フルフルニィ………「誰!?柱間って誰なのォ!!?」   作:アンディライリーのうさぎ

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約束しました。あなたと私。


13話 極楽焦土

 仕事の合間に出かけていた柱間は、迷子の子供に出会った。一旦泣きじゃくる子どもをあやし、母親を探すことにした。

 

「母の特徴は分かるか?」

 

「かみがくろくて、ながい」

 

「…まぁ、少し歩いてみようか」

 

 腹が減ったとごねる子どもに食べ物を買ってやり、周辺を散策する。すると、迷子の子供の名前を呼んでいる母親を発見した。

 

「ありがとうございます…!!」

 

「子の手はきちんと握っておくのだぞ」

 

 柱間は座り込み、微笑んで子供の頭を撫で──ようとして、止まる。出した手はすぐに引っ込んだ。

 

「ではな」

 

 そんな迷子と柱間の一部始終を偶然見かけた少女は、眉を寄せた。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 そう言えば、養子の子供の誕生日をまったく祝っていないことに気づいたのは、引き取ってからもう何年も経った頃のことだった。

 他人はおろか、自分の誕生日も祝っていない。誕生日を祝う風習がないため、オレもいつの間にかそれに慣れていた。

 

 だからこそ、何かプレゼントをしたいと考えた。

 

(サプライズにしたいよな…。誕生日を祝う概念がないんだから、露骨な質問でも問題はないか)

 

 一応羂索や天元に生まれた季節を聞いてみた。二人とも覚えていないようで、首を振られた。「そんなことを聞いて何をするんだ?」な視線ももらった。

 

 天元に何が欲しいか尋ねると、「お前」と言われた。うっかりしたら惚れちまうような即答に、引きつった笑みを返すしかなかった。

 

 仕方なく、天元は後に回した。

 羂索の方は、オレがたまにつけている耳環(じかん)(現代で言うところのイヤリング)に興味があるらしく、それを付けてみたいと申した。

 

「耳環ねぇ…」

 

 時間を見繕って、買いに行くことにした。正確には、作ってもらいに行くことにした。

 耳環は基本的に耳たぶに挟むようにして付けるが、オレは穴を開けてそこに通している。動く時にイヤリングの形状だとすぐに落として無くすからだ。

 

 ちなみに耳環のような装飾品を付けている人間は非常に少ない。自分的にはオシャレだから付けている。

 

 その途中で迷子と遭遇し、母親を探すことしばし。何とか発見して、家に帰った。

 

「羂索、ちょっとおいで」

 

「……何?」

 

 成長期な羂索は身長が伸びてきている。女性的な丸みも出てきた──と言うと、オレが変態くさく(お縄に)なるんだよな…。

 

 身長以外に、心情面も大きく変わったように思える。使用人とメシを作っていたと知った時は、天災の前触れかと思った。本人曰く、「暇だったから作った」らしい。今も時折作っている。

 

(……結界、どうするかな)

 

 人を殺さないようにと約束したが、口約束は実質当てにならない。もちろん、羂索のことは信じたいのだが。

 

 あとサイコパスな理由の他に──まぁこれが一番の理由だが──、オレの立場が挙げられる。

 

 アイツは自由に出入りを許可すると、絶対に勝手に抜け出す。そうなると、いざ呪詛師に目をつけられた時に、助けてやることができない。権力や力があるとこういった面倒事が多くなってしまうから困る。

 

 せめて、並の呪詛師をぶっ飛ばせる力を身につけられるようになるまでは、様子見だ。

 

「前にほら、お前に欲しいものがあるか、聞いたことがあっただろう?」

 

「……あぁ、そんなこともあったね」

 

「それで、お前に渡してやろうと思ってな」

 

 金属製の耳環を二つ手に乗せてやる。羂索の目が丸くなった。小さなそれを親指と人差し指でつまんで、まじまじと見ている。

 

「フゥン……今日はこれを買いに行ってたんだ」

 

「そうだ。仕事の合間に────ん?」

 

 オレ、出かけたって羂索に言ってないんだけどな。空耳アワードの幕開けか? 

 

「ハァー……本当に呆れたよ、君には」

 

 失望したと言わんばかりの表情だった。どういうことだ? ──と考えて、もしや、と思い至った。

 

「天元に連れられて、出かけていたのか……?」

 

「ンなわけあるか、誰があの女と」

 

「ではいったい……」

 

 羂索は、ため息をついてアレコレと部屋のものを指す。それはいつのまにか屋敷にあった壺だったり、皿だったり──。天元が勝手に侵入して、置いて行ったと思っていたものだ。実際、アイツは色々と持ち込んでいる。

 

「さて、これを持ち込んだ犯人は天元ではない。ならば真犯人は誰だと思う?」

 

「………まさか、オレ?」

 

「バ〜〜カッ!」

 

 正解は羂索だった。そうか、羂索が………ハ? 

 

「天元が行っている結界術の模倣と、使用人の口止め。そうしていつ柱間が私の仕組んだこの遊びに気づくのだろうかと、今か今かと待ちわびて早二年。貴様は生粋の阿呆だよ、おめでとう」

 

「そこまで言う必要はないだろ!?」

 

「何が『現代最強の術師』だ。私のような小娘のお遊びにも気づけぬ間抜けではないか! 私はその“間抜け”を見たかったんじゃない。私のイタズラに気づき、その上で浮かべた貴様の“間抜けヅラ”を拝みたかったんだ」

 

 養女の性格は良くなるどころか悪化していたらしい。畳に手をついて落ち込むオレに、心底楽しそうに笑う声が聞こえた。

 

「お前のその甘さ、命取りになるぞ」

 

「すでに命は取られてるわい……」

 

「………何だって?」

 

 羂索はどういうことかと詰め寄った。いつの間につけたのか、両耳には先ほど渡した耳環が揺れている。

 

 まぁ隠す必要もないだろうと、オレは少し自分の過去話をした。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 オレが昔村の守護をしており、そこからこの都に着くまでの話を聞いた羂索は、腕を組んで何かを考え込んでいる。そして背筋の凍る笑みを浮かべたあと、どこかへ向かった。戻ってくると、その手には刀があった。

 

「オレを殺す気かッ!!?」

 

「腕を一本もらうだけだ。──あぁ、腕が嫌なら足でも構わないよ」

 

「断固として嫌だわ!!」

 

 刀を持ったサイコパス養女に追いかけられ、庭へと逃げ込んだ。アイツの目、本気(マジ)なんだ。マジで養父のオレを斬りにきている。

 反転術式が使えようが、痛いものは痛い。誰があのサイコパス少女を拾ってきちまったんだ。オレだよ。

 

「────ッ、『縛れ』!」

 

 羂索の足は地面に触れている。ならば拘束も容易いか──と思ったんだが、アイツは空中にいた。結界を足場にし、移動&瞬時に結界の生成…を繰り返しながら前進する。

 

「……すごいな」

 

 結界術に関して、オレは何も教えていない。天元からも何も聞いていない以上は、彼女も羂索に教えていないはずだ。

 そうなると、独学でオレより器用に結界を操っている。

 

 オレの知らない裏で、努力していたのか。それは、なんとも喜ばしい。

 

 ………ならその褒美くらい、やってもいいよな? 

 

 

「!」

 

 

 羂索の振りかざす刀の位置と、オレの今の位置を調整してタイミングを見て止まる。刀の先は綺麗にオレの右腕を切り落とした。

 

()ッ……」

 

 やはり痛いものは痛い。吹っ飛んだ右腕は木で回収して、羂索に渡した。

 

「ほれ、欲しいんだろ?」

 

「………」

 

「…………流石にもうやらんからな…?」

 

 羂索は血が滴る腕の切断面を見て、オレの顔を見て──を繰り返す。そして、「痛かったの?」と聞いてきた。

 

「痛いのが嫌だから逃げたんだろうが。……まさか、「自分が悪かった」と思っとるのか…?」

 

「いや」

 

 罪悪感の感情だけは、どれだけ励んでも育ってくれない。育てる土壌が最初から終わりきっている。

 

「ただ、何だろうね…。………? よく分からないな。これは何だろう?」

 

 羂索は今の感情を整理し始めた。その様子を見守る。

 

「……あぁ、分かった。柱間の苦痛に満ちた表情に、思うところがあったみたいだ」

 

「ハハァン…?」

 

「柱間が痛そうだと、私もなぜか痛むみたいだ」

 

 羂索は「ここが」と、自分の頭を指す。

 

「腕はありがたく頂戴しておくよ。木になったと聞いたが、今切り落とした部位が変化している様子はないね」

 

「………悪用はするなよ」

 

「はぁ〜い」

 

 説得力のない返事だった。すでに知的好奇心で埋め尽くされた様子の羂索は、保存方法を吟味している。腐らないかと心配もしていた。ひとまずは解剖せず、そのままにしておくことにらしい。もらったプレゼントの箱を開けられない子どもみたいだな。

 

「………ハァー」

 

 オレの痛みをお前も痛いと思ってくれるのなら、それはきっと…。

 

 それはきっと、お前がオレを『家族』として、少なからずは想ってくれてるってことだ。

 

 オレは心の中で、「もうこいつは大丈夫だろう」と思った。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 天元は内心でキレていた。というのも、先日柱間の屋敷に訪れた折、羂索がドヤ顔で耳飾りを見せてきたのだ。今は廃れている耳環の装飾品だ。時折柱間がつけていることもある。

 

「あの小娘……「柱間にもらったんだ」などと、自慢しおって………」

 

 思い当たる節はあった。以前柱間が「何か欲しいものはないか?」と聞いてきた件だ。自分も物を選べばよかったと、今になって後悔した。

 

(私はお前との戦いに勝ってみせるぞ、柱間ァ……!)

 

 天元の結界の精度はさらに向上している。最近はひとが体を動かす関節に小さな結界を複数発動させることで、相手の動きを封じる方法を考えている。

 

 

 そんなある日、任務帰りらしい柱間が、説法終わりの天元の前に現れた。

 聴衆していた者たちの姿を見ていた柱間は、「人が多いな」と言う。

 

「術師へ説いていたはずのものが、非術師ばかりが聞くようになってしまった」

 

「それだけお前が人々から頼られ、信仰されているということだろう」

 

「フッ…お前も呪術師たちから「様」付けされているではないか」

 

「「様」はやめろと言っとるんだがなぁ〜……」

 

 非術師たちから信仰を集める天元と、呪術師たちから畏敬の念を集める柱間。

 

「早くオレよりも強い術師が現れて欲しいものだ。忙しくて仕方ない」

 

「君はあと50年は現役でいけるよ」

 

「勘弁してくれ。最近は羂索と遊んでやる時間もないんだ……」

 

 羂索、と聞いた天元の耳がぴくりと動く。ジトーッとしたその目に、柱間は「?」と不思議そうに見る。

 その反応を見て、天元は首をすくめた。

 

「おぉ、そうだった。雑談するのもよいが、お前に用があって来たんだ」

 

「何だい?」

 

「天元が前に、「お前が欲しい」と言っとっただろ?」

 

 天元の体が固まった。まさか、これはまさかか? 苦節十数年に及んだ戦いの幕切れか? 

 

 

「オレがもし死んだ時は、お前にオレをやろうと思う」

 

 

 天元の目が大きく見開かれた。唇の震えた彼女は──思わず、目の前の頬を叩いた。天元の手が痛んだ。

 いや、心も痛んだ。

 

「……お前は今、私に叩かれて当然のことを言った」

 

「いや、オレも色々──」

 

「ふざけるなッ……ふざ、けるな………!!」

 

 どれだけ天元が柱間を愛しているのか、身をもって知ったはずだ。身をもって、『人間』である彼女の姿を、この男は見てきたはずだ。

 

「……すまなかった」

 

「………」

 

「……オレの命も、永遠というわけじゃない」

 

「見た目がまったく変わらんくせにか…」

 

「ハハ…見た目は確かにな。だが、歳を重ねるほど、オレは怖くなるんだ。オレが死んだ時、お前がどう思うだろうかと考えると、恐ろしくなる」

 

 天元と友になることを持ち出したのは、柱間だった。そんな言い出しっぺの自分が、いつかはこの友を置いて行くことになる。

 

「お前はきっと誰よりも、この世の地獄を見てきたのだろう」

 

「………」

 

「オレもこの現に、時折地獄を見る」

 

 そんな地獄を見続けねばならないのならば、果たして仏はいるのかとさえ、思いたくなる。

 

「だからせめて、肉体だけは……と思ったんだが、………いや、オレもどうかしていた」

 

「もう一発叩いてやりたいくらいだ」

 

「……本当にすまないな。本当に…」

 

 もう10年以上前、恐怖で戦いを終わらせた時から、柱間は明確に変化した。

 ネジが一つ一つ、外れていっていると言えばよいのか。天元は唇を噛み締めた。まるで、地獄の中で壊れていった、かつての己の姿を鏡越しに見ているかのようだった。

 

「……わかった。もらってやる」

 

「…………いいのか?」

 

「「お前が欲しい」と言ったのは、私だからな。もしお前が死んだ時は、もらってやる」

 

「……ありがとうな」

 

「やっぱりもう一発叩く」

 

「えっ?」

 

 天元は今度、逆の頬を叩いた。それから相手の襟を掴み、顔を埋めるようにして泣いた。背を撫でられると、その涙は余計に勢いを増して、地面へと落ちて行った。

 

 


 

 

 

 

 

 極楽の焦土。

 

 夜、咳き込んだ柱間の手に、血が付着していた。それを彼は目を細めて見つめる。

 

「やはりオレも、人間なんだな」

 

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