フルフルニィ………「誰!?柱間って誰なのォ!!?」 作:アンディライリーのうさぎ
「薪が少なくなっとるな…」
お湯を沸かすための薪が少なくなっていることに気づいた柱間は、森に木を取りに行った。それについて行くことにした羂索は、弓を装備した。木を運ぶ用の荷車は、柱間自身が術式で作って用意する。その荷台に羂索が乗った。
森に着くと、早速柱間は木を切り始めた。羂索は動物をねらう。
「………」
と見せかけ、矢尻を柱間に向けた。そして角度を微調整し、放つ。放たれた矢は一直線に飛び、柱間──に当たる寸前に、木で防がれた。
「オレはお前にとっちゃ獲物なのか? 恐ろしい…」
「ちゃんと不意打ちを防げて偉いね」
「気を張っとらんといつ誰に狙われるかわからんからなぁ……例えば、そこにいる娘とか」
「安心してよ。ギリギリ当たらないように狙ったから」
「人に矢は射ったらいかんのだぞ。オレならともかく」
それから採取した木を運びやすい大きさに整え、荷車に乗せた。羂索の収穫は鹿だった。川を利用しつつ、血抜きや洗浄を速やかに行う。狩りの経験が多い柱間はともかく、羂索の手つきも手慣れていた。
そして作業を一通り終えてから解体した部位を持ち帰り、帰路についた。陽が少し落ち始めている。
詰まれた木の山に乗っている羂索は、森の上にある夕陽が少しずつ沈んでいく様子を眺めた。
「……柱間は、死んだら死ぬんだね」
「急に何だ? …まぁ、多分死ぬだろうな」
「なに、死なない可能性があるってこと?」
「いや……死ぬぞ、うん。人間は死んだら、死ぬ」
「…そう」
いつもより元気のない羂索を不思議に思った柱間は、後ろを見た。そこには丸くなっている子どもの背中がある。
「羂索は死ぬことが怖いのか?」
「私にとって自分の死は恐怖たり得ないよ。それよりも──」
「それよりも?」
「それよりも柱間が死んだら、怖いかもしれない。私の愉しみが減ってしまうんだ」
「お前のその「たのしみ」は、きっと字が違うんだろうな…」
羂索は柱間が嫌がることをあえて行い、彼が困っている姿を見て愉しむ癖がある。性格の悪い娘と、速攻アタッカーの女に板挟みされ、柱間は自分の家でも平穏に過ごせないことがある。
「肉体は滅びようと、生命は永遠に生死を繰り返す、なんて考えが仏教にはあるらしいが」
「…あぁ」
「本当にそんなことがあり得るんだろうか? ちなみに私は反対派だ。柱間はどう考える?」
「オレはあると思うよ。善因のおかげで、この世できっとお前や天元たちに会えたのだ。しかし、………そうだな。きっと誰かを泣かすような悪因を成したから、オレは時折苦しくなるんだろう」
「………柱間は、信じるんだ」
「そうだ。まぁ…生命を繰り返すやつらの中には、たまに迷子になる奴がいると思うぞ」
「そうか……なら、少しは信じてもいいかな」
ガタガタと、荷車が揺れる。もうすぐ屋敷に着く。
「ではもし柱間が死んだ時は、次の柱間を見つけることにするよ」
「ハハッ! それは流石にできんだろ。お前が生きているうちに、そのオレが生まれるかも分からんというのに」
「いや、できるよ、
「もしできたとしたら、お前のことを覚えていられればよいな」
「別に忘れていようと構わないさ。柱間の魂が柱間のままなら、それは『柱間』だ」
「嬉しいことを言ってくれる。ならば、オレもお前のことを覚えていたら、見つけられるよう努力しよう」
柱間の言葉の後、間ができた。屋敷の前に着いた彼は荷台の娘に手を伸ばすついでに、顔を覗き込む。
羂索の目が、揺らいでいた。
「……柱間は私が私でなくとも、いいのかい?」
そう、羂索は呟く。それに「何だ、そんなことか」と笑った。
「お前はお前、羂索だ。たとえ来世でも、お前がオレの愛する娘であることは変わらないさ」
伸ばした柱間の手を、羂索が握る。頬が少し赤くなり、口元にはうっすらと笑みができていた。
「貴様は本当に阿呆の極みだな」
「今のさっきで、どうしてオレが貶される流れになった?」
荷車から飛び降りた羂索は、脱兎の勢いで走っていった。ため息をついた柱間は、鹿の調理を使用人に頼み、高速で薪割りを終わらせた。木に木を切らせるという冒涜的な方法である。
それからすっかり夜も暮れた。
飯を食い、風呂である。この時代電気などは当然なく、夜の明かりは月明かりが頼りとなる。
どちらも夜目がきくため、暗い中でも問題ない。柱間は風呂の準備を終え、屋敷にいる羂索を呼びにいった。
「なんか、竹垣の方が明るいけど」
「ハ?」
見ればたしかに明るい。竹垣に囲われたその頭上には、まばゆい光を放つ四方系の小さな物体がある。「この時代、『竹取物語』にはまだ早くないか…?」と柱間は思った。
「嫌な予感しかしない。今日の入浴は諦めよう」
「オレは
「風呂に対して絶対に譲れないその精神は何なんだ」
「行くぞ!!」
柱間は羂索を抱えて特攻した。思い返せば今日の労力も、すべては愛しき風呂のためである。肩まで浸かって、「ハァ〜……」と極楽を味わうのだ。
柱間はそこに何が待ち受けていようと、風呂だけは入りたかった。
「待っていたぞォー!! 柱間ァァァ────!!」
行衣を思わせる服で待機していた天元を目の当たりにした柱間は、白目を剥いて倒れた。