フルフルニィ………「誰!?柱間って誰なのォ!!?」   作:アンディライリーのうさぎ

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27話 非愛症候群

 柱間は話し相手になった花御にさまざまな事を話した。

 

 彼は『柱間』という人間の小指で、切り離されたそれがこの人間が死にかけたことによって、連鎖反応を起こし植物に転じたらしい。

 

【人間が死にかけて植物になった?】

 

 柱間曰く、彼を構成する肉体のひとつひとつ──『細胞』なるものが、動植物のように「進化」を果たしたらしい。

 

 環境を変えることで生存する人間が、自分自身を進化させることで、生存の道を切り開いた。

 

 

『そもそも「死を避ける」行為は、生物の本能として誰にでも備わってるもんだ。こいつが働いて、細胞は死を避けるために肉体を植物にし、魂を引き留めたんだよ』

 

 

 その過程で大元の柱間は死を免れた。この大元はその後、三位一体の一つである『魂』が肉体から離れかけた影響で、再び目覚めるのにかなりの時間を要した。

 

 そして目覚めたあとは、「呪力を流すと肉体を木に変化できる」という植物のなごりを残しつつ、人間の道をたどった。

 

 一方でこゆびんである柱間の方は、そのまま植物として成長した。太陽と酸素をエネルギーとしていたのが、やがて呪力を餌にするようになってから、急速な成長を果たした。

 

この呪力を取り込むようになった段階で、こゆび間は自我を得るに至った。

 

『気──じゃなかった、呪力だったよな、たしか。それを吸収して育ったから、オレはお前ら呪霊に近い存在になった』

 

 本体の大樹は誰にでも見えるが、そこから抜け出た柱間の姿は、非術師の人間では視認不可となる。

 

『呪力の操作も本体よりは器用にできるだろうな。比較をしたことはねぇから、憶測になるけど』

 

 この操作で、小指の彼は花を咲かせることもできる。花御に呪力を渡すこともできるらしい。

 

【アナタが自我を得たのは本体の人間がいなくなってからであるにも関わらず、それ以前に起きた本体の情報を詳しく知っているのは何故ですか?】

 

『オレを甘く見ないでほしいぜ、花御チャン』

 

 小指の彼は、植物に進化を果たしているのだ。人間の本体よりも、より自分の細胞と密接な関係を築いている。

 

『小指のオレが連鎖して木になったってことはつまり、離れていても細胞同士である程度の情報交信ができるってわけだよ。アンテナとアンテナを繋げてさ、電波を送り合う感じだ』

 

【その比喩がよくわかりません】

 

『あと1000年くらい経ったら分かるようになるよ、花御チャンも』

 

【……その、一言宜しいでしょうか】

 

『なに、花御チャン?』

 

【………いえ、やはり結構です】

 

『そっか、花御チャン』

 

 柱間はこの細胞間で自動的に行われていた記録(ログ)を読み取り、自分の自我が生まれるまでの情報を得た。ただ、これは完璧に行われていたわけではない。時間の経過とともに、その記録は虫食い状態となっていく。

 

 また、柱間は細胞(肉体)に残っていた本体の記憶の情報も、一部だが得ている。

 

 そのため、自分が異世界転生した人間であること──などを知っている。その記憶にも当然、多くの抜けがある。

 

【今もその交信は行えるのですか?】

 

『今はもう無理。オレが完全に別の存在に進化しちまったから。一応、大体の場所は分かるけどね。細かくなってたらわからないけど。それでも、近づけば少量でもわかると思う』

 

 遠隔で大まかに把握できる肉体は二つ。一つは一定の場所にあり、もう一つは時折移動している。その精密さは柱間の感覚でいうと、「〇〇県にある…!」なくらいだった。

 

 

『なぁ花御、外って楽しいか?』

 

【…楽しいとは思いません。私にとっては、ここの世界の方が素晴らしいと感じる】

 

『お褒めの言葉をいただいちった』

 

【人間のいない世界。それこそ、この世界が在るべき姿だと私は思います】

 

『いいね。呪霊らしい意見じゃん』

 

【元人間のアナタは、人間をどう思っているのですか?】

 

『いや、まだ少しは人間ではあるんだが』

 

【………?】

 

『うんまぁ、花御が首を90度も傾げたくなる気持ちもわかるんだけど』

 

 そうだねぇ──と、柱間は考える。本体(自分)は愚かなまでに甘い男だった。愚かすぎて自分で自分を「アホウ」と思うくらいには。

 

『オレはな、人間が嫌いだよ。争ってばかりじゃんか。花御も気づいてるだろ? ここには人間が近づけないように──そもそも把握すらできないようにイジってあること』

 

【……えぇ】

 

「まぁだからこそ、お前はオレに「人間をどう思っているのか」なんて、聞いてきたんだろう』

 

 この場所を守るとして、その「守る」対象に人間を入れたくないくらいには、嫌っている。そんな人間に隙を見せ続ける本体の自分も嫌になる。

 

『向こうは、無意識だったんだろうが』

 

 人間の醜さを見続けながら、それでも人間に甘く居続けるなんてこと、普通はできない。

 

 だから、本体(あの男)()()()()()()。そこのネジがぶっ飛んでいるのだ。そしてそのぶっ飛んだネジを、小指の彼は渡されてしまった。

 

 

 人間に壊されてしまった部分()を、渡されてしまった。

 

 甘い男が甘いままで居られるように、その故障した部分をしっぽぎりされてしまった。

 

 

 だからこそ人間は、嫌いだ。いや────大っ嫌いだ。

 

 

 

『でも、人間を意図的に殺してやろうとは思わねぇ。オレが本体(オレ)である以上は、鬼になるわけにはいかねぇのよ』

 

【………そうですか】

 

『まあ、ここを無理やり壊そうっていうなら、人間だろうが呪霊だろうが殺すよ』

 

 ハハッ──と、柱間は見た目相応に、無邪気に笑った。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

『何かな、オレにさらに力が集まってる気がする』

 

 柱間はある時そう言った。両手を空に向けて広げるその姿は、元気玉を集める悟空のようだった。

 

【侵入する呪霊の数が増えたのではないですか?】

 

『いや、呪霊じゃない。何かしらの呪いだとは思う。ただ、害を感じねぇというか、変な感じだ』

 

 その答えは『樹神教』なる信者たちの念が飛ばされているのだが、柱間の知る由はなかった。

 

 

 

 花御と交流を深める柱間は、さまざまな遊びをした。

 

 かくれんぼをすると、植物たちの密告が後をたたない。鬼ごっこは互いに植物を活かし、なかなか白熱した展開を見せた。他にもブランコや、チャンバラなどをした。

 

【アナタは私よりも長く生きていますが、()のようですね】

 

『成長しても、オレの精神はここら辺で止まってんだよ』

 

「花御のようにデカくなりてぇな」と、柱間はボヤいた。自分も本体のように成長すれば、花御には及ばないがそこそこ大きくなれる。

 

【こゆびんが大きくなる術はないのですか?】

 

『こゆびんが、おやゆびんになる方法か……』

 

 方法はあるにはあった。その方法を使えば、自分がこの場所から出られるようになるとも分かっている。

 

『要は魂の問題よ。欠けた部分のオレが成長するには、同じ魂が必要だ』

 

 欠けた魂の柱間では、本体が決めた「この場所を守る」という縛りを解くことができない。その縛りを解くための魂の強度というか、強さが足りない。

 

 本体が自分に課した縛りを解いて出て行ったのだったら、その時に同様の縛りが生じていた自分の縛り(コレ)も解いていってもらいたかった。

 

 あるいはこれも無意識に、向こうが小指の彼に押しつけたものだったのかもしれない。

 

 

『だが、オレが本体(オレ)の魂をいただくわけにはいかねぇだろ? というか、その場合オレの方が本体に呑まれておしまいだわ』

 

【…ですがアナタは、外へ出たいと願っている】

 

『出たいよ、そりゃあ。アウトドア派なオレに、この箱庭はちょいと狭すぎる』

 

 もし同じような魂のカケラがあれば、もしかしたら──という可能性はあった。同じ『柱間』の魂を持つ小指の彼なら、肉体のように魂も探すことができる。

 

 しかして、その魂がまた転生しているのだろうか? そこも問題だった。

 

『まぁ今は、結構楽しいんだワ。花御がいるし』

 

【そうですか…】

 

『おっ、いい笑顔浮かべるじゃん』

 

 花御も自然と笑うようになった。ここにいると──そしてこの少年といると、心の種が花を開く。すると、優しい気分に包まれる。

 

『……なあ、花御』

 

【何でしょう?】

 

 視線を彷徨わせる柱間は、「エート、ソノ……」と口ごもる。

 

『……とっ、友…』

 

【トモ?】

 

『………友達にさ、な、ならねぇ?』

 

【私と、アナタが?】

 

『そう……』

 

【えぇ、いいですよ】

 

『ま、マジ……!?』

 

【アナタの友になりましょう】

 

 呪霊の己が「友」を作る行為が必要なのかは、花御にはわからない。ただ「私もなりたい」と思ったその心に素直に従った。

 

 

 二人はこうして、友達になった。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 柱間の中で唐突にその気配を感じた。自分と同じ魂の気配。それがこの世に現れた。

 

 それを花御に話すと、「取ってきましょうか?」とワイルドなことを言われてしまった。

 

『欠けた魂の一部を、向こうがまた切り離した時……でいいわ』

 

 まぁ、此度の自分がどのように生きているかは気になった。

 

 外へ出るこのできない柱間は、何か良い方法はないかと考えた。ここに縛られている彼は、「外へ出る」ことができない。これは樹木の本体も同様だった。無理やり出ようとすると、縛りの反動で彼自身が苦しむことになる。

 

【私が観察してきましょうか?】

 

『花御クゥ〜〜ン!!』

 

 持つべきものは何とやら。

 

 かくして柱間は定期的に花御に密偵してもらい、話を聞いた。今世は『裏松』と呼ぶらしい自分が、少しは前世の甘さにこりていることを願った。

 

 

『向こうのオレ、記憶なくしてるじゃん』

 

 

 今世の裏松(自分)は前世の記憶を無くしていた。「転生にも、世界観によってルールの違いがあンのか?」──と柱間は考えた。

 

一番最初が異世界への転生だとして、この世界は転生自体はあっても、記憶は引き継がれないのかもしれない。というか、“転生”がこの世界にもあったことに驚きを隠せない。

 

 肝心の裏松はやはりというか、致命的な甘さがあった。理性がその甘さに負けてしまう。

 

『ガキが泣くぐらい放っときゃいいだろ……』

 

 ただ、()()その記憶がある柱間からすると、責めきれない部分もあった。

 

 裏松は泣いている子どもを、自分と重ねている。柱間の記憶にある──裏松からすれば前前世の彼も、泣いていた。母親を求めて泣いていた。そして母が自分を見てくれるように、必死になっていた。ケガをすれば見てくれるかもしれない。良い子でいたら、見てくれるかもしれない。しかし、結局────、

 

 

『────くっだらねぇ』

 

 

 吐き捨てるように、柱間はそう言った。

 

 

 優しい人(いい子)でいれば、きっと誰かに愛してもらえるだろうとか。(ただし恋愛方面は訳あって難聴である)

 

 自分の犠牲は「犠牲」に入らないだとか。

 

 愛されたとして、本気で自分を心配してくれる人間はいないと思っているところとか。

 

 

 そのすべてがあの男の無意識の中に沈澱している。

「嗚呼、悍ましいぞお前」と、壊れた魂の彼は俯瞰する。

 

 

 自分を大切にできない(愛せない)以上は、本当の意味で他人を大切にしてやることはできない。一方的に愛するだけ愛して、向こうがその愛で壊されても、すでにその時には自分自身が壊れて終わっている。

 

 破滅的だ。壊滅的だ。

 

 そしてその自己を愛する土台をぶち壊したのが、裏松の前前世の親で────。

 

 

『人間はやはり嫌いだ』

 

 

 嫌な人間の方がこの世には多いのだから、人間を好きになることは今の柱間にはできそうにない。

 


 

・力の増加→呪霊捕食&勝手に供給される元気玉現象他。

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