フルフルニィ………「誰!?柱間って誰なのォ!!?」   作:アンディライリーのうさぎ

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二章執筆完了につき、週1で投稿を再開してまいります。


二章
17話 フルフルニィの呪い


「前世」と呼ぶべき記憶を、オレは唐突に思い出した。農作業をする父親の側で駆け回っていた際、オレは茂みから飛び出てきたイノシシに突進された。その直後、視界が光に包まれた。

 

 

『待っていたぞォー!! 柱間ァァァ────!!!』

 

 

 ────いや、『柱間』って誰やねん。

 

 オレは死にかけながらそう思った。

 

 

 

 幸いにもオレは一命を取り留めた。犯人ならぬ、犯獣のイノシシはキレた大人たちによって退治され、美味しくいただかれた。

 

 しかし命は助かったものの、イノシシとぶつかった右腕が複雑に折れてしまったようで、動かすことができなくなった。「まだ小さいのに可哀想に…」と言われる。オレは今、4歳だった。

 

(『柱間』って、誰なんだ…?)

 

 あのビジュアル系バンドマンのような男もいったい何者なんだ……いやいや、ビジュアル系バンドマンって何だ? 

 自分の知らないはずの名称が出てくることも実に奇妙なことだった。

 

 何だろうな。一気に自我が育ってしまった気がする。

 

 また、この衝突事故以来に、他にも変化があった。

 

 黒い異形──のようなものは(思い出せる記憶のかぎりで)元から見えていたが、不思議な力を感じるようになったのだ。

 この力が何なのか色々と試しているうちに、ヒューンヒョイ、とやった時にオレの右腕が治った。

 

「ハ?」

 

 腕をブンブンと動かしてみても、普通に動かせる。ただし疲労感が一気に来た。

 4歳がこの瞼も開けていられないような睡魔に勝てるわけもなく、午睡した。

 

 

 それから腕の治ったオレに両親は驚いた。まぁ当たり前と言っちゃ、当たり前の反応だ。オレにも原理が理解できていない。

 不気味がられるかと思ったが、二人は抱きしめてくれた。

 

「………っ」

 

 その体温が温かいせいで、オレの目が熱くなった。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 この「治す」力を、両親のために使いたい。そう思ったのは、不思議な力を使えるオレを二人が受け入れてくれたからだろう。それに報いたいと思った。

 

 自分にこの回復の力をかけるのは簡単なんだが、他人に使うと一気に難しくなる。ここは練習するしかない。他にも、自分の癖なのか、治す力を使う時に『気』のようなものを必要以上に使ってしまう。「10」で足りるところを、「100」も送ってしまうような──言うなれば、無駄が多い。

 

「この無駄をまず無くさないとな…」

 

 ケガをして、治療して、またケガをして────。『気』が尽きそうになったら気絶したように寝る。

 そんなことを繰り返していると、両親に抱きしめられて、「もう自分を傷つけるのはやめてくれ…!!」と言われてしまった。

 

 心配をかけたいわけじゃなかった。反省したオレは、両親の目が届かないところで自傷と治療を繰り返した。

 

 その成果は半年ほどで明確に現れた。以前よりも、「治す」力を使う際に消費する『気』が格段に減ったのだ。

 前世の記憶は謎の“フルフルニィ”しかない。しかし「子どもの学習能力ってスゲー!」と年寄りくさい考えが思い浮かぶのは、前世のオレがそこそこ長生きしたからかもしれない。

 

 ひとまず、さらに『気』の消費量や回復速度を効率化させるため、【自傷→治癒】は今後も進めていく。

 次は他人にこの「回復」の力を使えるように練習していく。まずこの練習台になってもらったのが獣だ。小さいオレでも捕まえられる小動物を選び、傷をつけて試した。

 

「う〜ん……難しいな」

 

 さすがにはじめからできるとは思っちゃいない。動物の方は解体して、いただくことにした。

 

(……あれ、何でオレ動物の解体の(バラし)方なんて知ってるんだ?)

 

 前世のオレは猟師だったのかもしれない。自分や獣の血を見ても平気だったしな。だったら、イノシシに襲われたのは何かの縁だったのか…? 

 まぁ考えてもわからないことは仕方ない。今オレにできることをするまでだ。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 オレが動物への治療を成功させている間に、五つ下の妹が生まれた。すでに走ることもできる。「(たけ)」の下に「()」がつく妹はいつも元気だ。オレの後をよくついて回る。可愛らしい娘だった。

 

「にーたま!」

 

「グハッッ」

 

 妹に抱きつかれたオレは死んだ。享年8歳だった。

 

 

 それから数分後に息を吹き返したオレは、父親の手伝いに向かった。畑仕事である。

 

 家の手伝いや、妹の世話をし、その合間にこっそりと訓練を重ねていく。動物への「治癒」はもう十分にできるようになった。次は人に試したいのだが、どうもおっかない。何だか悲惨なことになってしまいそうな気がする。

 

 悩んでいた折、火がつくように泣く妹の泣き声が聞こえた。石に転んで足を擦りむいてしまったらしい。

 

「竹子!!」

 

 抱えていた躊躇の念も妹の涙を前にして吹っ飛び、傷に手を当てた。すると、すりむいた傷が瞬く間に消えていく。妹は口を開いてポカンとしていた。

 

「にーたましゅごい!」

 

 オレは他者への治療が上手くいったことによる安堵と、妹の涙が笑顔に変わったことで肩の力が抜けた。

 その後、この件は両親にも知れることになった。妹がたどたどしい口で傷のあった場所を見せながら、話したからだ。

 

「……お前はその力をどう使う気なんだ?」

 

 父はまっすぐにオレを見た。オレは最初、この力を両親のために使いたいと思った。傷だらけの手を、いつも見ていたから。オレたちを養おうと、いつも懸命に働いている。

 

「オレは……」

 

 本当に両親や妹のために使うとしたら、ただ“使う”だけでいいのだろうか? オレたちがお目にかかれないようなお貴族様とは違って、人々の暮らしは貧しい。

 この力を利用すれば、雑穀粥ではなく、毎食米を食べられるかもしれない。飢えに苦しむこともなくなる。

 

 だがその分、リスクも生じる。この世は善人ばかりではないのだと、なぜか分かるんだ。8歳のガキが何を言っているのかと思われるだろうが。

 

「………まだ、分かりません」

 

 父はオレの肩に手を置き、「お前の出した選択なら、私たちは肯定するよ」と言ってくれた。

 

 本に、良い父と母に恵まれたと思わずにはいられない。

 

 

 

 それから月日が流れ、オレが10歳になった頃。母の腹がまた大きくなった。今度は弟だろうか? それとも二人目の妹だろうか? 妹とソワソワするオレを見て、母はクスクス笑った。

 

「オレは弟がいいな…」

 

「竹子はねぇ、妹がいい!」

 

 母曰く、付ける名前はすでに決まっているそうだ。もし女の子だったら、竹子のように「子」を付けるらしい。名前の法則に気づいたオレに対し、妹は「教えてよー!」とごねていた。

 

 幸せな毎日だった。どこまでも穏やかで、オレは時折、ここが夢の中なんじゃないかと思ってしまう。

 

 広い背中の父に、優しい母。それと元気で愛らしい妹。

 

 そこにオレもいるはずであるのに、とても息がしにくくなる。そんな時ふと自分の手を見てみると、白い肌がある。雪のよく降る地域で育ったという母とよく似た色だった。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 母の腹の中にいる赤ん坊が生まれてくる前に、妹が病にかかった。生命に溢れていた体がみるみるうちに痩せ細っていく。オレは何度も「回復」の力を使った。それにも関わらず、妹の病状は悪化していくばかり。

 

 オレの身につけた力は病の前で役立たずだった。家族のために磨いた力のはずだったのに。

 

「兄さま…泣かないで」

 

 骨と皮しかなくなってしまった小さな体。どうして仏は妹の命を奪おうとしているのだろうか? この幼子が前世でこのような死に方をする悪因を成したとでもいうのだろうか? 

 

 だったら、その悪果を甘んじてオレが受けるというのに。

 

「竹子は……ね、兄さまが…私の兄さまで、よかったよ」

 

 その数日後、妹は(はかな)くなった。

 

 

 

 

 

 妹が死んで、時が変わらず流れていく。枯れるほど泣いた両親に対し、オレの目から涙が流れることはなかった。重たい感情が腹の底に沈んでいる。

 

 あるいはオレがこの力を利用して、家族を裕福にしていたら妹は病気にかかっても死ななかったかもしれない。そう思うと、過去の自分を殺したくなる。

 

 メシを食う気力も無くなり、日増しに自分の体も妹のように細くなっていった。オレの栄養が、妹の栄養になっている気がする。もしそうなら、それはとても喜ばしいことのように思える。

 

 

「来なさい」

 

 

 ぼんやりと外を眺めていたら、母にそう言われた。腕を引いた母はオレを座らせ、その隣に自分も座る。そして膨れた腹にオレの手を触れさせた。反射的に引っ込めようとしたが、それを許さんとばかりに強く握られる。痛いほどだった。

 

「やめてください、母様」

 

「やめません」

 

「やめてくださいと、オレは申し上げています」

 

「やめませんよ」

 

「お願い、ですから……っ!!」

 

 母よ、オレの手は真っ赤なんだ。雪のように白いのに、オレには真っ赤に見えてしょうがないんだ。真っ赤に見えるのはきっと前世のオレが真っ赤になるほど自分の手を汚したに違いないんだ。だから、そんな大罪を成したオレを苦しめる目的で──オレの妹は死んだに違いないんだ。

 

 ────オレが死んでいれば、よかったんだ。

 

 

「聞こえるでしょう?」

 

 

 母がオレの耳に自分の腹が当たるように抱きしめる。音がした。母の脈の音だ。

 ただ、それだけじゃなかった。

 

「この子がね、早くあなたに会いたいと大暴れしているのよ」

 

「………っ゛」

 

「あなたは何も悪くないのよ。竹子(あの子)もあなたが兄であることを誇りに思っていたでしょう?」

 

「う、ううっ……」

 

「この子もきっと、あなたを誇りに思うわ」

 

 母がオレの頭を撫でた。久しぶりに撫でてもらった。いつも母の膝で甘えるように頭を撫でられていた妹とは違い、オレは妙な気恥ずかしさがあった。だからいつも撫でようとする母から逃げていた。

 

 弟か、妹かまだわからない暴れん坊は、母の腹を中から蹴っている。

 

 その音を聞いているうちに妹が死んでから堰き止めていたものが一気に崩れ、涙が溢れた。

 それからどれだけ泣いたかわからない。最後は泣き疲れて寝てしまったようで、気づいたら翌朝になっていた。

 

 顔を洗おうと川を覗き込んだときに映った自分の顔は、すっかり腫れぼったくなっていた。

 

「………よしっ!」

 

 顔を洗い、自分の頬を思いきり叩く。

 

 オレは大切な者たちのために、今できる最善を尽くせるよう努力しよう。

 

 

 それがオレ────、『裏松(りしょう)』の願いである。

 

 


 

 ・フルフルニィ

 前世の記憶を忘れようと、絶対に消えることのない「フルフルニィ(呪い)」。来世のそのまた来世もストーカーし続ける。女に特攻される原因かもしれない。

 

 ・反転術式

 以前はクソほど多い呪力と出力のせいでまったく他人に使えなかった。ゼリーの容器に、浴槽を持ち上げてその水をきっちり入れようとする感じ。その高出力の反転術式に柱間自身の体が耐えられているのは、柱間細胞だから(柱間細胞イズ何?)

 現在は自傷と治療の繰り返しで、練度が格段に上がった。

 

 ・「転生者」

 文字どおりの転生者。転生者=柱間(主人公)

 

 ・裏松(りしょう)

 はじめは「松」に「陽」で、「松陽」にしようかな、なんて考えてスリップ事故を起こした。

 

 ・主人公

 自分の命に価値はないのだと、刻まれている。

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