フルフルニィ………「誰!?柱間って誰なのォ!!?」 作:アンディライリーのうさぎ
ヤツが出て行ってからうん百年。オレもついにここを去る日がやって来た。この箱庭ともおさらばになる。オレが移動する以上、薄い膜──結界を張り続けることはできない。
花御は名残り惜しそうにしていた。彼女はこの世界をオレよりも気に入っていた。人間の要素が省かれた理想郷のような場所だと。その理想郷をいつか自分の手で作り上げたいと、改めて決意を固めていた。
要は人間を全部
手伝ってやりたい気持ちも無きにしも非ずだが、オレがヤツの意思を尊重する間はむやみやたらに人間を殺す気はない。
向こうが人間の醜さに見切りをつけて人を殺すというならば、郷に従う精神でオレも人間を殺していくとするさ。
ちなみに移動する場合は、オレの本体である木も移す必要がある。
そもそも思念体のオレは、この本体から一定以上離れることができない。
見とけよ見とけよ〜……。
【………木が、人間になった…】
大樹を操作して、人の姿に変えた。この状態は燃費が悪く、呪力をかなり消費する。と言っても、オレからするとそこまで大した量じゃない。姿は柱間ァではなく、一般男性にした。脳内に出てきたイメージを元にして、外観を調整する。
【………】
「どったの、花御?」
【分かりません……分かりませんが、何故だか生理的な嫌悪を感じます】
「そ…そりゃあ、お前が人間嫌いなのは分かるけどさ。外で自由に動くには、人間の姿が一番最適なんだよ」
もしも木が道を練り歩いてたら大スクープになっちまうだろ? だから人の姿になるしかないんだよ。
【違います。人間うんぬんの問題ではなく──アナタの姿に、嫌悪を抱いてしまいます】
「花御はオレが、嫌いってことか……?」
【いえ、それも違います。どうすれば、この嫌悪感をこゆびんに伝えられるのでしょうか……】
ならば、オレの元にしたイメージが悪かったんだろうか? ブラインドの前に座る男の姿を真似てみたんだが…。このイメージは異世界転生前の弟なる存在が、パソコンのデスクトップにしていたものだった。オレのさっきの「見とけよ見とけよ〜」などの言葉も、その弟が使っていた記憶がある。
だからって、オレにとっては前世の姿になるのもな。異世界転生した身で、わざわざ元の姿になるのは華がない。
「何か印象の強い姿を元にしねぇと、時間が経つにつれて顔が福笑いになっていくな…」
【いつものアナタの姿ではダメなのですか?】
「花御が戦った縫い目の女に見つかると、面倒が起こるだろ。そもそもあの女、向こうのオレの足を奪うようなトンデモサイコパスだぞ? 怖すぎんだろ。だからこそ、姿は絶対に変えていく」
ついでにオレは、細胞間で行われた
肉体の居場所も、オレの細胞が超アバウトに教えてくれている。
そのありかは二つ。一方はおそらく、オレの遺体を集めていたあの縫い目の女が持っている。なるべく面倒ごとは避けたいため、選ぶならもう片方の肉体を探した方がいい。
「ただなぁ…。別方面に進化したオレが、その細胞を取り込むのはかなりリスキーなんだよ」
ゆえに安全を取るなら、柱間の肉体を食うのは諦めて、世間に残されている『柱間』の情報を集めるのが一番いい。
…うん、やはり安全を取って情報収集の方向で行こう。オレの知らない、ヤツが柱間だった頃の情報を集めるのは。
【それで結局、姿はどうするのですか?】
「とりあえず、フルフルニィにしておく」
【フルフルニィ?】
オレの中でインパクトの強かった見た目だ。これならば、気を抜いた拍子に体が変形していくこともないだろう。このフルフルニィは夢を見ないはずのオレが、最近寝ている時(という名の省エネモード)になると頻繁に出てくる。
これは呪いなんだろうか? この呪いのせいで、オレは異世界転生をした時に柱間ァになってしまったんだろうか? まぁ、この件は考えても仕方がないか。
この地を去る前に、あたり一面を花の海にした。寂しい気持ちもある。しかしここは、子が独り立ちするような気持ちで見送ってもらいたい。
もう、十分に「守る」役目は果たしただろ? お前の代わりにその役目は、十分に果たしただろ?
だから、オレが自由になっても文句は言わないでもらいたい。
一応両親の墓は、門番の目的と墓標の意味をかねて、墓を覆うように巨大な大樹を生やした。この木は呪霊ホイホイの花を咲かせるように作った。肉食植物ってトコだな。かつての香取なんちゃらの改良版である。
自然に呪力を吸い取るわけではないため、動物に被害は起きない。近づいてきた呪霊のみを捕まえ、それを糧に自生する。
「じゃあ行こうぜ、花御」
【えぇ、参りましょう】
さようなら、オレの故郷。そして同時に、オレを縛り続けた牢獄。
オレはようやく飛べるんだ。青空を飛ぶ、鳥のように。
◇◇◇
「ンだよ!! 『樹神教』ってよォ〜〜〜!!? オレはテメェら人間を救う都合のいい神になった覚えはねぇんだわァ────ッッ!!!!」
【落ち着きなさい】
ブチギレていたところを花御に宥められてしまった。すべては『柱間』の情報を集めていたのが原因である。
まず柱間を調べていくにあたって、術師をあたるのが手っ取り早い方法だった。
しかし呪霊の花御を連れているオレは術師側からすると、敵になってしまう。呪霊とよろしくやっている奴もいるかもしれないが、術師の概ねの総意は【呪霊=敵】だ。
一応オレとともに移動している花御は、気配を消している。オレが向こうのオレの密偵を頼んでいた影響か、彼女は気配を殺すのが異様に上手くなっている。ただこれだけでは、異形の姿でバレてしまう。
この解決策として、花御には小さくなっていただいた。手乗りサイズのデフォルメ花御だ。そんなお前もステキだよ。可愛さのあまり、思わず口の中に入れちゃうね。
【やめろ】
「申し訳ございませんでした…」
このミニ花御はハネっ毛を極めるフルフルニィの髪と合わさると、上手く隠れてくれる。フルフルニィの髪は偉大だった。
それで、肝心の調査についてだ。
花御は小さいものの、呪霊であることに代わりない。万が一、術師に目をつけられる危険性を踏まえ、結局術師をあたるのはやめた。
となると、非術師の方面で探る必要が出てくる。この間、途中で疲れたオレは、自分にとっては初の海に向かった。まぁ、この話は後でしよう。
海で疲れた心を癒したのち、再度調査を行った。そのうちに柱間と関わりが深いという『樹神教』の存在を知ることになった。そして実際にその信者たちと会うことができ、樹神教の思想を知った。
で、いまに至る。
オレは少なくとも神ではない。もし神だったとしても、神に縋りさえすれば助かりますよ──なんて阿呆の極みなやつらを、助けるわけがない。お前らは地獄の最下層でマイムマイムでも披露してろ。
こんな思想がまかり通ってしまったのは、向こうのオレが阿呆に阿呆を重ねて、お優しい人間を取り繕っていたせいに違いない。ほとほとヤツの甘さが嫌になる。
「あの妙な力の増加はやつらの信仰心のせいだったんだよ!! ああマジで、マジで鳥肌が立つ!!」
【全員殺しますか?】
「嫌だが、嫌だが殺すのはナシだッ…」
下手に目立つ行動に出て、術師に目をつけられたくはない。
仮にもし術師や呪霊と戦う事態になった場合は、「逃げる」を前提にする。いのちだいじに、だ。なるべくなら術式を使わずに倒したい。オレも呪具が欲しいな。いつか手に入れておきたいところだ。
自己研鑽については一応、うん百年も暇だった間に行っていた。その成果が周囲に張っていた結界だったり、呪力操作である。
ただ実際の戦闘経験はなかった。それに近いことは、花御と遊んでいるうちにやっていたが。
この呪術最盛期の世の中でなんの準備もせずに、出ていくわけにもいかない。そのため、出立する前に花御と二人で本格的な戦闘経験を積んでいた。
オレはデカくて強い女は嫌いじゃない。やるからにはマジにいかないと、花御にも失礼だ。
(……いや、花御ってそもそも女なのか? 呪霊にそもそも性別の概念って、あンのか…?)
そもそも何でオレは、友人な上に呪霊な相手に恋愛ゴコロを持ったんだよ…!! オレの細胞がヤバいからか!? 植物同士で
【…やはり殺しますか? あの人間たちは】
「アレはもういいわ。オレは絶賛思春期なんだ」
【そうですか…?】
ミニ花御は心配した様子でオレの顔を見た。
オレはもう手遅れかもしれない。愛ってコエーわ。
柱間細胞「知らんやで」