フルフルニィ………「誰!?柱間って誰なのォ!!?」 作:アンディライリーのうさぎ
天元との攻防の副産物で、オレも結界術を扱えるようになった。と言っても、あやつには遠く及ばない。
この知識を利用して、屋敷に結界を張っている。防犯センサーのようなもので、誰か侵入してくると気づくことができる。天元はなぜかこのセンサーに引っかからない。
(この子どもには悪いが、外に出すわけにはいかんからな…)
任務地で出会した、サイコパスの少女。そんな少女を連れ帰ってきた。上に事情は説明して、当分は自分の家に置いておくことになった。万が一があっても、オレだったら反転術式で自分の傷を治せる。
ひとまず結界を少しいじって、少女が外へ出られぬように設定した。
「よし、メシの前に風呂に入るぞ!」
「……フロ?」
この時代は一応蒸し風呂がある。サウナみたいなものだ。この風呂は一般人だと滅多に入ることができない。
現代っ子のオレは、やはり肩まで熱い湯に浸かりたかった。
その点でいうと、オレの『木遁操術』は浴槽をいつ何処でも作ることができる。オレのこの力は、浴槽を作るために目覚めたのかもしれないとさえ思う。
ただし外的な要因で、例えば物質を【木→(燃焼)→炭】のように変えようとした場合、この「燃焼」の段階で木が崩壊してしまう。そのため薪などは別途で用意する必要がある。
ちなみにオレの術式と火は相性が悪いが、呪力で補強すれば何の問題もない。薪用の実験として出した木は逆に、燃えやすいよう手を加えていた。
さて。まず木の浴槽を用意して、次にどでかい窯に水を貯める。その水をあらかじめ用意しておいた薪を燃やして熱し、お湯の完成だ。
水は毎日新しいものに変えるのは難しい。そこら辺は割り切るしかない。また石鹸やシャンプー等もない。代替品のようなものはあるが。
オレは面倒なので、炭を利用している。現代でも炭でできた石鹸や、消臭剤があった。炭は万能素材なんじゃなかろうか?
(風呂だ…! 風呂をよこせェ…!! オレは早く風呂に入りてぇんだ…!!)
禁断症状が出てきたところで、ようやく風呂である。
使用人たちには、少女が食べやすい料理を作ってもらうようにお願いした。
風呂は竹垣で囲った場所に用意している。そう、露天風呂だ。星を眺めながらひとっ風呂もできる。
「………」
ちびっ子は浴槽のヘリをつかみ、ジッと湯を見つめている。ついで、炭を砕いたものを手にし、まじまじと見つめた。
「風呂の前に体を洗おうか。髪を洗ってやろう」
「……見たことのないものばかりだ」
「そうだろうともさ。世の中は広いのだ」
「面白いよ」
「…そうか。人の中身なんぞより、きっと面白いものがこの世にはたくさんある」
この子どもは知的好奇心の塊だ。接するうちに気づいた。そして気になったものを調べる際に、選んだ手段が良いか悪いのかを判断する
サイコパスは確か、先天性のものなんだよな? だったら、この子どもが気になったもの次第で、更なる被害が生まれるかもしれない。
「……なぁ、親を手にかけた時、お前は何を思った?」
「何を思ったか?」
「あぁ。罪悪感はあるのか?」
「ザイアクカン?」
「自分が両親に、「すまなかった」と思う心だ」
「んー……なかったかな」
「そう、か……」
本当なら、この少女は死ぬはずだった。しかしオレが拾ってきてしまった。
人を殺したとしても、まだ子どもだからと。改心の余地があると思った。しかし話を聞いて、これは無理そうだと分かってしまった。
(──オレの責任だな)
ならば、何が何でも改心させるしかない。この子どもが将来、大罪を犯さないように。
「なぁ、オレの養子にならないか?」
「いいよ」
「三食昼寝つ────即答かッ!!」
「だって、面白そうだから」
養子をいつか取りたいと思っていた願いが、ひょんなことで叶った。その養子がとんだサイコパスなのはまぁ、仕方ないとして……。
「一つ、約束してくれ。お前の好奇心で、人を殺すようなことはしてくれるな」
「どうして?」
「それが常識というものなんだ。お前が生きていくには、その常識を守る必要がある」
「でも、人間は増えるよ? 私が一人二人、減らしたところで」
「………守れぬというなら、オレはオレの責任を取る」
「へぇ、私を殺すんだ? 養子にすると言い出したのは、柱間なのに」
「そうだ。オレが、娘のお前を殺す」
「…………まぁ、分かったよ。柱間の目が届いているうちは、人を殺すのはしないよ」
「約束だぞ」
小指を差し出すと、向こうは不思議そうに首を傾げた。約束をする時の、
「じゃあ、よろしくな。────あっ、名前聞いてなかった」
「今更か」
サイコパスのパンチが強すぎて、うっかり忘れていた。
名前を改めて尋ねると、少女は名乗った。
「私は『羂索』だよ」
こうして、オレに養子ができたのだった。
◇◇◇
毎日三食(普通は二食だが)食べてきっちり睡眠をとっている羂索は、すっかり健康体になった。知的好奇心が服を着て歩いているようなこの子どもは、さまざまなものに興味を示している。「外に出たい」とも言われた。
「オレと共に出かけるなら構わん」
「じゃあ、それでいいよ」
羂索はオレの術式にも興味を持ったらしく、色々と質問を受けた。本があったら、もっとよかったかもしれない。紙はあるにはあるが、とんでもなく貴重だ。
それと、オレが羂索に蹴鞠を教えていた時のこと、天元がやってきた。
「こうしてな、屋敷の上まで蹴り上げて、そこから跳んで……」
「やあ、柱間」
ちょうどオレがジャンプして、オーバーヘッドを決めた瞬間だった。蹴った鞠が木に勢いよくぶつかって止まる。
「おぉ、久しぶりだな、天元」
「私に何か言うことは?」
「…何か、とは?」
「言うことがあるはずだ」
蹴鞠を回収してきた羂索が、オレの後ろに隠れた。腰のあたりをギュッとつかんでくる。こういうところは普通の子供なんだよな…。
「ええと……もしや養子の件か?」
「それ以外にあると思うかい?」
「…では、紹介しておこう。娘の羂索だ」
「………」
羂索を前に出そうと試みるが、オレの周囲を回るように逃げられる。次第に目が回ってきたオレは、膝をついた。
「弄ばれているじゃないか、君。笑われてるぞ」
「じゃじゃ馬なんぞ、こやつは…」
「ねぇ、三人で蹴鞠しよ」
羂索の一言で、天元を交えた蹴鞠が始まった。オレはなるべく加減して鞠を蹴る。うっかり暴れ鞠になった時は、術式を使って二人を守る。
順番は、【オレ→羂索→天元】の順だ。元の蹴鞠のルールは完全に無視している。天元に渡ったら、次はオレに渡り、最初からだ。
「ほれ、羂索」
「よっ」
胸部で鞠を受け止めた羂索は、上に鞠を蹴り上げ、それを足で蹴り飛ばした。
その鞠は天元の顔目がけて一直線に飛ぶ。直撃する前に天元ごと木で覆った。
「おっと、足が滑った」
「柱間ァ! この小娘性格が悪いぞ!!」
「……順番を逆にしようか」
しかし、オレが蹴った鞠を天元が受け止め、そこから羂索に向かって蹴ることができない。鞠があさっての方向に飛ぶ。
「……実は、蹴鞠は久しぶりなのだ」
天元がもじもじとそう言った。
「もっと距離を詰めて行おうか」
サッカー感覚で距離を空けてしまったオレも悪かった。それから距離を詰めて蹴り始めると、上手く続いた。たどたどしかった天元の動きも、次第にかつての感覚を取り戻したようで、生き生きとしていく。
時間はあっという間に過ぎていった。天元が「また来るな」と手を振る。オレも振り返した。ついでに、座って羂索の肩に手を置く。
「お前も手を振ってあげなさい」
「……仕方ないね」
羂索も天元に手を振った。夕日の色で世界が赤く彩られる。天元を見送り屋敷に戻る途中、着物の裾が引っ張られた。
「………蹴鞠楽しかったよ、柱間」
オレは思わず羂索を抱きしめた。それに羂索は鬱陶しそうな顔を浮かべる。
オレもな、今日はうんと楽しかったよ。お前や天元と遊べたからな。