フルフルニィ………「誰!?柱間って誰なのォ!!?」 作:アンディライリーのうさぎ
突如として現れた『六眼』持ちの赤子。術式とは異なるその特異体質は、非常にレアケースだった。
一族の期待を一身に背負うことになった菅原の君。六眼による疲労に悩まされながらも、彼は努力を続けた。
ただでさえ未知の領域である『六眼』と、じゃじゃ馬な術式。力の研鑽を続けてはいるが、大きな壁が存在する。それこそ術式を“反転”させる領域である。負のエネルギーを正のエネルギーに変換させるところで、長年行き詰まっている。
そして、この平安の時代。強力な力を持ち、努力を続ける菅原の君でもまだ最強には及ばない。魔窟だった。
そこがまた、
そんな菅原の君がまだ10代だった頃、自分の目の秘密を知ることになったきっかけがある。それが「因果」なるものであった。
詳しい詳細を話すことは、同じ一族の者であっても許されていない。この「因果」の話を知る者は今のところ、菅原の君と、『天元様の器』と呼ばれた少女のみ。
(天元だって…?)
その名前を知っている者は多い。ただ、その名前を口にする場合は「天元
その天元が間接的な方法で菅原の君に、「話しておくべきことがある」と接触をはかった。
天元はそもそも表舞台に一切出てこない。『不死』の術式を持つという話の信ぴょう性も定かでない。というかそもそも、本当に生きているかもわからない。
(行ってみるか)
本当に目の秘密が知れるのなら、知るに越したことはない。同時に菅原の君は「最強」と謳われた男について尋ねてみたかった。「最強があっけなく死ぬわけないだろ」と思うその心は、ヒーローにあこがれを抱く子どものような、純朴な気持ちからくる。
すなわち、菅原の君は柱間という男に憧憬を抱いていた。幼少期、書物を読んで「
そして、某日某所。菅原の君は『器』の少女とともに特殊な場所で天元と相見えることになった。側には白い着物を身に纏った者が一名控えている。着物の後ろには、菅原の君も覚えのある模様が描かれている。六眼に映るその無駄のない呪力の流れから、その者が“強者”であると分かる。
一方で、器の少女は緊張した様子だった。
肝心の天元は、二人が待たされる部屋に出現した障子を開いて現れた。障子の奥は白い空間に包まれており、中は見えない。菅原の君は興味本位で目を凝らしてみたが、特に何も分からなかった。あの空間は外部とシャットアウトされているらしい。
天元の歳は見積もっても20代ほどだ。見目もまた美しく、どこか超然とした雰囲気を漂わせる。
ただ、天元は肩に白い羽織を引っかけただけのほぼ全裸だった。
「はぁ?」
「ぬっ、ぬわぁー!? ち、乳が見えとるゥ──ッ!!!」
天元は控えている者に「天元様、衣服が」と言われ、首を傾げた。それから自分の姿を見た。目が起きたばかりのように、ぼんやりとしている。控えの者が手を貸し、天元の着物が直された。
(ボケた年寄りの世話みてぇだな……)
介護された天元が二人の前に座る。その背後に控えの者がいる。
「『六眼』の君と、『器』の君よ。其方たちには“知る”権利がある」
「……そもそも、教える前提で俺たちを招いたのではないのか?」
「其方たちが求めるならば私は話し、求めぬならば話さない──という話だ」
この話を言い換えれば、『六眼』と天元の『器』でないのならば、話を聞く権利さえないということになる。二人だけに与えられた資格というわけだ。そんな(極秘と思われる)話を、天元はなぜ持ち出すのか。
「
天元はそう言った。天元の差した「それ」は、持った者にしか分からない人生の山や谷を指しているかのようでもある。
器の少女は「知りたいです」と答えた。菅原の君もまた、頷いた。
「では、話そう」
こうして二人は、天元と「因果」で結ばれた六眼と器の意味について知ることになる。
◆◆◆
本来は天元の老化を防ぐために、因果によって繋がる六眼の者が『器』の守護者となり、天元のもとに向かうことになる。だが天元の老化そのものがなぜか起こっていない。しかし本来であれば、今の時期に天元の肉体をリセットする必要があると。
「六眼持ちの俺と『器』が現れたということは、その因果は消えたわけではないのか」
「あぁ、私は不老になったわけではないからな」
「………じゃ、じゃあなぜ天元様は、そのっ…お美しいままでいらっしゃるのですか?」
「それは其方たちに話すことではない」
「いや、話すべきことだろ。手前の老化によって因果がもたらされるというのなら。普通だったら数百年も生きちゃあ、ヨボヨボを通り越して歩く木乃伊になって然るべきだ」
菅原の君は六眼の目で天元を見据えた。
「それは私が「ババア」だと言いたいのかな?」
「女性に年齢を持ち出すなんて失礼であるぞ! この図体デカ男ッ!!」
「それを言うなら娘、お前だって言ってただろ。お美しいとかどうとか」
「わ、我は美貌の秘訣を知りとうなっただけじゃ!」
結果として、若人二人の言い争いが始まった。席を立った天元はその場を後にしようとする。
「ちょ、待てよ」と思わず菅原の君の伸ばした手が、結界に阻まれた。
「私は帰る。その者たちを送り届けておくように」
天元の言葉に、控えの者は頭を下げた。
この機会を逃せば、天元と話す機会は二度となくなる。菅原の君が聞きたいことは決まっていた。
「なぁ、天元。柱間様がもし現代に生きていたら、「最強」をほしいままにしていたと思うか?」
立ち止まった天元が振り返る。蒼い瞳には憧憬の星々が輝いている。湖に投じられた一石の如く、天元の中で波紋が生じる。それがさざなみとなった。
「あやつは……愚かしいほどに、誰にでも優しい男であった」
天元はポツポツと、どこか遠くを見ながら柱間という男について語る。その言葉の一つ一つを、菅原の君は食い入るように聞いた。
「あやつより呪力で優る術師はまだ見たことがない。今後現れるかどうかも分からぬ。お前の目でもし見ていたらどうなったか、少し興味はある」
最強になっていたかどうかは分からない──と天元は語った。なぜなら力が「最強」であったとしても、致命的に甘い人間だったからだ。
「いや……違う。あやつが生きるにはこの世があまりにも、穢れておったのだ」
天元の目から光が消えた。
「この穢れし現に、我が身を晒し続ける私はいったい、何なのだろうな……」
「天元様!」
ふらついた天元の肩を、控えの者が支えた。抱えられた彼女はそのまま、障子の奥へ消えていく。それから間もなくして控えの者が戻り、障子が消えていった。
「天元様は、柱間殿を愛しておったのだろうな」
帰り際、器の少女は菅原の君にそう言った。
「確かに重たい感じはしたな」
「我は天元様が現に関与しなくなったというその理由が分かったぞ」
天元はもう何百年も引きこもっている。不死であるはずの彼女に死亡説が出るほどには。
ただし天元は、間接的に現代の結界術に貢献している。それが呪力を流せば、誰でも『帳』を発動できる術札などが例に挙げられる。
そして、それを開発したのは────。
天元の子孫である、『千手一族』と呼ばれる者たちだった。彼らが現代の結界術の中枢を担っている。今回天元の側に控えていた者も、千手一族の者だった。
(天元は語ろうとしなかったが、やつが歳をとっていないのはおそらく……)
六眼で感じた、
それを見た時、菅原の君は背筋に寒気が走ったのを感じた。ただ、混ざり合うそれに恐怖したのではない。
菅原の君は天元という女に、本能的な恐ろしさを感じたのである。
◆◆◆
一糸纏わぬ姿の天元は、頭のない肉体を抱きしめ、その胸元に頬をすり寄せた。
「愛しているよ、柱間」
・『千手一族』
天元を祖とする一族。結界術に長けている者が多い。都に張っている大規模な結界も担っている。効果は呪霊の発生の抑制など。
・帳用の術札
千手一族が開発したもの。
・因果
天元の老化が止まっているだけで断ち切られたわけではないため、六眼や器は現れる。
・器の少女
ラブストーリーは突然に。
・天元
現にほぼ関わっていない。部屋の中では大体全裸。
・柱間の肉体
コロンビアポーズした良性細胞。