フルフルニィ………「誰!?柱間って誰なのォ!!?」   作:アンディライリーのうさぎ

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お待たせしました。三章でございます。
三月は趣味の時間がほとんど取れなさそうなので、四章の執筆が遅れると思います。
また、同様に感想の返信ができないor遅くなると思います。いただいたらもちろん嬉しいんやで。


三章
26話 こゆびん


 自然は時に多くの人間の命を奪う。火山や津波、地震など。

 その呪いの一つの形として生まれたのが、『花御』だった。

 

 彼──あるいは彼女(自然を「()なる大地」や「()なる海」と比喩することを考えると、“彼女”が正しいかもしれない)は、人が森を畏怖する感情から生まれた呪霊だ。

 

 花御ははじめ肉体を持たず、意識だけの存在だった。

 

 自分が何者であるかは理解していた。まるでそれは、生まれたばかりの小鹿が自分の足で立とうとするように。花御の本能が、「私は呪霊である」と語っていた。

 

(あれがニンゲン…)

 

 植物が悲鳴をあげている時、そこには必ずと言っていいほど人間がいた。草木を踏み潰し、木を切り倒す。ニンゲンは他の動物のように自然の中で自分を変えていくのではなく、自然そのものを変えることで生きていた。

 

(嗚呼なんと…罪深い生き物なのでしょう)

 

 ただそんな彼らの中にも、植物を愛する者たちがいた。ほんの一握りの人間だったが。

 

 花御は聞こえてくる森の叫びを聞きながら、心を痛める日々を過ごしていった。

 

 

 

 意識のみだった彼女は、やがて肉体を得た。この世に誕生した、という心境だった。

 

 肉体を得ると、森の外へ出ることができるようになった。人間という生き物は森を切り拓いた場所に文明を築き、そこで生活していた。

 

 人が多い場所ほど、その悲鳴も多くなる。植物は存外逞しいのだ。例えば草木は、踏まれてもまた立ち上がる。木は切られた程度では終わらない。

 

 しかし、逞しいからこそ彼らの苦しみも多くなる。

 

 ヒトの悍ましさに心がすり減ってしまった花御は、森へと戻った。清涼なその空気が、彼女を包み込む。

 

(私が自然(彼ら)にしてあげられることは何でしょう…)

 

 人間が自然のガンとなっている以上、そのガンを取り除く必要がある。ただ人間は、花御一人でどうにかできる量ではない。自分の手で人間を一人一人殺していくのは建設的な話ではない。

 

 それに花御は、一部の優しい人間たちの命を尊重したい思いもあった。

 

 ゆえに、今は静観するべきだと判断した。

 

 

 

 それから根無し草の呪霊として、ひっそりと隠れながら生活していた花御。そんな彼女はある時、不思議な場所に出会った。自然の声を聞き取れる花御だからこそ、その場所に気づけた。そこには透明な膜を一枚隔てた先に、植物たちの楽園があった。

 

(………)

 

 花御はその膜に触れようとして、一度手を止めた。彼女の手がかすかに震える。

 

(私の本能が、恐れている…?)

 

 だとすればいったい何に怯えているのか、わからない。内側からは風に揺らされ、花々がきゃあきゃあと騒ぐ楽しげな声が聞こえる。

 

 意を決した花御は、その薄い膜に触れた。一瞬バチッとした──静電気のような──感覚があったが、伸ばした手はそのまま薄い膜を通り抜けた。

 

(このような場所があったのか……)

 

 薄い膜の先には彼女のような呪霊の気配を一切感じない。人や呪いが存在しない、植物と動物たちだけの楽園。

 

『▫️◻︎◽️』

 

 思わず彼女は、美しい、と呟いた。

 

 

 呪いがそもそも人の負のエネルギーから生まれていることを踏まえ、ほぼ完全に『人間』の要素を消した場所だった。

 周囲を眺めながら、花御はゆっくりと歩く。木々が生い茂り、川のせせらぎが聞こえる。苔の生えた岩岩がある場所に出ると、その一つに腰かけた。

 

(ここは心が落ち着く)

 

 呪霊としての本能までも失われていくような場所だった。いや──というより、薄い膜の中に入ってから徐々に呪力を吸い上げられている感覚がある。成仏的な安らぎを現在進行形で体験している。

 

(膜の内部に呪霊がいなかったのは、こういった理由(ワケ)ですか…)

 

 呪力が多い花御といえど、あまり長居はできそうにない。

 

 立ち上がった彼女はもうしばらく中を散策し、外に出た。以降花御はこの場所に足を運ぶようになる。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 森を囲う薄い膜。この膜は誰かが、何かしらの意図を持って生み出している。

 

 この膜を作る『森の主』と花御が出会ったのは、彼女が一際大きな大樹の下で、日向ぼっこをしていた時だった。

 

(今日も長閑だ………ッ!!?)

 

 その木からニュッと、人の顔が出てきたのだ。歳はおそらく7つにも満たない、幼い子どもだった。

 

『また来たのか、お前』

 

□⬜︎⬜️◽️◻︎(ニン、ゲン…!?)

 

『オレはどちらかと言うと、お前に近いぞ』

 

 木から這い出た少年は、着物を一枚身に纏っていた。

 

【アナタはいったい…】

 

『お前、変な話し方をするんだな。頭ン中にも声が響いてくる』

 

 花御は自然が話す言葉を、一つの言語()として発している。通常は彼女が視える人間はおろか、同じ呪霊でさえこの言葉を理解できない。ただこの少年はどうやら、その言葉を理解できるらしい。

 

『まず名を名乗るなら、お前から教えろよ』

 

【私は花御です】

 

『ハナミ……「花を見る」方のハナミで合ってるか?』

 

【いえ。花を御する方の花御です】

 

『フーン。花を自分の思いのままに動かす(御する)、『花御』ってわけねぇ』

 

【それで、アナタの名前は?】

 

『オレ? オレは……「こゆびん」でいいや』

 

【こゆびん……?】

 

『本当は柱間って名前。花御の好きな方で呼べばいい』

 

【では────こゆびん】

 

『ソッチを選んじゃうの?』

 

 こゆびん──改め柱間は、ここら一帯を守護す(まも)る役目を担っているらしい。もう長いことこの場にいるそうだ。

 

【あの薄い膜もアナタが?】

 

『ソーだよ。花御のような入ってきた呪いをオレの餌にしてんだ。動物からは吸い取らないようにしてる』

 

 花御は柱間につづく形で、かつて人が住んでいた痕跡を見つけた。すでにそこは草木に覆われ、ポストアポカリプスのような人間の終焉を感じさせる。

 

【ここにはかつて、人間がいたのですね】

 

『村があった。オレが成長して、自由に動けるようになった頃には、すでに誰もいなかった。一応オレの故郷(ふるさと)だ』

 

【こゆびんの故郷?】

 

『そうだ。家族の墓もあるんだぜ? 付いてこいよ』

 

 そう言って柱間が案内したのは、開けた場所にある石だった。3分の2ほどが土に埋もれ、上の部分も苔に覆われている。周囲は一面の花の海だった。風が吹くと、花びらが狂ったように踊る。

 

【良い…場所ですね】

 

『墓には花を供える記憶(イメージ)があったから、作ったんだ』

 

【これもアナタが生み出したのですか】

 

『あぁ、オレの本来の力とは少し違うけど』

 

 柱間はその場に木を生み出し、自由に動かして見せた。

 

『これがオレの力。花御は植物を操ってただろ? お前がはじめて来た時に植物が騒いでたから、何が来たのかと思ってたんだよ』

 

【こゆびんも、彼らの声が聞こえるのですか?】

 

『聞こえるよ。オレは植物(ソッチ)方面に進化したんだ』

 

 柱間は来た道を引き返し、花御が日向ぼっこをしていた場所にまで戻った。「これがオレの本体」と、巨木を指して見せる。

 

【………】

 

 花御はしばし考える時間を要した。柱間の話が本当なら、この少年は元は人間だった。ならば今は呪霊かと問われると、彼女の本能が「否」と答える。自分に近い存在ではあるが、完全に同じではない。

 この本能は同時に、人間へ抱く嫌悪を柱間相手に示さなかった。

 

『どこぞの阿呆がな、切った小指を地面になんか埋めといたせいで、オレが生まれちまったんだよ』

 

【つまりアナタは、小指だったというわけですか…】

 

『そうだよ。いやまぁ、正確に言うと少し複雑になるんだけど……まぁ今はそれはいい。柱間(アホウ)の小指だから、「こゆびん」ってコト』

 

 ケッ、と悪態づいて柱間はその場に腰かけた。

 

『ずっとここにいんのも暇だし、オレの話し相手になってよ』

 

【私が、ですか?】

 

『マジでチョ〜〜……暇なんだよッ! オレはここを守らなくちゃいけないから、移動できねぇの』

 

【こゆびんは私で良いのですか?】

 

『いいよ。アイツら──植物が言ってんだ、お前は悪いやつじゃないって。花御ならいい。お話し相手になってくれンなら、力も吸い取らないでおいてやるよ』

 

 花御は少し悩み、頷いた。

 

『んじゃよろしく、花御』

 

【よろしくお願いします、こゆびん】

 

 柱間が差し出した手を、花御は握った。彼女はこうして、不思議な存在の少年の話し相手になった。

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