フルフルニィ………「誰!?柱間って誰なのォ!!?」   作:アンディライリーのうさぎ

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誤字報告いつもありがとうございます。次話で一章はラストです。


15話 鬼退治

 呪詛師たちの凶行はすぐに柱間の耳にも入った。

 

 ただちに上から、事態の説明をするよう呼び出された。あの呪詛師たちが柱間と実際に関係があるのか、その嫌疑を確かめるためだった。

 

「事実無根にございます。オレ……(それがし)は、此度の呪詛師の一件に関与してはおりません」

 

 呪詛師の目的はおそらく自分だろうと、柱間も分かっていた。今民たちが『術師』に対し抱く不信感を突き、柱間個人に悪感情を抱かせようとしている。またこれは、呪術師たちにもさらなる不信感の目を向かせる。

 

「奴らは天元を「『神』といつわる上に、非術師の救済を目論んでいる」として、天元のことも狙っておる」

 

「天元の結界は都の守護に無くてはならぬ。先の飢饉や天災で各地に()()()()()()()の被害が多発したにも関わらず、都は著しく被害が少なかった」

 

「何を言うか。もちろん、天元の結界のおかげもあった。しかし、呪術師たちの活躍があったことを忘れたとは言わせぬぞ」

 

「その呪術師たちが今や民たちに不信感を抱かせ、さらには彼らを擁する我らにまで不満が高まっておるのではないか!!」

 

「言い争っている場合か。今は速やかに呪詛師の討伐に専念するべきだろう。天元殿にも、また暫くは屋敷にこもってもらわねばなるまい」

 

 話し合いは呪術師に呪詛師の討伐を委任する形で終わった。その指揮を執るのは柱間である。

 この『疑い』を、その『功績』をもって証明せよ──ということだ。

 

「ハァー……疲れる」

 

 退室した柱間は息をついた。呪術師(なかま)を軽んじる発言が出た際に、こめかみの血管が切れた音がしたが、何とか堪えた。自分が疑われている現場で殺気を振りまくなど、自分の首を絞める行為に他ならない。

 

(軽々と討伐しろ──などと言ってくれるが、今の状況で呪術師(オレたち)が動けばどうなるか分かっているのか?)

 

 呪詛師は意図して人の多い場所で殺人を行っている。これは自分たちの話を、非術師に広めやすくする意図がある。そして負の感情を募らせる民たちの前に呪術師が出たとき、危害を加えられる可能性が高まる。場合によっては、殺されるケースも出てくるかもしれない。

 

(呪詛師が天元も狙っているのは、オレがやつと親交が深いから引き離そうとしているのか?)

 

 あるいは『天元』という人々に信仰されるカードを持ち出すことで、事態のより複雑化を目論んでいるのかもしれない。

 

「────ゲホッ!」

 

 物陰で咳き込んだ柱間は赤い手を拭い、部下の元へ向かった。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

「────というのが、上からの令だ」

 

 今回は呪詛師と抗争になる上、非術師から命を奪われる可能性もある。

 

「俺たちは、呪霊から民を守っているのに…か」

 

「…お前たちにはいつも、労をかけている。此度の任を降りたい者は、オレが責任を持って許可する」

 

 ただでさえオレが原因で、仲間には迷惑をかけることになる。

 

「それに、オレが信用ならない者もいるだろう」

 

 呪詛師とオレが繋がっている事実は、上に話したとおりない。だが疑われているオレの話を信じろ、というのは難しいだろう。それでも、中には信じてくれるやつはいる。

 

「甚だ、見当違いなことをおっしゃりますね、柱間様」

 

 仲間の一人がそう言った。

 

 

「私たちは皆、貴方様を信じておりますよ」

 

 

 そうだそうだ、と言わんばかりに周囲が頷く。中には「っま、俺が一番信頼してるのは(コメ)だけどな」と言っている者もいる。

 

「実際に私たちは貴方様がこれまでどれだけ人を想っていたのか、この目で見てきたのですから」

 

「柱間様が号泣しちゃったじゃん、どうすんのよ」

 

「ほっときゃあ、すぐに回復するだろ」

 

 あぁ────あぁ。本当に、良い仲間を持った。オレは本当に恵まれている。

 こいつらのことも、天元や民たちのことも守りたい。そして帰って、今は天元のもとに預けている──あの腹黒娘とつつがない日常を送りたい。

 

「一つ、約束してくれ」

 

 上のやつらと話している時に感じた、オレへの明確な視線。それは、見慣れてしまった悪意だ。これまでも感じていたものだが、今回はなぜか、その中に()()()()ものがあった。そしてさらに、そいつらの「発言」に妙な引っかかりを覚えた。

 

 仮にオレの仲間を利用したいと考えているなら、ただでは済まさない。

 しかし争いはなるべく避けたい。上を潰せば、その余波は大きな荒波となり、民たちに向かう。

 

 

「オレに万が一があった時は、上に一辺倒に従うな。上の権力争いにお前たちが利用されては、たまったものではない」

 

 

 オレがそう言うと、神妙な面持ちでみな頷いた。

 

 オレでは、自分の力以外でお前たちを守り通す方法が思いつかない。だからこそ、仲間を信頼して物事の趨勢を見極めてもらいたい。

 

 すまないな、と謝ると、こぞって背中を叩かれた。

 

「柱間様が亡くなるとは想像できませんが…心ン中に置いておきますよ」

 

「では、参りましょう」

 

 呪詛師退治の幕開けだった。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 呪詛師と呪術師の争い。そこに、これまでに人々の溜まった術師への不安や恐怖が爆発する。

 

 人を容易く殺せてしまうその力。実際に人々は呪詛師にあっけなく殺された。

 

 

 ────呪術師は人々を守ろうとしているらしい。しかしその呪術師の頭領をあがめる呪詛師が、自分たちを攻撃している。

 

 ────そもそも、その頭領は呪詛師と繋がっているのではないか? ならばやはり、呪術師たちも信用できない。そんな呪術師たちを抱える政府もまた、信用ならない。

 

 ────そもそも政府は呪霊の被害(神のおしかり)を利用し、魔のものたちの仕業だと言い張っているだけではないのか? そうして術師という“力”をちらつかせ、自分たちの思い通りに民を支配しようとしているのではないのか。

 

 

 さまざまな意見が市井で飛び交う。

 

 

 ────天元様はこうなることを見据え、非術師(われわれ)()()()()に、術師へ道徳を説いていなさったのかもしれない。

 

 ────呪詛師(奴ら)が天元様の御命を狙っていると聞いた。よもや不老不死の力を求め、天元様を狙っているのではないか? 

 

 ────天元様に祈りを捧げろ! さすれば必ず我々は……。

 

 ────天元様は「偽りの神」ではない! 「偽りの神」は奴らが崇拝する神の方だ!! 

 

 

 そして同時に、天元への信仰心と歪んだ思想が、彼女を崇拝する者たちの間で高まっていった。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

「柱間様!!」

 

 呪詛師とのイタチごっこが続く中、呪術師の女が血相を変えて柱間の元に訪れた。女は体のいたるところを負傷し、血を流している。

 

「あ、相方と共に呪詛師一名の首を討ち取った後………」

 

 呪術師の女とその仲間は、呪詛師を倒しひと息ついたところを背後から襲われたらしい。相手は農具を持った非術師だった。彼らは目に涙を溜めてこう言った。

 

『お前らの争いのせいで、俺たちの家族が死んだんだッ!!』

 

 頭を農具でかち割られた呪術師は即死した。そして──呪いに転じてしまった。

 話を聞いた柱間は、まっすぐに呪術師の女を見つめた。その体はいっそあわれなほど震えている。

 

「本当は……本当は倒さなければならないと分かっていたのに…わ、私はッ………私は……!!」

 

 今回の件で、呪術師たちは非術師に殺される可能性を把握していた。その際に起こりうる「リスク」も、把握していた。呪術師の女もその覚悟をしていたはずだった。しかし、己が手で呪霊(なかま)を殺せなかった。

 

「泣いている場合ではない。場所を教えよ」

 

「……ッ! 申し訳、ありません…」

 

 場所を聞いた柱間は、すぐに手当てを受けるように言う。そして外へ飛び出る間際、仲間の女の肩に手を置いた。

 

 

「オレがお前の分まで、()()()。今は休め」

 

 

 柱間の背を見送った女はその場に崩れ落ち、泣いた。

 仲間の死に泣き、自分の心の弱さに泣き、尊敬する男の優しさに泣いた。

 

 

 

 結果として、呪霊化した呪術師は退治され、その亡き骸が回収された。

 

 術師は呪力以外で殺された場合、呪霊になることがある。その例は『呪術師』というものができる前から確認されている。

 

 不安定な土壌で建てられた『呪術師』というものは、それこそまだ作られるのが早かった。早すぎた。

 さまざまな意図が絡み合い、矢面に立たされた呪術師たちは疲弊して行った。

 

 

 

 

 

 そして、呪詛師が非術師を殺し始めてから約半年後。

 

 此度の件に関わった大多数の呪詛師が捕獲・処刑された。その処刑は術師が担当した。それ以外の呪詛師は状況が不利だとわかると、尻尾をまいて逃げ出した。

 

 拷問を受けた呪詛師の発言により、上層部で彼らに関与していた者たちの名が挙げられている。その者たちもまた国に仇なしたとして、処刑された。

 

 呪術師側にも死傷者が出た。それでも東奔西走した柱間の活躍により、被害を押さえられた。

 

 

 ────ある者は見た。呪詛師をその圧倒的な力で、圧殺する姿を。

 

 ────また、ある者は見た。その力で民たちを守り、黒い羽織をたなびかせた姿を。

 

 ────また、ある者は見た。死体の側で、静かに涙を流していたその姿を。

 

 

 呪詛師たちは、“優しい”柱間をとことん追い込む気だった。純粋な力では勝てないからこそ、精神的に追い込んでいく。そこで作り上げた隙を突き、殺す算段で。

 

 だが、彼らは甘く見ていたのだ。その柱間という男の、とことん過ぎる優しさ(甘さ)を。その甘さに影響された呪術師たちもまた、甘かった。

 

 その姿を目の当たりにしていった民たちは、次第に意識を変えていったのだ。

 

 

 世にはようやく、平穏が戻ろうとしていた。

 

 

 

 

 


 

 

「殺すね」

 

「一旦話し合おう?」

 

 

 そして柱間は、約半年ぶりに会った羂索に殺害予告をされることになる。

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