フルフルニィ………「誰!?柱間って誰なのォ!!?」   作:アンディライリーのうさぎ

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25話 理想郷にはほど遠い

 はたして人の魂は(めぐ)るのか。まずそれが羂索の行き当たった問題だった。

 

 そもそも人の魂とは何なのか。これを追求していくと、術式や肉体の疑問にも行き当たる。

 

 羂索は自分の肉体を捨て、死体に乗り移るうちにいくつかの知見を得た。

 

 人間の記憶は本来脳に保管されているはずだが、羂索は脳がないはずの肉体から、その人間の記憶を読み取ることができた。それどころかその者が生得術式を持っていた場合、その術式を扱うことができた。

 

 つまり術式や人間の記憶は、肉体にも刻まれる──ということだった。(実際、肉体どころか武器に術式が刻まれた例もある)さらに言えば、魂の情報も肉体に記録される。

 

「人間って、面白いなぁ」

 

 というのが、羂索の感想だった。

 

 

 

 さて、問題は魂が廻るか否かだ。

 

 羂索は人の肉体を乗っ取りその者の情報に触れているせいか、ぼんやりとだが人の『魂』を知覚できるようになった。この力があれば、柱間の魂を見つけることができる。ただ、肝心のその魂の形を彼女は知らない。知る前に柱間が亡くなってしまったためだ。

 

(魂は……廻る、か)

 

 その答えを得たのは、見覚えのある魂がまったくの別人となって羂索の前に現れた時だった。もちろん魂のそっくりさんの可能性もあった。しかし他にもいくつか似た経験をしたことで、「魂は廻る説」が有力なものになった。

 

 

 

 次なる問題は、形の知らない柱間の魂をどう発見するかだ。

 

 ちなみにこれらの疑問を調べていく間、別の事にも着手していた。柱間の右腕の解析である。厄介なモノであるとは自覚していたので、この解析はこれまで後回しにしていた。

 

 本人から切り離されても、柱間の右腕は何年、何十年と経っても腐らなかった。やっぱ人間じゃねぇだろ、と羂索は思った。

 

 ならば、この腕は呪物になっているのか。

 ──ちなみにこの『呪物』の作り方は、羂索がアレコレと調べていくうちに作成方法を発見した。

 

 

「きっっしょ」

 

 

 いや、呪物ではない。なぜなら肉体が()()()いるからだ。正確には細胞が生きているのだが、まだ羂索には「細胞」の概念がない。だからこそ、訳がわからなくなっている。第一、栄養もなしにどうやって生き続けているのかがわからない。

 

「何度見てもおかしい。柱間は死んだはずなのに、なぜ肉体は生きてるんだ。本ッ当に何なんだ」

 

 腕は植物化はしていない。植物化は元々、柱間本人の命が危険に陥った際に肉体が起こした変化だった。この時点でまぁ、ぶっ飛んでいる。

 

 それが起きなかったのは、その肉体が変化することができなかったファクターがあるはずだ。それこそ、柱間が罹っていた病気だろう。

 

「本人も自分の体に殺されている、と言っていたしな…」

 

 一応、植物化は今後も起きないだろう。「柱間の命を守護する」という名目で起きたものだったならば、すでにその命は肉体から離れてしまったのだから。

 

 

「本格的に、この特異な(きしょい)肉体が他者へ及ぼす影響も調べてみるか…」

 

 

 死んでもなお羂索を飽きさせない点で、柱間という男はやはり面白れー男だった。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 まず柱間の右腕についてだが、傷つけると自然に治癒する。ただ際限を超えた再生はしない。この「際限を超えた」とは、切断面より上の部位を指す。

 

「なぜ度を超えた再生はしないんだ…?」

 

 思考を巡らせた羂索は、「もしや」と思い至った。

 

「そう、()()()()()()のかもしれない。──いや、「決められた」が、この場合は正しいか」

 

 決めたとするなら、それは羂索に腕を渡した柱間だ。この男の「右腕はやってもいいか」な思念が一つの呪いの形となり、右腕に影響を及ぼしているのかもしれない。

 

 

 

 かくしていよいよ、羂索は人間への実験を始めた。

 

 人間のサンプルはAとBを複数用意する。サンプルAが通常の人間で、サンプルBが柱間の肉体に適合しやすいと考えられる素材だ。数は【A>B】でAの方が多い。

 

 結果として、ABともに柱間の肉体を摂取させたほとんどの人間が死んだ。それぞれ生き残った個体は、母数の違いを同じにしたと仮定した場合でも、【A≒B】と、ほとんど等しくなる結果だった。

 

 つまり、羂索がBの「柱間の肉体に適合しやすい」と考える要素となった性質は、あまり関係がないと推測できる。

 

「たまげたなあ…」

 

 適合した個体は治癒能力や呪力量、身体能力にも上昇が見られた。

 

 治癒能力や身体能力の向上はまだ目を瞑ってやるとして、どうして呪力量が上がったのか。

 

 確かに柱間はイかれた呪力量を持っていたが、お前は所詮死んだ人間の肉体だぞ──そんなふうに、羂索は右腕に語りかけてしまった。

 

 憶測になってしまうが、この肉体に異常な量の呪力が含まれているのかもしれない。

 もしそうなら、肉体の消費&再生を繰り返し続ければ、この肉体にある呪力が尽き、肉体の再生も起こらなくなるかもしれない。

 

(──ああ、そうか。呪力をエサにして、この腕が生き続けている可能性もあるのか)

 

 仮説を証明するべく呪力を流したところ、水を得た魚のように吸い取られる感覚があった。どうやらこの見立ては正しそうだった。

 

 

 

 その後も実験は続く。羂索が成功体にさらに柱間の肉体の摂取量を増やすと、摂取した分だけさらに力が増した。ただ、適合したはずの個体でも量が増えると死ぬ者が続出した。

 

「………」

 

 唯一生き残った個体は、からだの一部に見覚えのある顔が浮き出ていた。さすがの彼女でも、それを見た時は一瞬鳥肌が立った。

 

 羂索は『結果』を得られ、知的好奇心が満たされたため、その残った個体は顔の部分だけ切り取って処分した。

 

 ある意味でのデスマスクだった。──いや、正確にはアライブマスクだった。

 

 

 

 羂索は人以外にも、低級呪霊に柱間の肉体を摂取させた。しかし低級の個体は汚ねえ花火となっ(爆散し)た。

 そこそこ強い呪霊にしたところで、ようやく成功作が現れた。それでも多量に摂取すると死んでいく。

 

 試すうちに、呪霊の力が強いほど成功回数も上がり、摂取できる肉体の量も多くなることがわかった。

 

「まさか弱い個体は摂取した呪力量に耐えきれずに、爆散したのか…?」

 

 柱間細胞ミステリーに、ズブズブとはまっていく羂索だった。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 どこか見覚えのある青年を見た時、羂索は心底吐き気を覚えた。その青年は『千手』と言うらしい。しかも母親があの女──天元であると。

 

 天元は術式の影響か、そもそも子を残せない体だった。本人も仮に子供が産めたとしても、自分の術式が子に遺伝してしまう可能性を考え、産むことはないと羂索に語っていた。

 

 それがどうだろう。天元は羂索のように、柱間の肉体を利用したのだ。そうして自分の子孫を作った。『不死化術式』が遺伝する可能性も承知した上でだ。

 

(目障りだ)

 

 その青年を殺してやろうかとも思った。あるいはこの男を利用し、天元に軽いジャブを入れてやろうかとも思った。青年曰く、天元は息子に愛情を注いでいるようなので、利用価値は高い。

 

 苦しめ(愛し)てやる方法はいくつかある。例えば男の嫁になり、「お義母(かあ)さま、今日は手の込んだ料理を作ったんですよ」などと言って、息子の肉で作ったごちそうを振る舞ってやるとか。そして食べ終わった後にネタバラシをして、天元の心が壊れる様を味わうのだ。

 

 まだ天元は羂索が肉体を変えられると知らないため、この手は十分に通用する。羂索がヘマをしなければ、という前提ではあるが。

 

「……やめておくか」

 

 貴重な研究素材になり得る男だ。羂索はその時は見送った。(のちにその子孫を、研究素材として使っている)

 

 柱間の顔がちらつく。『血のつながった子ども』が、あの男の中では地雷だった。その詳しい理由を羂索は知らない。カマをかけてみたこともあったが、柱間はその部分に立ち入らせなかった。

 

 この地雷をわざわざ踏んで、嫌われるようなマネをする必要はない。一方で天元はこの地雷を踏み抜いた。

 

「愚かな女だ」

 

 カラの肉体を愛している、愚かで憎ましい、羂索が呪い(アイ)を向ける相手。

 

 その天元が一番何をされれば苦しむのか、答えは明白である。

 

 

「私は柱間に、身も心も愛される女になるよ」

 

 

 魂も肉体も羂索がすべて奪う。それが羂索が天元へ向けた呪いだ。

 同時に彼女は、()()()がいない世界で柱間と二人で過ごすことを望む。屋敷で二人で過ごしていた、あの頃のように。

 

 最高のフィナーレを迎えたあとで、二人だけの安穏を。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 しかして100年、200年と経てど柱間の魂が見つからない。柱間の魂の形がわからないのが致命的だった。

 

 おそらくあの男は生まれ変わった経験があり、しかもそれを覚えていると羂索は認識している。この考えは長年待たされている初期の段階でたどり着いた。

 

 しかも、未来から過去へ廻った(迷子になった)可能性が高い。そう考えれば、その時代では未知のものを作ったり、不思議な言葉を時折言っていたことにも説明がつく。

 

 だがそうなると、さらにまた過去に戻(迷子にな)っている可能性もあるということだ。

 

「……本当にいつになったら現れるわけ?」

 

 

 

 

 

 そんな中、ようやく見つけた。魂を見ずとも分かる。その佇まいやわずかな表情。それにあの、苦痛に満ちた時に浮かべる顔なんて特にそっくりだった。羂索の心が踊った。「あぁ、万が一を考えて、絶対に逃げられないようにしないとな」とも考えた。

 

 その結果、同じ過ちを繰り返してしまった。大失態どころの話ではない。感情のコントロールが羂索の脳からすっぽ抜け、そのまま大気圏を突破して宇宙に飛び立ってしまっていた。

 

 これだから『愛』はろくなもんじゃない。そんな感情と同時に、羂索は深い深い殺意を飲み込む。ここで裏梅を殺すと、宿儺のヘイトを買う。それは避けなければならなかった。

 

 今後を見据え、宿儺の駒は必須だ。

 

 天元と因果でつながっている、『六眼』という侮れない存在。この対抗馬として、最強の王は手放しがたい。

 

 

 

 乱戦の場から離れた羂索は、人気のない場所で亡き骸の状態を確認した。柱間と容姿は似ていないが、やはり同じ魂が入っていたせいか、「似ている」と感じさせる。

 

「肉体の記憶は読んでおかないとな…」

 

 キショ……柱間の肉体ではないこの普通の肉体なら、羂索が乗り移っても問題ない。欠損も、元の部位が残っていれば、それを繋げるだけで済む。

 

「柱間……」

 

 羂索は温もりを失いつつある体を抱きしめた。

 

 不意にその時、遺体の下から草木が動いた。それに目を留めた羂索の目が開かれる。()()()は────、

 

 ────否。

 

 

(『()()()()()()()()…!!?)

 

 

 羂索はとっさに遺体を抱え、植物に絡みとられる前に飛び退いた。腕や足のパーツはそのまま地面に引きずり込まれてしまった。

 

 羂索の目の前に、一体の呪霊が降り立つ。本来は目があるべき場所から、枝がそれぞれツノのように伸びている。

 

 圧でわかる。この呪霊は──強い。

 

『⬛︎■□▫︎▪︎⬜︎』

 

 呪霊の言っている言葉は分からないが、脳内に直接その意味が流れてくる。

 

 

 ────その遺体は、私が頂戴します。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

「………ハハッ」

 

 謎の植物を操る呪霊と戦闘になった羂索は、満身創痍だった。

 

 幸い逃げることはできたが、武器以外をすべて持って行かれた。数百年を生きる羂索であれど、相手が悪かった。あの植物を操る呪霊は、それほど()()()()()()()だった。

 

「ハァー、クッソ………」

 

 あの呪霊や、そのバックに何があるのか調べなければならない。

 

 理想郷には中々どうしてほど遠い。

 羂索は歯を噛みしめ、地面を殴った。

 

 


 

 ・羂索

 内心では“愛”なんてくだらないと思いつつ、一番その愛に翻弄されている人。

 邪魔者がこの世界には多い。屋敷で父と二人で過ごしたあの日々が理想郷。それとは別で好奇心に果てがない。

 

 ・天元

 愛した人たちは皆、先に死んで行く。今日も地獄で明日も地獄。

 

 ・裏梅

 “兄”を捨てたはずが、結局捨てられなかった人。

 ところで宿儺様少しだけその筋肉に触れてもよろs

 

 ・宿儺

 側に這い寄る女(万)も、友好関係を築こうとしてくる女(羂索)も、部下もみんなヤバイな……まあいいか。

 

 ・花のひと

 身長が3メートルもあんねん。




【三章→ゆっくり執筆中(していってね!)
現在の進行具合は10話ほどで、ほぼ終盤。あと10話くらいはストックが欲しい…と思いつつ、場合によっては週一投稿の路線も考えておきます。
三章は曇天が続く桜前線の日和。

どちらの方がクレイジーサイコヤンデレ?

  • 天元
  • 羂索
  • どっちもやで
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