うような顔をして、私の言葉に耳を貸す。
先ほどの状況を軽く説明しつつ、ふと気になって問を投げかけた。
「私にとって茶会が今日最後の執務だった。逆に言えば、茶会が私へのトドメだったとも言える。茶会とは俗世でも負荷をかくも生じるものかね」
「お茶会ですか...? 厳格なかんじのお茶会はしたことがないのでわかりませんけども、友人とただお茶を楽しんで会話するってだけなら負荷も少ないかもですね」
「...一口に茶会と言っても多種多様な形式がある。立場や環境が違うものに問えば、そう返ってくるのも当然の帰結か。本来は交流を深めるための第一歩として開かれるものなのだから、君の認識は正しいところにあるね」
「ふふふ、ありがとうございます。それならアナタとも、そういうお茶会がしてみたいですね! 何も考えずに楽しめる、ただ喋っているだけで幸せになる...そんなお茶会を」
「それはお誘いとみていいのかな? 気心の知れぬ内から積極的なことだね。けれど、それもいい。最近は同じような顔ぶれを見すぎて少々食傷気味なんだ」
「仲のいい人ならそれもいいと思いませんか? ちょっと飽きるくらい顔を見る方が、安心できますよ」
「ふむ、そういうものなのだろうか...だが最近は私をそっちのけで、ある人物の話題で持ち切りさ」
「へ、そうなんですか!? それは少しいただけませんね..」
あとで言っとかないと、なんて息巻いているが原因はキミ本人だ。そう思うとなんだかおかしくなって変に声が出た。
それからも他愛なく話をしていると、私が話しているのを察知してミネが顔を出してきた。
「あら、起きましたか?」
「ああ、先ほど起きたよ。彼女には感謝せねばならないな」
「そうですね、今回は私もついていませんでしたしココロさんが来なければどうなっていたことやら...。若輩ながら救護騎士団を代表して感謝します。ありがとうございました」
ミネが深く頭を下げる、次いで私もベッドの上ではあるが礼をする。すると、彼女は慌ただしく右手を動かして言う。
「そ、そんなかしこまらなくてもいいですよ! 助け合うのは当たり前ですから! それよりも、あんまり無理しちゃだめですよ! ティーパーティーって心労も仕事も多くて困っちゃう~!! って先輩たちが言ってました。何かあったら周りを頼りましょう!」
「そんな言いぐさをする友人は一人しか知らないのだが、肝に銘じておくよ..」
まぁ、十中八九ミカだろう。そういえば名を名乗ってなかったけれど、必要だろうか。あちらはもうこちらの名前を知っているのではないか。それでも名乗っておくべきだろうか、果たしt「そうだ、自己紹介が遅れました!」
「私、藍園ココロっていいます! ここで会ったのも何かの縁です、困ったら何でも私に言ってください! なんでも力になりますから!」
「私は百合園セイア、ご存じの通りティーパーティーに所属しているよ。袖振り合うも他生の縁というものだろうか、しかし私は先輩だ。まず君が困った時に助けになるのが先になるかな」
「蒼森ミネです。ヨハネ分派を今年より取りまとめております、あなたのような生徒を救護騎士団はいつでも歓迎しています。もし、救護に興味があれば私のところに来てくださいね」
「あはは、恐れ多いですよ...やっぱり先輩たちは貫禄があるなぁ。堂々としてて、カッコいいです! これからよろしくお願いします、セイア先輩、ミネ先輩!」
せんぱい...先輩という語感はなかなかに良い響きだな。だが、砕けた呼び名の方が私は好きだ。
「先輩、というのはむず痒い。セイア、と普通に呼んでくれないか。あと、手を強く握り過ぎだ。もっと優しく握ってくれ」
「わっごめんなさってえぇーー!? ハードル高いですよ! ティーパーティーってみんなこうなんですか!? てか握りっぱなしで失礼しましたーーーーっ!」
表情がコロコロ変わる、忙しい子だ。しかし見ていて飽きが来ない。からかったらどんな顔をするのか、好きな本の話は出来るのか。
この子には期待してしまうなにかがある。立場の違いを体裁では気にしているものの、その実で彼女の目は人を見るときまっすぐ相手自体を見ている。望むと望まざるとに関わらず、私たちティーパーティーの交友関係は"上"と"下"で成り立ってしまう。
"上"を見ると"下"はそれに倣えでついていく。そしてそれからそれが変わることはない。
だが、君なら。私たちをティーパーティーとしてでなく、「私たち」としてみてくれる君なら。もう少しだけ、自分の事を知ってほしいと思える。
「そのまま握っていてくれ、なぜだろうね...安心するんだ。君の手は大きく、とても優しい。出来ればこのまま話し相手になってくれやしないか?」
ミネが生暖かい目でこちらを見ている。なんだその目は。
じとりとミネに視線を飛ばした後、向き直ってココロの目を見る。困惑の色が抜けて、爛々とした光が灯る。
「はい、先輩! アナタの事いーっぱい教えてください!」
これは、純粋な幸運だ。
めぐり逢いとは緩慢で暖かいものか。友と話す少量の幸福が、私を満たす。幸福人、不幸人とはよく言ったものだ。私の憂鬱の記憶を溶かすのは、反対の満足の記憶であった。
それは暖かく柔らかな光のようで、先ほど見た夢と同じようだった。私は欲張って、その光を離さぬようにつかみ続けるだろう。
まずは、私のオススメの本を君にも知ってもらおうかな。
スーパー難産でした。
初対面って難しいんだよ距離感が。特にセイア!!!!ストーリー完遂後と性格が違いすぎる!!!!
こんなおちゃめちゃんだなんて知らなかった!!!!!
ココロは距離感とか関係なく詰めようとするのでこの後普通にに図書室寄って大量の本を一緒にセイアの部屋に運んで読みました。
セイアさん打ち解けてからが本番なのでリベンジとして次回の登場を楽しみにしててください。