フルフルニィ………「誰!?柱間って誰なのォ!!?」   作:アンディライリーのうさぎ

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目が何だかゴロゴロすると思ったら、髪の毛がスゥーーッと出てきた恐怖。意外と取る時痛くないもんやね。


23話 出会ったらおしまい

 村全体がぬかるみ、鼻がもげるような腐敗臭が立ち込めている。大量の蝿も飛び交っていた。

 

 そんな地獄のような場所に、菅原の君は訪れていた。発見された時にはすでに村人は全員死亡。菅原家の手の者も巻き込まれ、死亡していた。

 

「残穢がわずかだがまだ残っている……それも、いたるところに」

 

 その呪力を菅原の君は見たことがあった。該当する家に向かい遺体の数を確認したが、一人分足りない。

 六眼の疲労とは別の件で頭を押さえた菅原の君は、深く息を吐く。

 

「裏松を縛ってきたのは正解だったか…」

 

 

 

 

 

 ────遡ること昨日の夜。裏松の故郷である村が全滅した、という凶報が菅原家に伝えられた。別件で出ていた菅原の君と、その彼に侍っていた裏松は、ちょうど帰ってきたところでその報せを知ることになった。

 

 

「……もう一度言ってくれ」

 

 

 そう聞き直した裏松は、報告した者が息を詰まらすほどの静かな圧を放っていた。

 

 冷静な判断を下せる状況ではない。そう判断した菅原の君は、残るように言った。彼は裏松という男の精神的な危うさを知っている。自己の犠牲を「犠牲」とは呼ばない、その精神性を。

 

「これは命令だ、裏松」

 

「なぜオレを止める」

 

「村を壊滅させた呪霊──または呪師の仕業であれば、お前の手に負える相手ではない可能性が高いからだ」

 

 裏松が研鑽を続け、菅原家が抱える術師の中でも上に食い込む実力をつけたのは認めよう。しかしそれでも、まだ菅原の君には及ばない。生まれ持った才能の差で、この壁は一生埋まらないかもしれない。

 

「オレを止めるならば、主君のお前だろうと容赦はせんぞ」

 

「言葉が足りなかったようだな。足手まといは来るなと言っているんだ」

 

「なら、オレを殺してから行け!!」

 

 菅原の君は振るわれる短剣に報告した者が巻き込まれないよう、中庭へ移動した。

 

 こうして裏松と手合わせをするのは久しぶりだった。纏う呪力の練度も上がり、呪力効率も格段に上がっている。

 

 しかしてやはり、どれだけ戦いの技術を磨こうとも、無下限の前では届かない。腹を蹴られ、吹っ飛んだ裏松の体は壁に勢いよくぶつかった。土埃が舞う。突然の騒ぎに、夜だというのに寝ぼけ眼のギャラリーも集まり始めていた。

 

「認めよう、裏松。手前は強くなった。しかし“才能”とは平等ではないのだ」

 

「ゲ、ホッ……!」

 

 まっすぐな黒い目が、菅原の君に向けられた。裏松は短剣から大剣に持ち替える。それを支えにして起き上がった。

 

「オレは大切な者たちのために、今できるオレの最善を尽くせるよう努力してきたんだ……」

 

 だというのに、手のひらから簡単にこぼれ落ちてしまう。

 

「ここで行かなければオレは、死んだ後に家族に見せる顔がない」

 

 どうして()()()、自分は酸素を求めて喘ぐ魚のように、地獄の淵へ蹴り飛ばされるのか。

 

 裏松は菅原の君に肉迫した。向ける先のない激情が大剣とともに弾かれる。菅原の君の手が迫った。おそらくは次の一手で意識を奪われる。そうすれば次目覚めた時は、すべてが終わっている。そんなこと許せるはずがない。しかし何より許せないのは、無力な自分である。

 

 土壇場で、裏松は拳を出した。今まで一度も殴れたことのないその顔に向かって、自分の全神経を研ぎ澄ませる。当たらないのなら、()()()()()()()()──と。

 

 

「「────ッ!?」」

 

 

 無下限の先に拳が届いた。その事実に菅原の君だけでなく、裏松までも驚く。このまま、あともう一歩踏み出せば、菅原の君の顔に拳が届く。だが、身長によるリーチの違いが勝敗を分けた。

 

「ガッ……!!」

 

 裏松は額に掌底を打ち込まれ、脳を揺すられた。その衝撃で意識を失い、その場に倒れる。

 

 一筋の汗を流す菅原の君は、起きた現象に度肝を抜かれつつ、「ハハ…」と笑った。

 

「あなや…お前には驚かされる……。まぁ、負けは負けだ。今は寝ていろ」

 

 菅原の君はついでに、逃げられないように呪力を封じた上で縛っておくように命じた。この主君さえ本気で殴りかかってきたこの男が、理性的な判断を下せるわけがないと改めて認識させられた。術師とはどんな状況であろうと、冷静さを欠いてはならない。負の感情も、子どもの癇癪のようにコントロールしては意味がないのだ。

 

「うら、うめ…」

 

 気絶している裏松の目尻から、一筋の涙がこぼれた。

 

 

 

 

 

 ──それから。氷と残穢を頼りに、菅原の君を主体として術式の暴走を起こしたとされる裏松の弟が捜索されることになった。

 

 その彼らは出会うことになる。現代の最強と謳われる、一人の男に。

 

 

 

 菅原家筆頭呪術師を含め、ほか数名の術師がこの日命を落とした。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 菅原の君を除いた術師の遺体は、どれがどの肉が分からぬほど細切りにされていた。一方で、菅原の君の遺体は複数のパーツに分かれていた。六眼の目については菅原家が回収した。

 

 火葬は一晩かけて行われた。どんよりとした空気が漂っている。

 

「………」

 

 裏松は屋根の上で寝転がり、雲のかかった夜空を眺めていた。

 

 村で起こったとされる氷結は、唯一遺体のなかった裏梅が原因だとされている。状況から見て故意によるものではなく、術式が制御不能のまま引き起こしてしまった事件だと判断された。

 

 そして、その裏梅を捜索しに行ったはずの菅原の君たちが待てども帰還せず、再度調査隊を送ったところで、バラバラになった遺体が発見されたという次第だ。遺体の特徴から、両面宿儺に遭遇してしまったと推測される。

 

 

「なんも……考えらんねぇ…」

 

 

 ほんのわずかな期間で、裏梅以外の大切な人間がすべて死んだ。その裏梅も行方知れずとなっている。

 

 両親や村の人間を殺してしまい、今恐怖と不安で震えているかもしれない弟の元へ行かなければならない。頭では分かっている。しかし、体が鉛のように重たい。

 

 不意にそのとき、下から怒声と聞き間違えるほどの大声が聞こえた。

 

「こんな時こそ、メシを食べて元気を出さぬかァ──ッ!!!」

 

 そう言い、一人一人におにぎりを渡しているのは菅原の君の正妻だ。屋根上にいた裏松と目があった瞬間、「そこの者!! 降りてくるのじゃ!!」と叫ぶ。裏松は渋々と降り、おにぎりを受け取った。塩味だった。

 

「どうじゃ、我お手製のおにぎりは!」

 

「……菅原殿が亡くなられて、なぜ貴女は平気なのですか」

 

「バカを言え! 術師など、いつ死んでもおかしくない仕事じゃろう! それに、我には守るべき菅原家(いえ)と子がおる」

 

 そうまっすぐに裏松を見て話す正妻の口元は、かすかに震えていた。彼女は「そこのうぬもじゃ!」と、またおにぎりを配り始める。

 

 裏松は己の手を強く握る。きっと自分があの時菅原の君の頬に拳を入れられたとして、そうして同行できたとしても、彼は死んでいただろう。

 

(あぁ、オレは弱いな。裏梅……)

 

 両面宿儺がいた位置を考えれば、弟も殺されてしまったと考えるのが妥当だ。最悪、宿儺の腹の中──というのも考えられる。両面宿儺が人の肉を食らうのは有名な話だ。

 

(オレがこの仇を返すには、宿儺にはとうてい及ばない。もっと力がいる──)

 

 この夜、裏松は決めた。自分を魔道に堕としてでも、菅原の君と裏梅を殺した両面宿儺に報復すると。

 

 

 

 術式反転を用い、『呪力を吸い取る』力を行使するようになった裏松の肉体に、変化が起こり始めた。髪が黒く染まり始めたのだ。吸い取った呪力は、自分の呪力を溜めている場所とは別にストックされる。満タンになると、黒の星が額の白星の下に現れる。

 

 雰囲気も棘つき、冷えた目をするようになった。笑顔もまた、浮かべることがなくなった。しかして目の前で泣く者がいると、手を貸してしまうことだけは変わらなかった。

 

 裏松はより一層己の力を磨いた。

 

 20代に入る頃には、『生得領域』を結界の中に作り出すことに成功した。しかしそこに術式の効果を付与することが一向にできない。絶対にはまらないパズルを、無理やり組み込もうとしている気がする。

 

 そうして試行錯誤を繰り返しているうちに、ある時気づいた。自分にその領域を纏わせた時に、術式による攻撃を中和できる作用があると。詳しい原理まではわからなかったが、これが菅原の君の無下限を破った正体だと明らかになった。

 

 しかし威力の高い攻撃は防ぎきれない。おまけに呪力と、集中する上で精神力を持っていかれる。これを使うなら、そこは見極めねばならない。

 

 

 やがて気づけば裏松は、菅原家の精鋭の一人として、その名を知られるようになる。

 

 だが同時に、彼は知ることになった。

 

 両面宿儺の専属料理人であるという────『裏梅』という名前を。

 

 運命とはどうも、裏松を蹴り飛ばすことに愉悦を見出しているらしい。

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