フルフルニィ………「誰!?柱間って誰なのォ!!?」   作:アンディライリーのうさぎ

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3話 『魔』者はあなた

「どうしたものか……」

 

 柱間は現在、薄手の着物一枚の姿で悩んでいた。時刻は夜で、生やした木に腰かけている。

 

 というのも「何か人の気配がするぞ?」と目を覚ましたら、女が自分の上にのしかかっていたのだ。相手は着物の前をはだけさせ、艶めいた声で彼の名を呼んでいた。パニックになった彼は女を横にどかし、家から飛び出した。

 

「アレはもしや、夜這いというやつなのか……!?」

 

 確かに成長してから、女からのアプローチが多くなった。短い平均年齢を考えれば、彼の歳で子をもうけていても何らおかしな話ではない。だが実際に子を作りましょう、というのは覚悟がいる。

 

「そもそもオレは、恋愛経験がとんとないんだ…」

 

 頭を抱えた彼は、こんな時にいたら文殊の知恵をもたらしそうな弟を思い出し、「助けてくれぇ…」と情けない声をあげた。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 外から来た人間が居つくことも増え、村はすっかり大きくなった。

 村の発展を微笑ましく思う一方で、権力を持つ者と持たない者で格差も生まれつつある。

 

 (まつりごと)に関してはオレはとんと疎く、あまり役に立たない。誰しもが平等に、平和にいて欲しいものだが、なかなか理想を追うのは難しい現実がある。

 

 

「今の村にいる人間を養っていくには、畑に回す土地が足りない。そこでなんだが…」

 

 

 他の村から、一定の食料を献上させてはどうかーーという話が上がった。オレが村を守っているその対価をいただく、と。

 

 ちなみに、これまで対価をもらっていなかったのは、最初の取り決めでオレが「敵対せぬなら代価はいらん」と告げたからだ。周囲からは「甘すぎる」と怒られた。

 

 しかしもし対価をもらうようになったとして、どの村も少ない人手を回し、どうにか自分たちの食い扶持を賄っている現状だ。

 

「なら、もっと別の土地から奪ってしまえばいいのではないか?」

 

 そう言ったのは、村長の息子だった。オレより少し歳上の、豪胆な性格の持ち主である。慎重な前の村長とは違い、血の気の多さが目立つ。

 

「オレは争いは好かんぞ」

 

 オレの言葉に、周囲が静まり返る。こちらの目を見た村長は、小さく舌打ちした。

 

 どうも向こうとオレで、ソリが合わないらしい。オレは仲良くしたいと思っているんだがな。昔、父親に紹介され一緒に遊んだ後から、目の敵にされている感じが否めない。

 

「なぁ村長、たまには一緒に食事でも…」

 

「フンッ!」

 

 オレに肩をぶつけようとした村長は逆に吹っ飛び、地面に転がって震えた。そして、「お前は昔から、そうやって僕を馬鹿にするんだなぁ!!」と、涙声で去って行った。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 18歳になった。寝込みを数人の女に同時に襲われた。オレが固まっていると、その女たちが引っかき合いのファイトを始めたので、慌てて止めた。

 

 それ以降、オレは寝る時は木の中にこもるようになった。ちょっともう、ホント勘弁して欲しい。お願いだから。

 

「柱間様なら、女なんてより取りみどりじゃねぇか。もうこの際諦めて、全員抱いちまえばいいんだよ」

 

 畑仕事の休憩中のおっちゃんに相談すると、そんな返事が返ってきた。

 

「………ッハ! まさか、不能なのか…!?」

 

「いや、不能ではないぞ。ただ、うーん、何というのか……」

 

 恋愛方面でオレは誰かを好きになったことがない。前世も、今世も含めて。

 タイプはまぁ、胸と尻の大きい女だ。

 

「だったらよぉ、イイ女を紹介してやるぜ? 村一番の美人ってうわさの…」

 

「何の話してんの、とーちゃん?」

 

「お、お前はあっちに行ってろ! 大人の話だい!!」

 

 オレもそろそろ、身を固めた方がいいのかもしれない。そうすれば女に変なものを食わされたり、寝ているオレに向かって、木の隙間から「柱間様、みぃ〜つけたぁ♡」なんて言われるホラーな経験をせずに済む。

 

 

「…わかった。一度そのおなごと会わせてくれ」

 

 

 そうしてオレは、自分より三つ、四つ年下の少女と出会うことになった。おっちゃんの言っていたとおり、胸と尻の大きな女だった。しかも可愛らしい。

 

(でもよく考えたら、向こうは中学生の年齢ってことだよなぁ……)

 

 冷静に考えてしまうと、接するうちに妹のように感じられてきてしまった。それを見抜かれたのか、「アタシのこと、好きじゃないんですね」と言われてしまう。

 

「すまない……どうしても、妹のように思えてしまってな」

 

「……柱間様、アタシがもっと幼い時から、子どもたちを兄弟や我が子のような目で見ていましたもんね」

 

「そうだったのか?」

 

「えぇ、そうですよ。でも、アタシに謝るくらいだったら…そうだ! ちょっといいですか?」

 

「うん? 何ぞ?」

 

 しゃがむように言われたので、その通りに座った。ついでに目を瞑るように言われる。何だろうか? 弟に仕掛けられた、顔面パンケーキのイタズラの状況と似ている。

 

「ちゅっ」

 

「………ン?」

 

 唇に感触があった。目を開けると、向こうが走っていく姿が見える。

 振り返った彼女は目尻の涙を拭い、「じゃあ、さよなら!」と手を振って帰って行った。

 

 家に帰ったオレはしばらくして、「……アレってオレのファーストキスだったんじゃね…?」と気づいた。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 呪いによって、人の心は捻れてしまうのか? 

 それは、否である。呪いはそもそも人の心から生まれたもの。

 

 ならば真の『魔』は、人の心にあるのかもしれない。

 

 

 

 ある男は、村の族長を務める男の息子として生まれた。将来は村を背負う立場の人間になる。つまり、人の上に立つ存在となるのだ。

 

 皆が彼に「様」をつけ、頭を下げた。そんな中で唯一頭を下げなかったのが、面妖な力を持つ男だった。その男が彼と話す時は、いつも片膝をつき、自分と目線を合わせて話した。まるで将来族長になる自分と、同じ立場であるかのように話す、偉そうな男だった。この男のことが、彼は気に食わなかった。

 

『よろしくな! オレ、『柱間』っていうんだ!』

 

 その男の息子も気に入らなかった。自分は族長の息子なのだと怒鳴っても、「うん、知ってるぞ?」と頭を下げもしない。この少年もまた、自分の隣に立とうとする男だった。

 

(あの男が死んだんだ! ざまぁみろ!!)

 

 村が襲われた後、幸いにも彼は腕に軽い傷を負った程度で助かった。忌々しい男が死んだと喜んだのも束の間、今度はその息子が父親の立場になった。

 賊を殺したのも、その少年の特別な力によるものだった。

 

(何でアイツには特別な力があるのに、僕にはねぇんだよ…!!)

 

 特別な力さえあれば、誰が一番上に立つ者なのかわからせることができる。だが柱間のような力を得ることは、ついぞできなかった。

 

(どうして僕には「様」をつけねぇ!! アイツには「様」をつけるくせに!!!)

 

 すべてが気に食わない。その怒りは彼が元から想いを寄せていた少女とあの男との一幕を見て、頂点に達した。

 目を閉じた男にキスをして、顔を真っ赤にして走っていく彼女の姿。

 

 その時、彼は思った。

 

 

「あの男を殺してやる」────と。

 

 

 

 彼は柱間を殺す計画を立てた。あの木を操る力が使えないようにするには、隙をつく必要がある。

 その隙を作るのは簡単だった。向こうのお人よしな性格を利用してやればいい。「一緒に食事をしないか?」と誘うと、「いいんぞ!?」と嬉しそうについてきた。

 

 あらかじめ、自分の都合の良いように証言してくれる人間を雇ってある。

 

「実はな、いい酒が手に入ったんだ。共に飲まないか?」

 

「いや、しかしオレはまだ20歳には……」

 

「せっかくお前と飲めると思って、楽しみにしてたんだがなぁ…」

 

「……わ、わかった! 飲もうぞ!」

 

 柱間は意を決して、注がれた酒を一気に煽った。度数の高い酒に、一気に顔が赤くなった。

 

「………酒とは、あたまがクラクラするな…」

 

「ワハハ! もっと飲め飲め!」

 

 彼に促されるまま、柱間はどんどん酒を飲んでいった。用意した量を飲ませきった頃には、酔いがまわって熟睡してしまった。強めに顔を打っても、まったく起きない。男の口角が歪に上がる。

 

「悪いな」

 

 直刀を握りしめた男は、その首目がけて振り下ろした。血しぶきがあたりを汚す。落ちた首の長い髪をつかみ、あざ笑う。

 

「ハハハ……! ついに、ついに殺したぞ!!」

 

 頭と体は、別の人間に運ばせ、崖下へ捨てるように行った。下が一面森に包まれているそこなら、いくら遺体を探そうとも見つからない。

 

「ぐぅ……っ」

 

 そして自分の体にも刀傷を作った男は、村の者たちの元に向かいこう言った。起こされた者たちは血に濡れた村長の様子に仰天する。

 

「賊が……、賊がこの村に紛れ込んでいた!! 柱間と飯を食べていた最中に、いきなり襲われ……うぐっ!」

 

 倒れた彼を、慌てて男衆が支える。柱間が殺されたと知った面々は、顔を青白くした。そんなわけが──と思えども、確かに現場となった部屋は、天井にまで血の痕跡があった。

 

「そんなっ、柱間、様が……」

 

 村一番の美貌を持つ少女は、口元を押さえ倒れ込んだ。簡易的に治療をしてもらっていた族長の彼は、その肩を支える。

 

「大丈夫だ。柱間の仇は、必ず僕が取る」

 

「ッ……!!」

 

 女は彼に縋りつくように抱きついた。あぁ何と単純な女なのだろうと、彼はほくそ笑む。それは、この村の奴らも同じだった。

 

 甘い柱間という男に感化され、彼らまで腑抜けになっている。それを正すのが、族長であり、彼らのトップに立つ自分の役目でもあるのだ。そう彼は信じて疑わない。

 

 そして、翌日の調べで傘下に入っていた村の者たちの仕業だという証拠や証言が上がった。

 

 

「奴らに報復を!!」

 

「「「おう!!!」」」

 

 

『魔』は人の心の中にいる。

 そうして、呪いというものがこの世に蔓延っていく。

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